複雑・ファジー小説
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- 魔本使い
- 日時: 2017/03/06 21:16
- 名前: 通俺$sds72 (ID: C5nAn.ic)
今よりちょっと前、世界に穴があきました
一度世界は滅びかけたけど、知らない間にだれかが解決してくれました
そんな世界で俺は、奇妙な本を拾いました
——
この物語はフィクションです、造語、とても奇妙な世界観があります。
それでも、少しだけ気に入っていただけたなら、幸いです。
感想は常に大歓迎です、来ると私は狂喜乱舞すること間違いありません。
誤字脱字が来ると、自分の失敗を恥じた後、しっかり読んでくれているあなたに感謝の念を送り続けるでしょう。
そんな私が書く今回のお話、学園ファンタジーものと銘打っておりますが途中で変わるかもしれませんね。
<簡単なキャラ紹介>
・ニール 男。
<目次>
前書き
- Re: 魔本使い ( No.1 )
- 日時: 2017/03/06 21:18
- 名前: 通俺 (ID: C5nAn.ic)
◇【世界の穴と勇者の伝説】
むかしむかし、あるところに、争いごとの絶えない世界がありました
国は同じ人同士で憎み、ねたみ、まとまるということを知りませんでした
火は消え、水は枯れ、風も吹かず、地は荒れ、
そんなある日のこと、世界の真ん中に
小さな「穴」があきました
そこから世界にどんどん空き始めた「穴」からは、今まで見たことのないような異形の者たちが現れ、世界を黒く塗りつぶしていきました
人々は成す術もなく、ただ逃げまどい、お互いの足を引っ張り合いました。
どんどん世界は黒く染まっていく中、もうだめかと思われたその時
「勇者」が世界の真ん中に現れました
「勇者」は世界を白く染めていき、人々を救っていきました。
そして、異形の王と3日3晩の戦いをし、ついに勝利をおさめ、その姿を消しました
人々はそのあと、たった一人で戦い抜いた「勇者」を敬い、自らを叱り、残った異形たち相手に団結し始めました。
反対に、王を失った異形たちは統制を失い、みな散り散りにそれぞれの「穴」の中へと逃げていきました。
勝利を手にした人々は、団結の大切さを忘れずに、今日も生きています。
◇
子供のころから、何度も何度も子守唄替わりに教えられたお話。
その中に出てくる「勇者」に僕は、いや俺はあこがれた。
その剣は立ち塞ぐものすべてを切り裂き、
その魔法は不可能を可能にした、
つらい立場でも、どんな時でも、決して折れずに魔王たちに立ち向かった
そんな勇者に俺はあこがれた。
「こんな貧しい村で剣なんか握れねぇよ、解体教えてやっから見てろ」村一番の狩人でも、剣は教えてくれなかった。
「魔法?んなのエリート様しか知らないっての。ほら子供は仕事仕事」村一番の知恵者でも、魔法は教えてくれなかった。
「どうせ俺たちゃ一生泥のなかさ」改善を目指す俺に、餓鬼大将がそう諭した。
俺の村は、餓死者、なんてものこそ出ないが決して裕福ではない。子供は当然親の畑や家の仕事を手伝わされる人手としてカウントされるし、病気にかかったところで薬を買いに行くためのお金もない。
村の作物は換金目的というよりは、飢えだけは出さぬようにと味と質を落として安定性だけを求めたものばかりだ。
家畜なんてのもいない、近くのやせた山に1年に数回出る猪がごちそうだ。
そんな村の、親もいない子供なんぞでは、到底たどり着けない場所だと皆が暗に言ってきた。
「否、俺は必ずなりがって見せよう!」そう言って、俺は諦めなかった。
諦めたくなかった、俺は同年代の中の方では自分をかしこい方だと認識していた。
だから、成り上がるための道を見つけるのにはそう時間はかからなかった。
「学業に富んだものの入学を援助......これだ」
見つけたのは、あこがれの「勇者」になるための学校、そこの奨学生制度であった。
無論、それは到底楽な道ではないというのも理解していた。だが、諦めたくはなかった。
「可能性は0ではない」いつもそう自分に言い聞かせ、信じた。
己をあこがれの「勇者」と重ね、ひたすら勉強を重ねた。村にあった数少ない本なんてすぐに読み終わり、慌てて近くの村にまで出かけるようになった。
朝早く出て、夜遅くまで、その間の生活費も稼がなくてはならなかったから効率は本当に悪かった。
だが、諦めなければなんとかなるものだ、と俺は一日千秋の思いで待った手紙を感慨深く見つめた。
『ナケナリ村 ニール殿 貴殿は今年度アレクシア奨学生試験に十分な力を示したものとする』
「......っ!やったっ!受かった、受かったぞ!?」
国の、いや世界でも最高峰と名高い勇者養成学校「アレクシア」に、
俺は受かったのだと、ニールは夢か現実化も区別がつかなくなるほど喜んだ。
その合格の知らせは瞬時に村中へと広がり、誰もがニールをほめたたえた。
その日、ニールは今まで14年生きてきた中で一番笑った。夕方を過ぎるころには、すっかり疲れ切って寝てしまったその寝顔すら、緩み切っただらしない笑顔だった。
それから少しして、彼は意気揚々と勇者学園へと向かった。
村長が昔買って一度も着なかったダボダボの黒いローブを身にまとい、大きな大きな門をくぐった。
少し見回せば、辺り一面見たこともない景色に囲まれていて、きれいな花や恐らくは価値があるのだろう石の柱なども立っている。
そして、それらを何ともせずに歩く生徒たち。みな自信と気品に満ち溢れていて、きっとニールが知らないような世界で生きてきた人たちなのだと実感させた。
「(だが、それがどうした!この俺ニールは、勇者になってみせるのだ!)」
彼の成り上がるための物語はここから
「ニール君、君は退学処分となるだろう」
始まらなかった。
- Re: 魔本使い ( No.2 )
- 日時: 2017/03/06 21:56
- 名前: 通俺 (ID: C5nAn.ic)
第一章【魔王覚醒】
第一項『魔本覚醒』
勇者とは、現代においては「魔法を扱う戦士、兵隊」のことを指す。魔王の脅威がなくなったと言えど、いまだ穴から溢れた魔物たちは残っており、それをすべて殲滅するための力を各国は欲していた。
それゆえに、各国とも初代勇者の力に近づこうとしたが、そう簡単にはいかなかった。
まず、全身鎧でその姿を隠していた初代勇者の鋼のような肉体や見惚れるような剣技、これは人間のみでは明らかに到達できないような境地に達していたが、一応は方向性自体は普通の兵変わりなかったのだが、
一番重要な、数々の奇跡の起こし方、これを各国はその欠片さえも知らなかったのだ。
肝心の初代勇者も、魔王との戦いで姿を消していた。
万事休すか、そう思われたとき、一人の学者が自身の体の中にある謎のエネルギーを発見したのである。
それこそが、今「魔力」と呼ばれるもの。この発見から、魔力は特定の言葉や体の動き、はたまたその魔力を自身で操作することによって、今までなし得なかった奇跡、魔法を発現するということがわかり、勇者の奇跡はこの魔力によってなされたのだとわかった。
そこから更に、魔力の多さは生まれついてのものであると判明すると、貴族をはじめとした権力者たちの中で魔力が少なかったものは慌てて魔力の研究をやめさせようとしたり、はたまた魔力が少なくともどうにかならないか研究させたりと、
色々な思惑渦巻き、魔力科学は発展した。
ある程度学問として形成されると、教えをこいたり、同士で勉強するための場ができる。
次第に大きくなり、国はこれ幸いと援助をし、勇者に近づくための、魔法を教えるための学校、「勇者養成学校」が誕生した。
◇
ここは、世界でたった一つの大陸の中で一番の強国、魔力をはじめに発見した国「レディエール」の最古の勇者学校「アレクシア」、
建物はたび重なる増築のせいでかなりいびつな形になってはいるその校舎の職員室にて、一人の少年が若い男の教師に抗議していた。
少年の顔は鬼気迫っており、反対に教師は残念そうにしながらもどこか他人事のような顔をしていた。
「なぜ!この俺が退学にならねばならないのですか!?」
「落ち着くんだニール、理由は昨日も話しただろう?」
その言葉に、一度少年......ニールはつまるが、慌てて切り返す。
「確かに、昨日の小テストでは初級魔法を発動させることはできなかった......だが、筆記の方においては完璧であったはず!更に他の科目の小テストでも成績は悪くないはず!何故それで退学になるのだエトラッジ先生!」
「魔法を発動させることができなかった......それが問題なんだ、ニール」
君には言っておいたはずだ、とエトラッジは椅子に座ったまま、腕を組んだ。
彼はニールが奨学生として受かった後、その説明を担当していたのだ。
「......入学後でも、成績が悪ければ奨学生の資格を失う。だが、魔法学の実技においてはこれからしっかりと」
「無理なんだよ」
たった一回の最初の小テストですべてを判断しないでくれと、ニールが頼み込もうとした時、その言葉はエトラッジによって止められた。
訝しげに、ニールはエトラッジを見つめる。
「まだお前は習っていないだろうが、人間には魔力を外へ放出するための経路......パスがある。基本太いものが1~2本、細かいものが無数にね」
「?一体それがなんだというのですか」
「まぁ聞け、最後の授業になるかもしれん。太いパスは当然大量の魔力を一気に流すのに向いていて、細いのはその逆。このパスの多さが魔力に次ぐ、人間が使える魔法の限界を決める。
とはいえ、昨日やった初級の初級、ファイア,ウォーター,ランド,ウィンド......これはどんだけ魔力パスが少ない奴でも使えるし、人間はどれかの属性を持って生まれてくるのだから必ず4つのうち1つは使える。使えないなんてありえないんだ」
ニールはそう言われて、昨日のテストの時のことを思い出す。どれだけニールがムキになって呪文を唱えても、
一向に魔力というものは感じ取れなかったし、魔法が発動することもなかった。
「お前が昨日唱えた詠唱は完璧だ、慣れてないのまるわかりの詠唱だが、言い間違いもなにもない。だが、どれだけそれを唱えても何一つ発動はしなかった」
そうまずは現実を直視させ、エトラッジは机の引き出しから出した小さなメモ用紙のような紙をニールに渡す。
ニールはそれをゆっくりと両手で受け取った、その間ずっとエトラッジは黙っている。
ふとニールが周りを見れば、職員室でにいた教職員の何名かがこちらに顔を向けて、ニールが持つ紙をじっと観察していた。
ニールが何なのだと思っていると、紙をつかんでいたが、少し紙に触れている部分が黒くなったと思うと、もうそれ以降の変化は見られなくなった。
それを見届けると、エトラッジは小さく息をつく。その結果が思っていたよりか悪かったようだ。
ニールはもう、これが何を指し示すのか、先の話から考えても予測をつけており、エトラッジの言葉を待つ前に、その眼は光を失いかけている。
それを見てなお、言葉に出す必要があるとエトラッジは判断した。
いつの間にか静まり返っていた職員室にひるまず、エトラッジは口を開く。
「その紙は、わかりやすく言えば人の魔力がにじみ出る量からをおおまかにだが人の魔力量を測ることができる」
「この結果は」
「お前もわかっているだろう?お前は極端に魔力が少ない......初級の初級を発動できない程にな、これまで魔力を使う生活をしてこなかったからわからなかったのだろう。これではどれだけ過程が完璧だろうと、元となる燃料がない」
「......魔力量は成長しないのでしょうか」
「分かっていないね、確かに人の魔力量は上下したりすることは分かっているが、こんな雀の涙程もない魔力量ではいくら成長してもたかが知れてる。そうすればその段階でまた退学になるだけだ」
何とか縋り付こうとするニールを、彼よりも長く魔力について学習してきたエトラッジが諭す。
惜しい、とは彼自身も考えているが、そんなことを気にしていていられるような環境ではない。
「結論だ、君は初歩の初歩である魔法を使う魔力すらない。成長したとしても小指ほどの火をともすのが精いっぱいだろう」
そう言って、エトラッジは胸ポケットから煙草入れと、それと同じ程度の大きさである箱を取り出した。
それをニールは知っていた、村にたまに来るごうつくばりな商人がパイプに火をともす......魔法を使えなくとも使える魔導具というものだ。
「そうだ!魔導具があるではないですか!?」
終わりにしようとエトラッジが立ち上がり、その場を離れようとした時、その先へ回りとめたニールは、ようやく光を見つけたと言わんばかりに目の輝きを取り戻した。
「一定時間のみですが、魔力をためておける魔導具というものがあると聞きました!確かエトラッジ先生のテストでは魔導具の使用は可能だったはずです、それを使えば」
「あるのか?」
だが、そんな光も直ぐに閉ざされる。
何せニール自身も、それが無理な発案であるということを理解していた。
「魔導回路道具、魔力を利用した、魔法を再現させるための技術を積み込んだ一品。たとえその効力がマッチ程度の火をつけるものでさえ、生半可ではないのはわかっていますが」
「更に言えば、私の授業では、教えた魔法を使えるかどうかを第一の採点基準にしている。どうする?試験ごとに魔導具を買うのか、そんなものを買えば学費を払うことすら不可能だろう。奨学制度ではそんなものを買う余裕は与えられていない。更に言えば、魔力をためる機能は現在でも最新鋭の技術、高価すぎて個人で買うものではない」
そうなのだ、例え一度の試験を切り抜けたとしても、また次の試験がある。
基本魔導具というものは効力を一つしか持たないし非常に高価である、ニールが学費を抜きにして手を出せる範囲の魔導具なんてものでは切り抜けられるのは今回のみであろう。
そもそも、それに手を出せば学費が払えずどのみち退学というおちだ。
それでも、なにかないものかとニールが必死に頭を巡らせていると、エトラッジは手に持ったものをしまい、中腰になって目線を合わせてきた。
「これはなニール、お前のためなんだ。もし、もしかしたらこの一回の試験を切り抜けられるかもしれない。だがそのあとの試験まで時間を学校で過ごす、その間発生する奨学生としての待遇はいずれ打ち切られ返済義務となって重くのしかかる。
今が一番負担がないやめどきなんだ」
「............」
ニールはバカではない、そんなことはわかっている。
だからどうしても、ニールはそれ以上口を開けなかった、開いたらそれを認める言葉を言ってしまうだろうから。
エトラッジは、それをしばらく見て、もう一度念を押すように言う。
「明日の再テストの時間に来なきゃこっちで処理をしてあげよう、自分でやるのはつらいだろうからな。さ、話は終わりだ」
ニールはこれ以上エトラッジを止める文言を思いつけなかった。
- Re: 魔本使い ( No.3 )
- 日時: 2017/03/06 21:58
- 名前: 通俺 (ID: C5nAn.ic)
空は暗い、今にも雨が降ってきてしまいそうな様子。
ニールはとぼとぼと、下を向きながら自身が泊まっている宿へと向かっていた。
本当は学園に寮があるのだが、やはり貴族向けで落ち着かないし何より高い。他にも、貴族の連中と問題を起こしてしまいそうだと考え、学園を中心に広がる街の中の安宿に泊まっているのであった。
安宿とはいえ、ニールが暮らしていた環境よりかははるかにましであるためニールは気にしていない。
その帰り道の途中、ニールは街でもかなりの賑わいを見せる市に通りかかった。
流石にもう多くの店は出払い、客もそこまでいないがいくつかの出店がまだ残っていた。お腹を減っていたこともあり、ちらりと肉串の屋台に目を向けた。
『肉串 大銅貨5枚』と書いてある、その後ニールは財布を見た。大銀貨が3枚残っている。
大銅貨100枚で大銀貨1枚なので、換算すれば大銅貨300枚、つまり60本買えるが、そんなふざけた散財なんてできる状況に置かれていない。
そもそもこのお金はまだ始まったばかりである今月あと20日ほどを何とか生き抜くためのお金である。
一日当たりの生活費は大銅貨15枚、つまり銅貨150枚は一日の食費と生活用品でかつかつでありそんなものを買う余裕などどこにもない、農村暮らしの頃は一か月を大銀貨1枚あれば過ごせたのだから当時の暮らしの貧しさがよくわかった。
いや村では物々交換が主流で、村に訪れた商人から村では手に入らないものを買うために使っていただけなのであったが。
ふと、今やめたときの借金はいくらになるだろうかとニールは考えた。
入学金で白金貨1枚(金貨10枚)、既に支払った今月分の学費で大銀貨8枚、どちらも奨学制度で払ってもらわなければどうしようもなかった金額である。
加えて教材費なども入れれば、借金は金貨11.5枚程。唯一の救いは利子がないということであるが途方もない金額であった。
「(限界まできりつめても、またあの生活で貯められる金額はせいぜい月大銅貨3まい。村に帰らずこの辺りで雇ってもらったとしても俺のような貧民出で年も若い、家も宿な人間では大銀貨1枚が限界、1年で金貨1枚ちょっとが限界......最低でも10年はかかるか)」
途中で何かアクシデントが起きてしまえばもっと伸びる。すっかり鬱々とし肩を落としながら歩いていると、わざとらしく上機嫌な声がニールの後ろから聞こえた。
その声はニールの表情を少し顰めさせる。
「あれれ~?そこにいるのはニールさんじゃあないですか、こんなところでどうしたんですかー?」
「......エスタール・ラムトリック、貴様か」
紫色の眼を愉快そうに動かし、眉毛を下げいかにも煽っていますということを隠そうともしないその少年、エスタール・ラムトリックは両腕を広げて感動の再会でもしたようなポーズを見せた。
入学してまだ数日だが、ニールはこの少年が得意ではない。
貴族特有の見下しをこれでもかと詰め込んでいるのはともかく、何故か彼が事あるごとに絡んでくるからであった。更に言えば、男だというのに女の子のような恰好をしたりするので、もはやそれを見る目は珍しい動物を見る目である。
ニールは絡まれた原因は座学において彼よりも良い成績を残してしまったからであろうと推測していた。
「やだなーニール君、エスタって呼んでいいよって言ったじゃないですか、まぁそんな僕のやさしさを無下にするのが趣味ならいいんですがねぇ?」
「......いや、その心遣いはありがたいがやはり気が引けてな」
これである、ストレートに言えばいいのにわざわざ回りくどく言おうとしてさらにど真ん中ストレートをぶち抜くのが彼だ。
どこの世界に出会って数日の貴族の息子をあだ名で呼ぶ貧民がいるだろうかいやいない。
ちなみに貴様というのは正確には語気が強く目上の者に使うと少しまずいものだが、エスタール相手なので使っているだけである。
「ところで、貴様の方こそ何かあったのではないか、私はぶらついていただけである」
「あ、そー?僕はね、君に別れの挨拶を言いに来たのさ」
「......」
その言葉にニールの眼が少し鋭くなる、睨まれたをエスタールはまた愉快そうに口元の端を吊り上げた。
「いやいや、別に嗤いに来たわけじゃあないよ?君はよく頑張りました、貧民の出のくせにここまでやってこれたんだもん、けどそれでも限界ってのはどうしてもあるものさ......君はただその限界にぶつかっちゃっただけ」
「では、何が言いたいのだ」
「んー、そんなに怒らないでよ。僕は助けてあげようと思ったんですよ?」
「......なんだと?」
もう背中を向けて去ってしまおうかとニールがいらついてきたところで、エスタは今度は小さく笑い声を漏らして提案をしてきた。
その用紙は中性的で、服装のせいで女性に見えることすらある。
話を聞く気にはなったニールを見て満足げな表所を浮かべ、エスタールはローブの下にある肩下げカバンから一つ、小さな四角い物体を親指と人差し指でつまみ、見せびらかしてきた。
四角い物体は金属でおおわれているようで、真ん中には火を彷彿とさせる絵が描いてある。
ニールはその形に若干の見覚えがかあった。
「これ、なんだかわかる?」
「大方、火の魔導具であろうな」
「そう、その通りです。こちらは貴族御用達の火付け用の魔導具。とはいえ家にはこの程度のものたくさんあるんだけど、こんな物でも今回の試験なら......ってどこへいくんだい!?」
エスタールが何を言いたいのかの大体を察したニール、既に背を向けて歩き出していた。
それを慌てて肩をつかんで止めるエスタール。
「待て待て待て、君は僕がただ魔導具を見せびらかしに来たと思っていないかい?」
「いや、恐らくは懇願すれば譲っていただけるような話だなと思ったが?」
「そ、そうさ!君が僕の子分になるなら、この程度の魔導具いくらでもっておい!?何故話の途中で帰ろうとする!」
ニールはもう早くこの場から立ち去りたい気分だ、事実行動にも出てしまっている。
確かに中古品とはいえ高価な魔導具を譲ってもらえるというのは大変有り難い話であるが、そもそも魔導具を動かすための魔力がないのだからしょうがない。あとエスタールがうざいというのもあった。
だがふと思いつき急に立ち止まって、びっくりしているエスタールに質問をする。
「......では一つ聞くが、魔力を完全にためておける魔導具というものは持っているか?出来れば長時間ためておけるといいのだが」
それさえあれば、ニールの問題のほとんどが解決する。依然自慢げにいろんな魔導具をコレクションしているというエスタール、彼ならばそんなものも持っているかもしれないと考えた。
だがそれを聞いてエスタールはしばしきょとんとした後、少し苛立ちと嘲笑を含めて口を開いた。
「はぁ~?何言ってんですかニールさん、魔力を完全にためる魔導具なんてありませんよ、何せ魔力はどう頑張ったってせいぜい1時間の保持が限度あとは使わなきゃ霧散しちゃうんですよ?」
聞かなければよかったとニールは閉口した。
これ以上は効いていても無駄だと判断したニール、振り切るために全速力で走りだした。
エスタールもそれに合わせて走ろうとしたが、足がもつれ転んでしまった。そのまま走り去るニールを睨みつけ、少々大きな声で叫ぶ。
「試験の日まで待ってあげますよ!!」
「(ほっといてくれ)」
ニールはなぜそんなにも自分を子分、下に置きたいのかもわからずただ走った。
雲は依然として空を覆い隠していた
◇
ふと気が付けば、ニールはすっかり目的の宿を通り過ぎて何やら怪しい市場の入り口にいた。
やはり町の中心から離れると治安が悪くなるようで、いかにもごろつきであるというような風体の輩が多く見えた。
本来ならばさっさと帰るべきであろうはずだったが、ここでニールは誰かに呼ばれているような不思議な感覚に陥る。
そうして、ふらふらとニールは人が増え始めたその市場に足を踏み入れた。
先ほど通りすがった市が盛り上がっている時とはまた違い、みなどこか足早に歩いている。服装も顔や肌を隠している人が多く、異国の地に飛ばされたような雰囲気があった。
並んでいる商品にちらりと目を向けると、いかにも高級そうなものが雑に並んでいたり、少し怪しげな薬品が売っていたり、まともであろう商品は見当たらなかった。
すれ違う人の中には薄汚れた衣装だったり、逆に豪華な意匠な服を着ていたり......後者の方はその周りに屈強な男を連れていたので近づけなかったが、暇つぶしとしては飽きない空間であった。
時々立ち止まったりして十数分、市場を周っていたニールは「掘り出し物あります」の看板につられてまた立ち止まった。
簡易的な屋台には、いくつかの骨董品らしきものが並んでいる。とはいえその多くは「ただ古臭い」ような品であり、どうにもニールにはそれが価値ある品には見えなかった。
「なんだ坊主、お眼鏡に適う品でもみつけたかい?」
こちらを見て金はとれないと分かっていたのだろう、店主がからかい気味に声をかけてきた。それに対してニールは適当に返事をした。
何の動物かもわからない置物、欠けた食器、すっかりぼろぼろとなった巻物。なるほど、こういったものを並べておけば勘違いした客が買ってくれるかもしれない。
最悪、少し嘘をついたとしても売れた後さっさと逃げてしまえば捕まらないだろう、いやな手口だ。
全ての商品を見た後はさっさと立ち去ろうとして、ふと店主の横わきに置いてあった分厚い本が目に入った。
「店主、そちらの本は一体なんだ?」
別に宝石がちりばめられているわけでもないその本がどうにも気になった。横に向きかけた体を治し、店主に尋ねた。
店主は今その本に気が付いたように、手元に置いてあった黒く分厚い本を見て、少し間をおいて口を開いた。
「ん、あぁ!こいつか、これはとっておきの品物でな。聞いて驚けこいつはな
——なんと魔王が残した一品さ!」
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