複雑・ファジー小説
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- 精霊狩りとして生きる僕たちは。
- 日時: 2017/02/22 14:47
- 名前: こてつ (ID: 3i70snR8)
かつてこの世界には緑があった
湖があった
森があった
動物たちがいた
精霊がいた
野に咲く花と、人間と、戯れていた
けれどある日、緑が消えた
湖は枯れた
森は燃えた
多くの動物たちが死んだ
砂漠となった地面と、人間のエゴの中に、埋もれてしまった
人々は精霊を恐れ阻害し、自分たちの世界から排除しようとした
『嗚呼、なんと愚かなことだ』
そう言って嘆く人間が、果たしていただろうか
こんな世の中に生を受け、精霊狩りとして生きる者たちに課せられた業は
重い
〇〇〇〇〇〇
初めまして、ダークの掲示板から移動してきました、こてつといいます。
一応女です。
とりあえず、この小説に関しては最後まで書き上げるつもりなので、気長に見ていってください。
それではごゆるりと〜
△目次△
1、砂上にて嗤う
>>1 >>2 >>3 >>4
- Re: 精霊狩りとして生きる僕たちは。 ( No.1 )
- 日時: 2017/01/25 15:37
- 名前: こてつ (ID: 3i70snR8)
1、砂上にて嗤う
ブルルルルルルッ
砂漠に響くけたたましいバイク音。
大気をゆらし、砂埃をまき散らしながら走っていた。
サイドカーにいる男が、運転している坊主頭の男に向かって叫ぶ。
「ねぇ!」
「あぁ!?」
「この荒っぽい運転さ、うわッ、なんとか、うっ、ならないわけ!?ちょっ」
「なんだって!?」
「だから!この運転!!」
「てめえ、声小せえんだよ!もっとはっきり喋れ!」
その言葉に対してサイドカーの男の額に青筋が浮かんだ。
そして口角を歪ませてボソッと呟く。
「…この、脳筋ゴリラ野郎」
「おい!タイガ、聞こえてるぞてめえ!」
「この声は聞こえるのに、なんでさっきのは聞こえないかなあ!」
会話が終わると同時に、バイクが急停止した。
その衝撃でサイドカーのベルトが外れ、タイガと呼ばれた男が頭ごと砂漠に突っ込む。
「よし、無事到着だな」
「え、ちょっとこの状態見て無事って言うのはなんなの?バカなの?」
「おい、タイガ早く立ち上がれ。もうすぐくるぞ」
「…無茶な運転で人を飛ばしといて、よく言えるよね、そのセリフ。ほんと、尊敬しちゃうよリュウちゃん」
「ちゃん付けで呼ぶな」
ブツブツと文句を言いながらもタイガは頭を振って砂を落とし、立ち上がった。
「はっ、そんな変な髪をしてるから砂がつくんだよ」
「変な髪って言わないでくれる?自慢の天然パーマなんだよ?この透き通った金髪、絹を思わせる肌触り。自分が髪の毛無いからって、僻むのやめてくんなーい?」
「……てめえな」
「男の嫉妬ほど、醜いものはないよ☆」
「嫉妬じゃねえよ!」
タイガを睨みつけたあと、リュウは時計に目をおとした。
- Re: 精霊狩りとして生きる僕たちは。 ( No.2 )
- 日時: 2017/01/23 22:31
- 名前: こてつ (ID: 3i70snR8)
「もうすぐくるぞ、タイガ」
「なにが?」
「精霊だよ、精霊!てめえ、何年この仕事してんだよ。死ね」
「やだなあ。僕が死んだら、全国の女の子が泣くよ?」
「……っ」
もう、何も言わない。
耐えるんだ、耐えるんだと自分に言い聞かせ、リュウはグッと拳を握り締める。
二人が待ち構えている先には少し盛り上がった砂山があった。
風がふぶいていて、今日はやけに視界が悪い。乾ききった風が、二人から水分を奪っているようだ。
しばらくすると、ビリビリと大気が震え、地鳴りが響き始めた。それと同時に砂山のむこうから走ってくる人影。そしてそれを追いかける黒く巨大な物体。
「…子供か」
「なんだってこんな砂漠に出てきたんだか。おとなしく街の中にいればいいのにね〜」
目標を確認すると、二人は戦闘準備に入る。
リュウは鉄製のグローブをつけ、タイガは指輪を三個、右手の薬指、中指、人差し指にそれぞれつける。
「…いつも疑問に思うんだがな」
「なんだい?」
「てめえのその指輪は、どうやって戦闘で使うんだ」
その問いかけに対して、一瞬、ほんの一瞬、タイガの表情がこわばった。しかしすぐにいつもの余裕の笑みに戻る。
「えー、僕と何年も一緒に任務こなしてきてるリュウちゃんのセリフとは思えないね〜」
「ちゃん付けするな」
今にも殴りかかりそうな勢いでタイガを睨む。
「僕の指輪は身体強化の指輪。自分だけじゃなく、他人のカラダの一部でさえも、強化する」
「だから、その原理と使い方が…」
「リュウちゃんは脳筋バカなんだから、そんなことに頭使ってる暇があるなら目の前の敵バンバン倒していきなよ」
「なんだとこら…」
「ほらほら、きたよ」
敵—————精霊は約10メートル手前まできていた。
「てめえは子供の方にいけ。俺はあいつをやる」
「はいはい。強化は足だけでいいよね」
「ああ」
ガシっと手を合わせ、気合を入れるリュウ。タイガはしゃがみこむとそっと右手でリュウの足に触れた。触れた部位がほのかに光る。
リュウはそれを確認すると、勢いよく精霊に向かって走り出した。
「おらあぁっ!」
叫び声をあげ、リュウが大きく飛び上がった。太陽の日差しを背中に背負い、ニヤッと笑う。巨体な精霊の頭上ど真ん中、そのまま腕に力をこめて振り下ろす。
ズドォンッッ
大量の砂埃が舞い、さらに視界が悪くなる。
「う、うぅ、な、に?」
追いかけられていた子供は、泣きじゃくった顔で後ろを振り返り立ち止まっていた。
- Re: 精霊狩りとして生きる僕たちは。 ( No.3 )
- 日時: 2017/01/25 17:57
- 名前: こてつ (ID: 3i70snR8)
「さあさ、立ち止まってる暇はないよ。僕たちはあんな奴らほっといて早く逃げなきゃね」
突然背後から聞こえた声に、子供は驚いて振り返る。
「え、あ、あの…」
「さあ、乗って。早くここから逃げるよ」
「で、でも…」
「それともここで死にたい?」
笑顔で圧迫するタイガの迫力に押され、子供はサイドカーに慌てて乗り込んだ。
それを確認すると、ブルっとエンジンをかけそのまま発進する。
「あ、あの!」
「なに?」
「男の人、おいてきちゃって大丈夫なんですか?」
「あぁ、後で迎えに行くから大丈夫だよ。リュウのやつ、ちょっとやそっとじゃ死なないし———」
そう言い終わる前に「何か」がヒュンッと横を通り抜け、目の前の砂山に派手な音をたててぶつかった。
バイクは急ブレーキし、立ち止まる。
飛んできた「何か」の正体はリュウだった。
「う、うぅ…」
うめき声をあげながら、フラフラと立ち上がる。
「え、ちょ、早くない!?まだ一分も経ってないけど?もうちょーっと時間稼いでくれると思ったのに!ただでさえ筋肉馬鹿なんだから、こういうときに活躍してくれないと困るんだけど!」
「ごちゃごちゃうるせえ!これからなんだよ」
ペッと口から血を吐き、ゴキゴキと首の骨を鳴らす。
「これからって、あのねえ」
タイガが文句を言おうとする中、その背後にはあの巨大な精霊が忍び寄っていた。
「っ!タイガ!うしろ!」
「は——————?」
タイガが気づく前に、精霊が拳を振り下ろした。
その衝撃でバイクごと吹き飛ばされる。
「うわぁ!」
ボスッ
一緒に飛ばされた子供はなんとかリュウがキャッチした。
「あ、ありがとうございます」
「お礼はいい」
「タイガさんは…!」
「あいつなら大丈夫だ」
そう言って指をさされた方向をみると、なにやら薄い膜のようなもので覆われたタイガがいた。
「あ、あれは……?」
「防護フィールドだ。あいつの身に付けてる防具のおかげだよ。どういう原理してるのかしらねえけどな」
タイガの目の前に立ちはだかる精霊は、ゴツゴツとした大きな岩が何個も積み重なって、形を成していた。
ウオオオオォォォォッッ
耳をつんざくような雄叫びをあげ、タイガに向かって腕を振り下ろす。
ズウゥンッ
タイガは苦しそうな顔でそれを受け止めた。
「っ……そういうのは、あの馬鹿にやればいいんだよっ!」
そう言ってタイガが腕を押し返すのと同時に、リュウは空中へ飛び上がり、その頭部にむけて拳をぶつける。
バコォンッッ
凄まじい音ともに敵の体がグラっと傾いた。
- Re: 精霊狩りとして生きる僕たちは。 ( No.4 )
- 日時: 2017/02/22 14:55
- 名前: こてつ (ID: 3i70snR8)
タイガはその隙を見逃さず、子供をさっと抱き上げ、バイクを立て直しエンジンをかける。
「逃げるんですか!?」
「逃げるんじゃなくて一時避難!僕がそんなカッコ悪いことするわけないでしょ」
「でもリュウさんが…」
「ガキかばいながらだったら、十分に戦えないだろ!」
「ッ……」
「…怒鳴って悪かったけど、今は切羽詰まってる状況だってわかってね。僕だって、子供相手に怒鳴りたくないんだからさ」
ブルンッブルンッ
バイクは大きな音をたててその場を立ち去った。
それを確認するとリュウはにやっと笑う。
「さあ、こっからが本番だぜ、デカブツ」
ガッと両腕を地面に突き立て、思いっきり飛び上がる。
そしてそのまま両腕を大きく振りかぶった。
「まずは———いっぱぁっつ!!」
しかし敵もそれを察知し、腕を横に振るう。
「ぐっ!」
それをもろに受け、リュウは砂上に吹っ飛んだ。
「てっめっ…!」
血を流して悶えるリュウにお構いなしに、敵は足でリュウを踏みつぶそうとする。
ずどおおおんっ
振り下ろされた足を、間一髪でよけるリュウ。
「っ…調子に乗るんじゃねえ!」
そしてそのまま、振り下ろされた足に向かって拳をぶつけた。
ばこおおおおぉぉんっという凄まじい音とともに砕け散る足。そしてその破片はタイガの運転するバイクまで飛んでくる。
「あんの馬鹿!こっちまで飛ばさないでよ!」
そう言いながら、防護フィールドを展開するタイガ。そのおかげで、バイクにはまったくといっていいほど影響がない。
子供はぐっと黙ってサイドカーにしがみついていた。
バランスの取れなくなった的は、そのまま倒れこんだ。リュウは飛び上がり、片方の拳に力をこめる。
「じゃあな、デカブツ」
勢いよく拳をぶつけると、そのまま派手な音をたてて敵のカラダは砕け散った。
そしてその破片はもちろん、タイガの方向にも飛んでくる。
「だぁかぁら!こっちに飛ばすなっつってんじゃん!」
「タイガさん、前!前見て運転してください!」
するとバイクにリュウから無線が入る。
『こちらリュウ。無事に精霊を殲滅。向かえに来い』
「せ、精霊…」
その言葉を聞いて、子供が少し困惑した表情になった。
タイガはなに食わぬ顔で…いや、誰がみても怒っているとわかる顔で返答する。
「誰かさんが飛ばしてきた石の破片で無線が壊れたので、なにも聞こえませーん。とりあえずこのままかえりまーす」
『なっ、てめ』
「ぶちっとな」
強制的に無線をきるタイガ。
「あ、あの!」
突然、子供が大きな声をあげる。
「え、なに?どうかした?」
「間違ってたらすみません!その、もしかして、タイガさんたちって…」
少し怯えた表情で子供はタイガを見つめた。
「『精霊狩り』……ですか?」
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