複雑・ファジー小説
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- We're ALL RIGHT
- 日時: 2017/10/07 18:52
- 名前: 壱之紡 (ID: vGUBlT6.)
「そこの鳩が鳩鉄砲食らった様な顔してる奴ら! よっく聞いとけ!」
マイクの音量、立ち位置、出だし。全てオールオーケー。完璧だ。だだっ広いグラウンドを満杯にしている、気持ち悪い位の群衆。冗談じゃなく人がゴミのようなのだが、俺はフェンスを半ば乗り越え気味に、下界を見下ろし、マイクを握り叫ぶ。
「俺はなぁ! 腐りきったこの学園を変えてやる為に此処にいる!! いいか、俺がこの学園をめちゃくちゃにしてやる!!」
ハウリングしまくりのマイクが、キンキンと煩い。まるで某青狸アニメのヒロインのバイオリンのような……いいや、関係無かったな。皆、俺のカリスマ性の溢れる宣言に悶絶しているようだ。耳を押さえて地面に伏している。余程俺の言葉が響いたのだろう。おや、一部では耳からケチャップを振り撒いている奴もいるな。そんなに興奮したのか?
「それと、耳の穴脳まで貫通するくらいかっぽじって聞け! いいか、この小説は、崇高な文章やら、文学の真髄やら、そんなもんはありゃしねぇよ!!」
さっきまでのざわめきが、静まりかえってしまった。何だ? 騒ぐのも畏れ多くなったか? 一部では無言でこっちを見つめながら耳からケチャップを垂れ流している奴もいる。そうか、そんなに興奮したんだな。俺は肺がはち切れる位に息を吸い、マイクが壊れる位に叫んだ。
「青春モノ? そんなジャンルじゃ片付けられねぇ!」
「プロット? あるわけねぇだろそんなもん!!」
「この小説は!! 純粋なる……」
「ギャグコメディだ!!!」
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初めまして、壱之紡と申します。
自分でもどうしてこんな小説を書こうと思い立ったのか不思議でなりません。
はちゃめちゃな彼等の生活、覗いて頂ければ幸いです。
※流血表現、パロディネタを含みます。
- Re: 君の心臓を抉りたい ( No.1 )
- 日時: 2017/10/12 00:52
- 名前: 壱之紡 (ID: vGUBlT6.)
世間は俺みたいな奴を、不良と呼ぶんだろう。
似合わないリーゼントを頑固に通し、制服は思いっきり着崩し、耳には銀色のイヤーカフ。それにこうやって平日の午後、体育館裏で授業をサボったり。酒やタバコに手を出していないだけ、まだマシな方だ。そう。まだマシな方。もっと酷い奴はいる。そう心の中で呟き、少し眩しいながらも左上を見上げた。
「気付かれてはねぇか」
屋上のそのまた上の青い空を汚す、灰色の煙。静寂を引き裂く笑い声、怒鳴り声。あれはいわゆる、もっと酷い部類の連中だ。噂では、酒とかタバコよりもっと危ない……そう、例えばヤク。そんな物に手を掛けているとかいないとか。群れて騒いで、何より身の程を知らない奴ら。馬鹿だ。すぐに『潰される』 というのに。
視線を戻し、ため息をついた。あれよりマシだからといって何だ。ただの言い訳だ。そんな事は分かっている。でも、俺がどんなに逃げたとしても。周りから不良、という目で見られる事には変わりはない。このまま卒業を迎え、社会でも今のような目で見られる。そんなのは知っているのに、自分を変えられない。周りの目が怖いから。周りに変わった俺を拒まれるのが恐ろしいから。
ふざけた話だ。俺の世界は、他人が中心になって回っている。
乾いた舌打ち……と重なる様に、何処からか声が飛んできた。
「二年三組、東山……だな」
「……あ?」
声の方へ首を向ける。声の主は、何処かで見たことのあるような男だった。一目でカラコンだと分かるどぎついピンクと黄色の目は、挑戦的に、しかしどこか楽しげに俺を見ていた。
……しかしこの男、体勢が何やらおかしい。
両腕を前に広げ、腰を落とし、ガニ股で構えている。しかも、小刻みに左右に動き続けていた。牽制するような動作。気味悪さと共に、あの初代ニチアサ仮面ヒーローの黒い敵が浮かんだ。ぞわぞわと鳥肌が立つ。
「失礼だなぁ、おい! これはお前を逃がさない為、とあるスポーツを元に二分位かけて考えた構えなんだぜぇ?」
「短けぇよ」
意図せずツッコミが口から出てしまう。引き気味に後ずさりすると、男は真顔で何やら呟き始めた。
「カバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディ」
「怖っ!?」
凄い気迫に押され、さらに数歩後退する。初手カバディとか何なんだコイツ、尋常じゃねぇ……! とりあえずこの空間から脱出しないとまずい……!
「カバディカバディカバおっと、逃がさないぜ! ディカバディカバディカバディカバ」
「セリフをカバとディの間に挟むな! ディカバって何だよ!?」
さっきから俺がツッコミ役と化しているが何なんだ? しかも何故か反復横跳びで追ってくるし。あぁ、残像まで見えてきたぜ。無駄に速ええんだよ何なんだ一体……!
「……ッ!」
しまった。行き止まりだ。横はかなり急な土手と、その先に汚い水が流れている小川がある。逃げられない。まさかこいつ、ここまで計算ずくで……? 一見ふざけた様に見える……いやどこから見ても完全にふざけた様にしか見えないこいつがか……!?
パニックになりかけている内に、遂に完璧に退路を塞がれた。壁に背中をつけ、じりじり反復横跳び(スローver.)で迫り来る男を睨む。カバディカバディは無くなったが、にこやかなその目からは何を意図しているのかが全く読めない。こうなったら殴ってでもこの場を切り抜けてやる……!
覚悟を決めた、その時だった。
「ぎゃあああああああああああああっ!!」
この世のものとは思えない、まるで断末魔のような奇声。はっと気が付き、顔を上げる。断末魔は、さっき屋上でたむろしていた奴らの方から聞こえてきた。屋上のフェンスに誰かがもたれかかっている。違う、叩き付けられている。怯えながら、空気を切り裂くような断末魔を放ち……
「なぁ、断末魔断末魔言うのやめろって作者が言ってるぞ。このクソ低スペックなハードだと『段間妻』って変換されるからって作者が悲鳴あげてる」
「段間妻って団地妻みてぇな響きだなおい……あとこのネタ古いし誰もわかんねぇよ……」
「あとオレの腰も悲鳴あげてる」
「とりあえずカバディの構えを解こうぜ……」
男はカバディの構えを解き、俺に目配せをした。いたって軽い口調でぼやく。
「どうせ生徒会だろ?」
「……ああ」
生徒会。
この学校全体のヒエラルキー。その頂点に立つ組織。学校の風紀を取り締まり、乱す奴を絶対に許さず、鉄拳制裁を繰り出す。先公ですら手が出せないという心底恐ろしいあの組織。あいつらが屋上に現れたのだ。そうとしか思えない。冷や汗が額を流れる。こっちまで見つからないといいが……
そんな俺の心配をよそに、カバディの男は口笛を吹きながら屋上の様子を眺めていた。ちょっと楽しそうなのは気のせい……だよな……
「お前、ヤバいとか思わねぇのか?」
「はぁ? 何でよ?」
「だってあの生徒会だぜ? 俺たちだって見つかって粛正されるかもしれねぇし……」
「オレ別に怖くねぇよ。追いかけられるなんて日常茶飯事だしなぁ」
「にっ……!?」
下らないやりとりの最中にも、屋上から悲鳴はあがり続けていた。
「やめろよ! おい、やめろって!!」
「これはまずいぜ……!」
「お願いします……家に健康体の父さんと母さんと姉と妹と姉婿と甥と猫がいるんだ……」
「殿おおおおおおおおおおお!!」
「あっはぁ、もっと殴って下さいぃ……!」
…………。
「大した罰じゃねぇみてぇだなぁ?」
いやそうだけれども。
完全に家族構成が某悪ガキ目線のサ●エさん一家がいたよな? 家族がいるから何だよ健康体とか付け加えてんじゃねぇよ……! 命乞いする気あんのか逆効果だろ……!! あとなんか一人でタイムスリップしやがった奴がいるし……何なんだよ明智が攻めてきたか? 反旗翻しちゃったか? エ●スプロージョンが踊るのか? 本♪能♪寺の変♪ って何言わすんだてめぇ。おい踊るなカバディの男! 腰を振るなカバディの男!!
最後の悲鳴……悲鳴……? については……なんというか……うん……良かったな……
「…………」
「ハァイちょっと待ってちょっと待ってお兄……」
「言わせねぇよ!? 何ラッ●ンに移行しようとしてんだお前!?」
何処からか男が取り出したサングラスを叩き割り、屋上に意識を集中させる。先程までの悲鳴は聞こえず、代わりに無機質な機械音と、何かが喋っている声が途切れ途切れに聞こえるだけだ。耳を凝らすも聞こえない。半ば諦めかけた時、カバディの男が何やら呟き始めた。
「……の違反、又校内での喫煙行為等により、貴方がたを地下生徒会室まで連行させていただきます。そこで裁きが下されるので、まずは私の指示に従って下さい」
凄い。聞こえてるのか。目を丸くしていると、呟きながら男は俺にサングラス越しにウインクを決めた。いい笑顔だ。スペアまで持ってやがったかこいつ。
カバディの男は特に呟かなかったが、屋上から反抗するような声があがる。すると即座に声をあげたらしい不良がフェンスに叩きつけられた。物凄い速さだ。そこへ歩みより胸ぐらを掴む、一人の生徒。生徒会なんだろう、腕に赤い腕章を巻いている。遠目から見ても、眼鏡をかけていると分かった。その生徒会の男は、不良に向かって挑発するような、おどけた声色で話しかけた。今度ははっきり聞こえる。
「……全く、反抗しても無駄だという事が分からないようですね。逆に私の神経を逆撫でするような行為ですよ?」
男はさらに続ける。
「我々生徒会は、貴方がたの様なこの学校に相応しくないゴミを粛正するために存在します。君の次にも、粛正が必要な生徒は山ほどいるんですよ? 例えば……」
眼鏡の男はこちらを見下ろし、ここからでも分かるようにニヤリと笑った。
「あの二つのゴミとか、ですね」
鳥肌が立った。
気付かれていない可能性は低い。そうとは分かっていたものの、やはり見逃してはくれないようだ。生唾を飲み込み、カバディの男へ視線をやる。
「おい、どうする__」
「生徒会じゃねぇのぉ! うぇーい!」
……こいつ、生徒会にダブルピースを送りやがった。
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