複雑・ファジー小説

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時計のおじさん
日時: 2017/06/01 22:44
名前: 心井虚 (ID: vyKJVQf5)

 人間という生き物は本当に不思議なもので、誰しもが心の中に後悔等を抱いているらしい。やり直したい過去が、誰にでもある。

 もうやり直せない。もう、戻れない。そう分かっているのに、あの日、あの、人生で最も輝いていた日常に胸焦がし、思いを馳せずにはいられない。さて、もし、もしも人生で一度だけ、過去をやりなおせるとしたら・・・。

 

 こんなハズじゃ、無かったんだ。

 俺の頭の中にこの言葉が浮かばない日は一日としてない。どこで間違えたのか、なんていうのは考えるまでも無く、自分が一番よく分かっている。どうしてあの時、俺は・・・。

 「ま、どうでもいっか」

 いつも思考の途中で嫌気が射す。ため息を一つ吐いてから、俺はゆっくりと起き上がり大学へ向かう準備を進める。

 ボロアパートを出て、雨の匂いに満ちた空気を肺に溜め込む。すぅ〜っと息を吐いて、帽子を目深くかぶった。

 俺は、対人恐怖症だ。齢11歳にして、人と接する事ができなくなって、いつしか、部屋に閉じこもるようになった。

 皆のまなざしが、まるで俺を攻め立てているように思えて、どうしても人と顔を合わせることができない。

 「あれは、仕方が無かったのよ。あなたは悪くないわ」

 何度も、母親は俺にそういって励ました。でも、俺の中では何が仕方なかったのかが、全く分からない。あの日から、俺の心の時計は時を刻む事を拒み続けている。

 あの日も・・・。そう、あの日も今日みたいに、雨の匂いが充満していたように思う。

Re: 時計のおじさん ( No.1 )
日時: 2017/06/01 14:46
名前: 心井虚(こころい うつろ) (ID: vyKJVQf5)

 始めまして。心井 虚 (こころい うつろ) と言います。不束者ですが、よろしくお願いいたします。


 
 平成15年、6月13日。

 この日は俺の誕生日だった。この日を以って11歳になる俺はやけに張り切っていた。というのも、俺のお誕生日会にクラスメイトの佐々木春(ささき はる)が訪れるという約束をしていたのだ。

 単刀直入に言って、俺は彼女に好意を抱いていた。彼女は明るい性格で成績も常にトップクラスだった。俺は勇気を振り絞って、彼女に聞いてみた。

 「僕、さ、明日誕生日なんだ。そのー、」

 「え?誕生日!?おめでとう!!ねぇねぇ、私お祝いに行ってもいい!?」

 誘うまでも無く、彼女はそう言った。俺はあまりの嬉しさに飛び上がりそうになるほどの衝動を抑えて二つ返事で了承した。

 放課後には大雨が降っていて、5時間目の体育の授業は中断された。少し早めの下校になったので、俺は急いで家に帰って、早速パーティーの準備に取り掛かることにした。

 しかしそこで事件が起きた。

 「ごめんね、亮くん。今日お母さん体調悪くて・・・」

 誕生日会の中断。理由は母親の体調不良だ。しかし俺は、なんとしてもこの日のうちに誕生日会をやっておく必要があった。今日を逃せば、彼女は東京へ行ってしまうからだ。

 俺は母親と大喧嘩して、そして、家を出た。傘も差さずに、ずっと、ずっと、走り続けた。顔がびしょびしょに濡れて、それが雨のせいなのか涙のせいなのか、全然分からなかった。

 夜遅くになって、母親が心配して捜索願を出したらしく、俺は深夜の3時ごろに保護された。ただ、予想外だったのは、俺を探していたのは母親や父親、警察だけじゃ無かったって言う事だ。

 母親が心配して、俺と仲の良い佐々木の家にも電話を掛けていた。佐々木春は、俺を探しに出掛け、翌日、川で発見された。

 佐々木春は、死んだ・・・。

 その日から俺は、全ての人が

 「お前のせいで佐々木春は死んだんだぞ」

 と言っているかの様に思えて、顔を合わせる事さえままならなくなった。・・・こんなハズじゃなかったんだけどな。

 俺は、ただ、彼女に祝ってもらいたくて・・・。たったそれだけで、良かったんだ・・・。もし、もし、戻れるなら・・・。

 「亮さんですね・・・?」

 それは、いきなり俺に訪れた。

 「あなた、は・・・?」

 「私は、フルヤトキコ。そこにある古時計屋を営む父、フルヤケイジの一人娘です。あなた今、思いましたね?」

 「・・・・・・え?」

 「戻りたいって」

 彼女は笑顔で俺に問いかけてきた。その笑顔には不思議な魔力があった。まるで、何もかも見透かされているような、そんな魔力が。

 「・・・・・・はい」

 「ふふ、素直ですね。さて、ではあなたにはこの時計を差し上げましょう」

 彼女が俺に渡してきたのは、古ぼけた腕時計で、画面には亀裂が入っており、針も動いていない。

 「その時計はあなたの心を映す鏡のようなもの・・・。あなたが強く願えば、あるいは・・・」

 そう言って彼女は古時計屋へ姿を消した。俺は不思議と追いかけようとは思わなかった。

Re: 時計のおじさん ( No.2 )
日時: 2017/06/01 22:46
名前: 心井虚(こころい うつろ) (ID: vyKJVQf5)

 「あなたが強く願えば・・・あるいは・・・」

 その言葉の意味が分からないまま、一週間程の時が流れた。目が覚めて、俺は異変に気付いた。

 時計が・・・動いている・・・。

 もう一度あの言葉を思い返す。そして、ふと俺は鏡に目をやった。そこに移っていたのは・・・。

 「嘘・・・だろ・・・?」

 鏡に映るのは、いつの日かの自分。その自分は、少年の姿をしていた。俺は走った。外は大雨だったが、気にせずに走った。そしてあの古時計屋へ、足を踏み入れた。

 「あ、あの、古谷さんはいますか!」

 「古谷さん?あぁ、古谷さんなら十年以上も前に亡くなってるけど、それがどうかしたの?」

 亡くなっている・・・?

 「じゃ、じゃぁ、娘さんは!?トキコさんは!?」

 「・・・?古谷さんに、娘さんなんていないけど?」

 どういう事だ・・・?何が、起きている?

 じゃぁ、トキコとは一体誰だ?

 いや、待てよ・・・?

 「あなたが強く願えば・・・、あるいは・・・」

 まさ、か・・・。

 「あ、あの、最後にもう一ついいですか?」

 「なに?」

 もしかしたら・・・。

 「今日は、何年の、何月ですか?」

 「今日は、15年の6月13日よ」

 ・・・・・・・・・やっぱり・・・!!

 俺は、戻ってきたんだ・・・。あの日に・・・っ!

 時間は・・・午前7時43分。つまり、あと、24時間21分!!

 俺がいる場所が東京で、当時住んでいたのが北海道。

 「ありがとうございました!!」

 俺がやるべき事はもう決まりきっていた。俺の命を賭してでも、彼女の命を救う事・・・。それ以外に、何も思いつかなかった。


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