複雑・ファジー小説

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恐怖の忘年会
日時: 2017/01/01 06:57
名前: モンブラン博士 (ID: JTGaf1wb)

半分だけ実話が混じっています。去年(2016年)の沖縄を舞台に文芸部の愉快な忘年会が繰り広げられます。

Re: 恐怖の忘年会 ( No.1 )
日時: 2017/01/02 20:50
名前: モンブラン博士 (ID: JTGaf1wb)

十二月二十五日、クリスマス。
子供達がサンタクロースから届けられたプレゼントを開け、恋人達がレストランで食事という名のデートをする大切な日。
その日、私こと与那嶺の所属する文芸部はステーキハウスで忘年会を行うことになっていた。よりによってどうしてクリスマスにしなければならないのか不満で仕方がなかった。私にも家族はおり、皆で揃ってクリスマスパーティをしようと今朝話していたところだったのだ。しかし、その日程は以前から決まっており変更することはできない。参加を辞退しようという考えも浮かんだが、個人活動が多い文芸部はメンバー自体が部室に集まることは少ない。その上、大学を卒業した先輩も含めた部員全員が集合するなど滅多にない。家族との楽しいパーティは惜しいとは思ったものの、折角の良い機会なので忘年会に参加することにした。
開始時刻は午後七時だったが、普段から早めの行動を心がけている私は、予定時刻よりも一時間も早い六時に集合場所に到着してしまった。

「さて、どうしたものだろうか……」

腕時計を見つめ、ひとり呟く。店前で待っていると雨が降り始めた。
備え付けの長椅子に腰かけ雨が降る景色を眺める。
ステーキハウスは一列に並んだ構造のデパートの端に位置しており、私が腰かけている場所からは大雨と共に満車状態の駐車場が見える。
代わり映えの景色を見続けて五分が経過する頃には、すっかり飽きが来てしまった。暇つぶしの本は持ってきていないし、デパート内を出歩こうにも興味が湧いてきそうな店がないのが現実だった。それに歩き回っている内に集合時間を過ぎてしまう可能性がある。多少退屈だったとしても、この場で待機した方が賢明だろう。

「フッ……ボクが一番乗りかと思ったが、忘年会の女神はそう甘くはないようだ」

隣で艶のある声が聞こえたので右を見ると、そこにはよく知る人物がいた。
日本人離れした腰まで届く金髪の長髪を赤いリボンで後ろで纏め、切れ長の青い瞳をした私の同級生、滝川麗。身長一七三、バストサイズはCで雪の如く白い肌を持つモデル顔負けの美女だ。女子だが一人称はボクで、いつも一八世紀風の青い軍服のコスプレに身を包んでいる。
元演劇部だったがその風変りな性格のせいで部員と衝突、退部して失意でいたところに偶然文芸部の部員募集のチラシを見て部員になった。
フランス人と日本人の間に生まれたハーフの非常に美しい容姿の為に、部員して暫くの間は私も熱烈な恋心を抱いたものだが、次第にその風変りな性格が明らかになるにつれ、私の恋への情熱は冷めてしまった。黙っていれば美人なのにあまりにも勿体無い。
先ほどから彼女が足を組んで偉そうに座っているせいでスペースが占領されて、他の人が座れなくなっている。

「滝川さん、君のせいで座りたい人が迷惑しているじゃないか」
「座りたいのなら、ボクの膝の上に座ればいい。ボクはいつでも歓迎する」
「足の骨が折れてもしらないよ」
「足の骨が折れ地面に倒れ伏し雨に打たれながら息絶えるボク……それもまた美しい死に様ではないだろうか」
「常人ならまず救急車を呼ぶよ」
「……そういうものなのか」
「そうだよ」

ああ、彼女と話していると疲労が溜まってくる。このまま外で待っていると彼女に惹き付けられて非モテ男という虫が寄ってきてはたまったものではない。
傍から見れば私と彼女の関係は、美女と小男なのだから。

Re: 恐怖の忘年会 ( No.2 )
日時: 2017/01/01 20:41
名前: モンブラン博士 (ID: JTGaf1wb)

暫くして部員と顧問の先生の全メンバーが集合した。
挨拶もそこそこにステーキハウスの中に入ると、落ち着いた雰囲気の店内はクリスマスということもあり大盛況状態だった。
先輩があらかじめ予約しておいたテーブル席に腰かけ、早速メニュー表を眺める。この店は小学一年以来なので何が美味しいのかすっかり忘れてしまっていた。こういう時は何度も足を運んでいるという先輩のアドバイスに従った方がいいだろう。

「先輩、このお店のお勧めメニューは何ですか?」

彼は顎に手を当ててほんの少し考えて口を開いた。

「このハンバーグがこの店で食べたメニューの中ではいちばん旨い。もっとも俺の主観だからお前たちの舌に合うかはわからんが」

値段も手頃だし、腎臓に慢性疾患を抱え大量の肉が食べられない私にとっては丁度良いサイズだったので、先輩が勧めるチーズハンバーグに決めた。どうやら他の皆も私と同じものを注文するようだ。郷に入れば郷に従えとも言うし、メニューを選ぶのが面倒くさくなったのもあるのだろうが賢明な判断だろう。

「それじゃあ、チーズハンバーグプレートを六つお願いします」
「かしこまりました」

先輩がウェイトレスに注文し終わったところで、楽しい雑談タイムに突入した。
因みに服装が派手過ぎるために滝川は色々な意味で注目を集めている。
正直なところあまり目立って欲しくはないというのが本音だが……
それにしてもあの服でハンバーグを食べてソースが付いたらどうするつもりなのだろうか。
若干の心配をしていると、彼女の瞳がきらりと光る。

「どうやら君はボクがこの服ではハンバーグが食べられないのではないかと心配しているね」
「否定はしないでおこう」
「フフフフ、案ずるな。この程度で狼狽えるボクではない。そんなときはこうするのさ!」

立ち上がったかと思うと勢いよく青い軍服を脱ぎ捨て、華麗な動きで椅子に掛ける。ちゃんと椅子にかける辺りは躾が行き届いているのだろうが、Tシャツ一枚になったその姿は胸の膨らみが強調されて、どうも目のやり場に困るな。

「素直になってもいいんだよ。君はボクのあまりの美しさに酔いしれているのだろう。言わなくてもそれぐらいわかるさ。だってボクは君の親友なのだから!」

勝手に親友認定されても困惑するが、彼女は確かに美しい。そこだけは認める。

「ところでお前ら、来年の春に完成する文芸集に載せる作品は完成したのか」

先輩に訊ねられ、はたと気づいた。
そういえば私はこのところテレビアニメやゲームに夢中で全く執筆していなかったのだ。一応アイディアが思いつかずスランプに陥っていたのだが、残り一か月ほどしかない今では言い訳にはならない。
ただでさえ遅筆の私なのだ、一か月で完成できるかどうか……
額から冷たい汗が流れるのを感じる。どうやら自分でもわかるほど焦っているらしい。ここは気を紛らわせるために、皆はどうなのか聞いてみねば。

「そういう先輩は書き上げたのですか?」
「当たり前だろ。俺なんか一週間で完成したぜ」

うーむ、さすが先輩は部長を務めているだけのことはある。
彼の作風は私の好みではないが、その執筆速度は見習うものがあるだろう。

「滝川はどうなんだ」

先輩が振ると彼女の顔が一気に青ざめた。
どうやら私と同じく執筆にとりかかっていない様子だ。
だが顔色が悪くなったのは一瞬のことですぐに元気を取り戻した。

「ボクもまだ執筆してはいませんが、ご安心を。作品の一作や二作、すぐに書き上げて見せます」
「そうか、がんばれよ」

先輩から送られる激励の言葉。だがその瞳には呆れの色が浮かんでいた。

Re: 恐怖の忘年会 ( No.3 )
日時: 2017/01/02 07:22
名前: モンブラン博士 (ID: JTGaf1wb)

「お待たせしました」
「やあ、ありがとう」

そんなこんなで運ばれてきたハンバーグは絶品だった。口に入れると肉の香ばしい匂いと旨みの詰まった肉汁が溢れ、これまで食べたハンバーグと比較しても断トツでいちばんと言えるほどの味だ。流石は先輩が勧めるだけのことはある。
ふと滝川を見てみると、まるでケーキをカットするかのような優美な動きでハンバーグを切り、慣れた手つきでフォークに刺して口に運んでいた。

「美味」

意外にも簡素な感想だった。いつもの彼女ならここで五分は食べた感想を語るはずなのだが、この様子からするにあまりの旨さに声も出ないと言ったところか。
だが実際にこのハンバーグは美味だ。備え付けられている白米も柔らかく相性抜群だ。本来ならばもう二回ほど注文したかったのだが、自らの身体の状態と財布の中身から仕方なく諦めた。
私だけでなく皆が食べ終わり、雑談タイムが再開すると思われた。
だが——

「俺、パフェ注文しようかな」

先輩の言葉に私は驚く。
ここはステーキハウスなのにパフェがあるのか!?
大の甘党である私は先輩の言葉が事実か否か確かめるために、メニューを確認すると、なるほど確かにパフェと書かれているではないか。
本来ならば迷う必要なく注文したいが、サイズがどのぐらいか計測できない。
仮に注文して残してしまっては勿体ないので、取りあえず先輩たちが注文するものを見てから決めるとしよう。
果たして運ばれてきたパフェの大きさは想像を上回るほどであった。
私はミニサイズと思っていたのだが、しっかりと普通サイズはあり、クリームとアイスが大量に載せられている。この冬にこんな冷たいものを食べては腹を冷やしてしまう。やはり注文しないで正解だった。
とはいえ甘いもの大好きの私が皆が食べている姿を見ているだけなど耐えられるはずがない。なので皆のものをほんの少しだけ分けて貰って味見をした。
食事が終わり楽しかった忘年会も終わりに近づいたころ、部長を務めている先輩がこんなことを提案した。

「これからカラオケに行かないか?」

私は本来ならばこの忘年会が終わったら家に電話して父に迎えに来てもらう予定だった。運転免許を持っていない私の移動手段はバスか歩きか送迎しかない訳で、ステーキハウスから家まではやや遠く、夜中ということもあり歩く気にはならなかった。しかしカラオケは惜しい。カラオケ大好きな私にとってアニメソングを歌うチャンスを逃すのはあまりにも勿体無く思えた。
そういえば先輩は車でここに来ている。先輩の住んでいる場所は私と同じ地域だから、もしかすると帰りを送ってもらえるかもしれない。
カラオケも安心してでき、送迎も心配する必要はない。一石二鳥ではないか。
その趣旨を伝えると、先輩は快く承諾してくれた。
カラオケに行くメンバーは、私、先輩、滝川の三人。
ああ、思えばこの時の決断が地獄の時間を過ごすことになるとは、この時の私は予想だにしていなかった。

Re: 恐怖の忘年会 ( No.4 )
日時: 2017/01/03 14:53
名前: モンブラン博士 (ID: JTGaf1wb)

カラオケ店はステーキハウスのあるデパートの向かいにあり、デパートの駐車場に長時間車を停めておくわけにはいかないという理由で、車で行くことになった。
先輩の所有するワンボックスカーに乗り込み、早速カラオケ店へ出発する。因みに助手席には滝川が乗り、私は後部座席に座った。

「よし、じゃあ行くぞ!」

先輩がエンジンをかけ、ついに車が動き出したのだが……
車体が酷く揺れる上に勢いを調節できないのか、車を駐車場から出すだけでも一苦労している。

「先輩、まさか車の運転下手なんですか!?」
「いや、そんなことはない。ただ普段はバイクで大学も通学しているから、運転する機会がないだけだ。それに今回はワンボックスカーだからな」

運転免許を持っていない私だが、普段から乗り慣れている車とそうでない車とでは勝手が違うことぐらいは容易に想像ができた。

「ここは歩いて行った方がいいんじゃないですか。近いですし」
「大丈夫だ、俺を信じろ!」

自信満々な声とは裏腹にハンドルを握る先輩の腕は震えている。
これは明らかにマズい。
しかも今日はクリスマスで交通量が多いために、先輩は中々駐車場から道路に出るタイミングを掴めずにいた。
何度も危なっかしいバックと前進を繰り返したのち道路へ出ると、そこから少し進んで右側へとUターン。こうしてどうにか目的地へと到着した。
カラオケ店の駐車場は意外と空いており、停めようと思えばどこでも停められるはずなのだが、何故か先輩は車と車の間のスペースに停車しようとする。

「ちょっと! ここじゃ入りませんって!」
「運転免許の無いお前に指示されたくねえ! 入れてみればわかる!」

私の声は車のエンジンの音にかき消され、先輩は車をそのスペースに入れようとする。しかし結果は失敗。そこで彼も諦めたのか、ようやく充分に開いた場所に停車した。

「中々スリリングな体験だったじゃないか。君は随分怯えていたようだが、怖かったのかな」
「当たり前だろう!」
「ボクは怖くなかったな。まるでジェットコースターみたいだったじゃないか」
「だから怖かったんだよ!」

滝川はあのような状況下でも慌てる様子は一切せずマイペースを貫き通す精神力は、ある意味で尊敬に値する。
口元に柔和な笑みを浮かべ、階段を颯爽と歩く滝川の金髪が夜風に吹かれて乱れる。その姿に胸が一瞬キュンとときめいてしまったことは、誰にも言えない秘密だ。



少々高めの値段ではあったものの無事にカラオケを始めることができた。
ひとまずは安心しよう。私達は飲み放題のドリンクバーで各々好みの飲み物を入れて部屋へ入る。
じゃんけんで順番を決めた結果、先輩が最初、私が二番目、最後が私となった。
二時間の楽しいカラオケタイムは終了し、いよいよ家に帰る時間がやってきた。
車に乗り込むと、滝川がこんなことを言った。

「ボクは家が遠いから、先に与那嶺から家に送り届けてもいいですよ」

彼女の言っていることはもっともだと思ったので私も賛同したが、先輩は首を縦に振ろうとしない。
そしてそのまま車を発進し、私の家の方角とは別方向に走らせていく。

「あの……先輩はどこへ行こうとしているのですか?」
「滝川の家に決まってるだろ」
「どうしてです!?」
「お前と俺は家が近いから帰るついでに送れるが滝川はそうはいかないからな」
「は、はぁ……」

ハンドルの主導権を握られている以上、先輩に逆らうことはできない。
仕方なく抗議するのをやめ、おとなしく後部座席にもたれかかっていたのだが、車がどんどん家の方角から遠ざかっていくにつれて、脳裏に嫌な想像が浮かんでくる。
もしも先輩がうっかり子供を引いてしまったら?
ブレーキとアクセルを踏み間違えて暴走しクラッシュしたら?
近年、学生の交通事故が絶えないが自らがそれに巻き込まれてはたまったものではない。一秒ごとに大きく鳴る胸の高鳴り、不安、冷や汗が流れるのを感じる。
だが先輩はそんな私の心情を知ってか知らずか、盛大に音楽をかけ、滝川と漫画の話などで盛り上がっている。
もし先輩の注意が逸れたらと思うと気が気ではない。

「先輩!急がないでいいので、ゆっくり安全運転で!」

何度も私が催促し続けるが、滝川と先輩は聴く耳を持たない。
そのとき、滝川がポツリと言った。

「そういえば、先輩は来年の春には大学を卒業するんですよね」
「ああ」

先輩は現在大学四年生、来年には卒業してしまう。
そうなると今回の忘年会が事実上の——

「今回が先輩と話せる最後の忘年会だったのかもしれませんね」
「……多分な」
「先輩、この一年間、部長としてボクたちを引っ張ってくれてありがとうございました」
「滝川……」

彼女はマイペースではあるが、先輩のことをちゃんと尊敬していたのか。そう思うと私の胸の中にも切ないものがこみ上げてくる。

「先輩、私も二年間、あなたと楽しく過ごせて楽しかったですよ」
「与那嶺、今の言葉、冗談でも嬉しかったよ」
「冗談だなんてまさか。本心に決まっているでしょう」
「だといいがな」
「どういう意味ですかそれ!」
「そのまんまの意味だ」

先輩はニヒルに笑って返す。
車内はしんみりとした空気が漂っていたが、それもほんの少しのことで、また賑やかな雰囲気に戻ってしまった。
それはともかくとして、先輩の暴走気味の運転は走り始めて三十分が経過しているのに改善する気配が見えない。
このまま私はこの世の終わりを迎えるのだろうか……
そんな恐怖を身に染みて感じたが、どうにか滝川と私は家に帰ることができた。
先輩の心遣いには感謝しているが、今度からはもう少し車の運転をした方がいいのではないだろうか。

おわり。


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