複雑・ファジー小説
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- 十年後の大晦日
- 日時: 2016/12/31 15:40
- 名前: 星川 (ID: btNSvKir)
初めまして。閲覧ありがとうございます。
今日急遽書き起こした短編の作品を載せてみようと思いました。
宜しければ見て頂けるとありがたいです。
皆さま、少し早いですが良いお年を。
—————2016年12月31日 星川
目次
1 >>01
2 >>02
3 >>03
4 >>04
あとがき >>05
- Re: 十年後の大晦日 ( No.1 )
- 日時: 2016/12/31 15:32
- 名前: 星川 (ID: btNSvKir)
十年後の大晦日
1
大晦日に、ぼくは叔父と昼飯を食いに行く約束をしていた。母方の叔父である彼は、ぼく達の家の二つ隣の駅が最寄りだからよく会う仲なのだ。確か離婚をしたとかで、今は一人暮らしをしている。叔父はぼくが小さな頃からの良き相談相手で、誰と喧嘩したとかどうのといった小さなことから、進路や将来といったぼくにとってはすごく大きなことまで何でも聞いてくれる大きな器の持ち主だ。
叔父は、彼の最寄りの駅の徒歩5分圏内にある、騒がしすぎず、そして料理がめちゃくちゃ旨いイタリアンの店にぼくを連れて来てくれた。叔父と今年あった出来事を思い出しつつ、きのことブロッコリーのアヒージョを食べながら、ぼくはふと今日あった出来事のことを叔父に話した。
「そういえばさあ、今日の朝のことなんだけど」
「どうした」
「今日、やたらと早く目が覚めちゃって、暇だったから今日の夜食でも買おっかなあと思ってコンビニ行ったんだよ」
「そうか」
「そしたらさ、コンビニの目の前の駐車場に、たぶん今日ばあちゃんの家とかに帰省するっぽい家族連れがいたのね。両親と、小さい赤ん坊と、ぼくぐらいの年の女の子二人だったんだけど」
「到着する間までの飯でも買ったんだろうな」
「そうだと思う。で、なんかそういうの年末っぽくていいなあとか思って、なんとなくコンビニの中でも目に留めてたんだ」
叔父はそんなに多弁でもない分、ぼくの話をじっくりと聞いてくれた。ぼくは叔父が人の話を聞いているときの表情が好きだ。変に身を乗り出しはしないけど、でもちゃんとじっくりと聞いてるって分かるから。
「そしたらぼく、その人達のこと見てたら急に昔のこと思い出したんだ」
- Re: 十年後の大晦日 ( No.2 )
- 日時: 2016/12/31 15:34
- 名前: 星川 (ID: btNSvKir)
2
「昔か。小学生くらいの頃か?」
「うん。丁度それぐらいかな。ぼくって凄いいじめられっ子だったでしょ? 勉強大好きでまじめだったから、先生にすごい贔屓されててさ。それはもう悪がきの格好の標的で、よくぼこぼこにされて家に帰って来てたりしたよね。叔父さん、覚えてる?」
「ああ。あの時は沙貴子が随分悩んで、俺のところによくお前をよこしてたな」
ちなみに沙貴子とはぼくの母のことである。
「そう。ぼく、やり返すこともできないくらいひ弱だったくせに、本当はもの凄い負けず嫌いだったじゃん?」
「俺の目の前ではよく相手を罵倒してたな。悪口の語彙が豊富だと思ったもんだ」
叔父はそう言って少し微笑んでから、白ワインを口に含んだ。これが四年前のぼくだったら、そういうぼくのことがいやで、もうとにかく恥ずかしくて土に埋めたくなっていただろう。今ではもう、懐かしいなあとか微笑ましいなあとかそういう気持ちしか湧かないのに。
「で、ぼく何でそれを思い出したのかって言うと、その家族が皆元ヤンみたいな感じだったからなんだよね。多分雰囲気が昔のいじめっ子の誰かに似てたんだと思う」
「そうか」
「ぼくはその時、ぼくは自分がが凄く変わったんだって気付いたんだ」
その時、メインディッシュの仔羊のグリルが運ばれてきた。芳ばしい香りがした。丁度良い具合に肉汁が垂れていて、今まさに食べ頃という感じだ。ぼくは話を小休止して、運ばれたばかりのメインディッシュを豪快に齧った。店の中には外からの木漏れ日が差していて、来ている人も皆、和やかに談笑していた。適度に人の声がして賑やかで、楽しそうで、でも決して騒がしくない。
良いなあ、こういうの。ぼくはしみじみとそう思った。
ぼくの友達や後輩は、ぼくがそういう類のことを言う度に風流気取りやがって、とか女ウケするやつは言うこと違うよな、とか言って茶化したりおどけたりする。
ぼくだって全くそうじゃないとは言わないが、ぼくぐらいの年の人は鮮やかで強烈なものが好きだ。それは場所でも、考え方でも何でも。原色みたいに、濃くてハッキリしたものでないと物足りないのだ。いや、原色ですら物足りないのかもしれない。そう、白と黒ぐらいの極端なコントラストでないと満足いかないのだ。
どんなものが素敵で、どんなものが醜悪で、何が正しいのか、何が悪いのかというように。
- Re: 十年後の大晦日 ( No.3 )
- 日時: 2016/12/31 15:36
- 名前: 星川 (ID: btNSvKir)
3
ぼくはまた、喋りだした。
「ぼくはいじめられっ子だった時、ヤンキーみたいな人が皆大嫌いだった。勉強を馬鹿にするやつは皆死んじまえばいいって思ってたし、頭の悪いやつなんて皆社会の塵芥だって叔父さんにもよく言ってたよね」
「言ってたな。沙貴子に注意されても全く聞いてなかった」
「うん。母さんは何でそんな奴のことを庇うんだ、って怒ってた。懐かしいよ。正直、高校生ぐらいまで学歴とか髪色とかで人のこと見てたと思う。高校は進学校だったから、ぼくみたいな考えのやついっぱいいたし、先生も何も咎めなかった。たまに、貴方は素敵な人なのにそんな狭い視野を持つのは勿体ないって言ってくれた先生いたけど、たぶんぼくはそういう声を無視してた」
進学校っていうのは、皆じゃないにしてもかなりの割合でそういう風潮がある。ヤンキーとか、学歴のない人を見るとあの人たちは「負け組」だって思いたがる。努力しないで、ただ流されるままに生きてきて、ああやって堕落しているんだって。ぼく達とは違う、一生関わることのない人たちだって。
ぼくはその時、その考えに微塵も疑いを持たなかった。
ぼくは続けた。
「でもさ、大学入る前の春休みくらいからかな。ボランティアとか、バイトとか始めて、色々な大人の人に出会うようになってから、今までのぼくってつまんない奴だったんだなって少しずつ思うようになったんだ」
叔父さんは、少しきょとんとした顔をしてから微笑んだ。
「そうか」
ぼくは仔羊の肉を一口齧ってから、頷く。
「うん。学歴だけで判断するのは勿体ないなあって思った。ボランティアとかバイト先では、ぼくが聞いたことのない大学出た人の方が多かったし、大学を出てない人もいた。ぼくは初め、内心どこかでは軽蔑してるところがあった。でも、話したり一緒に飯行ったりすると、うーん、何か、上手く言えないんだけど、その人達はすごく人生を大切に生きてるんだなあって思った」
ぼくは、何とか叔父さんに伝えようと思った。だけど、上手く言葉が出てこない。難しいのだ。頭でっかちだったぼくですら魅力されたその人達を表すことが。言葉とか、明確なもので測ったり示したりすることが出来ないものなのだ。たぶん、そういう類の良さなのだ。
うら若きぼく達の物差しでは、駄目なのだ。
- Re: 十年後の大晦日 ( No.4 )
- 日時: 2016/12/31 15:38
- 名前: 星川 (ID: btNSvKir)
4
「ぼくはコンビニで会った家族を見てて、そういう事を思い出した」
「そうか」
「ぼくは、」
一瞬、言葉に詰まった。叔父さんが真面目な表情でぼくを見た。
「もし、あそこにいたのが昔のぼくだったら、昔と中身が変わらないままのぼくだったら、あの時ぼくはああいう気持ちにならなかったんだ」
ぼくは続ける。
「ねえ、叔父さん」
「なんだ」
少し照れくさかったけど、ぼくは叔父さんの目を真っすぐ見て言った。
「今年、ぼくはそれに気づけたことが一番嬉しかったんだ。大晦日に、楽しげな家族がいる。それを見て素直に良いなあって思える。くだらないかもしれないけど、ぼくにはそれがすごく嬉しかったんだ」
叔父さんは微笑んだ。そして、胸ポケットから煙草を一本取り出して吸い始めた。
それから、暫く何かを思い出すような表情をして、喋り始めた。
「それを聞いて、面白い事を思い出した」
「何?」
「お前昔、たぶん小学生くらいの頃、俺に『年を取って良いことってあるの?』って聞いてきたよな。大人が嫌いってわけじゃないけど、歳を取ることって一体何がどう楽しいんだ、って」
ぼくは何となく、覚えているような気がした。たぶん昔のぼくは失礼な奴だったから、多分その当時ぼくが侘しいと思っていた大人の人を見て思ったんだろう。叔父さんは続けた。
「俺はその時、こう言ったんだ。『今まで見えなかったものが見えるようになることだ』って。そうするとお前はきょとんとして、それはぼけたじいさんとかばあさんのことだろうとかなんとか言ってたな」
「うん。ぼくって、本当に失礼な奴だったんだね」
ぼくは苦笑した。
「どうだ」
突然、叔父さんが尋ねてきた。
「え?」
ぼくは一瞬何のことか分からなかったけど、すぐに理解した。叔父さんはぼくのそんな様子を察して含みのある笑顔を見せた。
「あの時から年を取って、何が見えた?」
叔父さんは煙草を口に銜えて、すう、と煙を吐く。
ぼくは少し叔父さんを意識して、含みのある笑いを見せた。
「素敵な大晦日」
勿論、まだまだ見えてないものは沢山ある。
でも、きっとあの頃よりは沢山のものが見えている筈だ。
- Re: 十年後の大晦日 ( No.5 )
- 日時: 2016/12/31 15:39
- 名前: 星川 (ID: btNSvKir)
四コマ漫画か!と思わず突っ込んっでしまうような短さでした(笑)
もしこれを見て下さった方が、懐かしいな、と思ったり自分のことを思い浮かべてくれたりしたらとても嬉しいな、と思います。
改めまして皆さま、良いお年を。
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