複雑・ファジー小説
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- 華麗なる剣と大義無き銃
- 日時: 2018/12/05 08:24
- 名前: ラフォリアのとっつぁん (ID: El7XdgWC)
皆さんこんばんは、ラフォリアのとっつぁんと申します。
低い日本語力のため、文章、言葉の間違い、誤字脱字などがあるかと思いますが、どうぞ温かい目で見守ってくださいm(_ _)m
作風が合わないと感じた方はそっとブラウザバックお願いします、
読んでくださった皆様が少しでも楽しんでいただければ幸いです。
私の我儘で申し訳ありませんが、話の内容だけで埋めていきたいので、感想の投稿はご遠慮ください。
同じ名前でtwitterをやっていますので、更新情報や感想などはそちらでお願いします。
1話分(1万文字程度)が揃いましたら、改稿しまして、小説家になろう様にも投稿いたします。
良ければそちらもよろしくお願いします。(投稿はカキコの方が早いです)
内容は、男性向けです。
戦闘、異世界をメインにしております。
- Re: 華麗なる剣と大義無き銃 ( No.1 )
- 日時: 2017/05/11 21:42
- 名前: ラフォリアのとっつぁん (ID: TkiwBpIe)
もし仮に不慮な事故などで、上空1万メートルに投げ出され落下した場合、生身の人間なら、落下にかかる時間はおおよそ3分。
3分間、短いようだかそれだけあれば、今までを悔いる事も、家族に謝罪と感謝を伝える事も、神に祈りを捧げる事も出来る。
だがそれは、人間の限界落下速度、時速190kmで落下していた場合のに限っての話だ。
和弥は、それよりもはるかに早い速度で落下していた。
大気を裂く爆音が耳を震わせる。
空気の塊が顔を叩き、目を少し開けるのが精一杯だ。
その薄目から下を見れば雲の合間に緑の地上が見えた。
その直後、体のすぐ横を一緒に空中に投げたされた荷物の残骸などが追い抜き、下の雲へ消えていく。
和弥はパラシュートはもちろん持っていて、安全に着地するならもう開いてもいい頃だが、そのハーネスの一部が貨物用の防護ネットと絡まり、大きなコンテナから距離をとることが出来なかった。
このまま開けばパラシュート開いてもどうなるのかは想像に難く無い。
なんとか力の入りにくい空中で体に横向きの勢いをつけ、ハーネスを引っ張る。
(クソッ、金具ごと引っかかってる !)
何度が引っ張るが全く外れる気配がないことに心の中で毒づく。
力任せに引きはがすのを諦め、ネットを切断することに変更した。
左胸に差してある大ぶりのナイフは上からハーネスで締め付けているので使えない。
和弥は体をぐるりと回転させ、頭を下にする。
そうしている間に体とコンテナは雲を貫き、視界が大きく晴れる。
顔を下に向ければ確実にさっきよりも近くなった地面が見えた。
人一人分ではなく、コンテナと繋がっているせいで落下速度が格段に上がっている。
(どうやら時間切れも近いっ、早く・・・)
空気抵抗を受けながらも体をかがめ、右足のブーツに隠すようにある予備のナイフに手を伸ばす。
雲を通った際についた水滴で手が滑り何度かグリップを撫でるように掠めた後、ようやく握り込むのに成功する。
もう地面はかなり近い。
落ち始めてからかなりの時間が過ぎたように和弥は感じていた。
親指でナイフの留め具を外し、手首のスナップで折りたたまれていた刃をだす。
可動域ギリギリまで刃が動き、ロックがかかる。
そのまま人差し指と中指の間で半回転させ、逆手に持つと、ひときわ大きく揺れた体の勢いそのままに、ナイフをコンテナに向かって一閃した。
バツンッ!と側面に長い傷跡をつけながら、引っかかっていた部分を含めネットを大きく切断する。
和弥は振り切った体勢のまま、横目で自分とコンテナを繋ぐものがないのを確認すると、足で、切った側面を蹴りつけ、素早く距離をとった。
開放された体が風の抵抗を受け、速度が落ちコンテナと距離が開く。
コンテナとは離れたが和弥には余裕はなかった。
目測で地表まで300メートル。
訓練でも300メートルで開傘することはあるが、それでもそんなに速度は出ていない。
和弥は素早く体制を立て直すと、パラシュートを開くためのグリップを握り、下に引く。
頭上に緑の長方形のパラシュートが広がっていく。
それと同時に、下から大きな轟音が聞こえた。
コンテナが地面に当たった音だろう。
パラシュートが開ききると、ガクンと体に大きなGが襲う。
脇や股、腰などハーネスごくい込み、痛みが走った。
だが地面まではもう2秒もない。
着地地点は運の悪いことに木立だった。
広がった木の枝や葉が待ち構える。
和弥は限界までパラシュートの両端を引くと、迫って来る枝から顔や胴体を守るように、腕を交差し膝を前にあげた。
その後は枝を折り葉を蹴散らす音が続き、最後はことさら太い幹に半身をぶつけ、ようやく止まった。
痛む頭に手をやりながら上を見ると、パラシュートが木に絡まっていた。
至るところに穴が空いている。
この種類のパラシュートは、風を捉えるために複雑な構造をしており、再び使用するには入念な修繕が必要そうだ。
今いるのは地上から約6メートル、それなりの高さだがさっきまでの高さと比べれば、生きている心地のする高さだ。
真下を確認した後、ハーネスのバックルのを外す。踵から着地し、そのまま無理やり勢いを殺そうとはせずに、斜め前へと転がる。
何度も教わった五点着地法だ。
着地をした後は近くで最も太い、引っかかっていた気の幹に背中を預ける。
呼吸を整えために大きく息をつくと、心臓をいたわるように胸を押さえた。
「はぁ、まぁなんとか生きてるな」
マスクもなしに落ちたせいだろう、喉の調子が悪い。
唇もひどく乾燥していた。
(ゆっくり休みたいところたが、ここでもたもたはしてられない・・・)
聞こえたのは、歩いてくる足音だった。
足音の数は1つ。
和弥は一歩前に出ると、右足につけたホルスターから銃身の長い拳銃を抜き、両手で構えた。
足音のした所までの距離は・・・
「動くな、妙なことをしたら撃つ」
5メートルだ。
- Re: 華麗なる剣と大義無き銃 ( No.2 )
- 日時: 2017/05/13 01:33
- 名前: ラフォリアのとっつぁん (ID: TkiwBpIe)
「待ってくれ、戦うつもりはないっ!」
現れたのは見たこともない格好をした男だった。
・・・いや見たことはある。
だがそれは資料などでだ、実際に見たことがある訳ではない。
一言で言うと、男が着ているのは鎧だった。
装飾の施された鋼色のプレートアーマー、関節を守るように付けられた肘当てや膝当て、金属光沢が目立つ籠手や脛当てなど。
鎧の隙間からは、目の細かい鎖帷子とレザーアーマーのような鎧下が見える。
自分の着ている、防弾ベストや強化プラスチックで出来た装備と比べると、それは非常に完成されたような素晴らしさを覚えた。
だが、この時代に鎧を使用している国や組織などはない。
そもそも和哉が放り出された場所は、人のいない地域だったはずだ。
(違う世界にでも、飛ばされたか?)
構えたまま、和弥は思わず薄く笑いながら、落ちてきた空をちらりと見た。
(まぁ、いい。それより・・・)
「腕に抱えてるそいつはどうした?」
現れた男の腕には、簡素ながらも鎧を着た少女が抱かれていた。
遠目で見ても、額に浮かぶたまのような汗から、ただ寝ているようには見えなかった。
男はその場で片膝を付くと、少女を抱え直すように
腕の位置を変える。
付いたのは左膝、右の腰に下げた剣を抜けない体勢だ。
敵意が無いことを証明するためだろうか。
唇を噛みながら、男は顔を顰めた。
「彼女は俺をかばって怪我を、さっきから意識がないんだ。・・・だが俺には治療出来る知識も道具も無い、手を貸してはもらえないか」
「お前の知り合いか?」
「・・・いや、たまたま居合わせて助けてくれただけだ」
(見ず知らずの奴を庇い、見ず知らずの奴を助けるか・・・)
和哉は銃口を上げると、手のなかで半回転させホルスターへ銃をしまい、近くの木を示した。
「いいだろう。そっちの木の根元にゆっくりと横たえろ」
男は驚いたように目を開きながらをしながら、和哉の顔を見た。
まさかあっさりと信じてもらえるとは思ってなかったのだろう。
「・・・いいのか?」
その言葉に、バックパックを下ろし中身を広げていた和哉はふっと小さく笑い、顔を上げる。
「なんだ、助けて欲しくないのか?お前が求めたんだろう?・・・ひとまずお前のことを信じてみるさ」
そう言いながら、出した医療用の薄いゴム手袋を左手にはめる。
「まずは傷を見る。早くしろ」
「あ、あぁ。・・・感謝する」
「気にするな」
和哉は、男がゆっくりと横たえた少女から、胴体の鎧を手際よく外していく。
時間が惜しいので、ベルトなどをナイフで切断した。
外し終わると下から、血に染まった鎧下と服が見えた。
「思ったより出血がひどい、かなり深い傷を負ってるな」
その言葉に男が唇を噛んだ。
鎧下は繋ぎ目に、刃を滑らせて外し、下着以外の服も脱がす。
現れた傷は和哉も思わず毒づくほどだった。
右の肩甲骨のしたと、肩に途中で折れた鏃が二つ。
日本とも華奢な彼女の体に深く刺さっている。
そしていくつかの刺し傷。
どう見ても重症だった。
和哉は治療道具の中から取り出した鎮静剤を注射器のシリンダーの中に満たす。
そして僅かな中の空気を出した後、なるべく即効性を持たせるため、心臓近くの太い血管に刺した。
「お前の名前は?」
男に聞きながら今度はは大きな布を取り出す。
「ルーデルだ」
「ルーデル、今から鏃を抜いて、もう一つの傷も含めて縫合する。麻酔が効くのを待っている時間はない、相当な痛みだろうが、動いてもらっちゃおちおち治療も出来ない、動かないように体をおさえてろ」
「ああ、分かった」
「さっさと済ませよう、お前達を狙った連中が来てるかもしれない」
その懸念に、ルーデルは自分達がやってきた方向に目をやる。
「追っては振り切ったが、あの辺から見つからないで来れる場所などここぐらいだ。間違いなく追撃が来てるだろう・・・」
「そいつらも装備もお前達と似たようなものか?」
「おそらくそのはずだ」
「ならいい、どうせ近くに来たらそんなに着込んでいる奴ら、音で気付く」
「お、音で?」
「ああ。俺は耳がいいからな。お前に気づいたように」
そう言いながら、アルコールの入ったビンの手に持つ。
「よし、手早くやるぞ。まずは鏃を抜く、おさえるのは肩と腕だ」
「分かった」
親指で蓋を外し、二つの傷の周りにかける。
そして傷を軽く広げるように右手を当て、左手で鏃を掴み素早く引き抜いた。
少女の体がびくりと反応し、それをしっかりとルーデルが抑える。
鏃によって塞がれていた傷から、さらに出血し右手を濡らした。
血を軽く拭ったあと、傷を確認し、破片やドロなどが残っていないのを確認すると縫合用の針を傷にあてがう。
「動いてもらって困るのはここからだ」
ルーデルは再び態勢を整えたあと、軽く頷く。
麻酔の効いていない状態での傷の縫合に、少女はうめき声を上げながらも必死で耐えていた。
針を通すごとに痛みに反応したが、大さな動きはルーデルのおかげで軽減されトラブルなく縫合を終えた。
- Re: 華麗なる剣と大義無き銃 ( No.3 )
- 日時: 2017/05/14 02:03
- 名前: ラフォリアのとっつぁん (ID: TkiwBpIe)
後は刺し傷だ」
鏃が刺さっていた傷の上に、切ったガーゼを当て肩と脇を通して包帯を巻く。
「そろそろ麻酔も効いてきたはずだ、痛みもなく縫える」
「そうか、それは良かった」
しかし和哉は新たな縫合用の針を持たずに、右手の血を丹念に拭う。
「確かに安堵したいところだが・・・」
そう言いながら目線だけを近くの藪に走らせる
「どうやら時間切れだ」
次の瞬間、流れるような動作でブーツに仕込んでいた刃の長いスローイングナイフを抜くいた。
振りかぶりざまに投げる方向を見据え距離を目測で測ると、右手を鋭く振る。
回転しながら飛翔するナイフは寸分違わず刃を前なった瞬間に藪に消えた。
ずっという鈍い音と聞こえ、投げられたナイフと入れ替わるように、鎧を身に纏った男が、倒れこんできた。
首元にはナイフが深々と刺さっている。
その手には矢の番えられた、クロスボウが握られていた。
「なっ・・・」
突然の出来事に驚いたルーデルを和哉は怒鳴る。
「気を抜くなっ!左からまだ三人来るぞ!」
その言葉にルーデルはすぐに立ち上がり、剣を抜くと両手で持ち、まっすぐ前に構える。
和哉も立ち上がりながら、胸に差した50cm程のコンバットナイフを抜いて右手で持つ。
銃声を響かせるわけにはいかないので拳銃は使わない。
現れた3人は、全身を先ほど倒した男や、ルーデルより重厚な鎧を身に付け、フルフェイスの兜をしている。
全員、長いロングソードを抜き終わっている。
3人は和哉とルーデル、後ろに寝かされた少女を見て、 小さく声をかけ合う。
内容までは距離が空いているので聞き取れない。
「ルーデル、右のは任せた。俺は真ん中と左のやつをやる」
「分かった」
「先手必勝だ、行くぞ」
それを合図にルーデルが飛び出し、和哉は軽く抉り込むようにして同じく踏み込む。
角度をつけルーデルに確実に1人と戦わせるためだ。
はじめに剣を合わせたのはルーデルだ。
相手の持っているロングソードと比べ、ルーデルの持っている一般的とも剣ではリーチに明らかな差がある。
苦戦するかと思われたが、その差を剣を振るう度に大きく踏み込んで距離を縮め、相手が攻撃する時にはバックステップで戻る、綺麗なヒットアンドアウェイでものともせず剣を打ち合う。
振っても当たらない自分の攻撃に焦りを感じたのか、相手は両手を上げ上段に構えると今までで一番の踏み込みでロングソードを振り下ろす。
それをルーデルは見逃さず、ギリギリで横に避け、遠心力の乗せた右下からの切り上げを放つ。
和哉の記憶とは違った、叩き切るよりも、純粋に斬る事のために研ぎ澄まされた刃が、脇腹を薙ぐ。
血飛沫が上がり相手はバランスを失ったように膝をつく。
最後はルーデルが後ろから振り下ろした剣が背中を貫き、それきり動かなくなった。
相手の攻撃を見極め、見本のようなに対応した動きで翻弄し、一瞬の隙をも見逃さない。
ルーデルがただの一兵士より強者である事が見て取れた。
「なかなかやるじゃないか」
そう言いながら和哉は2人目の腹部から、帷子ごと胸を突き上げるように刺し貫いていたコンバットナイフを抜く。
1人目は既に仰向けに倒れ、ピクリとも動かない。
「そういいながら、そっちももう終わっているように見えるが?」
ルーデルはその強さに呆れるように溜息をつき、剣をしまう。
和哉の戦いは始まるのこそ遅かったものの、決着が着くまでは一瞬だった。
フルフェイスの兜で視界が狭い相手に対し、ただでさえ鎧を付けていない和哉は素早くサイドステップで視界から消え、背面に回り込んだ。
そこからの一閃。
位置的に傷が浅く済んだ二人目も、振り返った所を正面からのナイフの刺突を受け、絶命した。
始まるのが遅かったのは、和哉が相手に本当に殺しにくるほどの敵意があるかを確認していたためだ。
見知らぬの地での戦いでは、戦闘自体よりも敵味方、非戦闘員の判別が最も大事な事と言っても過言ではない。
結果的に、相手の2人はすぐに殺す気で剣を振りかぶったわけだが・・・。
「まともに当てられないなら、鎧も考えようだな」
和哉は転がっていた鎧の一部を、軽く足で蹴る。
「それで、こいつらが追ってか?」
倒れている男達の鎧や盾に刻まれた紋章を見て、ルーデルが顔をしかめる。
「ああ、この紋章、間違いない・・・。まだこちらの位置がバレていないうちに移動を・・・」
「いいやダメだ」
和哉は後ろで未だ意識のない少女を示す。
「まだ治療が終わってないし、終わっていたとしても、とても移動出来る容態じゃない」
「っ・・・」
「追っ手の数はどのくらいだと思う?」
「俺のいた一団は奇襲を受けたんだ。奇襲をかけてきたのはおよそ千、待ち伏せと挟撃で、まともな戦闘にすらならなかった。
生き残りが俺と彼女だけだったとすると、全員が捜索に来るだろう。」
「たかが2人に総出で探しに来るか?」
「近くにほかの味方はいないし、俺が上に報告出来なければ、奴らは2回目の奇襲作戦を立てられる」
「・・・千か。この森の中で走り回りながら数を減らして撹乱したあと脱出は出来るだろうが・・・。留まっての防衛戦をするにはは数が違いすぎる」
和哉は考え込むように軽く下を向いたが、少しすると軽く手を打ち鳴らした。
「考えていても仕方が無い。さっさと最後の治療を終わらせて・・・」
「俺が森を出よう」
同じように考え込んでいたルーデルは
決心したようにそう口にした。
- Re: 華麗なる剣と大義無き銃 ( No.4 )
- 日時: 2017/05/15 02:20
- 名前: ラフォリアのとっつぁん (ID: TkiwBpIe)
「・・・本気か?」
和哉はルーデルを睨む。
「ああ、俺が囮として森を出て本隊へ向かう。辿りつければ流石にそこまでは追ってはこないし、ここへ救援を頼める」
それに、とルーデルは続ける。
「まだ残っていると分かっても、俺を追う以外にここに残すのは少数だろう。その腕ならそのぐらい容易いだろう?」
ルーデルは軽口を叩くが和哉の厳しい視線は変わらない。
その目を見てルーデルは少女を見ながらゆっくりと口を開く。
「彼女が身をもって守ってくれたのは、俺にとって完全な不意打ちだった。彼女がいなかったら、俺は今頃、死体の一つだったはずだ。この奇襲を報告し、彼女を助けるのにこの命は使いたい」
今度は振り向いたルーデルが、和哉の目を見据える。
その目は強い意志が見て取れた。
何かを決めた男の見せる覚悟を。
「分かった、その作戦でいこう」
「すまない」
薄く笑ったルーデルは、少女を再び見やった後、ふと思い出したように和哉を見る。
「そういえば、名前を聞いてなかったな・・・」
「和哉だ、一之瀬和哉」
「随分珍しい名前だな、このあたりでは聞かない」
「そうか。・・・ここの地名と今の年を聞いてもいいか?」
「確かここはレイドラルの北にある平原の近くだな。年は皇暦682年だ」
(レイドラル・・・皇暦682年・・・、)
「どうした?」
「いや、どうやら俺は元いた所とは違う世界に飛ばされたらしい」
「違う、世界?」
「俺はこの世界の人間じゃない。向こうで空に放り出されて、地上に降りたら世界か変わってた」
和哉の言葉に顎に手をやりながら思案顔になるルーデル。
「興味深いな」
「それならこの話は一旦終わりだ。・・・続きが聞きたいなら、死ぬなよ」
「好きで死ぬやつなんてそういないさ」
そこで言葉をきったルーデルは佇まいをなおすと、和哉に右手を差し出した。
「改めて例を言わせてくれ。本当なら俺達を見捨てても構わないのに手を貸してくれた事に。森に逃げ、ここで会えたことを俺は奇跡以外考えられない・・・。世話になった」
「気にするな、次はゆっくり酒でも飲みながら話そう」
和哉は差し出された右手をしっかりと握り返した。
「彼女の事を頼んだ。なるべく早く救援に戻る。幸運を」
「ああ、そっちもな」
最後の最後まで、見ず知らずの少女の安否を気遣いながら、ルーデルは来た道へ消えって行った。
少しするとその方向から剣を打ち合う音が響き、何人もの人の気配が何かを追うように遠ざかっていった。
上手く敵を引き付けられたのだろう。
「こっちもさっさと、やることやりますか」
和哉は再度、手袋をはめ治療を行う。
ルーデルがいないが、麻酔が回りきっていたので、すぐに残りの傷は縫合された。
「あいつのためにも、しっかり生きろよ」
少女に傷の上に優しく包帯を巻いた後、服を着せながら、和哉その頬を撫でた。
「じゃなきゃあいつが化けて出そうだ。・・・さて」
治療は終わったがまだ動かせない少女を背負うと、近くの太い木の幹の前に立ち、ナイフを抜く。
「ふっ」
軽く振りかぶったナイフがガッと幹へめり込む。
それを数度行い、つっかかりの無かった幹の表面に、腰の高さ、頭の高さに小さな足場を上下に二つ作る。
それに満足した和哉は後ろに少し下がり助走をつけ飛び上がり、作った足場を利用して、3mほど上の枝の分かれ目に手を掛けると枝の上へ上がった。
そこに少女を横たえ、落ちないようにロープで軽く固定する。
ルーデルが引き連れて行ったとはいえ、懸念通りまだ敵の気配が残っていた。
地面に横たえるより、少女を木に隠しておいた方が和哉も戦いやすいからだ。
いらない荷物も一緒に隠した和哉は木を降りた。
そしてホルスターの横から取り出した黒い筒を左手の中でまわす。
拳銃用のサプレッサーだ。
それを右手で抜いた長い自動拳銃の先に、回して付ける。
弾倉を一度抜き、残弾数を確認した。
もう既に薬室には弾が入っている。
弾倉を再び入れた和哉は右手に拳銃、左手にコンバットナイフを持ち前を見据えた。
残っていた気配は数人ずつに集まり、こちらに移動していた。
既に少し、声が聞こえている。
残っているのは確実にこちらを探している敵。
分かるだけでも20人はいるだろう。
(おもしろい)
そう考えながら和哉は薄く笑い、地を蹴り音もなく飛び出した。
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