複雑・ファジー小説

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約束のアストルフィア
日時: 2017/10/09 21:42
名前: はつ。 (ID: Wsgu.6PA)

邂逅歴ーー

それは一般的に中央大陸の第1国家「中央共和国」が北方大陸に到達した年を元年とする暦法である。




海を挟んだ4大陸と諸国家は、海の向こうにある世界を互いに知る事になり、大きな変容を迎える事になる。

互いを異質なものと捉える4大陸と諸国家は、しかし、その異質さを容易に受け入れる事は出来なかった。
各大陸は対立を深め、やがてそれは大きな争いに繋がろうとしていた…そんな時代だった。



でも俺は、それでも俺は、あの約束を…
果たせれば…それで良かった。







邂逅歴29年、大央海、上空、未明ーー

そこにはうごめくいくつもの巨大な影があった。共和国の北方派遣飛行船団だ。夜明け前の空は闇に包まれていた。船団は司令船を中心に飛行しており、円形に展開された30にも及ぶ飛行船は気流、高度、進路などを観測する観測船、空砲を備えた護衛船、物資などを満載した輸送船などで構成されている。

「おい聞いたか、あの噂。」

司令船後部の見張りについていた2人の空兵の片方が相棒に声をかける。

「噂?なんだよ。」

声を掛けられた片方は連日の見張りで疲れた目を気怠そうにむける。

「今、この飛行船で運んでいる士官で1人だけ6等空佐の奴いるだろ?」

「ああ。」

「あいつ、かの共和国総合士官学校を史上最速の11ヶ月で卒業したとか言われてるらしいぜ。」

「嘘だろ?あの士官学校をか?」

「信じられ無いだろ。」

「…だとしたらすごい逸材じゃないか。なんだって北方大陸なんかに…。」

「さあな。大分若いらしいしな、北方動乱もおさまったばかりだし、余波に備えてか、あるいは…」

「…おおかた、危険因子を本国から遠ざけたいのだろう。」

2人の会話に後ろから割って入ってきたのは初老の男性だった。汚れのない紺色の軍服の胸には勲章がならび、3等空将を表す階級章、威厳のある声に鷹のような鋭い目をしている…

「「デ、ディッツ船団長!」」

2人は慌てて敬礼をした。
アルドフ=ディッツと言えば北方派遣飛行船団の最高指揮官であり、通常は第2機動空艦隊の提督を務めているような人物だ。

「な、なぜ、このような所に?」

2人の緊張は極限まで高まっていた。何か無礼があればどうなるか分かったものではない。

「や、すまない。邪魔をしたな。いやなに少しな…側近の書記官がうるさいので、夜風にあたろうと出てきただけだよ。」

見た目とは裏腹に物腰は柔らかい。

「な、なるほど。」

ひと時の沈黙が流れる。

「…それで危険因子とはなんでしょうか?」

沈黙に耐えられなくなった1人がディッツに質問する。ディッツは少し視線を落とし、答えた。

「共和国は今、進出派と保守派の対立が深まっている。もし仮にその対立が内乱に発展した時、お互い、優秀過ぎる人物が相手側につくのを恐れているのだ。そこで、両派は信頼できる優秀な新人以外は中央大陸から追い出している。簡単に言うとな。」

ディッツは明けつつある水平線の彼方へ視線を移した。

「もうすぐ北方大陸へ着くな…。私はもう戻る。仕事があるのでな。そうだ…、北方大陸が初めてなら空からの眺めを見ておいた方がいい。あれはいいぞ。」

「「は、はいっ」」

ディッツは執務室に繋がる扉の中へ戻っていった。一気に緊張がとれる。

「嵐の将と呼ばれているにしては普通の人だったな。」

「ああ。」

「空からの眺め、か。」

2人は北方大陸があるであろう方角へ目をむけた。北方大陸。険しい山脈が連なる自然豊かな大陸…と聞いただけだ。どのような場所なのか、確かに興味はあった。

「おい、あれは…何だ?。鳥にしてはでかいが…。望遠鏡を使うか。」

ふと、片方が何かに気付く。それを聞いた片方も目を凝らす。その時、望遠鏡を取り出し、覗いていた方が声を上げた。

「おい…!北方王国軍の高速飛行船だ…。様子がおかしい…。」

さらに目を凝らす。

「こちらに砲門を向けている!どんどん近づいてっ…!!」

その時、突如爆炎が2人を飲み込んだ。砲弾の直撃。隣を飛行していた護衛船が炎に包まれる。続いて前方を飛行する観測船が吹き飛ぶ。

けたたましい警報が鳴り始め、怒号が飛び交う。突然の事に船団は混乱を極める。次々に砲弾は飛行船に直撃し、まともに応射も出来ない。静かだった空が戦場へ変わる。数時間後、そこには共和国の船は残っていなかった。



この襲撃事件はの原因は未明の視界が悪い中、王国の飛行警備隊が共和国の船団と北方大陸南岸を脅かしていた空賊と勘違いした、とされている。

しかし、それはあまりに見え透いた言い訳であり、なぜ事前警告がなかったのか、なぜ警備飛行隊に最新鋭の空砲が装備してあったのかは謎であった。



後にロズペン事件と呼ばれるこの襲撃事件をきっかけに共和国の北方王国に対する疑念と不信は深まり、両国間の衝突が避けられない程、一気に両国間の関係は冷え込んだ。






どうも始めまして、はつ。です。これが初投稿なので、色々と拙い部分もありますが、世界観を少しでも掴んで頂けたら幸いです。また、学生なので投稿はまちまちだと思いますが、宜しくお願いします。
用語解説、などもやって行きたいですね。
















Re: 約束のアストルフィア ( No.1 )
日時: 2017/09/21 22:44
名前: はつ。 (ID: Wsgu.6PA)


共和国船団襲撃事件発生から数時間後ーー

太陽の眩しさで目が覚めた。

「あぐッ、いててて…。」

体中が痛む。頭がくらくらして視界がはっきりとしない、太陽の刺すような光で思わず顔をしかめた。

「ここは…どこだ…?」

おもむろに体を起こす。
なぜ俺はこんな所にいるのだろう。
辺りは草原の広がる大地に、視界の端まで続く山脈、その麓に続く森林。澄みきった青空。思わず声が漏れ出た。

「綺麗だ…。」

少しずつ意識が明瞭になっていき、意識を失う前の記憶が頭に流れ込んでくる。

「そうか…。助かったのか…。」

襲撃は突然だった。士官として手厚い待遇を受けていた僕達にとって、快適な旅だったはずだった。
爆音と振動で目を覚ました。船体が大きく傾き、大きく揺れている。

「何が起こった…!?」

周りの士官も同じ様に動揺していた。

「と、とにかくここではいざと言う時に脱出出来ない…。甲板に出よう」

不安定な中、何とか甲板に出たが、後部甲板は砲撃によって大きく抉れており、火の手が上がっていた。

「ちくしょうっ!!2人やられたっ!」
「被害はどうなっているんだ!」
「何をやってるんだ、早く火を消せ!」
「無理だ…もう手遅れだッ!」
「おいっ!誰か落ちたぞ!くそっ!」

甲板は人でごった返し、混乱を極めていた。
司令船は本来、奇襲を受けたとしてもここまでの混乱は起きない。ただ、北方へ向かう戦闘経験の無い士官が研修生として乗船していたことが、混乱の苛烈さに油を注いだ。

「「うろたえるなッ!防衛戦闘準備ッ!!急げッ!!これより、当艦は敵をけん制しつつ全速力で直進!、大陸へ向かう!…他の船にも伝えろ!」」

ディッツ船団長の咆哮に近いような声で甲板は僅かに落ち着きをとりもどす。空兵は安定球の出力を左右でうまく調節し何とか大きく傾いた姿勢を戻し、蒸気機関を最大出力へ持っていく。司令船に呼応して、数隻の船も大陸の方へ全速力で進んだ。




「そうだ…あの後大陸上空まで何とか飛んで…流れ弾が直撃したんだ。」



大陸まで執拗に追いかけて来た敵がいた。簡単に当てられる様な距離ではなかったが、まぐれで自分の居た前部左に直撃、気付いた時、自分は空に投げ出されていた。頭に加わった衝撃で、意識が薄れていく中、何とか防御術導式を展開し、背を地面に向けた。
それだけで助かったのは高度が低かったからだろう。

「…これからどうしようか。」

周りにはいくつか船の残骸が落ちているだけで周りには人影すらない。もし人が居たとしてもそれは北方人だ。北方の言語は一応士官学校で習得したが、通じるか分からない。そもそも近くに町があるのだろうか。
…取り敢えず、森を目指そう。水や食料が見つかるかもしれないし、運がよっぽど良ければ寝床も見つかるもしれない。
関節は激しく痛むし、頭が割れるように痛い。足取りもおぼつかないが、ゆっくりと森へ歩いて行った。









Re: 約束のアストルフィア ( No.3 )
日時: 2017/09/21 23:54
名前: はつ。 (ID: Wsgu.6PA)



森は、遠くから見てなんと無くその規模の大きさが分かったが、間近で見るとやはり違った。

山脈の麓、と行ってもその範囲は広く、端が霞むほどには横に伸びている。奥行きもかなりありそうだ。



ーー共和国ではこの様な森林はほとんど見られない。

国をあげて進められた産業革命は、蒸気と術導式を組み合わせた工業を発展させた。

それに伴い、生活環境は大幅に改善され、人口は増加、各産業は効率を最重視する様になった。

工業はもちろん、農業、漁業、林業は全て国の管理に置かれ、区画整備、最新技術の導入、生産計画の規定などを行なった。

中央大陸全土、とまでは行かないが、少なくとも共和国はそうだった。


「さて、どうしようか…。」

森の中を見渡すが、木々の間は草や蔓などが生い茂っており、また昼間にも関わらず薄暗い。歩くのは難儀しそうだ。針葉樹が多く木の実や果実などは期待出来ないだろう。

取り敢えず水だけでも確保しなければ。と聞き耳を立てる。すると、鳥の鳴き声や虫の羽音、木々のざわめきの中に微かに水の音を捉えた。

少し希望が見えた。その音の方へ重い足取りでゆっくりと向かう。
少しずつ水の音が大きくなる。

ーー視界が開けた。
川だ。向こう岸まで10m程だろうか。水深は浅く、澄んだ水をたたえている。どうやら山脈の方まで続いているらしい。思えばずっと移動続きで喉が渇いていた。飲料には…問題無いだろう。

そうして、内心安堵していた時…それは完全に不意打ちだった。水の音に集中していた事で周りに気をかけるのが疎かをなっていたのだ。


「…誰?」


それは透き通った声だった。
ゆっくりと振り向き、その声の主を見る。目が合う。

…そこにはひとりの少女が立っていた。



Re: 約束のアストルフィア ( No.4 )
日時: 2017/10/11 23:05
名前: はつ。 (ID: Wsgu.6PA)

恐る恐るめを向ける。年は16、17程だろうか。
簡素な皮のブーツに手袋に、全身を覆うようなマントで身を包んでいる。

白髪なのだろうか?
肩辺りで切り揃えた髪は銀色と言うより白色をしている。


翡翠色をしたその瞳は真っ直ぐこちらに向けられていた。


少女は続けた。

「貴方はこんな所で何をしているの?…ノルジア人ではない様だけど」

全くたじろく様な様子は見られず、表情はピクリとも動かない。淡々とした口調だ。

ノルジア?

…そうか、北方人は自らの事をノルジア人と呼ぶんだった。


何て答える?格好から軍人だと言うのは分かっているだろう。

北方動乱後、共和国と王国が結んだノールド条約から共和国軍人が駐留出来るのはいくつかの都市だけだ。


もし他の人間を呼ばれたら良くてそのまま捕まり収容所送り、悪ければその場で
私刑、だ。

…7年前の北方動乱で共和国に恨みを持った者は多い。


…逃げるか。いや、この森を逃げ切る自信は無いし、身体的にも不可能だ。

だとすれば…手段はひとつ。強化術導式を展開し、この少女には少し眠ってもらう。

ーー意識を集中し、術導式を展開する。身体は少し熱を帯び、軽くなる。

つまりは強行手段だ。この少女が気絶している間にここから速やかに離れよう。

ーー感覚は研ぎ澄まされて行き、5感が極限まで高まる。世界の動きは刹那、スローモーションとなり、同時にほんの一瞬に集めた力を使い手刀を放つ。

その手刀は少女の首を捉え、少しばかりの眠りを与えるーー

はずだった。


手刀は空を切り、代わりに自分が少女からの拳を溝尾に叩き込まれていた。


意識が遠のいていく。
ーー迂闊だった。

Re: 約束のアストルフィア ( No.6 )
日時: 2017/10/06 22:51
名前: はつ。 (ID: Wsgu.6PA)


ーーここはどこだ?

ふと、目を覚ました。意識が不明瞭だ。
どうやら自分は小部屋のベットに寝ているようで、柔らかな感触を背中に感じる。

部屋の中を見渡す。机やタンス、小さなテーブルに小窓、といった質素なもので構成されている。

ーーなんでこんな所に居るのか。

そうだ。北方人の少女に出くわして、咄嗟に眠らそうと術導式を展開したんだ。そうしたら反撃をくらって。

ーーなんだか最近、気絶してばっかだな。

体を見ると傷を負った所が丁寧に手当てされている。運が良かった。どうやら敵意はないらしい。

もっとも、人質としてという事なら不運としか言い様が無いが、自分は6等空佐だ。利用価値は皆無に等しいので心配は無いだろうーー。

などと考えていたその時、廊下から足音が聞こえ、この部屋の前で止まった。ドアが開かれる。

「お、起きたか。」

入って来たのは30代前後の男だった。190センチはあるであろう身長に、引き締まった体躯。北方人に多い碧色の目は力強さを感じる。

そしてその格好、軍服らしい物を着ている。士官学校で教わった北方王国のそれでは無く、北方大陸の第2国家、山岳嶺連邦の物だ。



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