複雑・ファジー小説

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Another Around
日時: 2017/11/18 22:43
名前: 春夏 (ID: KE0ZVzN7)

その勇者は、異世界に転生して世界を救いハーレムを築いたそうで。
その勇者は、ある日突然特殊能力に目覚め平和を守り続けたそうで。
その勇者は、仲間を失いながらも謎の怪物を根絶やしにしたそうで。


この世界には、勇者がいる。
どれも、人が創り出した勇者だ。
趣味の為、利益の為、私欲の為、他人の為──
様々な理由から、人は《もう一つの世界》を創り出す。
人が描く小説や漫画、《もう一つの世界》であるそれらには勇者がいる。
そんな世界を目の当たりにし、人々は思う。
そんな世界に行ってみたい、と。
そんな勇者を目の当たりにし、人々は願う。
そんな勇者になってみたい、と。
そんな思いや願いは全て、受け手が抱くものだ。
世界や勇者を創り出している語り手は、どのような事を思い、願っているのか。
それは人によって違う。違うが──


今回は、自ら創り出した世界を心から愛している作家の話をするとしよう。
もう一つの世界を愛しすぎて、《本当にその世界に行ってしまった》作家の話を────


* * * * * * * *


【目次】
◇スターティングチェンジ
>>1
◆第一章 マイワールド
>>2

スターティング・チェンジ ( No.1 )
日時: 2017/11/17 20:11
名前: 春夏 (ID: KE0ZVzN7)

──何が起こったんや。
エセ関西弁なのは気にしないでほしい。唐突に訪れた急展開に思わずエセ関西弁が溢れてしまっただけだ。
決して関西弁をディスっているわけではない。むしろ尊敬してる。マジリスペクト、カンサイベン。
そんな事よりも、なぜ俺がエセ関西弁を発動してしまうくらいに驚いたのか、その理由を明かそう。
目の前に広がる、自然豊かな大草原ッ!
いやいや、俺今まで自分の部屋にいたから。白い壁と汚い床と天井に囲まれてたから。
空を見渡せば、飛行機ほどある大きさの鳥が舞いッ!
いやいや、鳥ってあんなにデカいもんじゃないから。恐竜時代にトリップしたわけじゃないんだから。
前を向けば、現実世界では絶対ありえないような赤髪の美少女がこちらを向いておりッ!
いやいや、自慢じゃないが俺は恋愛経験ゼロだから。なんだよ、悪いかよ。普通だろ、良いだろ。
まあ結局何が言いたいかというと、それは全て一言で収まる。そう、すなわちーー


──何が起こったんや。
改めて状況を確認してみると、案外恐竜時代にトリップした説は間違いじゃなさそうだ。
こんな自然豊かな世界、俺が住んでいた東京には存在しなかった。
決して東京をディスっているわけではない。ただついつい本音が出てしまっただけだ。ノープロブレム。
そんな事よりも、なぜ俺がこんなにも困惑しているか、その理由を明かそう。
もう一度見てみよう、目の前の美少女をッ!
やばい、可愛すぎるではないか。その赤髪、美しい、パーフェクト。
もう一度だけ見てみよう、目の前の美少女をッ!
うん、神に匹敵する可愛さではないか。いや、神を超えている。シーイズゴッド。
懲りずにまた見てみよう、目の前の美少女をッ!
はあ、なんて可愛いんだ。今なら俺、犯罪犯しても後悔無い。レッツゴートゥーヘル。
まあ結局何が言いたいかというと、無論全て一言で収まる。そう、すなわちーー


──何が起こったんや。
無限ループって怖いよね、と感想を抱いたそこのあなた。学校は無限ループの象徴なんだぞ。
毎日毎日同じ事の繰り返し。あ、俺は不登校だったから学校は行って無いけど。
決して学校をディスっているわけではない。だが尊敬もしていない。スクールナンテイラナイ。
そんな事よりも、なぜ俺が無限ループに陥っているのか、その理由を明かそう。
もう一度周りを見渡してみようッ!
そこは、ゲームやアニメで見慣れたありきたりなファンタジー世界だった。
もう一度美少女を見てみようッ!
彼女は、俺にとってはあまりにも見慣れた存在だった。
最後に、もう一度だけ世界を見渡そう。
何度見ても、何度現実逃避を繰り返しても、その世界は変わらなかった。
どれだけ思考をループさせようが、目の前の景色、目の前の彼女は変わらない。
もうそろそろ認めざるを得ない。信じられないが。まさにここは──


「俺の書いた──小説の世界だ」


さて、自己紹介が遅れてしまったようだ。
俺の名は楠新多。ラノベ作家をやってた十九歳だ。
そんな俺は今どうやら、自分の書いた小説の世界の中に迷い込んでしまったようだ。
小説の名は、GALAXY。俺が最も愛していた、もう一つの世界だ。


* * * * * * * *


【GALAXY】
売れ出し中作家、楠新多と人気イラストレーターまなりんのタッグによる最新作。最新刊は先日発売の七巻。
一向に平和にならない大戦続きの世界で、ひょんな事から世界を救う勇者に選ばれてしまったベガとアルタイルがそれぞれの思惑を胸に戦うファンタジー。王道を進みながらも独創性に富んだ人気作品。七巻発売時点で五十万部を突破した。
設定が非常に多く覚えることが難しいが、その分読み応えもあり読者を増やしている。

第一章 マイワールド ( No.2 )
日時: 2017/11/18 22:42
名前: 春夏 (ID: KE0ZVzN7)

東京都内のとあるアパートの一室にて。
黒髪の男は、今にも爆発しそうな程張り詰めた顔でパソコンとにらめっこしていた。正直こんな顔でにらめっこをされたら面白さ云々を通り越して恐怖を感じてしまうだろうという顔だった。
嗚呼、何故神は人に感情を与えたのだろうか。無慈悲にも与えられた緊張という感情が、黒髪の男の顔をここまで悪化させていた。悪化という表現は適切では無いかもしれない。緊張のあまり顔を強張らせてしまっているだけだ。悪化ではなく劣化だろう。この理論も多少こじつけではあるが。
一体どうしてこんな夜に、一体どうしてパソコンとにらめっこしているのか。何がそんなに男を緊張させているのか。そういった疑問を抱くのはごく普通の事であり、同じ部屋で一人カップ麺を食していた女は正直に疑問を口にした。
「楠せんせーい。好きなアイドルのライブチケットを入手する為にパソコン前待機してるアイドルオタクみたいな顔してどうしたんですかー?」
そうそう、さしずめ男はアイドルオタクである。
日付が変わるのをまだかまだかとパソコンの前で待ち焦がれ。
脳内では推しメンが踊り歌う場面を想像しニヤニヤしながら。
だがしかし顔はあまりもの緊張で鬼のような強面に変わって。
そう、自分は日付変更を待ちパソコン前待機するアイドルオタ──
「んなわけねーだろ!危ない危ない、変な世界に入り込んでいた……。というか来海沢!人が集中している時に変な事を言うんじゃない!お前には五百円したゴールデン豚骨デラックスカップ麺を与えただろうが」
机の上にある、〈今来てる!黄金時代の豚骨とはまさにこの事!〉と金色で書かれている小さな容器を指差し、男は叫んだ。その容器こそが女がつい先程食べ終えた五百円したゴールデン豚骨デラックスである。後に彼女は「カップ麺の新時代、来ましたね」と神妙な顔でコメントしたという。
誤解を先に解いておくとしよう。男はアイドルオタクでは無い。そして緊張もしていなかったようだ。顔だけで人は判断してはいけないという良い教訓になった。
「あー、あれ集中してた顔なんですねー。あと、私の事はまなりんとお呼びくださいと何度も言ってますし、ゴールデン豚骨デラックスはご馳走様でしたー」
アイドルの隣に立たせてもなんも違和感は無い、むしろアイドルを喰ってしまうようなレベルの美少女は、両手を律儀に合わせながら笑顔で言った。
「文章構成がおかしい事を作家としてツッコんでもよろしいでしょうかねまなりんさーん」
そう。何を隠そう、夜にパソコンとにらめっこする一見友達がいない様に見える第一印象ぼっち男は。
正真正銘、作家である。ついでに一言付け加えると、ラノベ作家である!
「イラストレーターに文章力など求めちゃいけませーん」
「おいやめろ、その言い方だと全国のイラストレーターさんに失礼だ」
そう。何を隠そう、人様の家で優雅に五百円のカップ麺をすするアイドルキラー持ちの超絶美少女は。
正真正銘、イラストレーターである。ついでに一言付け加えると、超大人気イラストレーターである!
「それにしても本当このカップ麺おいしかったー。そうだ、SNSで拡散しよーっと」
スマホを取り出し、ツイ○ターを起動させた超大人気イラストレーターこと来海沢まな。
空になった容器を左手で持ち顔に寄せ、自撮りした。何というか、手慣れている。自撮りのプロという称号を与えてもいい程だ。
ちなみに、○がついている理由は察してほしい。
「『カップ麺の新時代、来ましたね』っと」
わざわざ文字入力の時に声に出す必要があるのだろうか。まあ、無いだろう。
「またSNSか。イラストレーターとしての本業はしっかりこなしてるんだろうな?」
「お任せをー。今仕事が入ってるのは、楠先生だけですからー」
「そうかそうか。じゃあ俺も早く九巻の原稿を仕上げないとな」
「それにしても編集部も鬼畜な事しますよねー。八巻が発売された次の日に九巻を催促するだなんてー。あ、もしかしてさっきの顔はそれが原因ですか?」
「その通りだ。いくらなんでも無茶振りすぎだろ、編集者さんよぉ……」
小説、特にラノベを読んだ方ならお分かり頂けると思うが、本の刊行というのは大体三ヶ月から四ヶ月、長い時でも一年くらいの間は存在する。
しかし、第一印象ぼっち作家こと楠新多は何故か編集者から無慈悲に一言告げられた。
『月連続刊行が決まった。九巻原稿、大変だろうけど頑張ってねハート』
「なーにが頑張ってねハートだ、あんのクソ編集者!連続なんて誰が決めたよ?本書いてるのは俺だよ?俺が本来決めるべきだろ?なあ!」
楠先生は編集者を大変ディスっていらっしゃいますが、これは決してこの世界で日々奮闘している編集者様方全てをディスっているわけではありません。何卒ご理解を。
某怪獣映画に出演しても違和感は無いと思われるほど暴れ狂う新多を眺めながら、まなはもう一つSNSで投稿した。『担当作家、ゴ○ラ化なう』と。
「別に良いじゃないですか。先生ならできますよー」
「何を根拠に?」
「作品愛ですよー」
作品愛。どれだけその作品を愛し、どこまでその作品に捧げられるか。それを表す数値、それこそが作品愛ッ!
大げさに言い過ぎたが、要約すれば作品に対する愛の事だ。説明するまでも無い。
まなは知っている。新多がどれだけ自分の書いた作品を愛しているか。
一ヶ月前のことだ。八巻の挿絵を見てもらおうと家に押しかけた際にまなは見てしまった。どこで揃えたのか、作品に出てくるキャラの衣装を着て、化粧までしてキャラになりきっている新多の姿を。
男性キャラならば許容範囲だっただろう。だが、新多がなりきっていたのは女性キャラだった。思わず通報してしまい警察が来てしまったのが、まさに今から一ヶ月前のことだった。
まだまだエピソードはある。作品に入り込みすぎて日常生活で作中のキャラの名前を叫んだり、技のポーズを突然構えたりなどなど。
小説を読んでみても、一目で分かる。愛がこもっている文章は、非常に活き活きしているのだ。特に新多の場合、読んでいるとまるで本当にその世界にいるような、そんな感覚さえするのだ。
何故そこまで作品を愛せるのか。その答えは、楠新多はそういう人間だから、という抽象的なもので解決してしまう。それ以外に説明のしようがないからだ。
「たしかに俺は自分の小説を愛している。だが、だからこそ気に食わん!一ヶ月だけでは、あの世界は完成しない。編集者ももう少し俺の事を理解してほしいもんだな」
「先生の事を全部理解してる人なんて、この世界に一人しかいませんよー」
「うーん、まあそうっちゃそうか」
二人の間に、笑いが生まれた。
新多の全てを理解しているたった一人の人間。その話題には、それ以降二人が触れることは無かった。


* * * * * * * *


ふと、新多は一つの事を思った。
作家なら、いや、自分だけの世界を創っている人間ならば一度は思った事があるだろう、一つの夢を。
「一回でも良いから、俺の書いた小説の世界に行ってみたいもんだなー」
「これまた唐突ですねー」
自分の創った世界へ行く。それは、夢であり儚い妄想だ。
決して叶う事はないが、それでも諦めるわけにはいかない空想上の夢。
新多は心の底から小説の世界へ行きたいと願っている。だが、それと同じくらいに無理だという諦めも存在する。所詮現実は現実、創作物は創作物。どれだけ願おうと、それが揺るぐ事はない。
「良いですね、それー。私も行ってみたいなー」
「お前なんかそこら辺の魔獣に殺されるオチだ」
「ひっどーい。まあ、そんな事ありえるわけないんですけどねー」
ありえるわけない。その通りだ。
小説や漫画、アニメにおける異世界転生は絶対に起こらない。
自動車に轢かれても、人を庇って死んでも、神様の気まぐれでも、そんな事は絶対に起こらない。
それだけではない。怪物が街を襲う事も、異世界から美少女がやってくる事も、そんな事はあり得ない。
絶対に起こらないからこそ、人は小説や漫画などを生み出す。
こんな世界があったら良いのにな、という願望の表れが、小説や漫画なのだ。
「ああ、ありえるわけない。でも、大丈夫だ。俺の描く世界は、俺の心の中にいつもある。俺はいつだって、小説の世界へ行けるんだ」
「なんですか、中二病ですかー?」
「ち、ちげーよ!本当に世界へ行けなくても、心の中ではいつでもその世界に行けるって事なんだ」
そうだったとしても。
もし、本当に自分の描いた世界へ行けるのだとしたら。
自分はそこで何を思い、何をしていくのだろうか。
叶わない夢が、叶ったとしたら。
──叶うのだとしたら。


* * * * * * * *


「……叶っちゃったよ、今」
過去の記憶は、こうして今の記憶へと繋がる。
経緯は分からないが、イラストレーターのまなと会話をしているうちにいつの間にかこの世界へ来ていたようだ。
あり得ない。だが、あり得ている。
ここは本当に、本当の本当の本当に……


「ねえ、そこのアンタ。こんなとこで何してんの?」


ここでようやく新多は、目の前にいる美少女の事を思い出した。
肩まで伸びる炎のように赤い赤髪に、見惚れてしまうような程の美しい顔。
身に付けている衣装は、イラストレーターまなが頑張って考案してくれた白金の鎧だ。
もし本当にここが、【GALAXY】の世界なら。
「お前は、アルタイル-スコーピオンか?」
本作のヒロインである彼女の名を口にした途端、彼女の雰囲気は変わった。
アルタイルであるはずの彼女は、顔を下向け。
一瞬にして新多の目の前まで近付き。ちなみに新多は超絶美少女に近寄られ顔を赤くしているが。
何故か自分の名前を知っている謎の男を前にして。


「え、なになに?私ってそんなに知名度あったの!?私もしかして有名人?ねえねえ!」


──やけに興奮して突っかかってきた。
この状況下で、新多は冷静になり苦笑混じりに一言呟いた。
「そうだった……。こいつの設定……残念美少女だった……」


* * * * * * * *


【楠新多】
くすのきあらたと読む。男。
三年前にラノベ作家になった。第一作目『君に贈る殺人予告』でこの小説がすごい!銀賞を受賞。第二作目『GALAXY』も順調に売れている。
過去に両親を失っているため、今は一人暮らしをしている。
握手会の時に女性ファンが意外に多く駆けつけて感動のあまり号泣した黒歴史持ち。


第一章 マイワールド ( No.3 )
日時: 2017/11/21 21:12
名前: 春夏 (ID: KE0ZVzN7)

「…………遅い」
豪華とは言えないが貧相とも言えない、いわゆる普通の小屋の中で、薄水色の髪の毛を持ち合わせた青年が不機嫌そうに呟いた。
窓が一つしかないため明かりが取り込まれず、若干暗めの小屋内で、一人の青年と一人の少女が向かい合わせに椅子に座っていた。
「アルタお姉ちゃんも頑張ってるなのです。ベガお兄ちゃんはアルタお姉ちゃんを信用していないなのですか?」
「アクエリアス、アイツは信用しちゃダメだ。痛い目見るぞ」
「えー?アルタお姉ちゃんは良い人なのですよー?」
いつか痛い目を見ると忠告を促す、薄水色の髪の青年、ベガ-ライラ。
青年に顔を近づけて頬を膨らませた、青色の髪を揺らす幼い少女、サダルメリク-アクエリアス。
二人はこの小屋で、とある人物の帰還を待っていた。
二週間前、北大陸周辺に出没している魔獣を一人で倒すと言い切って出て行った、アルタイル-スコーピオンの帰りを。
「アイツ、今頃どこで何してんだろうな?」
「きっとどこかで道草食ってるに違いないなのです」
「決まりだな。帰って来たら一発飛ばしてやる」
拳をギュッと構えたベガ。
それを笑いながら見ていたサダルメリクは、木で出来た机の上に上体を寝かせて、そっと呟いた。
「早く帰ってきてくださいなのです、アルタお姉ちゃん……」


* * * * * * * *


「私という人気者に導かれた哀れな君にお願い。なんか食べ物くれ!ください!よこせ!さっさとよこせ!」
「それが人に物を頼む態度か!やばいぞ……こいつを創った過去の自分を猛烈に殴り飛ばしたい!」
仲間二人が帰還を待ち望んでいるなど知る由もなく。
アルタイルは草原で出会った男に食べ物を求めていた。
確認しておこう。アルタイルはヒロインだ。
「ん?創った?ドユコト?」
「あー、良い良い。言ったらめんどーなことになりそうだから」
「いいじゃんいいじゃん、教えてよー」
口が滑ってしまった、と後悔をする新多。
だが今は後悔している場合では無い。
GALAXYの世界になぜか放りこまれ。
初エンカウントが作中一のドアホで。
ただでさえ困惑している身だ。今は一旦どこかで休息したい気分だ。
ここはアルタイルに素直に事情を説明して、彼女が住んでいる小屋に連れて行ってもらう事にしよう。
新多の思考はまとまった。
ちなみに、作者に好き勝手言われているがアルタイルはヒロインだ。
「えーっと、俺はこの世界を創り出した男なんだ。別の世界で本書いてたんだけど、その本の世界がここってわけ。分かる?」
「つまり食べ物くれるんだね。さあ早く!私は空腹で死にそうだ!」
「つまりの使い方分かってんのか!?」
やはりコイツに話は通じない。今はとりあえずこのアホを誘導して小屋まで行こう。
新多の思考は再び纏まった。
再度確認するが、こんなアホでもアルタイルはヒロインだ。
「俺、とりあえず身を休める場所が欲しいんだわ。お前の小屋まで案内してくれない?」
「なんで私が小屋に住んでるって知ってるの!?エスパー!?」
「この世界創ったの俺って言っただろうが!」
「そうだっけ?お腹空きすぎてよく分かんないや」
なぜ初エンカウントがコイツなのか、と。
もうちょっとマシなやつに出会っていたかった、と。
心の中で不平不満を吐き散らしながらも新多は冷静力を保ち続けた。
クソボロ言われているが、アルタイルはヒロインだ。
「そんなにお腹空いてるんならなんか食えよ……」
「残念。持ってきた食糧、昨日で全部尽きちゃったんだよね」
「持ってきた?え、あれ、お前は今ここで何をしてんの?」
今更ながらに疑問が浮かんだ。
そもそも、こんなだだっ広い草原でこのアホは何をやっているんだ、と。
「私?私はさっきまで北大陸の魔獣を討伐してたよ。ちょっとハプニングあって長引いちゃったから食糧が尽きちゃった」
北大陸の魔獣を討伐した。
新多はこの言葉を聞いた瞬間、全身に鳥肌が立った事を感じた。
アルタイルの発言は、ついこの前まで頑張って執筆していたGALAXY八巻の内容にそっくりだ。
北大陸の魔獣を単独で討伐しに出かける、最新刊。
つまり、この世界は第八巻が終わった直後の世界という事になるだろう。
「どうりでベガやター公がいないと思った」
「え、ベガとターちゃんの事も知ってるの?なんで!?」
「もう説明するのメンドクセー……」
何はともあれ、一つの有力な情報を得られた。
八巻直後という事は、ちょうどアルタイルは小屋に帰っている途中だったという事になる。ついていけば自然に小屋にたどり着く。
そこで休憩して、今後の計画を立てる事にしよう。
最終的に思考を一つにまとめあげた新多は、なんでなんでと目の前まで迫り聞いてくるアルタイルの首元を掴んで捕まえた。
「とりあえず、まずはお前の小屋まで連れて行ってくれ」
「そんなこと言われても、もう本当にお腹が……」
アルタイルが言い終わる前に、腹の虫が派手に鳴り響いた。もちろんアルタイルから発せられた音だ。
このままでは何も進展が無い。
仕方なく、新多は一つの代案を立てた。
「俺は何も持ってない。だから、その辺の魔獣を倒して焼いて食え。そうすれば腹は膨れるだろ?」
「でも力がでなーい……」
「……はあ。じゃあ俺が魔獣を倒してくるから」
もちろん勝率など無いが、今はそれが一番良い選択だろう。
改めて草原を見渡すと、そこは今までの世界とは全く別物だった。
どこまでも続く真緑の大地。
吸う風は、澄み渡った味をしていた。
あまり実感が湧いていなかったが、今こうして改めて見渡すと、確信する。
「俺、本当にGALAXYの世界に来たんだな」
その顔には、笑みが浮かんでいた。
「さーて、早速魔獣を探すとするか」


* * * * * * * *


【アルタイル-スコーピオン】
GALAXYに登場するキャラクター。本ヒロイン。
相当なアホだが、その実力は確かなもの。こう見えて意外に毒を使う。というか毒が特殊能力。
アルタイルという名は本名では無く、幼い頃からの友達ベガが付けてくれた名前である。この辺のエピソードはまた時間があったらぼちぼち。


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