複雑・ファジー小説

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ガイドブックの無い恋
日時: 2018/02/04 18:39
名前: 弓雷斗 (ID: OBp0MA9U)

私の名前は、桜木寛。さくらぎ ひろ。19歳。
最近、憧れの歌手に髪型を真似てウルフカットにしたんだけど、ちょっと後悔。
まさか、あんな恋をするとは、思いもしなかったんだもん。

私は今日も勤め先の本屋に、急ぎ足で行く。

「おはようございます……宏太さん」
「おはよう、ひろさん。今日もいい天気だね」

やさし〜笑顔で、今日も彼が私に挨拶をする。
神田宏太さん。歳は七つ上の26歳。
憧れの人。髪型をまねた歌手より、憧れの人。
とにかく爽やかで、くせが無くて。その笑顔にグッとくる。
でも、なんとなく距離がある。
その距離感も、なかなか悪くないんだけど。
要は私が、ただ単に、意気地なしな訳で。
ここが街の小さな本屋なら、良かっただろう。
いやしかし、ここはあらゆるジャンルの本がそろっているビル一戸丸ごと大書店。
ライバルはいくらでもいる。
訳でもなく、シフトが合いづらいのだ。
そもそも宏太さんは事務なので、事務室の前をわざと通るしかコンタクトの方法はない。
昼休みとか、帰りにちょこっと。
ほぼ毎日、やってるんだけどね。

だから今日は、すごくラッキーだ。
まさか、挨拶できるなんて。
しかも彼、なんて言った?
「今日もいい天気ですね」
う、嬉しい。その付け足しがたまらなく嬉しい。
「あぁ〜、自律神経狂いそう!この気持ちわかる?知子!」
「わからんよ」
 マブダチの坂田知子。中学校からの同級生。
はっきり言って、現実の男性に興味がないような。そんな風に感じる。
「大体、もっと濃い顔が好みじゃなかったっけ?」
「いやいや、知子。あんた人の話聞いとらんよ。私は『好きになったら、それがタイプ』って言ったじゃん」
「ていうか、くっつきすぎ」
 今夢心地なんだから。少し妄想させてくれ。ん〜、無理。匂いが完全に知子だもん。
「ふじふじはいいの?」
「ふじふじ、怖いもん」
 ふじふじとは、経理の藤田美義(ふじたよしき)のことである。
いつもつんけんしていて、正直近寄りがたい雰囲気だ。
昔、バレーでもやっていたのか、少し顎をあげて偉そうに歩く。
前は好きだった。女子にきゃいきゃい言われてた宏太さんより。
でも、なんか、こう、話しかけにくい。

「あいつの目って、なんかこう、ギロってかんじ、しない?」
「あいつとか言わない」
「むぅ」
 今はなんとなく、宏太さんの方が好き。優しそうだし、優しいし。
 その、宏太さんが私に「いい天気ですね」と言った。言ったの?言った…のか?

↓妄想↓
私「こんなにいい天気だと、仕事サボってどこか行きたくなりますね」
宏「ですね。ランチは一緒に行きませんか?」
私「え…?」
宏「ひろさんの好きな、イタリアンにしましょう」
私「どうして私の好みを」
宏「そりゃわかりますよ。だって、僕は———」

「ぎゃあああ!」
「それやめろ!いきなり叫ぶやつ!」
 取り乱してしまった。
「……好き。玉の緒よ、絶えねば絶えね、ながらへば…か」
「大丈夫?あんた」
 知子の怪訝な顔の向こうに
「あ、ほら!営業の青葉氏!」
「どこ!!」
 知子の「推し」である、青葉渓氏。クールな五十代。歯に衣着せぬ物言いをする。
そこがいいらしい。
知子は頻りに「近所のおじいちゃんになってほしい」と言っている。
よくわからない。


 そんな風に私は浮かれていた。
宏太さんを深く知らずにいた。
いや、これから知りたいんだ。
自分でもびっくりするほど純愛なワケで。
一度彼女がいるという噂もたったが、さほど気にしてはいなかった。
ん?違うか。そん時はふじふじが好きだったんだ。
この行き場のない気持ち!
恋の位置エネルギー半端ねえ!!


しかし、そんな私はこれから、「現実」に喝を入れられる。


 いつもと同じ朝。昼休みのためだけに起きて、職場に行く。
「今日もいい天気だなぁ!うん」
 これで昨日みたいにまた……。

↓妄想↓
私「あ、また会いましたね」
宏「そうですね」
私「今日も素敵ですね」
宏「ほんと、太陽も輝いてるし最高の朝ですよ」
私「いえ、天気ではなく、宏太さん」

「貴方の話をしてるんです…」
……にこっ…。
「ほんとアンタは口説かれるより口説きたい女子だよね」
「うわわわ!!知子!どの辺から聞いてたの?」
「『今日も素敵ですね』から。何のために出勤してんだ」
「宏太さんかな。はい」
「おい。そんな妄想して、本人前にしたらお前目も合わせらんないだろ」
「ええ、まあ」
 知子さん、ありがとうございます。聴いていたのが貴方でほんとに良かった。
いつの間にか声に出るもんな。びっくりするわ。

 仕事時間にちょっと空き時間が出来たので、さりげなくいつものように、(知子を強制連行して)事務室の前に行く。
あれ、いないや。トイレ?
 「おい、チェリー。何してる」
「うわわ!青葉さん!」
青葉氏は私の苗字が『桜木』であるため、『チェリー』と呼ぶ。
「いや、こいつが宏太さんの顔見たいって…」
とーもこー!!お前は、この人を前にすると息するようにそういうこと言うなぁ!
 「神田か?あいつは昼に帰ってくるって言ってたぞ」
「はぁ、昼……」

 「知ちゃあん…昼休み、どっか外食しない?」
「そんなことだろうと思ったわァ!!」
「おごりますから」

そうして、昼。社員玄関でもたもた靴を履く私に
「会える保障ないよ〜?」
「あんの。運命だから。会えますよ。絶対会えますよ……ん…会えるか……?」
「あぁストップ!早く靴はけ!お前が喋りに詰まって黙り込むのは、妄想が始まる合図だ!」
「ようお分かりで」
 流石です。

「さてどこ行こうか!」
「あ!ほら!すげえ!いたよ!」
「え——」
交差点に花束を抱えた彼がいた。あ。やばい、駄目だ。
「なぜ隠れる」
「いや、見るだけでいい。ほんと、見るだけでいいからぁ!」
知子は学生時代、砲丸投げをやっていた。すごい力で柱の陰の私を引きずり出す。
「お前は青葉さんまで煩わせただろ!行ってこい!」
「煩わせたって…そんな!」
「ほら、あの花一本貰ってきなよ」
「花っつったって、どう見ても仏花じゃんよ!」
「いいから、『綺麗ですね』とか言ってもらってこいや、花には変わりないんだから!」

「えと、宏太さん!」
「ん?ああ、ひろさん」
 結局、来てしまった。いやしかし、良〜い笑顔だ。ほんにいい笑顔しとる。
「その花、綺麗ですね」
 いやだから、仏花っつってんだろ。自分!しっかりせい!!


「花、もらえたじゃん。良かったね〜!」
「良くない、全然良くない……!マジ犬神家」
「どういう意味だ」
「あっしは悲しいことがあると『犬神家の一族』のメインテーマが頭の中に流れるんじゃ!」
 ヘビーローテーションだ。ほんと、真面目に。ショックだ。
「その曲知らんし、説明してくれ。何が悲しいのか」


「その花、綺麗ですね」
「ええ、ちょっと、お墓参りで」
 ほら、知子。これどう話を広げても不謹慎になるって。
「誰の、ですか?」
 口が滑った!マズった!!超マズった!!最っ悪だ。ごめんなさい、宏太さん。悪気は微塵もないです……答えなくていいです!
 宏太さんの横顔は、少し困ったように苦笑いした。その目が、合った。











「奥さんです」











宏太さん……私は……。
どうやって、


貴方のテリトリーに、入ればいいんですか?

Re: ガイドブックの無い恋 ( No.4 )
日時: 2018/02/25 13:28
名前: 弓雷斗 (ID: KYfV.KBV)

「神田君、ちょっといいかしら?」
「はい」
 誰かと思ったら、お局様だ。偶然にも彼女の本名も「坪根」である。悪い人ではないが、少し強引な人である。



「好きな人とかいないの?」
「はあ、いますけど、いません」

 坪根さんは首をかしげた。
 そりゃそうだ。
 僕にしか分からない。(そういえば藤田君も知ってたと後で気付いた)
 でもおかしなことは何も言っていない。
 いるけど、居ないんだ。

「あ、寛ちゃん、お茶持ってきてくれない?」
「え?あ、私、ですか?」
「そうよ」

 なんか、うろたえてる。
 あ、そういえば彼女も知ってたんだった。話、聞いてたのかな。
 僕の方を見てくれない。ていうか、見ようとしない。
 
「お願いします。寛さん」

 やっとこっち向いた。けど、すぐ目をそらすと、空気の抜けたように給湯室に消えた。
 なんだろう。僕、何かしたのかなぁ。
 ……ひょっとして、もしかすると?

「神田君!」
「はいっ!!」

 思わず大声を出してしまった。いけない、いけない。話の途中だ。

「結婚、しないの?」

 またか。昨日は藤田君。ある考え方すれば、僕も『まだ』26歳なのに。

「当分しませんよ」
「貴方を好きだっていう女の子は結構いるわよ。この会社」
「そうですか」

 まあ、薄々感づいてはいたけど。薄々。

「気になってる人はいるの?」

 僕があまりに奇妙な答え方をしてしまったせいか、坪根さんはまた同じ質問をした。
 普通に、答えるか。無難に。

「まあ、好きな……人は」

 ぅあつぅい!!と給湯室の方から聞こえてきた。どうやらお湯をこぼしてしまったようだ。何かの合いの手のようで、吹き出しそうになった。男らしい。

「その人は、貴方のことどう思ってるのよ」
「僕が知りたいですよ。でももしかしたら彼女は、僕のことが嫌いだったのかも、知れませんね」

 そうだ。だって、でなきゃ、あんな。考えたくないけど。

「だった?かも?」
「あ、いえ、そんな!それは!」
「お茶、持ってきましたけど…」

 あぁ!良かった!救世主だ!!お茶!お茶ぁ!!これによって、ナチュラルに話を逸らすことができる!

「ありがとうございます!」
「う?!……はい。ちょっと苦くなっちゃったかもしれません、けど」
「いえいえ、本当にありがとうございます」

 彼女は徐々に顔をほころばせると、ルンルンと持ち場の方向に歩いて行った。
 単純な人だ。面白い。

「あ、あれ?寛ちゃん?」
「何がですか?」「なんでしょう」

 同時に返事をしてしまった。彼女は壁からひょっこり顔を出す。

「いや、神田君に」

 寛さんは口を開けたまま頷くと、今度こそ戻っていった。

「好きなんじゃないの?」
「寛さん『が』ですか?」
「う、まぁ、それもあるかもしれないけど」

 ……。
 言った方が、いいのかな。

「僕、男やもめなので」
「冗談でしょ」

 早い。返しが、早い。その場しのぎの嘘だと思われてる。

「ま、いいわ。逆にやりやすいかもしれない」
「えっ?」
「明日、会わせたい人がいるから。朝早めに来て」
「困りますよ。僕は、僕……」

 行ってしまった。

 安心してください、藤子とうこさん。
 僕、あなた以外の女の人は見ません…!





「なんか坪根さんと結婚の話してた」
「あぁあ、乙です」
 絶対こいつ、興味ないだろ。どうせ目の前のミルクレープの方が大切なんだ。一枚ずつはがして食うなんて、お前は変態だぞ!
「でも私が持って行ったお茶を嬉しそうに受け取った……」
「良かったね〜……。あれ、公演が始まらない」
「期待を大きく持ちすぎると、落ちる時のふり幅がでかいから」
「今気づいたんか」
「なぁんかねぇ、やばいねぇ、予感がねぇ、するねぇ」
「中学で習った文節の区切り方みたいだな。まぁ、果報は寝て待てってことで」

 悪いビジョンなんて、持つもんじゃなかった。
 ほうら、見ろって。
 また現実に攻撃されるのです。

Re: ガイドブックの無い恋  未亡人、如月の登場 ( No.5 )
日時: 2018/03/16 11:38
名前: 弓雷斗 (ID: IZhvYfzu)

ここまできてやっと、サブタイトルつけてみました。
読んでくれてる人、すごく感謝しています。
めぞん一刻が好きだと言いつつ、最近あの、なんていうか、ちょっと前のカラオケのバックでかかっている、あのストーリー性がいまいち掴めないアレ、あんな映像を意識しています。





「どうも、如月です」

 



 黒髪清楚系美人だ……。如月さん……。苗字も美人だ。
 宏太さん……!



「はあ、神田です」



 嘘だ。そんな得体のしれない美人に微笑みかけないでくれ!!頼む!
 貴方は私だけに微笑んでくれるだけでいいんだ!
「お前だけじゃねえよ。得体のしれない美人ってなんだよ」
「宏太はおれのもんだ。あんな後から来た得体のしれない美人なんかに渡してたまるか!」
「どっかで聞いたことあるようなセリフだな。おそらく誰も知らないけど」
 お願い、お願い!!
 頼む、頼む!!
 私を置いていかないで、宏太さん!
「まあまあ、落ち着いてくれ」
「落ち着けないよっ!」
「なんにもしらん女が来たと思えばいいんだ。この会社で多分一握りしか知らないことをお前は知ってるんだから。ね、寛」


「きれいなコでしょ。彼女も23歳にして、未亡人なのよ」


「あ、ごめん」
「いや、謝らないでいただきたい。知子女史」
「どういうこと?」
 ふふふ。上手くいくわけないじゃないか。同じ立場だからって。
「女は、そういうの割と「同じですね〜、わかります」っていくんだけど、男ってのはどうも次に進めない傾向があると、思うんだな。私は」
「都合のいい展開だな。おい」
「同族嫌悪という言葉もある!」
「なんかもう、心痛くなってきた。ごめん」




「それは、お気の毒に……」

 そんな、紹介されても困るのに……。
 頭に、悲しそうな顔をする籐子さんが浮かぶ。
 大丈夫です。安心してください。
 僕は、そうだ。この先しばらくは、籐子さん以外の人とどうにかなりたいとは思わない。
 逆に、そういう思いの方がどんどん、自分の中で強く、大きくなるようで。
 どうしよう。彼女に不快な思いをさせてしまったら。

「では僕、今日は店頭に立てと言われているので」



 え、そうなの。やった。今日、私のシフトだ。思わずガッツポーズ。
「お前、結構忙しいよな」
「うん。すごく感情の流れが忙しい」



 とはいえ。私は好きな人が同じ空間にいると、どうも当の人と上手くしゃべれないのである。困った癖だ。でもこのくらいがいいのかなぁとか思ったりもする。私は恋愛下手だし、結構怖がりだ。というのも中学1年の時、小学6年生の頃にしょっちゅう一緒に遊んでいた男子のことが好きだった。ほぼ一緒に帰っていたし、彼は大事なものを無くしちゃうような(こういっちゃなんだけど)アホだったので、チャリのキーも私が帰るまで持っていた。これで自動的に一緒に帰れるシステムだった。でも半年続かなかった。クラスの壁って、大きいんだ。がっかりした。9月ごろ、一緒に遊びに行った。大勢の人と、だったけど。帰りの電車で、彼の隣に座ろうとすると、彼はのけて「あ、座っていいよ」と私の女友達に席を譲った。その瞬間、「お前とはもう終わり」と言われた気がした。付き合ってもいないのに。
 そうして、やっと気づいた。
 私、あいつのことアホだって、知らないうちに馬鹿にしてたんだ。
 自分が少し勉強ができるからって。
 彼の好きなものを自分も知って、好きになって、その話して……。しつこかったかもしれない。ちょっとでも話が合うのが嬉しかっただけだけど。それから1年喋らなくなって、中3でやっと僅かに戻ったかなといった感じだった。尤も、その時あいつは幼馴染の後輩と付き合って、惚気まくってたけど。
 ……ああ。なんか、暗くなっちゃった。
 慎重になりすぎるのも、アレだけどなぁ。
 結構。でかかったんだよなぁ。あれは。

 本を陳列しながら、そんなことを考えて、勝手に暗くなった。

 あ、やばい。足元ぐらつくっ。





 いつかはなんとかしなくちゃいけない日が来るとは思っていたけど。今日じゃあない。確かにあの人は綺麗かもしれない。
 だけど、籐子さん。
 貴女は、僕にとってとても大きな存在だった。
 背が高くて、ちょっぴり冷たくて、セミロングの髪に一昔前のメイク。強そうで、ほんとはデリケートでおっちょこちょいな貴女が、今でも大好きなんです。
 覚えていますか。大学の図書室で。

 あ、ん?!寛さんがぐらついている。

 このままじゃ、落ちてしまう!






 危ないっ





 
 危機一髪で、誰かに抱き留められた。

 まさか、だけど

「大丈夫ですか、」









「籐子さん」



 あ、まずい。つい……。


 そこにいるのは、寛さんだ。
 籐子さんとは違う、大きな目に、短い髪、華奢な体。



「あの、すみません」


「いえ、私の不注意で……」

 それっきり、彼女はなんか落胆した表情で陳列を再開した。
 あんまりよくない。やってしまった。つい。
 籐子さんと出会ったときと、同じだったから。



「奥さん、ですか」

 !

「……はい」


「好きなんですね。……いいなぁ、羨ましい」
 喜んでいいのか、悲しんでいいのか。分からない。こういう時は、イケメンな態度を心がける。そうしてきた。でも、結構墓穴なんだ。これ。できれば使いたくないやつ。

「如月さんはもう、宏太さんのこと、好きですよ。絶対」
「見てらしたんですか」
「ええ、まあ」
「僕、どうしたらいいんでしょう」

 悩まないでほしい。そんな、ことで。
 優しい顔をして、罪作りです。
 貴方は、本当に……。
 今までも
 思わせぶりなことをしておいて。
 わかってますよ。この考え、
 身勝手で、理不尽です。
 でも恋って、そんなもんじゃないですか。

「嫌なら断れば、いいんじゃないですか」
「そうもいかないですよ、だって」
「ああもう!」

 ……。

「時々、曖昧な優しさは後々人を傷つけるんです!」

 感情的になってしまった。



 鋭く、突き刺さった。
 急にあの日の朝を、思い出した。
 籐子さん、もしかして、貴女が


「店員さん!」
「はいっ!!」


 寛さん……。

 僕は。






「やっちまったよ、あれはよくなかったよ。迷言だよ」
 今日はやけ食いだ。私は知子と同じ部屋に住んでいる。私は馬鹿だ、ほんとに馬鹿だ。トレンディドラマかなんかの見すぎだ。
「『僕、どうしたらいいんでしょう』なんて、私はそのことを相談するに値する人間だったということだったのに!!なんということでしょう……」
「ビーフジャーキーばっかり食ってっとエラ出るぞ」
「うわっ」
 知子が鍋を持ってくる。あぁ、暖かい。
「でも抱き留められたんでしょ。すげぇじゃん。良かったじゃん」
「まあな。だけど彼がそのあと発したのは、亡き奥さんの名前だった……」
「へえ、なんて名前?」
「トウコさんだって」
「トウコにコウタってなんか噛みそうだね」
「どうでもええわ」
 あぁ、ごめんなさい。宏太さん。好きです。愛してます。如月さんのことで結構動揺していたんです。
「見たかったなぁ。寛のときめいた顔」




 よし。
 今日はあの問題発言について謝らねば。


↓妄想↓
私「宏太さん!すみませんでした!」
宏「いいえ。僕の方こそ、大切なことに気付きました!貴女をもう一度抱きしめたい!」
私「好きです!!」
宏「寛さん……」


「寛さん、それ電柱だよ」
「うわっ。やっぱり知子と一緒に行かないとまずいな。暴走する」
「久しぶりに出たね」
「あ、彼だ!」
「見てはいけない!!」


 寛、見るな!
 彼の隣を歩いているのは、
 『得体しれず美人』だ……!!

Re: ガイドブックの無い恋 今更ながら ( No.6 )
日時: 2018/02/25 16:50
名前: 弓雷斗 (ID: KYfV.KBV)

 登場人物紹介 

 桜木 寛(19) さくらぎ ひろ
 重度の妄想癖を持つ。背が低い。宏太に惚れている。

 坂田 知子(19) さかた ともこ
 ドライな寛の悪友。この人がツッコまなければ、寛は救われない。

 神田 宏太(26) かんだ こうた
 男やもめ。癖のない爽やか系。モテ男。

        籐子さん とうこさん
         宏太の亡き妻。宏太でさえ上手く形容できない、ちょっと謎多き女性。

 青葉 渓(54) あおば けい
 知子の「推し」。絶妙なポジのおっさん。

 藤田 美義(25) ふじた よしき
 クール系。もともと寛はこっちが好きだった。長身。

 如月(23)
 未亡人。宏太を狙ってる。黒髪清楚系美人。

Re: ガイドブックの無い恋  未亡人、如月の登場 ( No.7 )
日時: 2018/03/03 15:01
名前: 弓雷斗 (ID: IJWJrDp8)

 まずいなぁ。これ、どうにもならないな。ここまで来ちゃうと。
 なぁんも勝ち目ない。なぁんもだ。しいて願うならば、宏太さんはショートカットが好きであってほしい。あと、学歴だ。学歴くらいしか、勝てないかもしれない。一応、進学校出てるし、大学(定時制)通ってるし。

「ねえ聞いた?あの如月さん、帰国子女なんですって」

 誰かが通りすがりに言った。
 おぉい、マジかよ。私英語が得意なのが自慢なのに、あっちの方が出来てんじゃねえかぁ。悲しい。
 しかも今日、知子いないし。
 私、友達あんまりいないんだけど。
 今日、しんどいなぁ。

「寛さん」
「なに……って!!こここここ、宏太さん!!」

 まずい。謝らなきゃ。
 駄目だ。
 言葉が、上手く出てこない。

「あの、すみませんでした」

 えっ。

「いやいやいや、なんで宏太さんが謝るんですか」
「いや、だって、『僕がどうしたらいいのか』なんて、聞かれても困りますよね」
「ん、だってそれは宏太さんが悩んでいたからであって、なんか、悪意があったとかじゃ、ないじゃないですか……」

 ……。

「じゃあ、私、店頭に立たないと、なので」
「あ、すみません。では、またあとで」





「なんでそんなことオレに相談するんですか」
「だって〜!」

 君が一番暇そうだったから……。仕事が早いじゃん!

「僕は、僕は奥さんがまだ、その、アレだから。誰とかどっちとか、ねえ!藤田君も僕と同じ目線に立ってみてよ」
「オレは宏太さんが思ってるよりずっと薄情者なので、すぐ次の人と始めちゃいますよ。多分」
「いやいや、一回なってみてよ」
「なんてこと言うんすか。普通、経験者ほどそういうこと言いませんよ」
「ごめん……。いま本気で、やばいんだ。どうしよう」
 本当に。からかったり、悪い冗談の標的にしてるとかじゃ、ないんだ。

「でも桜木は、宏太さんのこと好きですよ」

「え、ほんとに?」

 藤田君はまるで悪漢を見るかのような目で見てきた。なぜ?!

「如月さんも、ね」
「それは、なんとなくわかる」

 さらに「うわぁ」って顔で見てくる。素直に言ったのに。ちょ、ねえ。

「藤田君、僕のこと嫌いなの?」
「あ、わかっちゃいました?」
「ん?」
「ん?」

 藤田君は今まで、口につけずにいた缶コーヒーをグイっと一息で飲みほすと缶をひねりつぶした。そして、「あま」と顔をしかめた。缶には「微糖」って書いてあるのに。

「そういうとこ、ですよ」
「どういうところ?」
「あぁ、もう、めんど。だから、良いひと面して重い話すると、嫌われますよ」
「めんど、って」

 僕、わずかながら君より年上だからね?! 

「じゃあオレ、仕事6割終わってないので」

 なに?4割だけ終わらせてサボってたわけ?

「もう、藤田くぅん!」
「知りません。男なら自分で解決してください。オレ何かと宏太さんのこと敵視してるんで」

 そんな……。

Re: ガイドブックの無い恋 屋上で、憎しみと愛 ( No.8 )
日時: 2018/03/04 18:09
名前: 弓雷斗 (ID: r7gkQ/Tr)

 ここから寛ちゃんがだんだん、アレになってきますが。
 男も女も、生物学的な違いがあっても、人それぞれだし、実際そんな違わないかもしれない。と思う今日この頃。ここまで読んでくれている人、本当に感謝。ここから急展開の嵐です。




 今日はなにも上手くいきそうにない。
 見ろよ、あの二人を。
 お似合いじゃあないか。
 お前みたいな襟足の長い大人ガキは入る隙なんてないぜ。
 邪魔するなよ。
 お前はなんも知らん小娘だ。
 恋人を、愛する人を「この世から」失う気持ち。知らなくていいことかもしれないけど。
 あんなにキラキラの笑顔で、笑いあう二人。
 宏太さんは器用だ。
 昨日のあの行動からは、絶対奥さんを忘れているようには見えない。
 いや、私をからかったのか。
 ……そうは思いたくない。

 あぁ、叫びたい。

 貴方が好きだと叫びたい。



 屋上。ここが準都会でよかった。車の喧噪で、ほとんどの声はかき消されてしまう。



「お前は私の心を知っていながら、そういう、思わせぶりなことをしているのかあああ!!」

「だとしたら、性格悪いぞ、このおおおお!善人面しやがってぇええ!!性格悪いぞおお!!」




 屋上近くの自販機にしか、このジュース売ってないから、来たんだが。
 何だろう。
 罵声が聞こえる。
 ……寛さん?
 いや、でも。
 行ってみようかな。

 ガチャ……




「神田宏太のばかやろぉおおおおお!好きだぁあああああああ‼‼」



 金属のドアに、何かがドンと当たる音がした。


「……!!こ、宏太さ……」








「ごめんなさい……」



 二つの意味で。でも、伝わらなさそう。

「む、無理です……」








 私は、どうやってこの部屋に戻ってきたか、覚えていない。
「馬鹿野郎はないぞ、馬鹿野郎がだめだったな」
「だよねえええ。はい詰んだ〜!かわいそ〜!自分!!」

 フラれた。
 シンプルに、フラれた。
 どこかで彼が聞いてくれてればいいな。
 そうは思ったけれども、現実はこうだ。
 ショッ……ク〜。
 あきらめようかな。
 でも、根気だ。
 こういうのは、根性だ。ガッツ勝負だ。
 めげないぞ!

知「あ〜、もうほら泣かない〜」













「神田宏太のばかやろぉおおおおお!好きだぁあああああああ‼‼」



 あんなにストレートに言われると。
 本気かなぁ。
 ……冗談。
 いや、どうだろう。冗談にしてもあの人が……。

 あの人?

 そういや、僕、寛さんという人が具体的にどんな人か分からない。
 ん〜、前半が本気で、後半が冗談?
 逆に、前半が冗談で、後半が……本気?

 どっちも、冗談。
 どっちも、本気……?
 馬鹿野郎って、僕何かしたかなぁ。

「良いひと面して重い話すると、嫌われますよ」

 藤田君もそんなこと言ってたなぁ……。
 奥さんが死んだ話なんか、するもんじゃないよな、確かに。
 その件については僕、謝った気がしたけど。

 それに……嫌われるどころか、好きだって、言われたんだよなぁ。


 ……。


 やだなぁ。何考えてんだろ。

 僕に喋りかけてくれる女の子は、何故かいっぱいいるけど彼女、ちょっと前まで、ちょっとすれ違って挨拶する程度だったし。
 でも、するっと喋っちゃったんだよな。
 籐子さんのこと。
 別に何かを意識したわけじゃないけど。
 如月さんのことも、相談しかけた気がする。

「あ、如月さんか!」

 部屋で一人、声に出してしまった。
 思わず辺りを見回した。
 目の前の缶ビールは、まだ開けられていない。


 ……やぁばいな。








「どうしたの、元気ないわよ」
「あぁ、坪根さん。いやぁ、昨日屋上で僕を大声で罵倒する声が聞こえたので、何だろうと思ったんですが……」


 告白されました。


 何と奇妙な……。こんな答え方して、大丈夫だろうか。う〜ん……。


「なんでもなかったんです」


「精神科に行ったら?」

 むむむ、逆効果。
 にしても、精神科って。
 確かに僕は、ん……。
 適当にかわそう。ここで、僕が男やもめだということを冗談だと思っている坪根さんに『籐子さんが忘れられない』といったら、僕が、如月さんを気に入っていない風になってしまう。まあ、言うほど好きだとか、そういうわけでもないし。

「……そうですね」





「おい、神田」
「はい、あぁ、青葉さん」


「お前、なんで桜木のことフッたの?」


 ぃえ?!
 何で……。って……。
 これ以上僕の過去を拡散するのは、芳しくない……。

「あいつ落ち込んで、飯が喉を通り過ぎてるぞ」
「え?!」
「やけ食いってこったな」
「はあ」

 よくわかんないジョークだった。

「お前、付き合ってる人とかいるのか」
「いえ、いるけどいません」
「……?」
「あ、いえ、いません」
 危ない、危ない。

「タイプじゃないとか」
「ん〜、どうでしょうね」

 ていうか

「見てらしたんですか?」

「ああ、社内禁煙だからな」

 …。そうか。

「何分僕も、初めてでしたので。こく、はく、される、って」
「ほんとか〜?」


「なぁんか不健康だぞ、神田」


 そうかなぁ。


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