複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

ハッピーエンドに殺されたい
日時: 2018/06/25 21:54
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: STnlKppN)

 土曜日の夕方5時から、平均視聴率は約7%。始まってまだ半年しか経っていないにもかかわらず女子小学生を中心に大人まで巻き込んで社会現象となった「キャンディ・ガール」は、今日から3クール目に突入し、オープニング映像がまた一新された。ジャンルとしてはドラマに分類されるが、アニメーションやCGの演出も多く使われ、一つの分野には留まらず人気を博していた。

 主人公である「いちごみるく」こと花宮いちごを演じるのは、元天才子役として話題を集めていた佐藤小春という女子高生。一時期消えていたのが嘘かのように返り咲き、天使のようなその風貌に世間の明るい声援が沸き起こった。

 「そうですね、こうやって私がまた演技が出来るのも、応援してくださる方々やオーディションで私を見つけてくださった監督のお陰です。感謝してもしきれません」

 来年の夏に映画が決まったのは、つい先日のことだった。朝のニュースのエンタメコーナーで有名私立の制服を着た佐藤小春がにこやかに微笑む。インタビューマイクを持った30近くの女子アナが彼女が子役だった話を始めると同時に仕組まれたように彼女の昔の映像が放出されていく。あどけない笑顔の少女の写真から今のインタビュー映像に変わり「全然変わってませんね」とアナウンサーから言われ「そうですか」と小春は昔の写真を見て小さく笑った。






 インタビューが終わり、メイクばっちりの女子アナが「ありがとうございました」と言いながら握手を求めてきた。小春はまた小さく笑って「こちらこそ」と彼女の手のひらを軽く握った。
 ああ、疲れた。なんだこのおばさんは、いちいち笑顔が鬱陶しい。化粧濃いんだよ、私のエンジェルスマイルよりお前の化け物みたいな顔に注目が集まんだろ。ふざけんな。
 小春が心の中で唱えながら「お疲れ様です」とスタジオを出ると、すぐ傍に彼女のマネージャーが立っていた。

「お疲れ様です、小春さん。今日もいい笑顔でした」
「そうですか、マネージャーさんにそう言ってもらえるなら安心ですね」
「はい、では次のお仕事なのですが——」
「あー、写真集のサイン会でしたよね。ファンの皆さんに会えるのとても楽しみにしてたんです、私」

 マネージャーの筒井が後方座席のドアを開け、小春が中に入る。すぐに彼も運転席に座りエンジンをかけた。車が進みだし、外のつまらない景色がゆっくり動いていく。今日の天気は晴れでも雨でもなく、かといって曇りというわけでもない、微妙な天気だった。こんな日にわざわざアイドルまがいの女優に会いたいか。否、私なら絶対に家から出たくない。

 ファンに会うなんて冗談じゃない。応援してると言ってもテレビを見てるだけではないか。自分がここまで這い上がってきたのは自分の実力と自分の努力の成果であり、ファンのお陰でもましてや小春をキャスティングした大人たちのお陰でもない。すべては自分の実力である。
 こんな感じで、中身が最悪なことが原因で子役人生が終わったために、小春は絶対に自分の感情を口にはしない。品行方正な優等生ちゃんで通さないと世間は自分を愛してくれないことに気づいたのだ。猫をかぶり、外面を良くしていればみんなから可愛がられる。茶の間から消えた8年間で彼女が学んだことはそれだった。

「小春さん、着きました。会場はこのビルの7階です。では参りましょう」

 ドアが開き、小春は車から降り会場に向かった。勿論サングラスとマスクを忘れずに。有名人気取りかよ、と最初は思ったが自分の存在に気づいたミーハーな奴らの反応が鬱陶しかったために、これだけは常備することに決めたのだ。
 従業員用のエレベーターを使い、控室に案内される。その間、筒井は何も喋らず、次に口に開いた時も予定の確認をしてきただけだった。干渉してこないマネージャーの存在は彼女にとっては楽で、むしろこれが女だったらと常に思っていた。マネージャーが異性であるとメディアがあることないこと吹聴し、叩かれるときがある。その時に自分がしっかり彼のことを守ってあげられる自信がまだなかった。

「あと5分です。小春さん、移動しましょう」
「そうですね」

 会場に移動すると、それは驚くほどの長蛇の列ができていた。8割方が男性で、ああやっぱり、と小春は思った。今日もこいつらは「可愛い小春ちゃん」を見に来ているんだ。じゃあ、その理想をぶち壊さないように精進しましょうね、と心の中で声をかけ小春は人差し指を使って口角をあげた。

 「それでは、順番にお進みください」



 会場に来る前に何度かサインの練習をさせてもらったが、アイドルでもない自分がどうしてこんなことをしているか違和感しかなかった。マネージャーである筒井と一緒に作った「佐藤小春」のサインを求め、列がゆっくり動いていく。最初に小春の前に来たのはセーラー服を着た女子高生だった。長い黒髪ストレートを揺らしながら、抱き締めていた写真集を小春の前に出す。


   「好きです」


 それは少しトーンの高い、透き通った声だった。
 ファンとしてだろう、その「好き」の一言に、小春は当然のように「ありがとうございます」と答え、ペンを走らせる。けれど、セーラー服の少女は躊躇もなく小春に近づき、ふいに顔を近づけた。


   「あなたのことが好きです」


 触れ合った唇に気づいたのはきっと自分と彼女だけだろう。小春は硬直し、思わずマジックのキャップを下に落としてしまった。それに気づいた筒井が拾って机に戻し、また後ろに下がった。


   「…………は?」
   「だから、あたし小春ちゃんのことが好きなんです。ラブ的な意味で」



 動揺してなのか、言葉が上手く出てこなかった。しかし、サインだけはしっかり書き終わり、それに気づいた係りの人が「次の人—」と声をあげた。

「これ、あたしの携帯番号。連絡してね、小春ちゃん」


 衣装のポケットに吸い込まれた小さな紙切れ。満足げに出口に向かっていくセーラー服の少女。動揺したのか小春の動機はなかなか静まらず、ファーストキスだったのに、とまるで処女みたいなことを思った自分に少しだけ腹が立った。
 代り映えのしない映像のような世界が、少しずつ動き出したのかもしれない。
 それが、佐藤小春、15歳の秋のこと。



 *佐藤小春さとうこはる
 *水島芹香みずしませりか


□■□


 たぶん続かない。
 はじめまして、脳内クレイジーガールです。久しぶりに小説を書いたので出来が酷いです。これ以上続いたら百合展開になると思うので、たぶん続きません。書きたくなったらまた書きます。
 表裏激しい女の子と熱烈なファンのラブコメって最高に美味しいよねと思って書きました。可愛い女の子が好きです。ありがとうございました。




 〈 りれき 〉

 はじまり 2018,2/17
 タイトル変更 CANDY GIRL →ハッピーエンドに殺されたい 2018,3/24
 一部完結 2018,6/13

CANDY GIRL ( No.1 )
日時: 2018/03/03 21:31
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: 5USzi7FD)

 水島芹香にとってそれは運命だった。
 友達の勧めで見だした「キャンディ・ガール」という子供向けの番組は、決して特別面白いわけでも特別つまらないわけでもなかった。ただ中心に映る女優の立ち振る舞いが美しく、凛としたその姿がとても格好良かった。
 一度だけ彼女を、佐藤小春を一目見ようと、事務所の近くまで行ったことがある。運よく佐藤小春の姿を見ることができたが、ある意味「予想外」だった。

 「うっせーな、黙れよ。お前の話なんか私が聞くわけねえだろ。うぜぇ」

 聞こえてきたその声は、彼女の容姿からは想像もできないほど酷い口調。睨みつけるようなその鋭い眼光は目の前の彼への嫌悪だったのだろう。

 「失せろ。ストーカー野郎」

 吐き捨てられたその言葉に、前にいた男が震えながら立ち去っていく。けっと唾を吐き捨て佐藤小春は頭をかきながらゆっくりこっちに向かってきた。動かない足に精いっぱい力を入れて芹香はその場を離れた。ドキドキするその鼓動は紛れもなく「恋」だった。痺れるようなあの表情、そしてあの声であたしも罵られたい。走りながら純粋に思った。彼女のあの表情をもう一度見たい、と。









 あああ、やっちゃった。やってしまった。だけど後悔はしていなかった。佐藤小春のサイン入りの写真集を抱きしめながら芹香は足早に出口に向かった。
 これで彼女はあたしを意識してくれるかな。それとも只の変質者として気持ち悪いとあの時みたいに嫌悪感を抱くだろうか。それでもいい、彼女のあの荒んだ軽蔑の瞳を向けられるなら嫌われたってかまわない。

「あーあ、驚いたあの表情も可愛かったなぁ。連絡くるかなぁ」

 タクシーに乗り込み、母親の彼氏の住所を言う。動き出したタクシーに揺られながら、写真集をぺらぺらと捲る。どの写真も「可愛い」佐藤小春の写真ばかりで正直飽き飽きするが、今日の目的はこれじゃなかったから問題はない。芹香はふふと思わず笑みがこぼれるのを手で隠した。運転手の厳つい顔がルームミラー越しに見えて何でかまた笑いそうになった。家に着くまでは一度も喋ることはなかった。

 アパート前で車を降り、階段を上って母の彼氏の部屋のチャイムを連打する。ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン。五回目のチャイムを鳴らそうとした瞬間、ドアが勢いよく開いた。くしゃくしゃのシャツに高校時代の体操服のズボンを穿いた男は「うるさい」と静かな声で呟いて芹香を部屋の中に入れた。

「どしたの急に。お前がうち来るなんて珍しい。明日は雪か?」
「なわけないじゃん。健ちゃんの意地悪っ」
「ってか、ほんとにどうした?」

 鬱陶しがっていることはすぐに分かった。奥の部屋の扉が閉まっていることから誰か女を連れ込んでいることはすぐに察することができた、が、帰るつもりは毛頭なかった。

「好きな人が出来たんだぁ、あたし」
「あ、っそう。そんで、なんで俺んち来たわけ?」
「————分かった、もう帰る。帰ればいいんでしょ、この浮気性!」

 面倒くさくあしらわれるのにイラッとして芹香は頬をぷっくり膨らませながら開かずのドアを思いっきり蹴破った。裸の女がベッドですやすや寝息を立てていたのでスマホで何枚か写真をとってやった。おろおろする母の彼氏に芹香は「健ちゃんのばーか」と叫んで部屋を飛び出る。
 

 母親のラインに一気にさっきとった写真を連投する。既読が点いた瞬間に「OK」という可愛いスタンプが来たから芹香は大きくガッツポーズをした。三年の交際は今日水の泡となった。さようなら、あたしの初恋、と心の中で呟きながら芹香は「健ちゃん」のアカウントをすぐにブロックした。



 ***

 続きました。次の予定も未定です。
 時間が出来たら長い文章を書きたいな。頑張ります。

Re: CANDY GIRL ( No.2 )
日時: 2018/06/25 20:56
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: STnlKppN)

 キスされた。頭が沸騰して心臓がバクバクして、思考が停止しそうになったのにサイン会の列は進み続ける。先ほどの少女のように「ファンです。いつも応援してます」と明るい声で話しかけてくる彼らに小春はただ必死に笑ってみせた。長ったらしい列がなくなるまでには二時間もの時間を要した。
 ようやく終了したころには最初のあのキスのことも忘れかけていたのか、疲れて大きなため息を一つ。ぐっと伸びをしていると、マネージャーの筒井が後ろから声をかけてきた。

「小春さん、お疲れ様です。今日のお仕事はこれで終わりなのですが、家まで送りましょうか」
「え、ああ、うん。お願いしてもいいですか?」
「かしこまりました」

 筒井の車に乗り込んで、小春は少し眠った。久々に見た夢は、あまりいい夢ではなかった。




「ねぇ、小春ちゃんってさ、あれでしょ、ライバルになると思って××ちゃん階段から突き落としたんでしょ」
「小春ちゃんって、可愛い顔して酷いこと言うよね。陰口言ってる噂しか聞かないよ」
「ごめんね、小春ちゃん。今回の役はちょっと小春ちゃんとは合わないっていうか……」
「君はもう必要ないんだよ。君がいなくても子役は次々に出てくるから」
「ばいばい、小春ちゃん。もうあんたはこの世界には要らへんの」







 最悪の目覚めだった。筒井が小春の身体を揺らしても起きなかったからと言って、マンションまでおぶっていったという事実を聞かされたとき、小春の顔は一瞬で青ざめた。悪夢でうなされていたことよりも筒井に迷惑をかけたということの方が最悪だった。

「ご、ごめんなさい」
「大丈夫ですよ。お疲れのようでしたし、これくらい」
「で、でも」
「小春さんは気を遣い過ぎですよ。もっと僕を頼ってください」

 そんなの無理だ。自分を救ってくれた人間に、これ以上迷惑をかけられない。自分が出来ることは、有名になって人気になって筒井を喜ばせることだけ。それで十分だった。
 「僕ともう一度、頑張りませんか」と声をかけてきた筒井の手をとったのは絶対に間違いじゃなかった。笑顔を素敵だと言ってくれた筒井のためなら、本音を隠して偽りのキャラを演じきって頑張れると思った。それが成功して今自分はテレビに映っている。
 これは恋ではなかった。それでも筒井のために頑張りたかった。


 「ごめん、筒井」


 ふいに思い出したあの少女の笑顔。ああいう顔で笑いたかった。筒井が好きと言ってくれた笑顔はきっと今の小春の作り笑顔ではなく、本当に嬉しかった時の笑顔のはず。あの子みたいな表情が自分にはできないことに胸が少し痛んだ。
 ドアが閉まる音がしてすぐに鍵が外側からかけられた。筒井が出ていった後のこの部屋はとても静かだった。しんとした空気に耐えられずテレビをつけるけれど、バラエティのにぎやかな雑音が空気を震わせるだけ。ポッケをいじっていると、一枚の紙が出てきた。あの時の女の子がいれた携帯電話が書かれたメモ。ぐちゃぐちゃに丸めてごみ箱に捨てようとしたけれど、少しだけ彼女のことが気になった。小春は丸まったそのメモをそっと開いて番号を携帯電話でダイヤルした。ぷるると数回なった後、はい、と女の子の声が携帯越しに響いた。透き通るような綺麗なその声に、小春は焦って電話を切ってしまう。芸能人がただのファンに無言電話したなんてばれたら絶対に恥だ。一生の恥。
 小春は小さな唸り声をあげながら携帯を充電器にさしこみ、布団をがばっとかぶった。電気をリモコンで消して、真っ赤な顔を隠すように暗闇の眠りに落ちていった。


***

 好きな相手にだけ弱くなる女の子が好きです。読んでくださってありがとうございます。


Page:1 2



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。