複雑・ファジー小説
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- 記録者のアーカイブ
- 日時: 2017/10/28 13:47
- 名前: あおえんぴつ (ID: uUM3T3.W)
−序章*記録*−
___君は見たことがあるだろうか。この異常な光景を。
___君は聞いたことがあるだろうか。ここに在るものの声を。
この地球という惑星に生きている生物を、君達人間は“全て把握している”と思っているのだろうか。
君達は無知だ。膨大な知識を持ち、それを活かす知恵を持っているのに。
君達は無垢だ。命に手をかけ、奪い合う事をしたにも関わらず。
君達は無知だ。自分が考えているよりも。
君達は無垢だ。己が思っているよりも。
なぜなら……
君達はハジマリを知らないから。
君達は僕らの存在を。唯一無二の存在を知らないから。
「ねえ、シン。僕ら記録者は何の為にいるのかなあ?」
「さあね……ぼくにもわからない。ジンは?」
「僕もわからない」
____ ああ。つまらない、つまらない。
この神々しい光に照らされた空間。何処から伸びているのか、上から吊るされている本棚たち。
そこにあるのは無数の本。何冊あるんだっけ? 確か人間に加算すると1年で100潤冊くらいだった気が……。
床なんていうものは当然ない。あるには何処から生えているのか覚えていない、大きな木だけ。
この木の種が地球にも幾つかある。向こうでは神樹なんて言われて、崇められてる。
見える、見える。水瓶を覗くだけで、見える。まるで宇宙のような水面に映るのは、先ほど寝たばかりの
赤ん坊。気持ちよさそうに、ぐっすりと。幸せそうに眠ってる。
____可愛い。愛おしい。
僕らには必要のない睡眠。それがないと死んでしまう、儚い人間。大人よりもか弱い、消えかけのロウソクのような赤ん坊。僕らと違って、生まれた時から無垢で。生まれた時から無知で。そんな存在。
手元の真新しい本を開く。まだ何も書かれていない真っ白なページ。空中に漂う羽ペンを持ち、金色のインクで書き記す。
【4月1日日曜日 晴れ。23時59分59秒に誕生日。予定より一週間遅く産まれる。母親 結衣に似た女の子である】
本を閉じる。白い表紙に、ほんの少し黄色がかかっていく。お日様のような温かさを感じる。
ふふっ。夜に産まれたはずなのにね。この子はお日様を知っているみたいだ。優しく、温かい黄色が好きみたいだ。僕と同じだね。
____さあ、記そう。この子の名前を。
僕は書いた。優しく、丁寧に。あの子のこれからの幸せを願って、表紙に綴った。
【神沢 信】
しん……僕と同じ名前の、人間の女の子。