複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

目は口ほどに物を言う
日時: 2017/09/10 18:52
名前: 乃絵 (ID: RARTxK9z)

[目は口ほどに物を言う]という諺がある。

日常生活において目線で何かを伝えたり隠したいことがばれてしまうことはよくあることだ。
特に相手に嘘をつこうとしている時は尚更。嘘をつくのは好きな人もいるだろう。しかし、
嘘をつかれるのが好きな人というのは余程の変わり者しかいないのではないかと思う。
相手に信用されていない。好かれていない。そう感じる人が殆どだろう。
私も相手には極力正直で居てほしい、その殆どの中に当てはまる内の一人だった。いや、
正確に言えば今も正直な人は好きなので、おそらく正直な状態で問題がない人だけが
好きだったのだろう。自分の本心に気づけたのはあの人のおかげだ。あの人のせいだと
思っていたこともあったが、本当に気づけて良かったと思う。もし、自分の本心に
気づけないままであれば私は自分自身のことを嫌いになっていたかも知れないし、あるいは
周りの人を恨む人間になっていたかも知れないのだ。あくまで、かもしれないという予想だが。

あの人との最初の出会いはこれと言って特別な場面でもなかったのだが、普通と言い切るには
少し迷うような出会いだった。後から聞いたことだが、あの人は、初めて私を見たときに、
血とか死体とかそういった類いのものが嫌いそうだなと思ったそうだ。以前なら、そんなこと
当たり前だろう。何をいっているんだ。と感じたはずだが、あの人の性格を知っている今なら
ああ勿論そうだろうな。納得。深く深く頷きながらそう思ってしまうのだ。ちなみに、私が
あの人を初めて見て思ったのは、顔が綺麗で人形みたいだということだった。それまで会った
人たちと何も変わらない、見た目が人より整っているが、おおよそ普通の人といったものだ。
その時の自分に会えたとしたら、お前は自分が思っているよりも人を見抜く力がない人間だ。と
厳重に注意したい。人生で一番自分の能力を過信していた時だったからだ。私の能力とは、
普通の人の嘘がすぐに分かるというものだ。しかし、それだけなら勘が良い程度。

Re: 目は口ほどに物を言う ( No.1 )
日時: 2017/09/10 20:09
名前: 乃絵 (ID: RARTxK9z)

それだけではなかったからこそ、敢えて能力という言い方をしている。具体的に言うと、
嘘をついているのが分かるだけでなく、なぜついたのか、本当はどうなのか、といった
知ると傷つくことや、相手に失望してしまう真実まで、はっきりと分かってしまうのだ。
だから、人間はみんな嘘をつく生き物であり、ずるい。そう決めつけていたように思う。
と過去の自分を振り返っていると部屋の端から声がした。
「さっきから独り言であの人って言ってたけど、あの人じゃなくて名前で呼んでよ。
僕には本目凛ほんめりんって名前があるんだよー」
にこにこしながら言う。もしかしたら独り言を大きい声で言っていたのではないかと
心配になったと同時に最初に会ったときと随分印象が変わったなと思った。今なら、
普通の人だとは到底思わない。最初の出会いを、今度は声に出さないように回想する。



半年前

「あーあ」
起きた瞬間にどんよりした気持ちに襲われる。クラスで人気者の女子が転校する日だからだ。
私はあまり話したことがなかったので、寂しいからどんよりしているのではない。
見送る側の嘘が嫌なのだ。本当は悲しくないのに悲しいと言い、
嫉妬していて嫌いなのに大袈裟にずっと友達だよと言う。悪いことではないのだが
ここまで知っていると一緒に見送るのが嫌になる。しかし時間がない。
どんよりした気持ちは晴れないまま着替え始める。
黒いリボンが胸元についたシャツと紺色のフレアスカート、青いパンプス。
少し暗いが、落ち着いた感じが好きだから良いか、と思いそのまま見送りに行った。

Re: 目は口ほどに物を言う ( No.2 )
日時: 2017/09/10 21:23
名前: 乃絵 (ID: RARTxK9z)

行かなければ良かったと思った。案の定嘘だらけだし人数もいつにもまして多かったのだ。
一日無駄にしただろうか、と思い時計を見ると、   午後4時丁度だった。
普段から6時までには帰ってくるのが暗黙の了解なのでまだ出掛ける時間がある
ただ、たくさん嘘を聞いて疲れている。このまま家に居る方が良い気もした。
こう思った時は家に居る方を選ぶのだが、今日は気分がもやもやしているし、
気晴らしに外に出掛けることにした。ショートカットの髪を右だけ耳にかけ、前髪は全部
左に寄せておでこを出す。髪が真っ直ぐすぎるせいで冷たそうに見られるのが悩みだが、
癖を直さなくて良いところは得だな、と思った。
外に出て空を見上げるとまだ明るい。どこに行くかは決めていなかった。
適度に人がいてゆったりできるところがいいなと考える。
そこに一緒に居ても疲れない人がいたらいいなと思う。
私はしばらく考えてから、公園に行くことにした。

Re: 目は口ほどに物を言う ( No.3 )
日時: 2017/09/11 07:13
名前: 乃絵 (ID: RARTxK9z)

十五分ほど歩くと公園に着いた。着くまでに、下校中の小学生の集団とすれ違った。小学生の
時は、もっと気楽に生きていけていた気がする。同級生と比べても、悩みが少なく、何も
考えていない、羨ましく思われる性格だった。それなのに何故、悩みが多い、人よりも大変な
性格になってしまったのだろう。能力がつくなら、楽しいものが良かったと思いながら歩いて
いた。
公園にはさっき下校してきた小学生、お母さんと話している幼稚園児、抱っこされて寝ている
赤ん坊などが居た。私だけ場違いな感じが少しあったが、勿論責め立てる人など居ないので
しばらく公園のベンチに腰かけていようと思った。

Re: 目は口ほどに物を言う ( No.4 )
日時: 2017/09/11 17:55
名前: 乃絵 (ID: RARTxK9z)

腰かけると、ため息が漏れた。自分でもとても疲れていることは自覚していたけれど、
あまり周りに、疲れていることを悟られたくないので、普段は出さないように意識
していたのにため息が出るなんて、と思った。ほんの少しだけ、今日は何か違うなと、
何が違うのか分からないのだが、何故か、そんな気持ちになった。疲れているから、
こんなことを考えるのだろう、と無理矢理理由をつけた。そうでもしないと、自分でも
自分が何故違うと思ったのか、どこをみて違うと思ったのか分からなくて混乱してしまう。
今は、とりあえず全部疲れているせいにしてしまおう、とよくある浮気の誘い文句のような
ことを心の中で呟く。私は、今日のもやもやした気持ちをなくすために、今までも誰かが
転校する度にこうだった。みんな嫉妬していて普通なのだ。人間はそう言うものだ。
何度も繰り返し自分に言い聞かせた。人間はそう言うものと思うことで、自分の周りの
人だけが、嫉妬や暗い気持ちを持っているのではないと考えた。そうすることで、
心の平静を保ってきた。これからも、そうしていくのだろう。それであっている。私は、
今日の出来事について、やや強引ではあるが、気持ちの整理をつけた。

ふと、周りを見ると、さきほどまで遊びまわっていた小学生、その他の人もいなかった。
腕時計を見ると、五時になりそうだった。意外と長い時間経っていたのだな、と思い、
自分しか居ない公園から、帰ろうと思った。立ち上がった瞬間に後ろから人の気配を感じた。
まだ全員帰っていなかったのだろうか。振り返った私は、「ひえっ」とまるで妖怪でも
見たような声を出してしまった。が、そこにいたのは勿論妖怪ではなく、中性的な雰囲気の
青年だった。色白、黒髪のマニッシュショート、身長は私より少し低い。服装が白で統一
されていたのもあって穏やか、優しいといった言葉がぴったりだった。にもかかわらず、
声をあげてしまったのは、顔が人形のように整っていることに加えて、目が印象的だった
ためだ。一重にしては横幅がとても広いので、限りなく一重に見える奥二重だろう。瞳の
色は真っ黒。自分の目も黒い方だが、ここまで黒い目は初めて見た。しかし、どんな理由が
あろうと、初対面でいきなり悲鳴をあげるのは失礼だ。
私が、
「あ、すみません誰もいないと思っていて、少し驚いてしまって」と言うと、
青年は、
「ああ、大丈夫です。気にしないでください」と言って、「家が結構遠いのでもう帰ろうかと
おもって、ではさようなら」と、足早に公園から出ていき、すぐに見えなくなった。






Page:1



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。