複雑・ファジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 今夜、彼も彼女も浮気する
- 日時: 2018/03/24 01:49
- 名前: えびてん (ID: cdCu00PP)
はじめまして!
これはタイトル通り恋愛ものです。
駄作になっちゃうと思いますが、読んで頂けたら嬉しいです。
登場人物↓
#黒川 楽(くろかわ らく) ♂
容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能、さらに大手会社の御曹司。
とモテる要素が揃いに揃っている事からかなりのナルシスト。
お調子者で趣味は女遊び。
腹黒だが表向きは爽やかな好青年で人気が高い。
弥琴の事は自分のステータスとして認識。
#佐倉 弥琴(さくら みこと)♀
楽同様すべての能力が備わっておりかなりのナルシスト。
男遊びがすごく1番でなければ気が済まない。
楽と同じように腹黒だが表向きは常に笑顔で、優しく可愛い天使。
楽のことをステータスとして認識。
#鳴海 千和(なるみ ちわ) ♀
楽や弥琴よりも1つ年下の大学生。
明るく優しい性格だがバカで世間知らず。
瞬に好意を抱いているが踏み出せずにいる。
唯一楽のことをカッコイイと思わない人物。
#汐谷 瞬(しおや しゅん) ♂
楽と弥琴と同じゼミの好青年。
誰にでも優しいおっとりとした性格。
弥琴に好意を抱いている。
#黒川 麦(くろかわ むぎ)♂
楽の弟。楽とは違い一途でしっかりしている。
いつも兄の尻拭いをする羽目になる。
千和と同じ年。
#小宮 天(こみや あまね)♀
楽や弥琴と同じ学年。
クールな性格をしている。
弥琴が唯一本性を出している友達。弥琴とは中学からの仲。
#佐倉 理人(さくら りひと)♂
弥琴の兄。有名な大学病院で外科医をしている。
一見クールに見えるが弥琴を異常なほど溺愛しすぎている。
【 内容 】
#01 【 猛獣と小型犬 】
#02 【 嫉妬とかいう面倒臭いものは 】
#03 【 猛獣vs猛獣 】
- Re: 今夜、彼も彼女も浮気する ( No.1 )
- 日時: 2018/01/23 21:54
- 名前: えびてん (ID: cdCu00PP)
『おはよ!』
『おはよう!』
『今日は何時終わり?』
『3時!』
『じゃあ俺待ってるよ』
『え、でもそっちは12時には終わるんでしょ?大丈夫だよ!』
『全然いいよ、お前のためなら』
『わかった、ありがとう!』
彼は、
『昨日はありがとう、美味しかったよ』
『いいえ!いつものお礼だよ』
『お前の料理は本当最高!』
『褒めても何もでないからね〜』
彼女は、
『明日はどうする?』
『クリスマスも近いし、ケーキでも選びに行こうか』
『いいね、賛成』
『どんなのにする?』
『それはお店で見てからのお楽しみだね』
私を、
俺を、
愛していない。
- Re: 今夜、彼も彼女も浮気する ( No.2 )
- 日時: 2018/03/03 16:12
- 名前: えびてん (ID: cdCu00PP)
#01 【 猛獣と小型犬 】
「うわ、黒川先輩だ!かっこいい〜」
1日1回は耳にするこの言葉。
いや、1回なんてもんじゃないけどな。
気持ち良いもんだよな、これ。
「うわ佐倉弥琴!やっぱ美人だよな〜」
1日1回は浴びせられる好奇の目。
1回どころの騒ぎじゃないけどね。
まあ、それが快感なんだけど。
大学1イケメン、成績優秀、スポーツ万能、さらに爽やかで優しい性格、金持ち。
モテないわけがない男、それが俺。
まるで少女漫画の主人公、朝ドラヒロインの旦那、ラブストーリーの王道、学園の王子様。
たくさん言われる。
まあ当たり前のことなんだけど。
それが俺、黒川楽という男だ。
自慢じゃないが女に困ったことはない。
1度も。
幼稚園から始まり、小学校、中学校、高校と当然モテた。モテまくった。
鏡を見る度にどうしてこうもモテる顔に産まれてしまったのだろうと生い立ちを憎む。
更にどうして勉強せずとも勉強ができてしまう才能、スポーツができる才能があるのかと運命を呪う。
毎日女の子が寄ってきて疲れるったらありゃしないよ。
起きる度に思う。
あたしって本当に美人だなーって。
やっぱクォーターなだけあって、髪の色は薄茶色で瞳の色はブルーがかっているのがあたしの強みってとこかな?
肌も白いし、鼻は高くて目は大きい。
典型的なモテる顔。
スタイルも良いし、見た目は申し分ない。
周りからの注がれる好奇の目は快感以外何物でもない。
あたしをキラキラさせてくれるものは大好き。
地味に生きるなんてあたしじゃない。
性格は横暴?わがまま?ガサツ?
なーんてお姉ちゃんに言われるけど、大学では違う。
可愛くて、誰にでも優しくて、真面目で、いつもニコニコしてるいい子。
実際そうだしね。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
同じだった。
あの女と俺は。
自分を輝かせるアクセサリーが欲しい。
そんなことを考えるところが。
そのアクセサリーは金で買えるものなんかじゃない。
物じゃだめなんだ。
俺が欲しいのは、周りから見える愛だ。
普通に彼女を作ればいいだろってそう思うでしょ。
でも違う。
"普通"じゃだめなんだよ。
目に見えるものは、普通の彼女じゃ俺を輝かせることはできない。
俺を輝かせるもの、それはーーー。
- Re: 今夜、彼も彼女も浮気する ( No.3 )
- 日時: 2018/02/01 21:46
- 名前: えびてん (ID: cdCu00PP)
「佐倉さん!よ、良かったら僕と…その…付き合ってください!」
いかにも冴えなさそうな男。
顔は悪くなさそうだが、真面目で女心をわかっていなさそうなダサ男。
服装も地味でパッとしない。
という、楽の勝手な偏見。
授業が終わり、暇なので自販機に飲み物を買いにきただけだったがこれは面白そうだ。
楽はそう思い、自販機の近くのベンチに腰を下ろす。
先程買ったイチゴミルクのパックのストローを袋から出し、ストローの飲み口を口にくわえ引っ張り伸ばすとパックに刺してイチゴミルクを飲む。
話し声は依然聞こえてくる。
そのダサ男の目の前にいるのは大学1の美女・佐倉弥琴。
佐倉弥琴は嫌な顔1つせず。
驚いた表情を浮かべ、「え、え、わたし?」と意外そうにダサ男に言った。
ダサ男は「は、はい!」と威勢よく返事をする。
弥琴は少し戸惑ったような表情を浮かべてから「あ、その、ごめんなさい突然でびっくりしちゃって」と言ってから続ける。
「まだあたし、あなたのこと何も知らないし…友達からっていうのはどうかな?それから答え出したいな」
弥琴がそう言うと、ダサ男は大きな声で嬉しそうに「そ、それでもいいです!」と弥琴を見た。
弥琴は笑顔になり、「じゃあ決まりだね!」と答える。
「あ、あのじゃあ、LIME!聞いてもいいですか?!」
ダサ男に言われると、弥琴は「うん!」と言ってポケットに手を突っ込む。
すると弥琴は「ごめんね、携帯どこかに忘れてきちゃったみたい…。紙に書いてくれるかな?」と申し訳なさそうに言った。
ダサ男は「はい!もちろん!」と言ってカバンからメモ帳を出し、ペンで番号を書くと弥琴に渡した。
弥琴は嬉しそうに「ありがとう!」と言って受け取る。
「い、いえ!その、携帯、一緒に探しましょうか?!」
ダサ男に言われ、弥琴は「ううん、そんな悪いよ!すぐ見つかるから大丈夫!」と微笑んだ。
ダサ男は「そ、そうですか…」と少し残念そうだ。
弥琴は「ありがとう、優しいのね」ともう1度彼を見て微笑んだ。
ダサ男は一気に赤面する。
「ごめんね、今日はもう帰らなきゃ」と弥琴。
「あ、はい!引き止めてすいませんでした!」
「ううん、じゃあまた今度ね」
弥琴はそう言うと笑顔で彼に手を振った。
コツコツ、とヒールの音はこちらに近づいてくる。
うわ、やっべ。
と、思いきや彼女は楽に気づいていないようだった。
弥琴は真っ先に自販機の脇のゴミ箱へ向かい、先程の紙をクシャクシャにして捨てていた。
紙を捨てると弥琴はため息をついて歩き出していった。
楽はゴミ箱に近づき、先程の紙を拾った。
やはりそうだ。
「ちゃんと振ってやらねーと可哀想だぜ」
遠くへ行こうとしている弥琴の後ろ姿に、楽が言った。
楽の声に反応し、弥琴は足を止めて振り返った。
「…へ?」
弥琴は不思議そうに楽を見た。
楽は彼女に少し近づき、クシャクシャになった先程のダサ男の番号の紙を広げて彼女に見せる。
「連絡する気もねーのにわざわざ面倒臭えな」
楽が言うと、弥琴は途端に笑顔になり小走りで楽の所まで来た。
「ごめんなさい、間違えて捨てちゃったみたい。拾ってくれてどうもありがとう」
弥琴はそう言って微笑んだ。
楽は彼女を見て笑い飛ばすように鼻で笑った。
「間違えて、ねえ」
楽が言うと、弥琴は楽を見て「あ、黒川くん、だよね?」と言った。
話題を変えてきやがった、この女。
「俺のこと知ってるの?」
「もちろんだよー。黒川楽くん、でしょ?イケメン!って有名だもん」
弥琴は笑顔で答えた。
「ミスキャンに知られてるなんて光栄だねー。そりゃどうも」
「やだなあ、ミスキャンなんて偶然だよぉ」
弥琴は謙遜するように眉を下げた笑顔でそう言い、顔の前で手を振った。
「そんなことより黒川くんこそ、あたしのこと知ってるんだね!嬉しいなぁ〜」
弥琴は笑顔で言う。
「ミスキャンですからね、そりゃ知ってるさ」
楽は淡々と答える。
「黒川くんに名前知られてて本当嬉しい〜!良かったら仲良くしましょ」
弥琴はそう言って微笑んだ。
きた。
楽はふっと鼻で笑い飛ばした。
そうくると思った。
この女も俺を利用しようとしている。
一瞬で彼女の笑顔の裏に隠された本音が手に取るようにわかった。
「…ところでさ、その張り付いたような笑顔、そろそろやめてくれる?」
楽がそう言うと、弥琴は「へ?」と不思議そうに楽を見た。
「別に可愛子ぶらなくてもいいし、いい子ぶらなくてもいい」
楽の言葉に、弥琴は微笑みを取り戻す。
「…なんのこと?全然そんなつもりないよ」
「君はさっきの地味な男の番号をゴミ箱に捨てた。連絡する気なんて最初からなかったんだろ?でも自分に向けられた好意がなくなるのが嫌だから連絡先だけ聞いた。その笑顔、目が笑ってないの見え見えだぜ」
楽は少し微笑みながら言った。
彼女は表情を変えることなく笑顔で答える。
「…あ、そうだよね。そう思われても仕方ないよね…。ごめんね、仲良くしようなんて言って。そんな女と仲良くしたくないよね」
弥琴はそう言うと少し残念そうに俯いた。
そうきたか。
下手にくるパターンは予想していなかった。
「…お前、腹黒いだろ」
楽が言うと、弥琴は「どうして?」と微笑んだ。
先程までの落胆ぶりはいずこへ。
「黒川くんってカッコイイよね。自信があってみーんなから人気があって、お調子者で、ちょっぴりナルシストで、心から笑ってないのに笑顔が自然だし。教えて欲しいなあ、どうしてそんなに綺麗に笑えるのか」
この女、本性を出てきた。
「な、お前、急になんなんだよ。それって自信過剰でナルシストで図に乗ってる奴ってことだろ」
楽が言う。
「まさかぁ、そんなことないよ。でもねずっと思ってたの。ああ、黒川くんはあたしに似てるなあって。こうやってネチネチあたしのことを責めてくるあたり?そういう姑みたいな所は似てないけど」
なんなんだ、この女。
思った以上に手強い、かも?
- Re: 今夜、彼も彼女も浮気する ( No.4 )
- 日時: 2018/02/05 20:45
- 名前: えびてん (ID: cdCu00PP)
「お前、ほんと重症だな…」
楽は呆れた様子で弥琴に言う。
弥琴は微笑んで言う。
「うわ!黒川くんこわぁ〜い。大体ぃ〜、黒川くんは結局何が言いたいのかなぁ〜」
うわ、ぶりっこ加減がしぬほどうざい。
「別にお前を責めたくてこんな事言ってるわけじゃないんだよなあ、俺は」
楽が言うと、弥琴は首を傾げた。
「…お前、俺と契約しないか?」
楽はそう言って微笑んだ。
弥琴は微笑んだまま「ん?」と首を傾げる。
「けいやく?なにを?」
未だ可愛子ぶる弥琴にイライラしつつも、楽は余裕を持って話す。
「自分で言うのもなんだけど、俺もお前も大学1の人気者だろー?これを使わない手はないだろ」
「なに?黒川くんってクールな顔して体目当てぇ?」
「ちっげーよ!お前の体なんか興味ねーわ!」
「えー、それは傷つくな〜。じゃあなあに?付き合おうってことかな?」
弥琴は不思議そうに言った。
「付き合ったらお互い自由に恋愛できないだろ?それは御免だ。お前だって周りに好かれたいだろ」
「わたしはそんなことないよ〜。モテないもん」
「てめえそのキャラいい加減…。まあいい。とにかくだ!俺はお前と親友になりたい、それが提案だ」
自分でも頭のおかしいことを言ってることはわかっているぞ。
弥琴はぷっと吹き出し、笑いながら言う。
「なにそれ、黒川くん面白すぎ!…うーん、でも悪くないかも」
弥琴は少し考える素振りを見せてから答えた。
「つまりあれでしょ?あたしと黒川くんが仲良いイコール、みんなが羨む。周りから見ればカップルにも見えるしそこもまた快感。けど付き合ってる訳じゃないから恋愛は自由にできる。うん、それって最高かも」
弥琴は笑いながら言った。
楽も微笑んで「だろ?」と問いかける。
「…黒川くん天才だよ。あたし前から黒川くんには手だそうと思ってたんだ〜。黒川くんとの写真とか〜SNSに載せたいなあーって。だって周りの子みーんな黒川くんの事ばっかり言うんだもん」
なんて気持ちの良い話。
みんなが俺の話をしているのか、まあ知ってたけどその子たち全員紹介して欲しいね。
「ま、あんたみたいなの簡単にオトせると思ってたけど。あんたあたしに媚び売る気ないみたいね」
弥琴の表情から笑顔が消えた。
楽は微笑んで答える。
「残念だが俺はお前みたいな性格悪いやつは興味ねえよ。俺のアクセサリーにはなってほしいけどな」
「アクセサリーって、ひどぉ〜い。でもいいよ、黒川くんもあたしのアクセサリーになるならハッピー」
弥琴は少しぶりっ子しながら微笑んだ。
その後、話し合いをした。
まず、お互いのことは『楽』『弥琴』と名前で呼び合うことに。
当初の予定通りお互いの恋愛は自由に。
周りには『友達』『親友』であると説明すること。
定期的に遊びに行き、SNSにアップし仲良しアピール。
絶対にお互いを好きにならないこと。
などなど、ここからお互いがお互いのアクセサリーになることになった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
数日後。
『今日は楽の奢りで焼肉!ごちそうさまです』
画像付きの弥琴のツイートには楽とのツーショット。
「弥琴はいいな〜、学校一のイケメンとこんなに仲良しでさー」
弥琴の友達・絵美はツイートを見て言った。
弥琴は隣でコーヒーを飲みながら「そんなことないよ」と微笑んだ。
ああ、気持ちいい。
もっと羨め羨め。
なんて思いながら弥琴は微笑んでいる。
「でもさいつから仲良くなったの?何か急に仲良くなったよね」
真綾という友人Bが発言。
弥琴は「んっとねぇ〜」と思い出す素振りをしてから言う。
「こないだわたし終電逃しちゃって、それでね、駅で電車に乗り遅れる所を楽に見られちゃって一晩泊めてもらったの」
というシナリオ。
ベタベタだがこれしか思いつかなかった。
「ふーん、いいなあ。黒川くんって優しいんだね!」
と絵美。
「いやいや!相手が弥琴だったからだって」と真綾。
「あ、確かに。弥琴だったからむしろ嬉しかったのかも」
「そんなことないよ、楽は誰にでも優しいよ。それに、楽はわたしのことなんてそういう風に意識してないよ〜」
これもシナリオ。
楽の株を上げつつ、あくまでも友達であると主張する。
弥琴は謙遜するように言った。
「いいなあ、あたしも黒川くんみたいなイケメンで優しい友達欲しい〜」
絵美は弥琴のツイートを見ながら羨ましそうに呟いた。
アイツと親友になるとかいう馬鹿げた契約も悪くないかも。
最近あたしとアイツが仲良いみたいな噂も浸透してきたところで実感してきた。
他の子から見たらアイツってそんなカッコイイんだー。
- Re: 今夜、彼も彼女も浮気する ( No.5 )
- 日時: 2018/03/01 16:15
- 名前: えびてん (ID: jBbC/kU.)
と、気分上々なのは弥琴だけではない。
ここのところ、弥琴と俺の仲を羨む声が聞こえて来るようになった。
大学内を二人で歩いているだけで周りからはヒソヒソと声が聞こえてくる。
もちろん悪口なんかじゃない。
羨む声だ。
「楽〜、お前いつから佐倉弥琴と仲良かったんだよ?」
講義が終わったあと、健太が言ってきた。
健太は前から弥琴のことを気に入っていた様子だった。
「あー、こないだ?」
楽は適当に答えた。
「こないだってなんだよ…。さてはお前!抜けがけする気かよ!モテるくせに!他の女いけよ!」
「うっせーな、弥琴とはそんなんじゃねえよ別に」
「わかんねえだろ!まだ出会ったばっかなんだろ?いつ好きになるか…」
「なんねーよ。てか、向こうもならねーと思うし」
「わかんねーよ!いや、なるよ…今まで楽と仲良くしてて好きにならなかった女がいたか?いないだろ?!」
健太は焦った様子で言う。
残念、俺は腹黒女は嫌いなんでね。
なんて、健太には言えないけど。
「ま、俺もてるからな〜」
楽は少しかっこつけたように言った。
健太は落胆した様子で言う。
「はあ…まあ、相手が楽なら許すよ…適わねぇもん…」
「やめろよ。俺はそういうんじゃないから安心して」
「いやいいんだ、楽が幸せになれたらそれだけで…。ゼミ一緒になるからって調子に乗ってた俺がバカだったよ…」
「ゼミ?なんの話だ?」
「え、お前知らねーの?佐倉弥琴、今年から俺らと同じ化学専攻とるって。みんな噂してるぜ」
「ふーん、そうなんだ」
ゼミが一緒となるとまた、アクセサリーを自慢するネタになるな。
でもあいつそんなこと一言も言ってなかったってか俺たちそんな仲良くないか、そっか。
4月になり、新しいゼミに変わった。
噂通り佐倉弥琴は俺たちと同じゼミになった。
毎日顔を合わせることになるのか。
健太は喜んでいたが、弥琴は健太のことなど知ってすらいなかった。
もちろん健太には内緒だが…。
「佐倉弥琴です、頭悪いんですけど宜しくお願いしますね」
自己紹介で、弥琴は相変わらず可愛子ぶった態度だった。
だがバカ共はそれだけで盛り上がる。
「佐倉さん全然バカじゃないでしょ〜」
「前も成績トップだって聞いたよ」
「可愛いからバカでもよくね?」
この馬鹿な男共の声に、弥琴は微笑みながら答える。
「そんなことないよぉ〜、みんなありがとっ」
このぶりっ子全開に、男共は喜ぶ。
あほらし。
みーんな弥琴に気に入られたくて必死だ。
さて、俺はどの子に手出そうかなー。
「なあ黒川!今日このあと新しいゼミで飲み会やるけど来るだろ?」
修平という同じゼミの男が言ってきた。
正直、めんどくさい。
今日は帰りたい気分だ。
「ああ…わり、俺今日は…」
断ろうとしたとき、同じゼミであろう女子が「ええ、黒川くん来ないの?」と寂しそうに言ってきた。
「ああ…うん」
「黒川くんが来ないなら行く意味ないじゃん!みんな黒川くん目的なのに」
だよね、知ってる。
男は弥琴、女は俺目的。
去年もそうだったし?
いやこれ自意識過剰とかじゃないよ。
まあ女の子にこう言われたらな〜悪い気しないよな。
「楽、行くでしょ?」
と、話しかけてきたはなんと弥琴様。
もちろんみんなの前だから可愛子ぶってる。
「弥琴は行くの?」
「うんっ!あたしみんなと仲良くなりたいから!」
弥琴はそう言って微笑んだ。
この言葉は訳すと『チヤホヤされて他の女に差を見せつけたいの』と言うことだろう。
「うーん…」
楽が迷っていると、弥琴は「え〜」と言ってから耳元で「来るよね?あんたとの仲自慢するには絶好の機会じゃない」と囁いた。
周りには聞こえないように言っているのがこの女の怖いところ。
「わかったよ、弥琴が言うなら行こうかな」
楽がそういい、弥琴は「やった〜!みんな!楽来るって!」と微笑んだ。
「さすが佐倉さん、黒川と仲良いな〜」
修平が言う。
なるほど、これもまた目的だったのか。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
飲み会が始まり、楽は健太と修平の隣だった。
「黒川先輩は今彼女いないんですか?!」
新しく入ってきた後輩が言った。
酒も入ってきて、喋りやすくなったかな。
「いないよ、なんで?」
楽はそう言って微笑んだ。
「先輩カッコイイって噂だから絶対いると思ってましたぁ〜」
「それはどうもありがと。照れるなー」
「先輩目当てで入ってきた女の子が殆どだと思いますよぉ〜」
「えーそうなの?あれ、君は?」
「やめてくださいよぉ〜」
とかくだらない話をして、いい感じに酒も回ってきた。
うーん、今日は誰か引っ掛けようかなー。
最近女の子と遊んでないんだよな。
「楽っ!まーた誰引っ掛けようかなとか考えてたんだろ〜」
健太が小声で言ってきた。
「やめろって」
楽はそう言って微笑みながら健太を軽く叩く。
だーって最近全然ヤッてないし。
何か暇なんだよな。
いい感じの子がいないんだよな、最近。
「でもさ、佐倉と黒川、本当に付き合ってないの?」
同じゼミの男子が言った。
ええと、こいつは誰だったっけ?
「いや、付き合ってないけど。弥琴とは友達だよ」
楽はそう言って微笑む。
「ふーん…別にいいけどさ」
男はどこか納得してない様子。
さてはこいつ、弥琴のこと狙ってやがったな。
いいね、もっと俺に嫉妬しろー。
俺と弥琴の契約はこの為にあるようなもんだ。
「にしてもすげえよな、佐倉さんとあんなに仲良くて好きにならないなんてさすが楽〜」
健太が言った。
彼は純粋だ、本当に。
「まあ、そんなコロコロ好きになるわけじゃないしな」
「女遊びすげえのに?」
「すごくねーよ」
健太とそんな会話をしていると先程の男が入ってくる。
「ふうん、黒川って案外ちゃらいんだ」
男は面白がるように言った。
女の子の前でそんなこと言うなやめろやめろ。
俺の株を下げるつもりだな、こいつ。
「楽センパイ、ちゃらいんですかー?」
隣にいた後輩の女の子が笑いながら話しかけてきた。
聞いてやがったかー。
「そんなことないよ?一途」
「え〜そうなんですかぁ〜?じゃ、あたしはどうですか?」
この子、たぶんビッチ。
「えーでも可愛いからな〜」
とかなんとか適当なこと言っておく。
ビッチの方がむしろ扱いやすい。
「本当ですかぁ?じゃあ遊んでくださいよぉ」
彼女は嬉しそうに言う。
「今度遊ぼっか〜」
楽は軽々しく微笑んだ。
「ほんとですか!」
彼女がそう言ったとき、彼女の腕がテーブルにあった飲み物をこぼしてしまった。
「あっ!」
彼女はそう言ってこぼれた飲み物を見つめた。
え、拭かない系?
すると彼女の隣にいた女の子が布巾を手に、「大丈夫?」と言って飲み物を拭き始めた。
「うん、大丈夫〜。ごめんねナルミちゃん。それで楽センパイーーーーー」
彼女は人に拭かせておいて自分はまた話の続きを始めた。
楽は「ごめんね」と言って立ち上がり、1人で飲み物を拭いている彼女の隣へ。
「すいません、布巾もらえますか?こぼしちゃって」
楽はそう言って店員を呼び出した。
店員は「はい」と言って布巾を楽に。
楽は拭いているナルミと呼ばれた彼女に「大丈夫?これも使って」と言って一緒に拭き始めた。
優しさアピール成功〜。
ナルミは「ありがとうございます」と微笑み、布巾を受け取り飲み物を拭く。
ナルミはまるでフランス人形のようなフワフワとしたワンピースを身にまとい、大きな瞳と真っ白な肌が印象的だった。
なんだこの、初めての感覚。
「ナルミちゃん優しいんだね」
飲み物を拭き終わり、楽はそう言って微笑んだ。
ナルミは「あ、いえ。チワです」と言ってこちらを見た。
「チワ?ん?」
楽は首を傾げた。
なんの話だ?
「あ、えっとその、ナルミは苗字で、チワが名前です。ごめんなさいややこしくて」
チワはそう言って申し訳なさそうに微笑む。
「へえ、可愛い、チワワみたいだね」
楽は茶化すように笑って言った。
「チワワってよく言われます」とチワは照れくさそうに笑って見せた。
「あ、やっぱり。チワワちゃん俺のこと知ってる?」
楽はそのままチワの隣に座り、話し出す。
まあ、知ってるだろうけど一応話題として。
だがチワの返答は思っていたのとは違った。
「えっと、すいません、わからないです」
え?!俺を知らない女がこの大学にいたの?!?!
動揺を隠せない楽。
「そ、そっかあ…俺は黒川楽。よろしくね…」
なんかショックだった。てかムカつく。
「楽センパイですか。センパイも名前珍しいと思うんですけど」
「あー俺もよく言われる。でさーーーーー」
楽が話そうとしたとき、チワは「シュンくん!」と笑顔でそっぽを向いた。
……は?
チワの視線の先には1人の男。
て同じゼミの確か…汐谷!汐谷瞬だ。
ゼミリーダーをやってくれていたやけに爽やかな奴だったから覚えてる。
「あ、汐谷遅いぞ〜」
周りが騒ぎ出した。
瞬は「ごめんごめん、まだ大丈夫?」と微笑み、近くに腰を下ろした。
何かしらあって遅れてきたようだ。
「瞬くん!おつかれさま」
隣でチワは瞬を見て満面の笑みで言う。
目の前に座る瞬は「ありがと…ってチワちゃんこの専攻にしてくれたんだ!」と微笑んだ。
え、俺今無視されてる?
女の子に??え?
チワは先程楽と話していたときよりも遥かに楽しそうに、まるで瞬に尻尾を振る小型犬のように笑っている。
え、変わってんなこの子…。
「あ、黒川くんもお疲れ様」
瞬はチワとの話がひと段落してから言ってきた。
「あ、ああ…おつかれ」と適当に返す。
瞬は隣にいた女子に話しかけられ、そっちを向いた。
「え、えっと…どういう関係?」
楽はそう言ってチワを見た。
「へ?」とチワ。
「いや、汐谷って俺と同じ学年なのに瞬君って」
「ああ、瞬くんは中学の時から近所で。ずっとお世話してくれてたんです。だからわたし、大学もここに」
ああ、そういうパターンか。
それであんなに尻尾振ってたのね。
この俺を前にしてさ。
「そうだったんだ。じゃあ汐谷はチワワちゃんの飼い主ってわけだ」
ふざけて言ってみる。
チワは照れくさそうに微笑んだ。
「確かにそうですね!」
ふふ、と笑う彼女に違和感を感じた。
違和感というのも、俺に興味を感じていないところなのだが。
Page:1 2