複雑・ファジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- SF書物。
- 日時: 2017/01/16 00:59
- 名前: 平一 (ID: TSkkgAHv)
───SFが書きたいッ!
なーんて考えた矢先に投稿板を作った作者の平一と申します。
題名も設定も特に考えないまま、後付け上等で執筆していくと思いますがよろしくお願いします。
〆注意事項。
1,更新は不定期です。半年放置とか普通にありますのでご注意を。
2,腕が吹っ飛ぶとか首が吹っ飛ぶとか過激な描写があります。過激な発言もあります。
3,誤字脱字は随時確認して行きますが、見つけた時は温かい目で見てほしいです(´・ω・`)
4,基本投稿時以外はロックしてると思います。
- 1-1 ( No.1 )
- 日時: 2017/01/16 01:18
- 名前: 平一 (ID: TSkkgAHv)
───60%
埃を被った液晶画面に映ったデータの転送状況を一瞥して、男は舌を打つ。
現在の転送速度から、データの移行が完了するまでの所要時間は、約120秒。
任務の進行状況は順調だ。只、妙な違和感を払拭できずにいた。
「何を心配してるの、プレスコット捜査官」
音声加工された女性の声が、耳に直接埋め込んだ無線機から男に問い掛けた。
「何の事だ」とプレスコットは平坦な声色で誤魔化すが、「心拍数が上がってるわ」と加工された女性の声は追及を緩めない。右腕の時計型の生体モニタに目を落とすと、確かに心拍数が跳ね上がっている。
「…事が巧く運び過ぎていないか?」
胸の内を明らかにするしかなかった。隠し続ければ相手に不審を植え付けるだけだ。
何より、彼女に嘘を吐いたところで意味はない。どうせ、直ぐに見抜かれる。
「情報では施設は無人、警備はロボットだけ。そのロボットも施設に入るまえに送電機構も破壊してロボットも無力化したわ。今此処で稼働しているのはデータを保護しているパソコンくらいよ」
「それに二重の警備システムも俺が無力化したんだ。他に何が心配だってんだ、プレスコット?」
別の加工された男性の声が会話に加わる。彼は「考え過ぎだぜ」と鼻で哂った。
───80%
再度データの転送状況を確認して、プレスコットは沈黙する。
確かに彼女らの言う通りかも知れない。送電機構の破壊により施設は明かりを失い、警備システムの無力化によって施設に配備されたロボットは動いていない。現状、脅威となるものは存在しないのだ。
プレスコットは薄闇に蓋われた室内に立つ二人の同僚に視線を投げる。
闇に紛れる黒を基調とした軍服に、眼部にレンズ型の暗視装置を内蔵したマスクを装備した二人は適度に肩の力を抜いていた。
───100%
データの転送完了を示す軽快な音楽が一瞬、室内に鳴り響く。
予想と同様に転送完了までに掛かった時間は120秒。何の脅威もなく、任務は山場を越えた。
「俺の言った通りだったな、レオン。お前の考え過ぎだったってわけだぜ」
マスクの奥で同僚の男は口角を吊り上げ、プレスコットの杞憂を哂う。「うるさいぞ、チャーリー」と不機嫌そうな声色でプレスコットは再び舌を打った。
「ウィスロー捜査官、データの確認を…」
プレスコットが同僚の女性、カーラ・ウィスローに指示を出そうとしたところで言葉を呑み込む。
彼女は既に小型の端末を取り出し、データの確認を行っていた。端末の画面を指で何度かスライドさせる挙動の後、彼女はプレスコットに向かって親指を立てた。
「後は脱出だけだな。空飛ぶリムジンを呼んでくれや」
軽口を叩くチャーリーは部屋の出入口の先に人差し指を向けて、足を進めた。
直後、廊下の奥の暗闇で無数の光が瞬いた。
銃火器のマズルフラッシュ。ウィスローはチャーリーに背中から飛び掛かり、押し倒す。
重たい金属音が静寂を切り裂く。無数の銃弾が床に伏せたウィスローらの頭上を通過していく。
銃弾の射線上にあった室内の家具やディスプレイは無惨に引き裂かれ、砕け散る。
プレスコットは腰のホルスターに格納していた消音器付きの拳銃を取り出し、壁に張り付いていた。
「一体どうなってんだ!? 何が撃ってきてるんだ!?」
床に顔面を叩き付けられたまま、チャーリーは吠える。ウィスローは彼の背中に圧し掛かった状態で、腰のホルスターから拳銃を抜いていた。
「相手は重火器装備型のロボットね。片腕に大仰な機関銃を取り付けてるわ」
「はぁ!? 冗談だろ、警備システムは黙らせたじゃねぇか!! だったら、こりゃ…!?」
「データを外部に転送されたと同時に起動する独立型のシステムがあったのね」
すぐ頭上を無数の銃弾が掠めていく状況にあって、ウィスローの声色は冷静だった。
彼女はチャーリーとの通信を続けたまま、室内のプレスコットに通信を繋げる。
自らと床に組み敷いたチャーリーの健在を伝え、彼女は拳銃の射線上に重武装の敵を捉えた。
「プレスコット捜査官。このまま敵を狙えるわ。発砲許可を」
「馬鹿な、相手は重火器を装備したタイプだぞ!? 拳銃一つでどうにかなると思ってるのか!」
「バッテリーを狙えば可能よ」とウィスローは冷静に答え、彼は返事に迷った。
ロボットにとってバッテリーは人間でいう心臓にあたる部品で、破壊できれば活動を止められる。
問題はバッテリーを保護している装甲とロボットに備わっている動体検知機能の二つ。
プレスコットの知る限り、ウィスローの銃の腕があればバッテリーを撃つことは十分に可能だろう。
「だが一発では撃破できない。拳銃では火力不足で装甲は撃ち抜けない」
そして、一発でも彼女が銃弾を撃てばその瞬間にロボットの動体検知に捉えられ、チャーリー諸共と鉄の嵐によってバラバラに引き裂かれる。
一か八かの博打、それも分の悪い賭けに仲間の命をベットする決断などできるはずもない。
「何より、家族が帰りを待っているあんたを一番先に犠牲にする真似はできない」
不意に幼い子供を抱き上げる優しげな女性の姿と傍らで笑みを浮かべる男性の姿が脳裏を過る。
決断は早かった。「俺が仕掛ける」とウィスローに答えると同時、プレスコットは両手で拳銃を構えた体勢で、吹き荒ぶ鉄の嵐に身を投げた。
軍服の生地を、頭髪を、肌を、銃弾が掠めていく。放たれる無数の銃弾の先に、紅いモノアイの鬼を見た。
無数の機械パーツで形作られた人型の単眼鬼。片腕の機関銃を連射するそれに、プレスコットは三度に渡って引金を引く。
三発の薬莢が宙を舞う。プレスコットは地面に腹から地面に衝突し、肺の空気が外に叩き出された。
───奴は?
呼吸を整える間もなく、彼は敵に視線を投げる。一つ目の鬼はバッテリーを内蔵した胸部に空いた小さな穴から煙を吹き出し、息絶えていた。
からん…っ、と一発の薬莢が床に落ちる。三発の薬莢はプレスコットの傍らに落ちていた。
「一発足らなかったわね、レオン」
息を整えながら、プレスコットは背後を向く。
薄闇の中で、華奢な手に握られたメタルフレームの拳銃が銃口から勝利の狼煙を上げていた。
- 1-2 ( No.2 )
- 日時: 2017/01/16 01:09
- 名前: 平一 (ID: TSkkgAHv)
薄暗い施設の通路の各所で、モノアイの人型警備ロボット達は項垂れて沈黙していた。
完全に職務を放棄した警備ロボットらの隙間を縫って走っている三つの人影の一つが、口を開く。
「…やっぱ、あのゴツイ一つ目とこいつらは別系統だったんだな」
チャーリー・ノーマッドは「やっちまったぁ…」と目を手で蔽い、憂鬱そうに溜息を吐く。
彼の隣を走るレオン・プレスコットは「まだ気にしてるのか」と呆れたように嘯くと、「当然だろ」と返した。
「俺の所為でウィスローやお前を殺しかけたんだ。気にするなってほうが無理な話だ」
「帰ったら酒を奢れ、それでチャラにしてやる。但し、お前の財布が空になるまで俺は飲むからな」
「私も同じ条件で構わないわ」
「…期待してな」とチャーリーは答え、再び小さく溜息を吐いた。
三人は再び声を潜め、施設の通路を一心不乱に駆け抜けていく。
職務放棄したロボット達が無数に項垂れる通路を抜け、時に右に曲がり、時に左に曲がり、遂に施設の正面玄関に躍り出る。
開放的な硝子張りの正面玄関は冷たい夜気に満たされていた。硝子越しに外の開けた広場に輸送機が到着しているのが見える。
「レオン」
不意にウィスローが通信で呼び掛けてきた。
最後に名前で呼ばれたのは何時だったろう。彼女が自分の指導教官だった頃以来だろうか。
「無茶な行動は減点対象だけど、結果的に貴方に助けられたわね。礼を言うわ」
「但し詰めの甘さは看過しかねるわ。帰ったら指導が必要ね」と最後に付け加えられ、彼は思わず肩を落とした。
同時に安堵した。彼女が無事だった事に、何より彼女を家族の元に返せる事が。
任務の終了を確認し、彼は輸送機のパイロットとの無線通信を開始した。
「パイロット。こちらはレオン・プレスコット少尉。これより基地に帰投───」
彼は最後まで言葉を発しなかった。否、発せなかった。
双眸は輸送機が停まっている広場の方面に向いているが、輸送機に目を奪われてはいない。
彼の目を不意に奪ったのは、先程まで影も形もなかった見知らぬ少女だ。
目を覆い隠した暗赤色のバイザーと漆黒を身に纏ったかのようなドレス。
違和感が人の模ったような正体不明の少女に、プレスコットの思考と視線は奪われていた。
「…あぁ? 子供…、か? 何でこんなところに子供が…」
チャーリーがプレスコットの前に歩み出て、少女との距離を縮めていく。
民間人。違う。施設の周辺には人の住んでいるコロニーはなかった。
何より、施設の周辺に人間大の生命反応はなかったはずだ。
少女は近づいてきたチャーリーに、誘うように華奢な手を伸ばす。
チャーリーは自らに向かって伸ばされた手から液状の何かが零れ落ちるのを見て、焦燥した。
「嬢ちゃん、腕に怪我してるのか!?」
怪我の有無を確認するためにチャーリーは少女の手を掴んだ───、瞬間。
Page:1