複雑・ファジー小説

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留年寸前の俺を救ったのは異世界でした
日時: 2017/02/19 10:23
名前: あぽろ (ID: 4Pa1aQO4)

「…ん、」

俺は朝かも確信が持てないほどの薄暗い気味が悪い部屋で目をさます。
目が半開きのまま、部屋らしき空間を見渡す。
壁にめり込んだ紫の光が反射して、手で光を遮る。

「ここ…どこだ…」

さっきの光である程度目が覚めた俺は、体を一周させ、もう一度部屋を見渡す。
そこは現実味とはかけ離れた空間で、まるで俺の部屋ではなかった。

そこは不思議と時の流れをゆっくりの感じさせてくれた。

そして、現実味とはかけ離れた空間で、現実味に満ち溢れた疑問が頭を過る。

「…っ、学校!」

思い立ったように立ち上がって、制服を手に取ろうとする。
でもその手は空気に触れて、たちまち喪失感と絶望感で胸がいっぱいになった。

「…ここ…俺の部屋じゃねえ…?!」

今一度信じたくもない事実を確認した。
誘拐されたとか、そんな予想が頭を過るけども、どうやってもここがどこなのか分からない。

「ああ…!クソッ…どうしたら…、ん?」

濁音混じりに、何かに怒ったような声を出しながら、何かに頭をぶつける。
見上げると、あったのはごく普通のベッドだった。柔らかな寝息が聞こえてくる。

「誰だ…」

こんな自分の部屋でもなく、部屋かもわからない空間に、誰かもわからない女の子がこの部屋にいる。
この三つの疑問を一瞬で消す事実が、この目には写っている。

「可愛い…!」

なんと無防備な寝顔!なんと幼稚な瞼!その全てに心を奪われ、無意識に手も伸ばす。
白く、ミルクのような色をした顔に人差し指を伸ばす。
ほんの少しの躊躇いがあったが、そんなことはどうでも良かった。

「んん!?」

その顔に触れた瞬間、俺の妄想するストーリーを悪い意味で裏切った。
女らしい声とは懸け離れた男らしい野太い声。男らしく立派に潜めた眉。

全てが俺の予想とは違い、全てが驚きとなって消えた。

「誰だああああああああっ!!!!」
「いいっ!」

突然の叫び後が宝石がめり込まれた壁に反響して、空間全てに響き渡る。
次第に俺に耳にこだまして、耳鳴りがなる。
反射的に逃げる俺。後ろを振り向くとさっきの女が走ってきている。
状況が理解できずまた非現実な感覚に浸る。

「逃げるなああああっ!」
「そら逃げるわ…!って、はあああああ!?」

逃げるななんて矛盾した言葉に怒りを覚えつつも、後ろを振り向く。
そうするとなぜか慣れた手つきで鋭利な刃物をそれぞれの指の間に挟んでいる。

「え、冗談だよね?冗談だよね?信じてるよ?ねえ、ねえってばあああああ!!」

そんな俺の悲痛な叫びは空間に溶ける。
皮膚に突き刺さった刃物。満足気な女の顔。

「いってえええええ…!」

言葉に表すこともできなくて、今いる空間のことも忘れて叫ぶ。

『テー、テレッテレッテー…』

その瞬間、壁のスクリーンの横にあるスピーカーからピコピコ音が流れて、そのスクリーンには、大きく『GAME Over』と書かれている。

「………は?」

「今年一番のリアクションをありがとう」的な笑顔で俺を見てくる女の子。
未だ理解も出来なくて、いや、出来るはずも無い俺の思考はどんどん引き剥がされてゆく。

「痛いだけで済んだだけ有難く思いなさいね…。ま、何はともあれ、この世界にようこそ!」

何か偉そうに腕組みをしながら刃物が背中に刺さった俺を見て女の子は言う。
また一つ、疑問が増えてしまって、感覚が麻痺したのか自分を責める。

『ゲームの世界に、ようこそ!!!!!』

そのハモった声さえも、俺にとってはただの疑問に過ぎなかった。

Re: 留年寸前の俺を救ったのは異世界でした ( No.1 )
日時: 2017/02/21 21:21
名前: あぽろ (ID: ZSEUE4dk)

「はあああ!?」

俺は突然自分の頭脳を恨んだ。遊び、勉強をしてこなかった俺を恨んだ。
自分の全ての行動を見直し、同時に全てを恨んだ。

「何大声上げてんだよ…うるせえぞ…」

そんな自分が陥れた絶望感に浸っていると、突然背後から冷たく、無愛想な声が聞こえる。
振り向くと、その声にあった、無愛想な顔。ただし今だけはそれが救いの手に見えた。

「坂本ぉ!俺中学で留年しちまうかもしれんぞ!」

この俺の悲痛な叫びも、坂本には届かない。逆に、「だからどうした」という目で見てくるだけだ。

「全く…バカだねぇ碧は。」

そんな中、無駄に明るく陽気な声が人混みの中から聞こえる。

「成績悪いのを坂本に言っちゃダメだよぉ…まだ傷口抉られるから。」

そう!これこそが俺に舞い降りた救いの手!………と言っても、桜矢に慰められてもあんま嬉しく無いんだけどさ。


「ふん…馬鹿馬鹿しい…大人しく掃除でもしてろや!」

坂本は吐き捨てるように言ってから、廊下へと姿を消す。
通知表を唖然と持つ俺の顔に、また桜矢に不思議に見られた。


この個性的な『桜矢』と、『坂本』。
どちらも俺との幼馴染で、天然と頭脳派にキッパリと別れている。

中でも坂本は変わり屋で、成績優秀、塩顏でイケメン!
でも、付き合う気は無いそうだ。くそっ、無愛想な奴め。

桜矢は俺と同じ部類の天然。
坂本に罵られ、その罵られた意味もわかっていない。天然というよりは単なる馬鹿なのである。



「っ、ああー…掃除疲れた…」

乾拭き、箒、掃除機のあらゆる作業を女子に押し付けられた俺は、冬休みに入ったという実感に入れないでいた。

『ガチャ』

座椅子にもたれて疲れ切っている俺に早速魔の手が差し伸べられた。母である。

「ちょ…ノックぐらいしてくれ…」

そんな俺の声も母の耳には届かなかったのであろう。何故なら要件は。

「あんた、通知表は?」




「え」

その一文字が部屋に響く。

「成績上がってるわよね?期待してるわ。」




『ガチャ』

再び閉ざされた部屋は、時の流れをゆっくりと感じさせた。

「ヤバイ…ヤバイヤバイヤバイ!」

同じ言葉を4回ちょうどに枕に向かって連呼する。
カバンに入った通知表を電気スタンドをつけて念入りにチェックする。

「どこも誇れるところがねえ!」

今一度答えを確認し、現実と向き合う。
もういっそ偽造でもしてやろうかと思うぐらいの成績。

逆に問おう。どうして頭がいい。
頭がいい奴が憎い!そんな俺こそが惨めだった。





『ビュウウウウウウウウウウ…!』

何かを訴えかけているような五月蝿いぐらいの風が道に落ちた落ち葉を舞い散らせる。
テレビでは春一番の観測だと伝えている。

「春一番…ねえ。」

机の下でスマホを弄りながらそんなことを呟く。
少し短い文章をSNSに軽い気持ちでたった一文で投稿してみた。

『春一番ヤバイね。風強すぎでしょ。』

そんな当たり前のことを当たり前に投稿する。
あまりフォロワーよ居ない俺は、どうせスルーされるだろうとか思いながらも投稿してみた。

「さて…留学寸前の学校…行ってきますか。」

そんな暗い声に身を包みながら、春一番の風の中に身を任せた。


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