複雑・ファジー小説
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- 王の首と引き換えて、君を私に
- 日時: 2017/05/18 22:05
- 名前: タルキチ (ID: QxkFlg5H)
- 参照: 更新時以外はロックを心掛けようと思います。忘れなければ。
※題名が思い付かなかったので間に合わせ。変更の可能性があります。変更しない可能性も多いにあります。要は一応※で書いておくだけです。
〜粗筋(という名前の導入の要約)〜
日本生まれ日本育ちの私、田垣(たがき)英(すぐる)はある日、脈絡もなく見知らぬ部屋で目覚める。そこで甲冑の男アランたちに出会い、現在地が地球ではなく異世界〈ガプ〉であると説明を受けた。親切の対価として革命組織〈ロマン〉での労働を求められ、渋々了承するものの、その仕事内容は現国王の首をとることだった————。
これを読んだら序盤読み飛ばしても多分大丈夫ですってぐらいの設定の薄さ。何も考えず書きたいものを書いているので、難しいことは何も考えないで読んでくだされば幸いです。とりあえず目指せ完結。暇な時間があれば閲覧して頂ければ嬉しいです!
それでは、だらだらまったりよろしくお願いします。
【 人物 】※随時追加。名前と軽く特徴だけ。
◇スグル{田垣 英(たがき すぐる)}……視点役、女装、怪力
◇アラン……甲冑、無礼
◇ムク{一 無垢(にのまえ むく)}……段ボール、頭脳より筋肉
- Re: 王の首と引き換えて、君を私に ( No.1 )
- 日時: 2017/05/18 22:00
- 名前: タルキチ (ID: QxkFlg5H)
「おはよう!」
見知らぬ男が高らかに目覚めの挨拶を叫ぶ。朗々と響く複式発声。低い声は小部屋の壁に反響し、消えた。
沈黙。
男は堅く唇を引き結び、私は半開きの口から何を発するべきか分からず困惑していた。視線を交えながら黙り込むふたり。見つめ合いの長さはさながら恋人同士だが、私の視線に込められているのは熱でも甘さでもなく不審者に対する恐怖。
いや誰。
私と目の前の男は初対面だ。私がすっかり記憶を失っている可能性も否定出来ないけれど、そういう特殊な出来事を考慮しなければ、彼は私の記憶には存在しない。
……というか、それどころか。
視線だけを動かして彼の全身を確認する。革製の眼帯に銀色の甲冑。私の記憶どころか、基本的に現代には存在しないだろう格好だ。
何だろう、最近流行りのアニメか何かのコスプレだろうか。名前も知らないコスプレイヤーが個室で朝の挨拶を私にする理由は何なの。考えれば考えるほど尋常ではない。
「貴様、何故黙っているのだ」
貴様。
貴様と呼ばれるのは初めての体験だが、衝撃過ぎて感想が出てこない。何のノリだよ。何に影響されたんだよ。非常識な服装と二人称に対する疑問と、状況の異常さと、言いたい事があまりに多くどれも口から出てこない。言葉にすべき順番が分からないといおうか……。
男は眉を寄せ、露骨に機嫌の悪そうな表情を作った。
「ムクと同じ人種のようだが……もしかすると言葉が分からないのか? おい、ムクはいるか!」
「はいはい、おりますよ。キシサマ」
「キシサマ……?」
キシ様、なのかキシサマなのか。まさか騎士様な訳……見た目甲冑だから大いにあり得たり? だとすると、ムクさんは甲冑男のコスプレ仲間か?
静かに響いた声の主、恐らく彼がムクだろう。甲冑男の後ろからすっと登場した小柄な男性。
段ボール。
あの、中学高校の学園祭のノリでうっかり着るような、部費が貧しい演劇部のお手製ロボット衣装のような、段ボールの……何て言えばいいんだ。要するに段ボールを身体に巻き付けている。
装備のクオリティーに格差を感じる……。
「段ボール……いや、鎧……ばかり見ないでください。よろしいですか、俺にもマリアナ海溝よりド深い事情があるんです。目を見てお話しましょう」
「え、はい……」
「とりあえず起きあがっては?」
全く変化しないにこやかな笑顔(が描かれた段ボールの頭部パーツ)。なんで顔描いたの……。疑問が表情から伝わったのか、ムクさんが「スペース広くてなんか寂しかったので」とニコニコ顔に触れた。あ、そうなんですか。
言われるままノロノロと起きあがり、ムクさんと視線を合わせる。
「まず、俺たちのことをどう感じますか?」
「おい、なんでムクの言うことはきく。オレの時は返事も……」
「話にならないので少し黙っててください」
どう感じるか……。
極めて不審だと思います。
しかし小心者の私は素直に言うこともできない。機嫌を損ねるとまずいのだろうか。なんか武装しているし。
「えっと……初対面ですよね、正直何がなんだか……?」
「初対面というか二回目というか。やはり何も覚えていらっしゃらないのですね」
「おい。そういえば訪ねたいことがある。答えろ」
「ちょっと、だから黙ってろって……」
甲冑男は私の全身を眺め、本気で不思議そうに首を傾げた。
「貴様男だよな? 何故女の格好をしているのだ」
「——」
室内の空気が凍る。
右腕を振り抜き、甲冑男の顔を殴り飛ばす。壁に激突した甲冑男、変わらない笑顔で「服装なんて自由ですから」とフォローを急ぐムクさん。
分かりやすくお触り禁止の話題だと思われてるなあ——
「チッ」
実際地雷だ。
・
「突然殴る奴があるか……」
「余計なことを言うからですよ、黙れって言ったのにきかないから。それにしても怪力ですねえ、首がへし折れなくてよかった」
「聞こえてんだけど」
声を潜めるならしっかりやれ。
「失礼しました。……さて、それで、話の続きをしましょうか」
場所は代わり、私たち三人は最初の小部屋とはまた別の小部屋にいた。移動の最中誰かとすれ違うことはなく、やはり見慣れない建物の廊下は薄暗くて、気味の悪い花が咲いていた——。
円形のテーブルを囲み、隣にムクさんが腰掛け、頬を抑えた甲冑男は部屋の扉に背を預けて立っている。段ボール着てて座り心地は悪くないのだろうか、という素朴な疑問を口に出すことは控えた。
「お察しの通り、現在地は地球ではありません」
全然察していなかった衝撃の事実。
しかし何かリアクションをとれるような雰囲気ではない。さらりと言い切ったムクさんは私の様子をうかがう気もないようで、口を挟む隙も与えず次の話題に移った。
「俺はムク……一(にのまえ)無垢といいます。彼はアラン、元騎士です。僕たちは組合のようなものの仲間なのですが、普段は違う仕事をしていて……まあこれは後でお話しましょう」
そして抑揚の乏しい声がすらすらと情報を並べ立てていく。
ひとつ、ここは〈ガプ〉という場所であること。宇宙の何処かにあるのか、それとも所謂あの世というものなのか、それは何も分かっていないという。「まあ異世界と思えばいいのでは?」、とムクさんはざっくり纏めた。どうやら細かいことが気にならないタイプらしい。
ふたつ、ガプの治安は良くないこと。曰く、一応国家のような主勢力は存在しているものの、最近では対立組織が力をつけ始め、国の手に負える状態ではない。
みっつ、ガプの住民はふた通りに分類できること。
「ガプで生まれた生粋の住民と、理由は不明ですが、何処かからガプに引き寄せられた流離い人。俺と貴方は後者、アランは前者になりますね。……名前はド忘れしましたが、誰かが、“ガプは引きつける性質を持っている”と——ええと、もっと詳しく定義されてたような……何だったかな」
「いやそれって大分重要な部分なんじゃ」
「いえ、だって一気に言うもんだから……。深夜だったし、そこまで覚えられませんでした。難しい言葉が多くて。あの、現国でやらされる評論文の更に上をいく気取った話し方で……」
バツが悪そうな声で弁明するムクさんを呆れた目で眺め、アランが口を開く。
「カガミは身体を使った作業は得意だが、頭があんまりよくないからな。折角の啓示の〈ジン〉もこんな調子では、宝の持ち腐れだな?」
「ああ、よければ差し上げましょうか、頭のよろしいキ シ サ マに」
「お前……」
嫌味たっぷりに言い返し、青筋を浮かべたアランをムクさんは鼻で笑った。アランの怒り顔を見るに、騎士様って呼び方は嫌がらせなんだろう。
「次そう呼んでみろ。その小さい身体を二枚にしてやるよ」
「その前に鎧ごと平たく加工して差し上げますよ。その無駄に大きい図体の収納場所に困らないように」
「死ね」
「アンタが死ねば」
薄々感じていたものの、このふたり、仲がよくないらしい。物凄い顔でメンチをきりあっている。片方段ボールだから圧倒的に迫力が足りてない。
おいおい。私の存在忘れられてないか。
「すみません、ジンってなんですか?」
「……ああ……失礼しました。まあ、あの、固有のスキルみたいなものです。ガプで飲食をすることで現れるらしいです。いやまあこれも後で話しましょう。俺詳しくないのでアレですが」
……段々説明が雑になってきたなムクさん。
「ところで」
「はい」
「俺たちは貴方の命の恩人な訳ですが、当然お礼はして頂けるんですよね?」
「……はい?」
「情報だってタダじゃありませんよ。等価交換が基本なのは当たり前です。常識と思い説明を省いたのですが……?」
ムクさんは首を傾げた。段ボールの笑顔が白々しい。アランは扉の前で腕組みをしてニヤニヤと頷いている——。慣れてやがる。
悪徳商法のお手本のようなやり口じゃないか……。
・
「で、私は何をすれば? あと、命の恩人というのは……」
選択肢を与えられていない現状に不満がないと言えば私は大嘘つきになるのだが、お世話になったことは事実だ。思いきり顔を歪めて渋々訊ねる。
よくぞ聞いてくださいました、と立ち上がらんばかりの弾む声でムクさんが答えた。いや、もうムク。脳内ではムクと呼び捨てにしよう。心細さのなかに芽生えかけた信頼を数十分のうちに裏切られた恨みは大きいぞ……。
「ひとつずつお答えしましょう。先ずは貴方に対する要求から……これは簡単な話、俺たちの仲間になってね、ってことです」
「あ、さっきの……組合もどきのメンバーになれと」
「そうですね。そこで働いて頂きたい訳です。どういう組合なのかといいますと、国に楯突くテロリスト集団のようなものといいましょうか——」
「待って」
「大丈夫。アットホームな組織です。ブラック気味だけど」
「二重に待って……」
ブラック気味でアットホームな反国テロリスト集団。唯一プラスな意味の単語の筈なのに、断トツでアットホームに禍々しさを感じるのは何故だろうか。間違いなく文脈だろうな。
「そうか、言い方が悪かったかもしれません。言い換えると激務の革命軍です。革命っていうと正義は我にありみたいな雰囲気が出るでしょ? 続けていいですか?」
出るでしょ?って言われましても。
「貴方の仕事は現国王の首をとることです」
うわあ猟奇的——。
ここがハローワークならばそんな業務内容のブラック企業は問題外だ。候補から外す以前に通報されるぞ。
すっと机から椅子を引く。いつの間にか距離をつめたアランがガッと私の両の肩を押さえつける。
なんてこった逃げられない!
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