複雑・ファジー小説

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十三次元論
日時: 2018/02/17 16:37
名前: 己酉 (ID: KE0ZVzN7)

次元によって構成された世界は、次元によって産み出された異形に破壊されようとしていた。
次元によって滅びを迎えようとしている世界を救おうとしたのは、次元を操る人間達だった。

この世界は次元で始まり、次元で終わる。
これは、人類最後の戦いの記録。
そして、愛を貫いた一人の男の記録。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


己酉と申します。きゆうと読みます。
この作品を始めるにあたって次元について手当たり次第調べたのですが、グー◯ル大先生の力をもってしても僕の足りない頭では理解する事が出来ませんでした。次元って難しい!
そんな知識で(この作品)大丈夫か?という疑問の声が聞こえてきます。自信をもって答えましょう。
────────(多分)大丈夫だ、と。
雲行きが怪しすぎて今にも嵐が直撃しそうなこの作品ですが、行き当たりばったり頑張っていこうと思っているので応援の程よろしくお願いします。誤字脱字報告等も大歓迎です。
次元で始まり次元で終わる十三次元論、開幕です。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


†目次†


†お知らせ†
・スレ開設 2017年2月17日

Re: 十三次元論 ( No.1 )
日時: 2018/02/19 00:24
名前: 己酉 (ID: KE0ZVzN7)

◆プロローグ◇


「……また失敗したのか。何をしているのだ、奴等は。金だけ貰って社会に貢献する気が無いと言うのか?あのクソ科学者どもは!」

細長い道だけが続く白い廊下に、一人の男の声が響いた。
整髪剤によって固められた髪と体に張り付いている背広が、何らかの職種において階級の高い人間であると物語っている。それにも関わらず、まるで獣のように感情のまま怒りを吐き散らしている様子を、隣に添い歩いている高身長の男が哀れな目で見ていた。

「落ち着き下さい。仮に科学者達の耳にその言葉が届いてでもしてみてください、日本は滅びますよ。金など、平和と比べれば安いものではないですか」
「貴様は知らんだろうがな、金は希少価値なのだ。そう易々と将来性の無い科学者どもの戯れに加担できるほど、安いものでは無い!」
「その戯れで今我々の命がある事をお忘れですか?怒りを止める気はありませんが、くれぐれも金の支出を絶つなどという愚行には走らないでくださいね」
「ええい、うるさい!秘書の身分で我に刃向かうでない!」

今まで止める事の無かった足を止め、背広の男は隣に立つ秘書に握っていた紙類を投げつけた。
『実験報告書』と記載されている複数の紙は、秘書の手によって再び集められた。
その紙に書かれた内容を、秘書は一つ一つ噛み砕き口にした。

「『新次元の開発失敗』と『既存次元の拡張成功』が主な報告内容ですか。完全なる失敗ならまだしも、成功した事があるのなら実験成功と呼んで良いのでは?」
「その新次元とやらに億単位、いや、兆単位で金が吸い取られている事を忘れるではない。それに、既存次元では最早太刀打ちできなくなってきたのであろう?死者報告も毎日絶えぬのであるぞ」
「その死者に生かされているのが我々です。現に、討伐報告も絶えないのでしょう?人類の敵『異形』──その一体だけでも討伐できたのなら、喜ばしい事ではないですか」
「ふん。貴様の言う事はいちいち正論すぎてつまらぬぞ」

言い返す事が無くなったのか、背広の男は足を速めた。
その後を追う秘書の瞳は、まだ実験報告書を捉えていた。
小難しい数式や理論を排除してまとめている努力が伝わるが、所詮一般人の知識では何一つ理解する事の出来ない無意味な報告書。理解できるのは精々先程まとめた失敗と成果だけだ。
存在価値すら疑う十枚程度の紙は、毎日怯えて生活している人々にとっての希望にはならない。なるとしたら、金に肥えた人間への毒だ。

「大体、異形とやらに人間は手こずりすぎであるぞ。生活圏も五年前に比べて半分まで減ったのではないか?このままでは、なす術なく人類は滅ぶであろうな」
「ですから、科学者達は必死に次元研究を進めているのではありませんか。それに、その次元を使って異形と戦っている者達も、命懸けで戦っていると聞きます」
「本当にそうであろうか?」

秘書の言葉を否定する男の目は、酷く淀んでいる。
否定する事でしか今の残状を受け入れられない。そんな哀れな男を、秘書は哀れむ事しかできなかった。
隣から向けられている視線にも気づく事なく、男は話を続けた。

「次元を駆使し異形を倒しているというが、実際に我はそんな場面に出くわした事が無い。本当に異形は倒されているのであろうな?よもや死者報告まで偽造しているとは言うまいが、ここまで壊滅的状況であると疑うのも無理は無いぞ」
「仰っている事はごもっともですが、どうも聞き捨てなりませんね」

突然、男でも秘書でも無い何者かの声が響いた。
周りを見渡した男が発見したのは、白コートで身を包んだ長髪の男だった。
日本人らしき顔付きだが、金に染まった髪がどこか不思議な雰囲気を匂わせている。見る者全てを別世界へと連れて行ってしまうような容姿の男は、自らの名を名乗った。

「私はこの研究所の長を務めております、天野川霧生と申します。ようこそいらっしゃいました、国影雄介様」

無機質な笑みを浮かべ、天野川は背広の男──国影と目を合わせた。
嘲笑うかの様な目線で、笑顔を保ったまま天野川は続けた。

「先程仰っていた件についてですが、直に見れば分かるでしょう。我々が日々どの様にしてこの国を守っているか、ここへお呼びした本来の目的とは異なりますが、意向が変わりました。貴方に我々の全てをお見せしましょう」

雰囲気と無感情な笑顔に圧倒され口が開かない国影の代わりに、国影の秘書が対応した。

「それではお願いします。私は風磨研二と申します。国影様の秘書を務めております」
「これはこれはご丁寧に。長話もなんですし、早速向かうとしましょうか。私達の実験の肝である、《ラボ》へとご招待しますよ」
「感謝します。ちなみにと言っては何ですが、私の甥っ子は貴方の元で戦闘員として働いています。近況をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「ああ、黎人君の叔父さんでしたか。そうですね。最近の彼は────」


ここは、次元研究所《ラストホープ》。
所長天野川霧生を筆頭に、人類を脅かす謎の生物《異形》に対抗する為日々次元の研究をしている。そして研究された次元は、戦闘に用いられていく。
戦闘員──通称《ディメンショナー》は、今日も異形と戦い続ける。
人々の最後の希望を胸に、その命さえを武器にして。


「────恋したみたいです」
「…………はい?」

そんな彼らも、やはり人間である。
物語は、一人の少年の淡い恋心から始まる。



「それじゃあ、ラボに着くまでの間語りましょうか。絶望に染まったこの世界で、たった一人抗い続けた少年の、恋のお話を」

Re: 十三次元論 ( No.2 )
日時: 2018/02/20 19:16
名前: 己酉 (ID: KE0ZVzN7)

†登場人物†


◆風磨黎人◇
主人公。男。17歳。
誰も寄せ付けない様な雰囲気を持ち合わせた、クールな青年。ある少女との出会いをきっかけにその生き様を変えていく事になる。
過去編から始まるので、物語冒頭は13歳です。ややこしくてすいません。


詳しい事はネタバレに繋がるので、随時更新とします。

Re: 十三次元論 ( No.3 )
日時: 2018/02/20 19:16
名前: 己酉 (ID: KE0ZVzN7)

◆序章 少年の始まり◇


‡第一話 始まった日‡


誰もいないこの場所で、どうして自分は生きているのか。
瓦礫に支配された荒野にただ一人、少年は疑問と共に取り残されていた。

名前を思い出そうにも、何も知らない脳は働かない。
自分が何者なのか、その問いに答えてくれる誰かはここにはいない。
使う機会もなく今にも忘れてしまいそうな言語だけが、少年に残された最後の知恵だった。

少年は朝を知らない。彼を照らす太陽の光は、漆黒の雲に遮られ届かない。
少年は夜を知らない。年中暗闇で覆われた世界に、朝も夜も存在しない。
少年は親を知らない。気付いた時には既に独り、そしてずっと独りだったから。
少年は人を知らない。知っているのは、本能が危険を訴える謎の怪物だけ。
少年は顔を知らない。時折降る雨も、黒く濁って少年の顔を映さない。
少年は生を知らない。自分が今何をしているのか、それすら分かっていない。
少年は死を知らない。自分がいつ終わるのか、疑問に思った事すらない。
少年は愛を知らない。自分が何の為に存在しているのか、分からない。

空腹感を満たす為、空を這う鳥を探しては捕まえる。
睡眠欲を満たす為、硬い土の上で横たわり目を閉じる。
たったこれだけの事を、今まで数百数千と繰り返してきた。

目を覚ます度に刻んでいた印が万を超えたその日、少年は初めて死に直面していた。
久しぶりに見た生きるソレは、巨大な目で少年を捉えていた。何重にも重なった鋭い牙の隙間から、黒い液体が零れ落ちては地面を溶かした。
少年は直感的に死を悟った。しかし、恐怖は感じていなかった。
意味の無い繰り返しが、今ようやく終わる。
人類を食い荒らす怪物、異形を前にして笑顔を浮かべたのは、彼が人類で初めてだったのかもしれない。

だからこそ、見殺しには出来なかった。
笑顔で死を迎えようとしている少年を助けてしまったのは、当然であり仕方のなかった事なのだろう。



風磨研二は、こうして少年と出会った。
後に世界に大きな変化を齎す風磨黎人、その始まりの日だった。


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