複雑・ファジー小説

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純血の神臓
日時: 2017/11/17 15:27
名前: 雛蝋 (ID: 9uo1fVuE)  

〜零日譚〜


全ては月の下。

耀かしき生命の息吹。
それは許されざる罪。
愛しき純血の忌子。

貴女に贈る血の煌めきに
最大の誠意を籠めてーーーー



ーーーーー今宵も餌物を喰らう。

Re: 純血の神臓 ( No.1 )
日時: 2018/02/15 16:10
名前: 雛蝋 (ID: UruhQZnK)

1 明日を待つ


彼女は焦っていた。
いくら自分の戴冠式でも、さすがに間をあけすぎた。

夕闇が徐々に空を支配していくのを背に、天界の長ファスタレイスは歩く。
本当は全速力で走り向かいたいところだが、そうはせず、あくまで優雅に------若干早歩きだが------進む。
勿論、それには理由があった。
ファスタレイスはそっと己の腹を撫でる。
それは大きく膨らみ、前に張り出していた。
二人目------いや、三人目の子供。
先の戴冠式では魔術薬によって腹を縮ませ民衆に隠してはいたが、既に臨月であり、お産も近い。
そんな中戴冠式を決行したのにも理由があった。
実は、三か月前に行う予定だったのだ。
しかし本人の妊娠がわかり、しばらく式は見合されていた。
当時想定していたよりもお産の時期が遅くなりそうだったため、やむを得ず決行したのだ。
その時は妊娠など思いもよらなかったが、今となっては待ち遠しい。

夜闇が街を黒く染め終えたころ、ファスタレイスはようやく目的の場所へとたどり着いた。
約束の時間より二時間も遅れてしまった。
数歩躊躇い、そして決心したように戸を叩いた。
ゆっくりとドアを開けると、薄暗い子供部屋が目に入ってきた。
その部屋には玩具が散乱しており、出る前の綺麗な部屋の面影はない。

「 スターティア・・・? 」

ファスタレイスはそっと我が子の名を呼んだ。

部屋を出る前は満面の笑みで玩具を手にしていた彼女の後ろ姿は暗く、得体の知れない寒気が襲う。

「 スターティア! 」

先程よりも強く言い放つと、ようやくスターティアはこちらを向いた。
白いワンピースも、微かに金の混じった黒髪も、宝石のような冷たい赤い目も、何も変わらない。
ただ------

「 ・・・かあさま 」

その顔は気持ち悪いほど感情を感じさせない、絵に描いたような無表情だった。
------まずい。

「 ば あ か あ ぁ ぁ ぁ ! ! ! 」

瞬間、手に持っていた玩具が弾け、部屋全体を紫色の靄が立ち込めた。
それは徐々に暗みを増していき、視界は完全にふさがれている。
ファスタレイスは何もせず、ただ我が子に思いをはせる。
昔はここまで濃い靄ではなく、泣きじゃくるスターティアの姿が見えていたのに、今は泣き声すら聞こえない。
明らかに普通とは違う方法で子の成長を感じつつ、ただただその場に立ち尽くす。
その気になれば靄を消すことなど造作もないが、ファスタレイスは何もしない。

そのうち靄は消え、もはや原型を留めないお気に入りの玩具を握りしめたスターティアの姿が現れた。
泣き疲れ眠ってしまったようだった。
ファスタレイスはそっとスターティアの頭を撫で、慣れた様子で魔法を唱えると、スターティアとまるで新品のような玩具に触れ、続けて転移魔法を発動させた。

待つ者のいない我が家へと。


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