複雑・ファジー小説

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暗黒の時代があった
日時: 2017/01/28 11:28
名前: 裕之 (ID: xkLYJqiv)

初投稿です。
「暗黒の時代」と呼ばれる過酷な時代に生きる少年少女達の物語を書いていきたいと思います。
興味の湧いた方は是非読んでみてください!
ジャンルとしては、ハイ・ファンタジーになるかと思います。

Re: 暗黒の時代があった ( No.1 )
日時: 2017/01/28 11:38
名前: 裕之 (ID: xkLYJqiv)

 暗黒の時代があった。力の弱い者が強い者に蹂躙される、そんな時代だ。
 不幸にも、そんな時代に生まれ育ってきた1人の少年がいた。彼の名は、テレマウ・クアイサ。暗黒の時代と呼ばれる現代で比較的安全で治安のいい町、ラフテルに住む15歳の少年だ。
 クアイサは今、同い年ほどの少年達3人から虐めを受けていた。
「早く金よこせっての!」
 うずくまるクアイサに蹴りを入れる虐めっ子のリーダー、パンダ・ジョン。
「無理ー! これ買い物に必要な金!」
 うずくまりながら、そう必死に訴えるクアイサ。
「俺達が使ってやるっての!」
「ほら渡せ!」
 次々と虐めっ子3人から蹴りを浴びせられるクアイサ。しかし、どんなに痛めつけられようと、握り締めたお札だけは決して放さなかった。
 「何が安全安心の町ラフテルだ……」とクアイサが心の中で皮肉る。
 安全安心の町、ラフテル。間違ってはいない。首都から大分離れているお陰もあり、凶悪組織であるガバンの手が届き難いのだ。そのため、ラフテルだけでの治安維持が成り立ち、犯罪発生率も低くなっている。しかし、いくら町の治安がよくとも、今は力が物を言う暗黒の時代。治安部隊の目の届かない所では、今もこうして日常的に犯罪が横行してい
るのだ。
「こいつしぶといな。なあ、魔与(まよ)でとっとと終わらせようぜ」
「そうだな」
 仲間の提案を聞き入れたジョンは、魔与と呼ばれる特殊な力を使って、クアイサを宙に浮かせ始めた。
「何する気だよ……? やめろよ……」
「大人しく金渡してれば痛い目見ずに済んだのにな」
「…………」
 楽しそうに話すジョンを見て、クアイサは恐怖する。
 クアイサの左腕を両手で掴むジョン。
 ジョンが両手に力を入れると同時に、クアイサの表情が歪む。
「ぐっ……! あっ……、あ……うわああああああああ!」
 左腕に走る激痛。あまりの痛さに、クアイサは叫ぶ。
「どうだ? 痛いだろ? もう少し力を入れればポッキリだぜ?」
 暗黒の時代。そんな時代を招いた最たる原因である力、魔与。力の弱い者は強い者に蹂躙されるしかない。クアイサは今、この暗黒の時代というものがどんなものなのかを、改めて思い知った。
「ずいぶん胸糞悪い事してんのね」
「あ?」
 突如響き渡った大きな女性の声に、ジョンの注意がそれる。そのお陰で、クアイサを苦しめていた魔与の行使が止まり、クアイサはようやく地面に付く事ができた。
 そして、4人の視線の先には、長くも綺麗な銀髪をした少女の姿が。
「誰?」
「さあ?」
 ジョンもその仲間も、銀髪の少女には見覚えがなかった。
 そんな彼らに構わず、少女は口を開く。
「痛めつけるだけだなんてまったくクールじゃないわ。魔与っていうのはね、こう使うのよ!」
 4人から少し離れた所で爆発が起きる。
「どう? 派手でかっこいいでしょ?」
「おい……、あいつの魔与強いぞ。ヤバくねえか?」
「ああ!?」
 突如、ジョンの仲間の1人が、驚いたように大きな声を上げた。
「いきなりどうした?」
「あいつ……腕に赤いバンダナ付けてる……。あれって、ガバンが付けてるのと似てるような気が……」
「なに!?」
 赤いバンダナのことを聞かされたジョンは、顔色を変えて驚く。
 無理もなかった。凶悪組織であるガバンに属する者は、どちらかの腕に赤いバンダナを巻くからだ。
 しかしジョンは、まだ完全に信じる事ができなかった。自分達と同じくらいの歳の少女が、ガバンに属してるとは思えなかったからだ。
「おい、お前! その赤いバンダナ、ガバンの証なのか?」
 ジョンは恐る恐るも少女に尋ねる。
「口の聞き方に気をつけなよ。あんた私が子供で女だからってなめてる?」
「なんだと?」
「このシンボル見ればわかるでしょ? 私がどういった人間なのか」
 鎖に巻きつかれた赤い丸と、それを囲むように描かれたギザギザの円。汚れた太陽を意味すると同時に、世界を照らす太陽のように世界を支配するという意味が込められたそれは、紛れもないガバンのシンボルだった。
「あいつやっぱりガバンの人間だよ。もう行こうぜ。関わったらヤバいよ」
「…………」
 仲間から関わることは危険だと告げられるジョンだったが、何を考え込んでいるのか、ジョンはただ黙るだけだった。
「おいジョン!」
「…………わかってる。行くぞ」
 この場を離れていくジョンとジョンの仲間2人。
 この場にいるのは、クアイサと銀髪の少女だけとなった。
「あんた、運が良かったわね」
「…………こ、殺さないで……」
「え?」
 銀髪の少女にしてみれば助けたつもりだったのだが、危害を加えられると勘違いしたクアイサは逃げ出してしまう。
「ありゃりゃ……。まっ、無理もないか」
「ん?」
 突如鳴り出す電話の呼び出し音。
 「もしもし?」と銀髪の少女が応答する。
「報告はどうした? 見つけたのか?」
「あーごめん、まだ。というか、本当にこの町にいるの? 可能性が高いってだけなんでしょう?」
「僅かな可能性でも、『あれ』は必ず見つけ出さなければならない。引き続き捜索を続けろ。報告を忘れるなよ」
「はいはい」
 そこで電話は切れた。
「ふう……。さて、探さないとね」

Re: 暗黒の時代があった ( No.2 )
日時: 2017/01/28 11:49
名前: 裕之 (ID: xkLYJqiv)

第1章 出会い

 クアイサは走っていた。少しでも、あの銀髪の少女から離れたくて。
「……っ!? 商店街……。あそこまで行けば……!」
 クアイサがいつも買い物で訪れる商店街。それが見えてきた事でクアイサは一先ず安心する。商店街は人通りも多く、治安部隊も頻繁に見回りをしている。あそこならさすがのガバンも襲ってはこれない、そうクアイサは思ったのだ。
 残りの体力を引き出し商店街の大通りに出たクアイサは、そこでようやく足を止める。そして、予定に入っていた買い物を済ませるのであった。
 買い物を終えた帰り道、クアイサは橋の下に奇妙な物を見つける。
「なんだあれ?」
 それは倒れている人影にも見えた。
 気になったクアイサは橋下へと下りていく。
「……っ!?」
 クアイサは驚く。人のように見えたそれは本当に人だったのだ。
「大丈夫ですか!? しっかりして!」
 うつ伏せになって倒れていたのを仰向けにして起こすクアイサ。
 倒れていたのは茶髪の少女だった。
 服は汚れ、濡れてもいる。
「……お……な……か」
 目を覚ました茶髪の少女は、小さな声で呟き始める。
「え?」
「……お腹……すいた……」
「あっ……! わかった、ちょっと待ってて」
 持っていた買い物袋から、先程買ったばかりの食べ歩き用チキンを取り出すクアイサ。クアイサはそれを茶髪の少女に差し出し、食べられるかどうかを尋ねた。
 すると少女は、勢いよくチキンにかぶり付いた。余程お腹がすいていたのか、よく噛みもせず次々と喉に流し込んでいく。チキンはあっという間に小さくなっていった。
 そして、チキンが残り僅かとなったところで、ある出来事が……。
「痛ッ!」
 なんと茶髪の少女は、勢い余ってチキンを持っていたクアイサの指にまでかぶり付いてしまったのだ。幸いにもクアイサの指に怪我はなかった。
「ごめんなさい」
「あっ、うん、大丈夫……。はい、これ」
「ありがとう」
 残りのチキンを手渡された少女は、それも食べ終え見事にチキンを完食した。
「具合はどう? どこか痛かったり気分悪かったりする?」
「平気だよ」
「そっか。でも一応病院で見てもらった方がいいかも。今救急車呼ぶから——」
「いい」
「え?」
「救急車、呼ばなくて、いい」
「え、でも……………………」
 救急車を呼ぶ事を即答で拒否されてしまったクアイサは、どうしていいかわからず戸惑ってしまう。
「もう行くね。ありがとう」
 立ち上がった茶髪の少女は、それだけを言い残し歩き出す。
 本当に平気なのか心配するクアイサだったが、立ち去ろうとする少女に掛ける言葉が見つからなかった。
 少しずつ離れていく茶髪の少女。しかし、少し歩いた所で茶髪の少女は足を躓かせコケてしまう。
「なっ!? ちょ、大丈夫!?」
 すぐに駆け寄るクアイサ。
「……大丈夫」
「全然大丈夫に見えないんだけど……。やっぱり病院で見てもらった方がいいって!」
「病院はダメ」
「ダメって……。じゃあどうすれば……」
 病院へは行きたくない様子の少女。かと言ってこのまま1人にするわけにもいかないと思ったクアイサは、茶髪の少女の家族か知り合いに迎えに来てもらおう、と思いつく。
「ねえ君。家の電話番号か、誰か家族の、知り合いでもいいけど、その人達の携帯の番号とか知らない?」
 その質問に、茶髪の少女は首を横に振る。
「……まいったな。じゃあ住所は?」
 その質問にも茶髪の少女は首を横に振った。
「住所も!? …………」
 八方塞がりであった。
 クアイサは深い溜め息をつく。
「あとは、治安部隊に任せるしかないかなぁ。ちょっと待っててね」
 治安部隊に保護してもらうしかないと考えたクアイサは、携帯を取り出し連絡を取ろうとする。
「………………あれ? おかしいな……」
 どうしたことか、いつまで経っても呼び出しが始まらない。
 クアイサはもう一度番号を押し、掛け直した。
「……………………。駄目だ、やっぱり繋がらない。故障か?」
「ヘクシュッ!」
 寒かったのか、茶髪の少女はクシャミをした。
「そのままじゃ寒いよね。とりあえず俺の家が近くにあるから、温まっていくといいよ。服もあげるからさ。治安本部にはそれから向かおう」
 クアイサは茶髪の少女を家に連れて行くことにした。
「ごめんね。女性用の服ないんだ。もし嫌だったら言ってね。他のも用意するから」
 着替え用の服を置き終えたクアイサは、そのまま洗面所を出る。
 茶髪の少女には、風呂に入ってもらう事にしたのだ。服だけでなく体も汚れていたため。
 茶髪の少女が風呂に入っている間、クアイサは何度も治安部隊への連絡を試みた。しかし、一向に繋がらない。家の電話を使っても繋がらない。
 クアイサは困り果てた。
 それならばと、治安部隊勤めの叔父に直接連絡を取ろうとするが、それすらも繋がらなかった。
「叔父さんとも連絡つかないし、やっぱり直接行くしかないか……」
 しばらくして、風呂から上がった茶髪の少女がリビングに入ってきた。
「お風呂終わったよ」
「あぁ……、服、大丈夫?」
「うん」
「そっか、よかった」
「…………1人?」
 リビングを見渡しながら茶髪の少女が尋ねる。
「今はね。叔父さんと一緒に住んでるんだけど、叔父さんは仕事中だから」
「お父さんとお母さんは?」
「…………」
 両親について聞かれた瞬間、クアイサの表情が曇る。
「お父さんとお母さんは俺が2歳の時に死んだよ」
 まさかの答えに、茶髪の少女は驚いた。
「叔父さんが言うには、ガバンの人間に殺されたんだって」
「……そうだったんだ。ごめん」
 辛い事を思い出させてしまった事に申し訳なく思ったのか、茶髪の少女は謝る。
「気にしなくていいよ。まぁ、仕方なかったんだと思う。両親は魔与に恵まれてなかったみたいだから」
 魔与と呼ばれる特殊な力が猛威を振るう暗黒の時代。魔与を扱える者とそうでない者とでは、5年以内の死亡率が大きく違った。力の強弱の差によって死亡率も変わるが、最低限魔与を扱える者で約7パーセント、そうでない者で約30パーセントにも及ぶ。この暗黒の時代では、魔与を扱えない者・魔与の力が弱い者は、長生きできないのだ。誰が調べ誰が付けたのか、世間ではこの死亡率を「暗黒死亡率」と呼ぶ。

Re: 暗黒の時代があった お礼と、前回までのあらすじ ( No.3 )
日時: 2017/01/31 21:18
名前: 裕之 (ID: xkLYJqiv)

お久しぶりです。裕之です。
まずは、暗黒の時代があった、を読んでくださった方々にお礼を言いたいと思います。
暗黒の時代があった、を読んでくださり、本当にありがとうございます。
ゆっくりではありますが、これからも書き続けていくんで、最後まで読んでくれると嬉しいです。

それと、更新遅くなってしまって申し訳ありません。
自分は基本執筆が遅い方なので、それを理解してくださった上で、気長に最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

それでは、続きをお楽しみください。

【前回までのあらすじ】
 「魔与(まよ)」と呼ばれる特殊な力が猛威を振るい、力の弱い者が強い者に蹂躙される暗黒の時代。
 そんな時代に生まれ育ってきた15歳の少年、テレマウ・クアイサは、ある日の帰り道、橋の下で倒れていた茶髪の少女を発見する。
 お腹のすいていた茶髪の少女を介抱し、念のため病院で診てもらおうと救急車を呼ぼうとするクアイサだったが、茶髪の少女はそれを拒否してしまう。
 そこでクアイサは、茶髪の少女の家族、知り合い、更には治安部隊に少女を保護してもらおうと考えるが、家族はおろか知り合いの電話番号すら少女は知らなかった。更に、頼みの綱であった治安部隊への連絡もつかず、クアイサは仕方なく、茶髪の少女を家で一時的に保護する事にしたのであった。


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