複雑・ファジー小説
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- 死にたがりの自転車
- 日時: 2018/05/21 20:15
- 名前: 芭琉 (ID: b9FZOMBf)
小学校を卒業し、中学生になると同時に買ってもらった僕の新しい自転車。中学校、高校を卒業し、大人になるまで乗ると約束して母に買ってもらった朱色の自転車。
この時の僕は明るいであろう未来へ向け夢を膨らませ、毎日をそこそこに楽しんでいた。これから何がおきるのかも知らずに……
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はじめまして、芭琉です。
ゆっくりゆるーく更新していく予定です。
感想、意見、誤字などの指摘お待ちしております。
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- Re: 死にたがりの自転車 ( No.1 )
- 日時: 2018/02/12 00:08
- 名前: 芭琉 (ID: b9FZOMBf)
file no.1 Diary
男の子がつけていたであろう日記を拾った。ごみ捨て場の近くに落ちていたので、持ち帰って処分しようと思っていた。家に帰り捨てようとしたら、日記が私に「中を見てくれ」と話しかけてきている気がした。そのせいか、私はその日記を読みたいと思ってしまった。
もしかしたら持ち主が誤って落としてしまい今必死に探しているかもしれない、ということに気づいてしまい、申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになる。それなら、中を見て彼の情報……名前でもいい……それをもとに持ち主に返そう、と思っていた。
しかし、私はその日記を読んで変なことに足を踏み入れてしまったな、と思ってしまった。
今から紹介するのが、その日記の一部である。
3/2 久しぶり、今日も二人は喧嘩をしてたよ。母さんは泣いていたよ。父さんはお酒を飲んで酔っていた。僕はそんな二人の話を黙って聞いていた。もう、元には戻れない。どんなに頑張っても無理だ、と僕は思う。全部僕が悪い、僕のせいだ……。僕が母さんを怒らせてばかりでいるから父さんもそれに疲れて……。君もそう思うでしょ?
母さんに「あんたさえいなければ」と言われた時、僕は笑いをこらえることができなかった……声を出して笑った。涙なんて出てこなかった。出てくるはずがない。分かりきっていたことじゃん?僕のせいで全部狂ったんだよ……
3/5 やっぱり君は優しいね。僕は悪くないって言ってくれるのは君だけだよ。今日も酔った父さんに殴られたよ……今日も怒られた。一体僕があの人に何をしたと言うのか。よく分からない……
この日記のことが母さんにバレそうになった。危なかったよ……。これは僕と君だけのもの、僕たち以外は見ちゃだめなのに……。どちらかが死んでもこの日記は終わらない、公開されない。……そうでしょ?これは君が決めたこと、だから僕は従っている。君も色々と大変だとは思う。それはちゃんと理解しているつもりだよ。僕の言えることじゃないけど、もっと書いてほしいな……。できれば毎日書いてほしい。じゃなきゃ僕の一人言みたいになっちゃうじゃん?
それじゃあ、また今度
3/7 両親が離婚することになったよ。やっとかよって感じは確かにするけどね……。たぶん僕は母さんにひきとられる。将来のことを考えるとそれが正しいんだと思う。これでもう殴られなくてすむのかな……。この日記の内容も少しは明るくなるのかな?
君もいつか、救われると信じて……
4/13 随分遅いなと思って君の家に電話してみたの。君、自殺してたんだね……なんで? 親に殴られてるって話も全部嘘だったんだね……。君のご両親が教えてくれたよ。殴ったことなんてない、殴られるのはこっちだ……と。悪者は君だったんだね。僕に嘘をついて楽しかった?親に見放されている僕の話をきいていて、本当は笑っていたんでしょ? 嘘もつき通せば真実となるって言うもんね。ただの自作自演か……直接あって話すことがあまりなかったから、すっかり騙されてたよ。でも、僕は君との約束を守るよ。君みたいに嘘はつかないしこの一冊が終わるまで僕は死なない、一人で書き続ける……
4/14 最近自転車に乗ることにはまったんだ! 自転車に乗っていると嫌なことが全部忘れられる。だからね、この日記のことを「死にたがりと自転車」って呼ぶことにしたいんだけど……いいかな? ってきいても、君はもういないし……このノートのページが無くなる頃には、僕も君もこの世には存在していないはずだ。そうでしょ?
- Re: 死にたがりの自転車 ( No.2 )
- 日時: 2018/02/12 00:04
- 名前: 芭琉 (ID: b9FZOMBf)
Diary②
8/20 もう無理……疲れちゃったよ。教師は口を開けば「意識が足りてない」だの「受験生がそんなんで良いのか」だの……本当に意味が分からない。確かに受験生だけどお前らには関係ないだろ……。
母さんは酒に溺れ、たくさんの男と関係を持ってるし、家にも学校にも居場所が無い。僕のいるべき場所ってどこなの……?
8/30 母さんに彼氏ができた。本当かは分からないけど、他の人との関係は絶ったと言っている。優しそうな人だと思った。ニコニコ笑っていて……悪い人ではなさそうだ。裏があるのかもしれないけど、一方的に悪いやつだと決めつけてしまうのは良くないし、母さんに申し訳ない。しばらく彼のことを観察しておこうと思う。
9/14 良い人なわけがなかった。あいつは無職だった。一日中家にいて酒を飲み、気に入らないことがあると八つ当たりをするクズ。あいつのことを無視しただけですぐに怒りだし、ビール瓶を投げてきた。それを避けるともっと怒りだす。殴られた。どれくらいなぐられたのかは覚えていないが、不思議なことに痛みは感じなかった。
僕の胸の中にも頭の中にも、やっぱりなという想いしかなかった。
9/28 あいつは僕だけじゃなく、母さんにも手をあげだした。母さんはそれが僕のせいだ、と言う。僕は何もしていないのに……受験もあるのに……。どうしたら良いのか、もうわからないよ。
10/5 もう無理。何もしたくない。疲れちゃったよ。
この日記、まだ続けなきゃだめ……?
10/31 ハロウィンだね。僕に弟ができたらしい。もう少しで生まれるんだって。誰の子なんだろうね……。
11/2 自転車しか信用できない。みんな死んでしまえ。
11/4 僕が悪かったです。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい生きててごめんなさい。
12/1 冬だね。こっちの地域ではあんま雪は降らないから自転車に乗れるんだ!
でも、帰るのが遅いって怒られた。悪いのは僕、ごめんなさい。
12/8 弟が生まれた。受験までもう少し。この調子でいくと、高校にはいっても日記は続きそうだ。
12/13 ごめんなさい。ちゃんと責任はとります。
12/19 僕のせいだ
12/23 君は今どんな気持ちだい?
12/24 母さんがあいつと結婚した。今日からあいつのことを父さんと呼ばなきゃだめだ、と言われた。気持ち悪い……あんなやつのことを父さんとは呼びたくない。
12/25 暴力は躾。悪いことをした僕に指導してくれている。感謝しなきゃ。
12/26 もうそろそろ限界かな……。僕は勉強をしなくちゃいけないのに弟の面倒をみるとか……。泣かせたら、また殴られるし。どうしたらいいの?誰か教えてよ。
12/28 そろそろ僕の誕生日だ。その日は自転車でどこかに行こうと思っている。長期休業も始まったことだし、何をしようが僕の勝手だ。
12/31 今年も今日で終わりだ。
1/3 明日は自転車で隣町まで行くんだ!帰ってきたときにあいつがいないことを祈り……。
1月3日でこの日記は終わっていた
「僕も君もこの世には存在していない、きっと拾ってくれるだろう」の二つの文章が気になった。つまり、彼……彼らはもう死んでいるということか……? そのノートの最後のページまで一応パラパラめくってみることにした。最後の方にメモが挟んであることに気づいた。その紙には……
- Re: 死にたがりの自転車 ( No.3 )
- 日時: 2018/05/17 23:05
- 名前: 芭琉 (ID: b9FZOMBf)
file No.2 僕
①君と僕
僕たちの出会いは一言で言うとすると「無」だったね。
偶然君の日記を拾って、中を読み、そこから始まった……。
どうして君はこんな日記をつけていたのか、僕は知りたい。勉強の息抜きとして? 日頃の疲れをとるため? よくわからないや……君はよくわからない人だ。特徴がないだけなのか? というかどうして君は一人で書いていたものを僕と二人でやろうと思ったの? 同じタイプの人間に見えたから? 顔や体の痣を見て同情した? 君はそんな奴だったのか……それとも僕と仲良くしたいと思ったから? 僕は日記以外の君を知らない。でも、君もそうでしょ? 世間一般的に見ると君も僕も同じ……可哀想な人。君が嘘を書いていないのであればだけどね。
人間はみんなクズだからね。息を吸うかのように嘘を吐き、笑顔で人を傷つけ、死に追い詰める。そのくせして、死んだらころっと悲劇のヒロインを演じだす。汚らわしい。僕はそんな人にはなりたくない。そもそも、僕は追い詰められる側の人間だ。実の親にも、教師にも、同級生にも。だからそんなことを気にする必要なんてない。
君が僕のことをどう思っているのかはわからない。わからないというより知らない、怖くて知ろうとしていない、の方があっているのかな? でも、僕は君が好きだよ。仲良くしたいと思っている。君のことをもっと知りたいよ。君がいい人なのであれば……嘘を書いていないのであれば、僕たちは絶対に仲良くなれると思う。たった一人の友達……君を友達と呼べるのかどうかはよくわからない。でも、最初で最後の、初めて自分の気持ちを素直に言える相手。君も僕のことをそう思ってくれているのかな? いつか教えてほしいな……。
話は変わるけど、僕は自転車に乗ることが好きだ。自転車であれば何でもいいというわけではなく、僕の自転車が好きなんだ。朱色で、茶色のかごがついた僕の自転車。あいつに何かされても、学校で無視されても、家から追い出されても……自転車に乗っていると全部忘れていられる。僕の家族のようなものだ。買ってくれたのは母さんだ。ちょうど三年前の三月に買ってくれた。あの時の母さん、父さんはまだまともだった。何であんなふうになってしまったのか……どうして離婚しようと言い出したのか……全部僕のせいなのかな?
あの頃の僕は離婚なんて絶対にしないと思っていた。するわけがないって勝手に思い込んでいた。仲のいい家族だと僕は思っていた、そうだと信じ込んでいた。街で父さんが母さん以外の女の人と歩いていた時、家に帰ってこなかったりしていた時、僕はその現実を受け入れたくないがために見て見ぬふりをした。気のせいだということにした。だからあんなことになった。全てが壊れた、ばらばらになった。父は出ていき、母は狂った。
でも、それだけじゃないはずだ。母さんはそれに気づいていなかった。きっと、僕がいつも母さんを怒らせていたからだ。言うことを聞かないで人に迷惑をかけていたからだ。父さんはそれにイラついていたはずだ。最初のうちは我慢していたが、もう我慢できなくなって爆発してしまった。
僕がいなかったらこんなことにはならなかった……全部僕のせいだ。死ねばいいのに……僕みたいな人間なんて死ねばいいのに。あぁ死にたいな……
こうして僕は死にたがりになった
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