複雑・ファジー小説

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錆びた首輪と黒い猫
日時: 2017/09/28 01:47
名前: 雪月桜 (ID: ???)  

とある女性が、自身の理想と現実の差に悩み、その先に見たモノをベースにした物語です。

難しい物語ではありません。
作者の思考を数滴加えた、優しくて切ない物語になる予定です。

Re: 錆びた首輪と黒い ( No.1 )
日時: 2017/09/28 02:21
名前: 雪月桜 (ID: dOS0Dbtf)


     プロローグ


私の生きる世界は、私の理想とは程遠い。
理想を語ろう。
人を思い、人を信じ、人を愛する。
どれほどの罪を犯しても、その人自身に罪はなく、罪とはその環境や思考による選択により生まれた物だろう。
全ての生物には等しく、良心があり、自身の犯した罪を改め悔やむ事が出来るはずだ。
私が思い描き、信じていた理想はそんなものだ。
現実を語ろう。
人を疑い、人を思わず、人を慈しまない。
罪人は罰せられても罪人には変わらず、必ずしも自身の罪を悔い改めるとは限らない。
そんな世界で互いに折り合いをつけ、騙し騙され傷つき苦しむ。
なぜ人はこの世界で生きていけるのだろう。なぜ誰も疑問に思わないのだろう。
疑問に思う私が異端なのだろうか。
これはそんな理想と現実に苛まれて生きる私の果ての物語だ。
どうか、こんな私の果てを貴方にも見届けて欲しい。

Re: 錆びた首輪と黒い ( No.2 )
日時: 2017/09/28 04:32
名前: 雪月桜 (ID: dOS0Dbtf)

     第一話 野良猫は雨に濡れて


七月五日、十五時過ぎ。
白原直(シロバラ、ナオ)は下校途中の学生達を乗せた、ローカルバスに揺られていた。
白原直、月織(ツキオリ)高校一年、帰宅部の女子学生である。
もうすぐ高校最初の夏休みを迎えるというのに、直の心は憂いに満ちていた。
別に直の憂いの原因は、夏の暑さのせいでも、前期の中間試験の出来のせいでもない。
夏の暑さはあまり得意ではなく、体力のない直にとって辛い事に変わりはないが、テストの出来は中の上と決して悪くはなかった。
ならばなぜ憂いが晴れないのか。それは直が物心つく頃から思い描いていた、理想と現実の差による物が原因だろう。
直の理想は純白だ。
どこかの教会の教えのように、人を信じ、人を思い、人を愛し、罪に罰を、人に許しを、良心を信じ、神様を信じる。
よく出来た信心のような思考を、直は物心つく頃から思っていた。
誰もが互いを思い合い、大切にする。
それが当たり前で、そうやって全ての生き物は生きていると思っていた。
だが、現実は酷く残酷だ。
確かに直の理想は優しくて清らか、どこまでも綺麗だと言える。

Re: 錆びた首輪と黒い ( No.3 )
日時: 2017/09/28 04:18
名前: 雪月桜 (ID: dOS0Dbtf)

だが現実はそれほど優しくなく、清らかでも美しくもない。
それを直は十六年の時を生き、思い知らされつつある。
なぜ『思い知らされた』ではないのかというと、直は枯れ果て始めた心の奥底にある僅かな願いを信じていたからだ。
他者から言わせれば『ただの夢物語』だろう。
直とて今まで多くの人々に傷つけられ、騙され、悲しみに犯され生きてきた。
それでも直が諦めきれないのは『必ずどこかに希望はあるはずだ』という縋るような思い故だろう。
「……ぉ…、……って、直!」
不意に隣から大声で名前を呼ばれた。
声を発したのは中学からの友人、春宮鈴(ハルミヤ、スズ)だ。
学年も同じで明るく裏表のない彼女は時に元気が良すぎる事もあるが、純粋で素直な性格であり、直に日々癒しを与えてくれる。
「ごめんね鈴、暑くてぼーっとしてた。で、どうしたの?」
直が暑さに弱い事を知っている鈴は、呆れながらも微笑みを浮かべ先ほどの話へと戻る。
「だから、今日は凄く暑いから、カフェに寄って行きたいねって言ってるの。直が忙しいなら、諦めるけど」
「カフェか、…特に予定はないし、このまま帰ったら途中でバテそうだな…」
鈴の誘いは魅力的だ。

Re: 錆びた首輪と黒い ( No.4 )
日時: 2017/09/29 01:25
名前: 雪月桜 (ID: dOS0Dbtf)

断る理由が特にない事を声に出し、直は数秒思案する。
予定はないが、家にいる母や姉に一度確認を取らなくてはならないだろう。
直は、母親が苦手だ。
暴力や暴言を吐かれたわけではない。
衣食住も充実しており、お小遣いも生活に困らない程度には貰っている。
だが、唯一の難点があるのだ。
それは異常なまでの独占欲。
軟禁されているわけでもないし、学校に通ったり、友達と休みの日遊ぶ事も出来ている。
しかしそれは『母親が場所とそこにいる主要人物を知っている』事が前提で、時刻もその場から帰宅する寸前に連絡し、五分単位で現在の居場所について確認連絡が来るのだ。
そのうえ、母親は直に『理想の娘』を絵描いている。
従順で素直、優しく母親を何より大切に思い、一緒にいる事が一番の幸せと思い、母の好みと同じ物をこよなく愛す娘。
それが母親が見る直という存在だ。
だが、現実の直はそんな母に少し疲れていた。
白原直は人間で、自我も欲も人並みにある。
そして皮肉な事に、少し頭が良かった。
頭が良いとは何も学力や資格、経歴等だけを言うわけではない。
記憶力、探求心による論理、幅広い知識や物の見方。


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