複雑・ファジー小説
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- 慟哭 【失墜】
- 日時: 2017/01/30 17:15
- 名前: マツリカ ◆1zvsspphqY (ID: GFkqvq5s)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=18913
君の笑顔が見たかったんだ
■
三森電池様原作【失墜】の二次創作です。不束者ですが、よろしくお願いします。
- Re: 慟哭 ( No.1 )
- 日時: 2017/01/30 17:29
- 名前: マツリカ ◆1zvsspphqY (ID: GFkqvq5s)
太陽が沈んでゆく。オレンジ色の光がぼぉっ、と窓から差し込んできて、白いテーブルを照らす。幾ばくか幻想的に思えるその様を、私は赤いストローで茶色いコーラをちゅーと飲みながら、ただただ物憂げに見ていたのだった。
放課後にこんなところに寄るなんて、中学の頃は考えられなかった。私はクラスの隅で1人本を読んでいるような地味な生徒で、こんな学校帰りの「寄り道」なんてものからは縁の遠い人生だったはずなのに。何を間違えてこうなってしまったんだろう。いや、間違ってなんかないか。間違っていたのは、今までの人生だ。
お待たせしました、と店員さんがやってきて、ショートケーキをこつん、と軽快な音を立てて1つ、テーブルに置く。私が頼んだものだ。でもまだ食べない。待ち合わせをしている友人が来るまでは何も手をつけないでおこう、と思っていたから。
待ち合わせをしている子はみっちゃんといって、バスケ部の子だ。ものすごく背が高くって、平均身長くらいの私はいつも見上げて歩かなければいけない。でも、ファミレスなんかの椅子に座ると彼女の方が脚が長いためか、それとも私の座高が高いだけなのか目線が随分と近くなって、平等な立場で話しているように感じられるのだ。
見下げられてる、だなんて思っていない。だけど、上から話しかけられるのはどうにも落ち着かない。だから、彼氏はそんなに背の高くない人がいいな、なんて思った。
「みっちゃん遅いなぁ」
ため息をついて、鞄からスマホを取り出す。ロック画面を見ると、ただいまの時刻は17時。冬が近づいているせいか、最近は太陽が沈んでゆくのがはやいな、なんて思った。
指紋認証なんていう便利なものは私のスマホには存在しないので、パスワードを入力し、ロックを解除する。そしてそっ、と画面をタッチして、アプリを起動した。今流行りのTwitterだった。
みんなはリア垢とか趣味垢とか、果てには裏垢なんていうものまで作っているらしいけど、私の垢は1つだけだ。名前も本名で、「島川 夢子」。もちろんみっちゃんのこともフォローしていて、こちらは「宮嶋 詩織」という本名をお洒落にローマ字にしたものだった。
個人情報が漏れるのは怖いし……と思って、一応鍵はかけている。けれども文化祭前になると、クラスの出し物の宣伝とか、私の所属する美術部の宣伝なんかもしなければいけないから、やむを得ず、ときどきロックを外すことがある。みっちゃんはいつでも鍵がかかっていないけど怖くないのかな。誰だかわからない人が自分のツイートを見ているのは怖いことだと、私は思っている。
Twitterのトレンドとか他の人のツイートに1通りふぁぼなんかを送ったりして、次第にすることが無くなった。けど、私はゲームアプリなんて1つも入れていない。となればすることは1つ。
「お待たせー。ミーティングが長くて遅くなっちゃった」
丁度その瞬間にみっちゃんがやってきて、私の隣に座る。彼女は汗だくで、ここまで全速力で走ってきたのだとわかって、少し嬉しかった。
「良いよ良いよー、部活忙しいもんね」
「本当にごめんね。今日は久しぶりのオフだったはずなんだけど、突然来週練習試合をすることになって、先生が燃えてんの」
「今年こそ県大会優勝、だっけ?」
「そうそう。もう死にそう」
「死なない程度にこまめに休息取ろうね」
ふぅ、と息を吐いて、みっちゃんは何にしよー、とメニューを眺めている。みっちゃんは甘いものが好きだ。きっと今日は良い休息になるだろう。私はスマホを置いて、やっとフォークを手に取った。
「よし、チョコレートケーキにしよう……って夢子」
私のスマホを覗き込んで、みっちゃんは呆れたように言う。
「また見てるの? 青山瑛太のTwitterなんか」
- Re: 慟哭 【失墜】 ( No.2 )
- 日時: 2017/02/18 21:01
- 名前: マツリカ ◆1zvsspphqY (ID: DTjsowAk)
青山瑛太。それは、今から1年ほど前に話題になった人物だった。皆さんは、「読者モデル殺害配信」を覚えているだろうか。彼はその被害者だ。そして、加害者でもある。
青山くんを傷つけた通称Yくん、という人物は、彼に日頃から暴行され、金銭を奪い取られていた。酷いことだと思う。人間として許されないことだ。だからYくんは、非情な暴力に耐えきれなくなって、青山くんを殺そうとしたのだ。でも、青山くんは生活保護を受けなければならないほどの貧困家庭だった。心が不安定になっても仕方の無いことだと思う。人間は脆い。簡単に、壊れてゆくから。
これらを総合すると、一体どちらが悪いのやら。それは今でもときたま議論される哲学のようなものだった。TVや雑誌、ネット。何も知らない大人たちが2人のことを勝手に語って、自分なりの正義を押し付ける。1年前から更新されていない青山くんのTwitterの最後のツイートをタップすると、「死ね!」「お前は人間のクズだ」なんて、中傷のコメントがたくさんあって、私はまた悲しくなった。
「だいたいさぁ、お金が無いからって言って、他人からお金を盗るのは間違ってるでしょ。読者モデルもしてるんだから、お金はそれなりに入ってきてたはずじゃない」
注文をし終えたみっちゃんが忌々しげに言う。みっちゃんは曲がったことが大っ嫌いなのだ。だから、私が青山くんのことが好きなことをずっと否定し続けている。
「どうせ見栄でも張ってブランドものの服とか彼女へのプレゼントに消えてったんでしょ。Y君から奪い取った金」
「決めつけるなんて良くないよ」
「……ごめんなさい」
急に目を伏せて、みっちゃんは押し黙る。みっちゃんは自分に対しても厳しい。そういうところが好きなのだけれど、そんな生き方して疲れないかなぁ、なんて、私はいつも思っていたりするのだった。
ずずずっ、と音がして、コップの中のコーラがもう無くなってしまったことに気づく。口には出さないけど、みっちゃんが来るのが遅かったから、もうコーラは3杯目だ。お母さんに昔からコーラは身体に悪いのよ、と言われ続けてきたことが、頭の隅にチラつく。別にいいよね。私は高校生。もう、子供じゃない。
「夢子は青山瑛太のどこが好きなの?」
いつの間にやら運ばれてきていたチョコレートケーキをにこにこと見つめながら、みっちゃんが尋ねてくる。早くコーラを取りに行きたいな、と思ったけど、先にこの質問に答えておこうか、と思い、私は一生懸命頭を働かせてみる。
「んーと、まず見た目かな」
「あーー、無駄に綺麗な外見してるよね。中身が伴ってないけど」
「みっちゃん」
「言い過ぎましたごめんなさい」
「いいよ、別に。……青山くんを初めて見たとき、びっくりしたんだ。王子様みたいだったから」
王子様、というワードに気恥ずかしさを覚えながら、私はあのときのことを思い出してみる。
青山くんを初めて見たのは、確か2年ほど前だった。いつもは本屋で子供っぽい少女漫画や児童文学を買っていた私は、少し背伸びして、ファッション雑誌を買ってみた。家に帰ってその雑誌を開くと、私なんかとは全然違う、きらきらした可愛い女の子たちが微笑んでいた。そしてそのままぱらぱらページを捲っていると、とある男の子が目に留まって、どきり。
女の子顔負けの男の子だった。モデルにしては少し小さめかな?と思ったけど、そんなこと気にならないくらい格好よくて。
『青山、瑛太くん……』
掠れた声で、隅の方にあった彼の名前を呼んだ。名前まで輝いていて、芸能人みたいだな、なんて思った。
まるで王子様みたい。ぴっかぴかの笑顔が素敵で、きっと幸せな家庭に生まれて、幸せに生きてきたんだろうな。
だから、憧れた。
「でも、他にどこが好きって言われたらわからないかも」
「ほーら、やっぱり。青山瑛太は犯罪者なのよ」
もう忘れたら? なんて、みっちゃんが言う。それが正しいことなんだろう。わかってる。でもどうしても、私はこの綺麗な男の子のことが好きだった。
私はどうしても、彼に聞いてみたいことがある。
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