複雑・ファジー小説
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- 怪奇堂
- 日時: 2017/03/27 14:08
- 名前: 高鈴寐苓 (ID: nqtZqZHy)
【序章】
2015年9月20日。
その日はやけに肌寒く、店内にいるというのに少し涼しく感じられた。
鷹影は一度ぶるりと身震いし、持ってきていた黄色のカーディガンを羽織った。
注文していた珈琲を一口啜ると、テーブルの上に置いてある1枚の紙片に目をやる。
『9月20日、駅前の喫茶店にて待ち合わせ』
紙には手書きの文字で、そう書かれていた。この字はもちろん、鷹影の文字である。
鷹影は窓の外を見た。彼はまだ、来ないのだろうか。
そんなことをぼんやり考えていたら、不意に喫茶店のドアが開いた。上方に取り付けられている小さなベルが、チリンと軽やかな音を立てる。
鷹影はドアの方へ目を向けた。そこには、白いパーカーにジーンズを履いた、すらりと背の高い男性が立っていた。
男性は鷹影の姿を見つけると、「よお」と云って鷹影がいるテーブルまで歩み寄り、向かいの席に腰を下ろした。彼は鷹影の大学時代からの友人で、名を加宮優という。
加宮は鷹影と同じく珈琲を注文し、「ところで」と早々に切り出した。
「お前、時間メモしてなかったろ」
それを聞いた鷹影は一瞬キョトンとした顔をして、それからテーブルの上にある紙片をまじまじと見つめた。
確かにそこには、日付と場所は書かれているが、肝心の時刻は書かれていなかった。
「あ……」
「やっぱりな」
加宮は小さく溜息を吐いた。
「お前なあ、次からちゃんと人の話最後まで聞けよ」
と、加宮が鷹影に云った。だが、鷹影はまるできこえていないかのように窓の外を見つめている。
加宮は、トントンと鷹影の肩を軽く叩いてみた。鷹影はそれに気付き、加宮の方を見た。加宮が怪訝そうな顔でこちらを見ている。
「お前、もしかして……」
「ごめん」
加宮の言葉を遮るようにして、鷹影が云った。
「…やっぱり、無理だよ。僕と優が友達なんて、最初から無理だったんだ」
鷹影の言葉を聞いた加宮は、幾分口調を強めて「分かった」と云った。
「その代わり、先にお前の頼みを聞く。その後に、俺がお前と友達を続けるか否かを決める。頼みがあるって云ったのはそっちなんだからな」
鷹影は「…うん」と頷き、鞄の中から400字詰めの原稿用紙を冊子にしたものを取り出した。
「ちょっとこれ、読んでみてくれる?」