複雑・ファジー小説

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テ・ツ・ガ・ク・ゾンビ
日時: 2017/01/07 21:25
名前: 電柱 (ID: jV4BqHMK)
参照: http:/https://kakuyomu.jp/works/1177354054882254138

「生きている意味とは?」
「俺は……何者なんだ」
「死って……?」

そんな哲学、こんな腐った世の中じゃ、何の役にもたたないじゃないか!!

前代未聞のゾンビパニックにより荒廃した日本の救済は、ひとりの白衣の青年、哲に託された。

哲学的ゾンビ、
世界五分前仮説、
スワンプマン、
アキレスと亀……


己を証明せよ。
解答を導き出せ。
命題を見いだせ。


「腐ったゾンビどもの脳をぶち抜くのは弾丸でもなんでもねぇ、私たちの魂だ!」


その身に宿せ、世界の神髄を。
学ばぬ者に明日はない。



※ブロマンス表現があります。



目次

プロローグ >>1

『問題提起』

1、目覚め

1泥男、帰還ス >>2
2ゾンビサイキッカー >>3
3それでも私は >>4
4有象無象は死にたまえ >>5
5私立ゾンビ保育園 >>6
6神に祈りを >>7

Re: テ・ツ・ガ・ク・ゾンビ ( No.1 )
日時: 2017/01/07 21:02
名前: 電柱 ◆mkc9J3u9MM (ID: jV4BqHMK)
参照: http:/https://kakuyomu.jp/works/1177354054882254138

『この世には、二種類のヒトガタが存在する。

 人間と、哲学的ゾンビだ。

 2つの決定的な違い、それは、
人間にはクオリアがあるが、哲学的ゾンビにはない……ということだ。

 クオリアとは?
 いわば、「主観的質感」である。
 簡単にいうと、「意識」。

 アナタが今この文章を読んでいる、普段、夜空は黒、りんごは赤などと色を認識している、そして、何かを思っている。

 これら全てがクオリアだ。我思う、ゆえに我あり……というわけだ。

 では、哲学的ゾンビとは?

 哲学的ゾンビにはクオリアが存在しない。
 見た目も、行動も、発言も……何一つ人間と変わらない。怒ったり、泣いたり、笑ったりもする。しかし、そこに意志はない。

 見た目も、その中に詰まった臓物や骨肉も人間と同じロボットのようなもの、と考えてくれればよい。


 さあ、アナタの家族、友人、恋人……彼らはどちらだろう?

 人間だとわかるのは本人だけだ。
 それを証明することは誰にもできない。

 怖くなってきただろう? 考えれば考えるほど、周りの「ヒトガタ」が「何なのか」わからなくなるだろう?

 しかし、それを恐れる必要は無くなった。
 疑問の答えは強制的に突きつけられた。

 君が眠りについた、二年前のあの日にね。

 おはよう、泥濘栄瞬(ヌカルミ エイシュン)。

 この腐った世界で、共に己を証明しようじゃないか。

                          from学舎哲(マナビヤ テツ)』


 身体が冷たく、とても気だるい。
 泥のように生ぬるく、とても長い眠りから、目覚めたようだ。

「まなび、や」

 なぜだろう?
 名前の響き、少し鼻につく説明口調……どこか、懐かしい。

Re: テ・ツ・ガ・ク・ゾンビ ( No.2 )
日時: 2017/01/07 21:05
名前: 電柱 ◆mkc9J3u9MM (ID: jV4BqHMK)
参照: http:/https://kakuyomu.jp/works/1177354054882254138

「て、テメェら……っ」

 拳を握りしめ、肩を戦慄かせるその青年は、不良カブレした見た目とは裏腹に、一人称が「私」という、少々風変わりな男だった。

 学舎 哲。身長等ステータスはいたって平凡。容姿は中の上程度。しかし、いかんせん三白眼で目つきがよろしくない。くせして髪は無理な脱色で痛んだバサついた金髪で、左耳には安っぽいピアスが光る。
 身にまとう白衣はコスプレじみていて、医者にも、科学者にも見えなかった。
 
 それでも彼はこの中央研究所第1ラボのれっきとしたリーダーだ。
 そして、世界を救済しうる唯一の学者サイキック。

 ……だが、普段の彼はみた目通りのただの若者だ。
 いまもこうやって、第1ラボメンバーである、自由気ままでそれぞれ強烈な個性のサイキックゾンビたちに悪戦苦闘している。

 この場のメンバーをざっと紹介しつつ、状況を見てみよう。
 まず、脚立の下敷きになってのびているのは、セーラー服姿の女子高校生、「バター猫のパラドクス」道明 千種(ドウミョウ チグサ)。長い黒髪に意志の強い瞳が凛々しい女子なのだが、今は普段の威厳ともいえるオーラは見る影もない。周りにはキラキラした装飾やグシャグシャになってしまった折り紙の吊り飾りが散乱している。
 その傍らでおろおろとしつつ、伏し目がちに哲の怒り具合をうかがっているのは、「アキレスと亀」……。名は、本人が思い出せないためアキレスと呼ばれているナチュラルな金髪の青年。時代錯誤な一世代前の軍服に身を包む彼は、千種と違って身体の損傷が激しく、皮膚は緑に変色しているし、グロテスクな頬の傷からは蛆虫が顔を覗かせていて、美形が台無しだ。
 アキレスの左足に、厚い軍服の生地の上から裂肉歯を食い込ませじゃれているのは、一番の問題児、「パブロフの犬」。彼には軍畑 狗(イクサバタ コウ)という立派な本名があるのだが、日に日にすり減っていく知性と理性、そしてとある過去のせいで自身の名前が認識できなくなってしまい、今はパブロフを名前だと思っている。頭にぐっさりと刃が刺さり込んだままの大きな刃物、その両脇でピコピコと動く犬の耳、汚れがこびりついたままの尻尾、青白い肌……普段は、本能による凶暴さ故、手足は拘束されているはずなのだが……

「なんであの犬を解いているんだアキレス!!?」

 哲がギロッとアキレスを睨みつける。アキレスはひっと声をあげ、それから申し訳なさげに眉を下げた。
「す、すみません。とても、その、寂しそうだったものですから……」
 同時期に研究所入りしたアキレスは、パブロフの監視役、もとい保護者のようなもので、拘束された彼の移動、食事など身の回りの世話をしていた。パブロフも、アキレスはまだ餌ではなく仲間と認識できているようだった。それが所長からも評価され、現在は知能が著しく低下した、もしくは全くないゾンビたちの世話をして、第3ラボを手伝っている。
「さ、寂しそうってなぁ……そもそも、なんだ! この、パーティーみたいな部屋は!!」
「あの、その、これは」
「いって〜……あー、ようテツ、みたいな、じゃなくて、ほんとにパーティーなんだよ」
 アキレスがしどろもどろしていると、脚立をのかしながら千種が立ち上がった。膝をたてるとスカートが大分際どくなることに本人は気づいていないらしい。哲はあわてて目をそらした。
「道明……っ、なんだ、パーティーって。私はそんなこと計画していない!」
 がしゃん、と音をたてて脚立を立たせた千種は、あきれ顔で言った。
「テツは人情ってもんがないからね、私たちがやってやってるんだよ。歓迎パーティー」
「は? 誰のだよ。所長からはなんも……」
「そんな!!!!!! リーダー!!!!」
 アキレスは大声を出して感情を露わにした。ビクッとしたパブロフは、目を見開き口を半開きにして、よだれをたらしている。

「今日は師匠が目を覚ます日ですよ!!! パブロフ君だって覚えているというのにあなたって人はっっ!!」
「どろどろえいしゅん、かえってくる」

 アキレスの失望の眼差しが哲に突き刺さる。
 師匠? どろどろ?? えいしゅん……えいしゅん???

「あ!!!!!」

 哲はようやく思いだした。優秀なはずの頭脳は、戦友の帰還をすっかりと忘れていた……



                  *



「困った、ほんとに困ったな……栄瞬くん」
「……申し訳ありません」
「いいや、君のせいではない……所長である私の責任だ……ああ、それと、君の戦友の計算違いってやつか」
 椅子にすわって、所長であるという紫髪の女性と対面し頭を垂れる彼こそ、二年の眠りからさめた、泥濘栄瞬その人だ。
 全身黒で統一された服は、今はもうほとんど機能していない日本軍の制服で、その上には防弾チョッキを着込んでいる。重厚なブーツも黒、頭にまかれたバンダナも黒……と、彩りがあるのは、羽を模している、水色に透き通った綺麗なピアスのみ。ストイックな印象を受ける男らしい表情と相まって、冷淡な雰囲気さえ感じられる。

「哲くんのことも、その傷のことも……本当に、何も覚えていないんだね?」
「……自分の肩書きやプロフィールは覚えています。あと、俺……失礼、私が一度死に、なんらかの方法で生き返ったことは……なんとか記憶にありますが」
「なるほどね。まあ、アノコがここにきたときよりはマシのようだね、うん。クソ真面目で堅物な性格も変わっていないらしい」
「……クソ、真面目……ですか」
 栄瞬は苦笑いした。褒めているんだよ、と所長は立ち上がる。
 彼女のことを深く知る人物は研究所にはいない。名前も、生い立ちも、なぜこんな「大災害」のさなか、このシェルターのような研究所を造ることができたのかも。所長であり、女性……そして、「世界五分前仮説」のサイキック。それ以外のことは明かそうとしない。
 アキレスや栄瞬のものとは似ているようで違う、軍服というよりかは警察の制服のような服の上半身は肋ほどまでしかなく、さりげなく割れたひきしめられた腹筋も、歴戦を物語るような数々の傷も、大胆にさらけ出されている。彼女自身男性的な女性であるが、それがまた色気を引き出させるような装い。
「……ならば、説明しよう。世界に何が起こったか……君に何が起こったか。話せば、なにか思い出すかもしれない」

 そう言ったあと、いや、と考えるように視線を彷徨わせる。そして、ぱちん、と指を鳴らした。

「場所を移そう、栄瞬くんの仲間の元へ。第1ラボだ。きっと、君のことを今か今かと待っている」
「仲間、ですか?」
「ああ、幸いなことに、第一ラボでは二年前からメンバーは1人も欠けていない。1人も加わっていないのは残念だけどね。説明する人数は多いほうがいいだろう。私の主観で話してしまってもいけないしね」

 ガチャリ、と受話器ににた機械を手に取り、所長は第1ラボと連絡を取り出す。
 栄瞬は辺りを見渡すが、所長にも、この部屋にも見覚えは全くなかった。思い出そうにも、まるで中のわからない穴に手を突っ込んで探っているようで、恐ろしさを感じてしまうのだ。栄瞬は、唯一ハッキリと思いだせる、自身の記憶を探ってみた。 

 泥濘栄瞬、齢26。生まれは山奥の田舎。元は軍人で、重役まで登りつめていたものの、前衛に立って、積極的に戦場に身を投じ、実戦していた。■■■が起こってからパニックに陥った国のため、■■■■に命じられ■■■■に行くが、死亡。「スワンプマン」のサイキックとして蘇る……ゾンビになる、が、■■■■■で……そして、そして……??

「栄瞬くん、栄瞬くん?」
 ハッとすると、心配そうにこちらを見下ろす所長の姿があった。
「すみません。まだ完璧には覚醒していないようで……深く考えると、思い出そうとすると……ダメなようです……」
 苦しげに目頭を抑える栄瞬に、所長は優しく言った。
「大丈夫だ、ゆっくりと調子を戻していけばいい。二年も眠っていたのだ。仕方がないことだよ」
「ありがとうございます……」
「立てるかね? おぶってやろうか?」
「そ、そんな」 
「ふふ、冗談さ」
 身長は栄瞬のほうがはるかに高いが、所長には本当に彼をおぶってしまいそうな、妙なたくましさがあった。

「さぁ、ラボへいこうか」

 堂々とした彼女の姿に、栄瞬は絶対的な頼もしさを覚えた。ああ、この人は生粋の統率者なのだ、と。数年前、自分が同じことを考えたとは、思いもせず。


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