複雑・ファジー小説
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- -uniform- ユニフォーム
- 日時: 2017/01/20 23:33
- 名前: あぽろ (ID: cDopvm.6)
日差しがスタジアムを照らすある夏の日。
辺りは観客の声で満ち溢れていた。
赤い旗、緑の旗を上げている観客席は、、綺麗に分かれていて、何かを示しているようにも見えた。
『ピーーッ!』
僕の周りに聞こえそうな心臓の音を遮る笛の音。PK(ペナルティーキック)の合図だ。
選手と選手が集まって、何かを話している。
その固まりから、一人前へ出た。
キーパーは大きく手を広げ、体勢を崩すことなく、手を前へ差し出すようにした。
歓声をあげていた観客も静まり返って、一層心拍数が高まった。
心臓の音がどんどん大きくなっていき、頬に汗を流す。
斜め後ろに選手がゆっくりと下がる。
人工芝を白と黒のスパイクで踏み散らし、ボールの軌道を読んだ。
ボールの方向へ走った選手が、間近に見える気がした。
声を出そうとしたけれど、雰囲気に合わせた。
『ドッ』
スパイクのインサイドでボールを蹴る鈍い音がスタジアム全体に響き渡る。
緊迫していた体が、締め付けられる感覚に変わった。
ただ、目でボールの進む方向をなぞるようにして見る。
風を切る音が聞こえて、ボールが回転して、どんどんゴールへ近づいていく。
それと共にキーパーもボールを進む方向を読んで止める体勢をとっている。
ーー入れ!
入れば、その時点でそのチームは勝つ。
入らなければ、世界一は、相手チームになる。
心の中で祈って、目を少し瞑った。
「うぉおおおおお!!!」
反対側から、大きな歓声が聞こえてきた。
その歓声は、不運なことに、反対側からだった。
その時、すべての状況を理解した。
『カンッ』
さっきの音とは真逆に、空き缶を蹴ったような音がした。
ゴールの網に、ボールが受け止められる気持ちいい、音ではなく。
「はず…れた?ーー」
PKを外した。
相手チームの勝利となる。
ただ唖然とした表情で歓声を耳から耳へと流すだけ。
膝を落として、手を床について、ただ、ただ思考を停止した。
今までの記憶が全て箱にしまわれる。
その箱は、固く閉ざされて、僕の頭に戻ってくることはなかった。
ーーーーそう、二度と。
『バッ』
少し大袈裟に起き上がって、見える視界。
自分の部屋でもなくて、見覚えのない部屋。
……ん?
現在地と、自分の部屋を照らし合わせる。
自分の部屋が、頭の中に出てこない。
というか、そこで過ごしてきた記憶、自分の顔、自分の家。
全てが思い出せなかった。
こんなよくある話、自分には訪れないと、他人後にしてきた。
顔が青ざめていくのがわかって、いけないことが脳裏に浮かぶ。
ーーー記憶、喪失。
まさか。
引きつった笑顔で、そう、強がった。