複雑・ファジー小説

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私は一年前に君と××をした
日時: 2017/12/03 13:24
名前: yukine (ID: mM51WarG)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi

───最低だ───

今日、そして今、私は彼の葬儀に来ている。

名前は蓮斗、佐々木蓮斗。

病気だった。

病名なんて覚えていない。

そんな事よりも彼が死んでしまった事の方が重要だ。

彼は、とても優しい人だった。

抱えてる事も零さない人だった。

そんな彼が、病気だったなんて。

私は気付けずに居た。

遺影なんていつ撮ったのか。

いつもの笑顔がそこに写っている。

悔しい。どうして?わからない。


「椏優梨さん?葬儀終わりましたよ?」

「うん…終わった。全部、気付けずに」

彼の妹が私を呼んだ。

私がそう言うと彼女は俯いてしまった。


私は火葬には行かず家に帰った。

家にはまだ彼の匂い。

私は今度は盛大に膝から崩れ床に手をついて泣く。

あの匂いが忘れられない。

優しい、爽やかなあの匂いが。

今にも「おかえり。」って言葉が
まだ聴こえてきそうなのに。

居ないんだ。


私はご飯も食べずに
風呂に入ってそのまま寝た。



『ピリリリリリリリリ』

朝だ。

目覚まし時計の音が大きく部屋に鳴り響く。

私は彼の居ないベッドから出て、
彼の居ない洗面所へ行って、
彼の居ない洗面所で歯を磨いて、
彼の居ないリビングへ行って、
彼の居ないリビングの電気を点けて、
彼の居ないキッチンへ行って、
彼の居ないキッチンでご飯を作って、
彼の居ないキッチンでメモ書きを見つける。

それを開け、読む。


『椏優梨へ』

今、君は何をしていますか?

読んでくれているよね。

僕は天国にいるけど、
君を見守っています。


蓮斗



私は「それだけか」とメモ書きをポケットに入れた。

そして、用意を終わると家を出る。

鞄の中身を確かめるとまたメモ書き。

「またか」なんて思いながらまた読む。


『椏優梨へ』

今は仕事へ行っているところかな?

右左、気を付けて見て通勤するんだよ。

蓮斗



私はまたそれをポケットに入れると会社に着いた。

「おはようございます。」

私が挨拶をしても誰1人として私に目を向けない。

ただ書類かパソコンと睨めっこしている。


私は席に着くとパソコンを立ち上げ、
またメモ書きを見つける。

こんな所にまで…



『椏優梨へ』

仕事お疲れ様。

僕がいなくても頑張れ!

大変かもしれないけど、まわりに負けるな!


隣の珈琲屋に息抜きに行ったらどう?

僕、あそこの珈琲好きだよ。

でも、それを思う度にやっぱり
椏優梨の珈琲が一番だって思う。

最後に飲みたかったな。


蓮斗



「………」

私はそれを無言でポケットに入れて、
仕事を再開した。

香水の匂いがする。

誰だろう。むせるんだけど。


私は仕事を直ぐに終わらせると、早帰りした。

珈琲店へ足を運び、珈琲を頼む。

この店は一品頼む度に代金を払うらしく、
私は230円ぴったりで店員さんに払った。

美味しい。

彼は、この珈琲が好きなのか。

私は少しずつそれを飲み干した。

珈琲店を出ると人通りの多い坂道に来る。

その中の花屋へ行って、

花を見ていると小二くらいの青いワンピースを着た
女の子が桃色の秋桜コスモスを見ながら立っていた。

「どうしたの?」

私が女の子に尋ねる。
保護者も居ないしお金も持っていないようだ。

「お母さんに…お花あげたくて。」

と、女の子は秋桜を指指した。

「そっか。じゃあ、これあげる。」

「…え…?」

私は女の子に1000円、300円の
秋桜より700円多く渡す。

女の子は私を驚いた目で見ている。

「これで、秋桜を買って良いよ。
あとの700円は好きなものを買いなさい。ね?」

「…!ありがとう!」

女の子は秋桜を2本、持ってレジへ行くと
お会計を済まして笑顔で戻ってきた。

どうして2本なんだろう…

すると、女の子は私に秋桜を一本くれた。

「ありがとう。」

私は微笑んで女の子を撫でると、
女の子は外へ行ってしまった。

外にはお父さんだろうか、男の人が
「秋桜を買ったのか?お母さんにあげような。」
と女の子と手を繋いだ。

鞄の中が少しだけ見えている。

薬に、女の人の写真に、女物の衣服。

きっとお母さんは病院に居るのだ。

2人は病院へと向かって行った。

私と女の子は互いに手を振りながら。


私はオレンジ色の朱い光に照らされながら、
秋桜と鞄を持って家に帰った。


中に入るとやはり彼の匂いがまだしている。

彼の写真の前に秋桜を置くと、

『プルルルルルル』

固定電話が鳴った。

私は受話器を取る。

「椏優梨さん、大丈夫ですか?」

彼の妹さんだ。

「大丈夫大丈夫!私の事は気にしなくていいよ。」

と私は言う。それから少し話して切った。

そこで私は小物入れにメモ書きが
入っているのを取り出す。



『椏優梨へ』

今元気にしてる?

僕は体中がとても痛いです。

でも君にそんな姿は見せられない。

天国から電話できれば良いのにな。


蓮斗



字が震えているのにすぐに気が付いた。

こんなになるまで気が付けなかった。

私は写真立てを手に取る。


写真にはピースサインで私たちが写っている。

背後には大きなクリスマスツリー、白い雪。

その日はクリスマスで雪が降っていたんだ。

夜だからとても寒くて…

『コトン』

何かが落ちる。封筒だ。

私はそれを開け、中身を読む。




『椏優梨へ』

これが最期の手紙です。

僕は、貴女に出会えて本当に幸せでした。

僕と一緒に居てくれてありがとうございました。


貴女は、僕と初めてキスをした時のことを覚えていますか?

とても寒い、クリスマスの日でしたね。

実はあの時、プロポーズしようと思っていました。

でも、それができませんでした。

何故か。それは、死ぬことが分かっていたからです。

怖かった。

ここで幸せになったところで、
その幸せは僕が死んだ瞬間崩れ散ってしまう。

僕は、プロポーズ出来ずに君とキスをしました。

キスは甘酸っぱい味がするらしいですが、
僕にはそれが感じられませんでした。

匂いです。

甘い匂いがしたんです。

それは紛れもなく貴女の匂いでした。

味じゃなくて、匂い。

きっとこれは最初で最後のキスなんだって、
僕は分かっていました。

だからこそ僕は特別なように感じることが出来たんです。

実際に特別でした。

これが幸せなんだ…って。


まだ指輪は何処かにあります。

でも、それはすぐ目の前にあります。

貴女にはそれが見つけられるはずです。

ねえ、今言っていい?

今、言わないと、もうチャンスはないんだ。

明日が僕にはないんだ。

いつ終わるかわからないこの命の最後に、

これだけ言わせて。





僕は、最後まで君を愛していました。







そして、これからも愛し続けます。






君が誰かと幸せになって、







僕の事を忘れてしまっても、







おばあさんになってしまっても、









その気持ちは変わることはありません。


そして、


僕は、貴女に謝らなければいけない事があります。

それは、病気の事です。

僕は、病気の事を貴女に打ち明けられませんでした。

本当にごめんなさい。






今までありがとうございました、















僕の初恋の人。













佐々木蓮斗 12/22 10:8





不思議と涙が大粒にポロポロ頬を流れた。

泣かないようにしてきたのに。

彼もそうだったのだろう、
涙の跡がインクに滲んでいる。

そして、封筒のなかから白いハンカチを取り出した。

ハンカチをそっと広げていく。

そこには、指輪があった。

小さく輝くダイヤモンドが付き、
裏には「椏優梨」と刻まれている。

「こんなの…こんなの…」

あんまりだよ。


私はそれを指にはめ、涙を流す。

最後に知った彼の思い。


彼は悪くない。

私が気づかなかったのが悪いんだ。


もう一度だけ、時間を返してよ。

二人の時間を返してよ。

まだ彼と居たいの。

ねえ、神様はどうして彼を死なせたの?

ねえ、ねえってば。

私は、一人残されるの?

そんなの、あんまりだ。


「泣いてばかりいないで、笑って。」

手紙には続きがあった。

封筒の中にまだあったのだ。

私はそれを読み、涙を拭う。









笑わなきゃ。












彼の為に。
















彼に天国で安心してもらう為に。

























最初で最後のプロポーズ。














最初で最後の彼とのキス。











私も、貴方と出会えて幸せでした。


















その愛を受け止めるよ。





















泣くよりも笑うよ。
































ありがとうございました、




































私の初恋の人。





















作者___yukine___

『私は一年前に君と××をした』完


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