複雑・ファジー小説

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題名つけるの難しいね
日時: 2018/09/12 17:18
名前: 土高 (ID: nZxsmZ3d)

 はろー、エブリワン。
 
 題名つけるの難しいね。誰かが題名をつけてくれることを願って、リク依頼、相談掲示板にスレ立ててますので、よろしくお願いします。

 土高、どこう?つちたか?読み方も呼び方も自分では特に決まっていません。ちなみに英語にするとSoilhigh(ソイルハイ)らしいです。

 
 もくじ
 エピローグ 夕焼け >>1
       浜部海 >>2
 
 第一章 金谷聖子と出会った日 >>3
     金谷聖子と選挙活動 >>4
     金谷聖子はずるい >>5 

Re: 題名つけるの難しいね ( No.2 )
日時: 2018/09/12 18:47
名前: 土高 (ID: nZxsmZ3d)

 桜は嫌だ。桜を見ると、私の心の奥底にある小さな何かがずきんと痛む。
しかし、今は春だから。二駅と徒歩15分先にある学校に通うまでの道のりにはたくさんの桜が咲いている。ひらひらと宙を舞って地面に落ちる様は、儚いと思った。桜が嫌だけれど、なくなってほしい訳じゃないし、見たくない訳でもない。綺麗だと思う。ただ、何となく、嫌なのだ。

 『あははっ!』

 脳に残る耳障りな甲高い声。まるで漫画に出てきそうな笑い方であの子は笑っていた。いつも、笑っていた。形のよい口を大きく開けて、本当に心の底から楽しそうに、愉快で仕方がないと言わんばかりに、あの子は独りで笑っていた。

 あの子の笑い声とともに、視界が急に、一面真っ青になる。空のように清くもなく、湖のように静かでもない。サファイアのような高貴さもなく、ネモフィラのような可憐さもない。
 ただ、ただ、青いのだ。無機質な絵の具のように。目の前の舞い散る様を鮮やかに魅せていた桜の花弁は、とたんに薄桃色から青へと変わる。青い桜。

 私は脳内の映像を頭をふってもみ消す。だんだん視界が晴れてきて桜が薄桃色に見えるようになった。こんなこと考えるのはよくない。せっかくの入学式が台無しだ。

 電車ががたんと揺れる。窓から見える景色は初めて見るものだった。大都会とまではいかないが、私が住んでいる場所と比べると、まるで未来のSF映画のワンシーンみたいだ。緑の田んぼと少しのコンクリートが顔を出しているような場所ではなくて、銀色の高くそびえ立つビルとコンクリートの上を走る大小様々な車が日常的な場所だ。

 アナウンスと共に電車を降りて15分程歩くと、それは見えてきた。
二酸化炭素と灰色で埋め尽くされそうな場所にも、ほんの一握りだが自然を壊さず調和した建物が存在するのだ。それが私が今から通う学校である。

 眩しいくらいの白い壁の校舎は汚れや損傷が少なく、建ったばかりの学校なのだとわかる。校門をくぐって昇降口に向かう途中、数人の教師に会った。軽く会釈をするぐらいだったが、あまり感じの悪そうな人はいなかったので少しほっとした。都会という言葉に少し緊張と警戒心を持っていたが、そこまで身構える必要はなかったようだ。

 「海」
 「わっ」

 背後からいきなり声をかけられてびっくりした。後ろを振り返るとみこちーがいた。入学式だからだろう、髪型がいつもよりだいぶこっていた。

 「おはよ、海。」
 「おはよう。もう、びっくりしたじゃん」
 「だってそれが目的だもん」
 「髪、可愛いね。」
 「おっ?ほんとほんと?」
 「嘘」
 「ええっ、ひどいよぉ」
 「嘘だよ」
 「え?嘘?じゃあ…」
 「これも嘘」
 「んん?そしたら…嘘の嘘でそれも嘘だから…あーもう!わかんない!」

 よかった、いつも通りのみこちーだ。みこちーはこういう入学式とか、一大イベントに少し弱い所があるから心配したけれど、思ったより元気そうだ。

 今はまだ、青春とはあまりにも呼びがたく、薔薇色とは程遠い、高校生活。漫画のような展開には必ずしもなるわけではないし、映画のような結末も迎えない。それでも中学生の頃の悪夢のような日々から抜け出すために、塗り潰すかのように私はこの高校まで来たのだ。せめて平凡で普通でまともな学校生活を送りたい。

Re: 題名つけるの難しいね ( No.3 )
日時: 2018/09/09 22:05
名前: 土高 (ID: n0SXsNmn)

 生暖かい風が吹き、やっとクラスメートの皆の名前を覚えられた5月。

 「ねえ、ちょっと、そこの一年生。」
 「は、はい」

 背後から声がして一応返事をした。私は一年生だし、すぐ近くで声がするし、背中をツンツンされてるから、呼ばれているのは私で合っていると思う。私は後ろを振り向いた。

 後ろに立っていたのは長い黒髪の女子だった。制服のリボンが赤ということは三年生だ。そして私に三年生の知り合いはいない。まだ入学して1ヶ月、三年生と関わるイベントはなかった。もちろん私が学校で有名になるほど目立つこともしていない。三年生が私を呼ぶ理由なんて見当もつかなかった。

 「私は金谷聖子。君、名前何て言うの?」

 かなやきよこ。知らないし聞いたこともない。というか、かなや先輩は名前も知らない赤の他人に声かけたのか。
 私と三年生がいる場所は校門前だった。私は少し学校に早く着きすぎて、誰もいないと思いながら昇降口に向かおうとしていた時だ。

 「浜辺海はまべうみです。」
 「浜辺海ちゃん!あのね、いきなりで悪いんだけど、私の推薦責任者になってほしいの。」

 すいせんせきにんしゃ。推薦責任者。って、生徒会役員選挙のことだろうか。確か昨日HRで先生が、5月は生徒会役員を決める選挙があるって言ってたな。立候補したい奴は推薦責任者を決めて先生に言えとも。私はそれを他人事のように聞いて頭の片隅に入れた。
 改めて考えてみよう。私の推薦責任者になって、か……え、この私になれと?

 「わ、私がですか?」
 「うんうん」

 いやまあ、今までの会話の脈絡からしてそりゃそうだよね。え、本当に?

 「何でですか?」

 私は純粋に疑問に思ったことを質問した。正直、やりたくない。面倒くさそうだし、責任重いし、目立ちたくない。

 「5月ってさ、一年生はやっとクラスの皆の名前覚えられたような頃でしょ?」

 この人はエスパーか何かか。

 「はい、まあ…」
 「でさ、三年生との交流なんて全然なかった訳じゃん。でも生徒会に立候補するのは殆どが三年生なの。一応演説はするけど、よくわからない人に演説されてもどの人も同じように見えると思うんだよね。特にこの人がいいって思う人がいないのに投票しろなんて言われたら適当に投票するじゃない。そういうのって私悔しいからさ」
 「はあ…」
 「でも、自分と同じ一年生がいたら変わると思うの。候補者のことなんて全然知らなくて、自分達には関係ないやって思ってるところに一年生がいれば、きっと興味を持つし、ちゃんと考えてくれると思う。」
 「へえ…」

 私は一年生を推薦責任者にする理由じゃなくて、どうして私にしたいのかを聞きたかったんだけどなあ。まあ、知っておいて損はないだろうけど。それに先輩の言っていること自体には納得できるし説得力もある。この人頭良さそうだな。

 「でも何でわざわざ私にしたんですか?」
 「私一年生に知り合いいなくてさ。だから今日朝一番に学校に来た子にしようと思ったの。」
 「は?」

 いけない、先輩には?なんて生意気なこと言っちゃった。でも仕方ない気がする。先輩のそんな意見を聞けば誰だって言うよ。知り合いいないからって、そんな適当に決めていいのか。さっき先輩のこと頭良さそうって思ったのに……この人、もしかしたら天然っぽいところがあるのかもしれない。

 「でも私」
 「海ちゃん真面目そうだし、よかったあ。」

 先輩は私が話そうとしている途中に無理矢理割り込んできた。私はそれに負けじと言い直す。このままだと私が推薦責任者に決まったような雰囲気になる。負けるな私。

 「でも私、頭良い訳でもスポーツできる訳でもないですよ。他の人より特別できることなんてありません。」
 「いいんだよそれで。むしろそっちのほうがいい。今日は運がいいなあ。」

 なんか断り辛くなってきたな。私がまるで推薦責任者になることを承諾したみたいな雰囲気だ。

 「じゃあ、よろしくね、海ちゃん!」
 「え、あ……はい……」

 かなや先輩はそう言って昇降口に向かって走って行ってしまった。私は今の現状に頭がまだあまり追い付かなくてただ呆然と立ち尽くすだけだった。なんか、台風みたいな人だったな。ばっと現れてばっと去っていく。かなやきよこ先輩、か。

 「おはよ、海。」
 「わっ」

 後ろを振り向くと、みこちーが笑顔で立っていた。しまった、今日も驚いてしまった。くそう、こいつ嬉しそうだな。もう引っ掛からないぞってかなや先輩に会う前までは思ってたのに。むしろ私がみこちーを驚かしてやろうと思ってたのに。かなや先輩が色々と強烈過ぎて忘れてしまっていた。

 「誰?あの先輩。」

 みこちーがそれを尋ねるということは見てたのか。ふと周りを見ると既にたくさんの生徒が来ていた。そろそろ私達も教室に行かないと。私はみこちーと歩きながら話した。

 「かなやきよこ先輩っていう三年生。」
 「金谷聖子先輩ってあれじゃん。有名人じゃん。」
 「え、そうなの?」

 私知らないんですけど、そんな有名人。何故なんだ、同じ小学校から同じタイミングで入学したのに。何故みこちーの方が私より先輩のことを知ってるんだ。恐るべし、みこちーの情報収集力。

 「そうだよ、知らないの?頭良し、運動神経良し、性格良し、見た目良しの四拍子揃った完璧人間だよ。次期生徒会長は金谷先輩で決まりだって噂されてるよ。」
 「へえ…」

 そうだったのか。全然そんな風には見えなかった。というかそんな完璧人間、この世に本当に存在するんだな。だから私みたいな人間が生まれるのか。

 改めてかなや先輩を思い出してみる。確かに頭良さそうだなとは一回思った。一回。性格もまあ、悪そうではなかった。断れない雰囲気をつくられたけど。見た目も、そう言われると美少女に思えてくる。あまり顔は覚えていないくて記憶の中のぼやぼやと霧がかかったかなや先輩の顔が、とたんに美少女になる。

 「で?金谷先輩と何話してたのよ?」
 「あー……」

 そんな有名人の推薦責任者に私がなった、なんて言ったらすぐに噂が広まりそうだ。私は目立ちたくない。それに普通の、もしかしたら普通以外の私が、完璧人間金谷先輩に釣り合う訳がない。嫌味を言われること間違いなしである。ここは言わないでおこう。

 「…秘密」
 「えー!何で!?」
 「いいから秘密!秘密って言ったら秘密!」

Re: 題名つけるの難しいね ( No.4 )
日時: 2018/09/10 11:17
名前: 土高 (ID: n0SXsNmn)

 私が誰にも先輩とのことを言わなくても、選挙活動をしていればそりゃばれてしまう訳で。今私と先輩はポスターを各階にいくつか存在する掲示板に貼るという活動をしていた。
 丁度皆が帰る頃、私と先輩を含める生徒会役員選挙立候補者や推薦責任者は学校に残って選挙活動。これがあと3日程続く。

 確かに面倒だが、それはまだ我慢できる。何より一番辛いのは皆の視線だ。皆は帰らずにポスターを貼っている私と先輩をじろじろと見ている。視線が痛い。
 何であの金谷先輩にあんな一年生が…そんな風に思われているのだろう。自分でも思う。三年生の教室がある四階にポスターを貼りに行ったとき、学年別テストの順位が書かれた紙が壁に貼ってあるのを見た。金谷先輩は堂々の一位だった。それにいつも周りの人に囲まれていて、まさに人気者だった。

 だというのに、何故私がそんなすごい人の推薦責任者をやっているんだろう。今からでも辞められないかな。でも今辞めたら周りは、やっぱり金谷先輩にあんな子釣り合わなかったのよ、辞めてよかったわ、身の程を弁えることね、みたいな風に思うのだろう。それはそれですごく悔しい。
 いっそのことやりきってやる。皆をぎゃふんと言わせるような──なんて、できるわけないか。
 
 「先輩、やっぱり私」
 「海ちゃん、画ビョウ」

 先輩はポスターを掲示板に貼りつけるための画ビョウをくれと手を差し出してきた。本当にこの人、人の話聞かないな。私はケースに入った画ビョウから出来るだけ形のいい画ビョウを選んで、丁寧に先輩の手のひらにひとつのせる。

 「ありがとう」
 「先輩、私」
 「嫌?」
 「へ?」

 先輩はポスターを貼り終えると、私の目を見て言った。

 「私の推薦責任者になるのは嫌かな」
 「嫌……というか、私にはちょっと荷が重すぎるというか……」
 「大丈夫だよ、私がほとんどやるし」
 「そういうことじゃなくて……」
 
 先輩のその寂しそうな、捨てられる直前の子犬みたいな瞳を見るとどうしても断りきれない。はっきり言えない。

 「ダメ?」
 「えっと……」
 「お願い!海ちゃんしかいないの!」
 「うっ……」
 
 この人断ったら本当に泣きそうだな。そんな熱のこもった瞳で見つめられても困るよ。その懇願するような手はなんなんだ。胸の前で手を組んだって、上目遣いの濡れた瞳だって、全部、どうでも、いいん、だから、な……

 「わかりました!やりますよ!やればいいんでしょ!」
 「やったー!海ちゃんならそう言ってくれると思ってたよ!」

 この人私が押しに弱いのわかっててやったな。全く、油断も隙もないったらありゃしない。なかなか侮れないぞ。
 すると先輩はいきなり私に抱きついてきた。人懐っこいなあ。懐に入るのが上手いっていうか、愛嬌があるっていうか……確かにこんな可愛い先輩に抱きつかれたりお願いされたら男子も女子もいちころだ。人気者なのも頷ける。

 「先輩、そろそろ退いてください」
 
 触れ合うのはそんなに好きじゃない。ましてやまだ会ってから数時間しか経っていない人からなんて、いくら先輩だからって好きにはなれない。

 「ご、ごめんね!えへへ…」
 「さ、早く次行きましょう」
 「うん、次は一階だよ」

Re: 題名つけるの難しいね ( No.5 )
日時: 2018/09/12 17:17
名前: 土高 (ID: nZxsmZ3d)

 しとどに降る雨の冷たさにふるりと肌を震わせる5月最終日。選挙は無事何事もなく終え、結果は先輩が生徒会長になった。具体的な票の数は実際のところ教師しか知らないのだが、先輩が圧倒的に多かったと、生徒の間ではもっぱらの噂だ。
 推薦責任者として嬉しくない訳ではないが、正直私が推薦責任者じゃなくても、先輩は余裕で生徒会長になれていたのではと思っている。

 そして今、私と先輩は何故か一緒に帰っているのだった。方向が同じらしく、私は一緒になんて帰りたくなかったのだが、先輩が勝手についてくるのである。

 「やったね!海ちゃん!」
 「別に私じゃなくてもよかったでしょうに……あと退いてください。」
 「えへへ、ごめんね」

 先輩はよく私に抱きついてくる。他の人に対してもこんな感じなのだろうか。ただでさえ先輩は可愛いんだから、抱きつかれたりしたらほとんどの男子がその気があるのではないかと勘違いするに違いない。

 「ところで、海ちゃんは部活何に入るか決めた?」

 体験入部は4月中に全部活を試したが、特にこれといった部活はなかった。みこちーはテニス部に入ると言っていたけれど、テニス部は上下関係者が特に厳しいと言われている部活なので入りたくない。

 帰宅部にしようかな。中学生になってから授業や課題の量と速さが格段に上がったから、少し追い付いていける自信がない。なら帰宅部になって家で勉強する時間を増やした方がいいのではないか。
 私が考え込んでいると、先輩は言った。

 「あのね、もし良ければ生徒会のお手伝いをしてくれると嬉しいんだけど……」

 きた。先輩の必殺技、きゃるるんおねだり。まるできゃるるんという効果音が聞こえてきそうなくらい可愛い仕草でおねだりし、相手を自分の懐に持っていくという、高度かつ命中率高めの技だ。

 流されるな。この天使のような顔をした悪魔め。私はそんな技にはやられないぞ。

 「いや、あの私もう部活決まってるんで」

 嘘をつくのは少し良心が痛むがこの場合は仕方ない。一度宣言してしまえばもうこっちのもの。さすがに先輩も既に部活が決まっている生徒を勧誘したりはしないだろう。

 「勉強、見てあげるよ?」
 「喜んでお手伝いさせていただきます」

 恐るべしきゃるるんおねだり。なんということだ。つい思わず承諾してしまった。というかこの人エスパーなのか?

 「やったー!ありがとう!」
 「い、いえ……」

 まあ、悪くはないはずだ。勉強を見てもらえるのだからこちらに得は大いにある。生徒会の手伝いと言ってもおおむね事務的な作業ばかりだろう。そこまで難しくはないはずだ。

 「でね、ここからが本題なんだけど、6月に秀峰祭があるでしょ?その秀峰祭で生徒会は一曲披露しようと思ってるんだけど、丁度人手が足りなかったんだよねー。でも海ちゃんが手伝ってくれるから大丈夫!ありがとね、海ちゃん!」
 「……え」

 しゅうほうさい。秀峰祭。学校内での合唱コンクールみたいなものだ。クラスで合唱の上手さを競い合うという伝統イベントである。それで何故生徒会が一曲披露するのか。

 「なんで生徒会がやるんですかそれ。別に軽音部とか吹奏楽部で良いじゃないですか。」
 「秀峰祭を盛り上げるためだよ。多ければ多いほどいいじゃん。秀峰祭の仕事は大体実行委員がやるから練習する時間はあるし。」

 うわあ。やらなくてもいいことをやるなんてすごいなあ。私とは正反対の性格だ。こういうイベントにどうしてそこまで全力になれるんだろう。生徒会がやらなくても充分盛り上がるんだから、時間の無駄というか、効率が悪いというか。しかしそういう人が愚かだということは示していない。寧ろ尊敬する。言い換えれば積極的で一生懸命ということだ。ただ私はやろうとは思わないだけで。

 「やりたくないです。断らせてもらいます。面倒くさいし責任」
 「勉強、見てあげないよ?」
 「ぐぬぅ……」
 「一回手伝ってくれれば、勉強ずーっと見てもらえるんだよ?」
 
 相手が見返りを求めて頼んでいる場合、信用してはならない。そもそも1ヶ月で一曲演奏できるほど上達する気がしない。ボーカルとか本当に嫌だ。全校生徒の目の前で歌声を披露するなんて羞恥心でどうにかなりそうだ。あとで色々噂されそうだし。

 「それでも嫌です。というか何で私にそこまでこだわるんですか?」
 「だって、君のこと好きになっちゃったんだもん。」
 
 えらい人間に気に入られちゃったなあ。面倒なことになったぞ。

 「おーねーがーい」
 「……」

 先輩がぎゅううっと抱きついてくる。何度もいってるけどやめてくれ。何度言ったらわかるんだ。

 「うーみーちゃーん」
 「……」
 
 耳元で喋るなよ……うるさいよ。

 「ねえってばー」
 「……」
 
 本当にしつこいなあ、もう。こういうのをうざいって言うんだよね。

 「本当に本当に本当にお願い!」
 「わかりました!手伝います!だから離れてくださいうるさいですしつこいですうざいです!」
 「ご、ごめん……」

 私が言うと先輩はいきなり真面目なトーンになって弱々しく謝って私から離れた。先輩は私の言葉に傷ついたのか、しょんぼりうなだれている。沈黙が流れて気まずい雰囲気になる。
 確かに嫌だったし本当のことを言ったけど、そこまで傷つかなくても…私が悪いみたいじゃないか。

 「あの、そんな、気にしなくても……冗談ですから」
 「本当!?やったー!」

 先輩は先程の姿が嘘のように元気になってまた私に抱きついてきた。
 くそう、さっきのは演技だったのか。まんまと騙されてしまった。というかお願いだから離れてくれ。胸が、胸があたってるんだよ。

 「は、離れてくださいよ……」

 先輩はもう離れなかった。これから私が何を言っても離れないんだろうなあ。もともと人の話聞かない人だったし、結構無理矢理気味なところあるからなあ。なんか、手のひらで転がされてるっていうか、踊られてるっていうか、いいように使われてる気がする……先輩ってなんてずるいんだ。

 「えへへ、そういうところが好きなんだよ。」

Re: 題名つけるの難しいね ( No.6 )
日時: 2018/09/12 19:15
名前: 土高 (ID: nZxsmZ3d)

 眩しいスポットライトも、ステージの上に立って大勢の視線を向けられことも、私は全く慣れていない。足とか手は震えるし、冷や汗をかくし、心臓はバクバク鳴っている。やっぱり私にこういうのは似合わない。抱えたギターは練習して触り慣れた物だったはずなのに、今は一層重く感じる。

 マイクの前に立っている先輩は、いつもと何も変わっていないように見える。堂々としていて可愛くて何でも出来るすごい人。この人と同じ舞台に立つ私はどれだけ不釣り合いで不似合いで滑稽だろう。

 こんなの、出来るわけがない。無理だよやっぱり。先輩じゃないんだからさ。どうしよう。ミスしたら責任は重い。何より目立つ。自分の醜態を皆に晒してしまうのだ。

 練習の時に何度も聞いたが、先輩の歌声は素人でもわかるくらい上手だった。澄んだ通る声は的確に音をとり、リズムに乗っている。頭もよくてスポーツもできて美人で性格もいい。その上歌も上手いなんてどこまで完璧なんだろう、この人は。

 「いくよ、準備して」

 先輩がそう言うと皆がそれぞれの楽器に手をかける。演奏する曲は最近流行りのラブソング。テンポが早めでノリがいい曲だ。きっと盛り上がるだろう。今まで頑張って練習してきた。大丈夫。落ち着け。心臓は相変わらず、というかさっきよりも大きく鳴っている。周りに心音が聞こえていないか心配になるほど。落ち着いて、鳴り止め私の心音。そうだ、人って書いて飲み込むといいんだっけ。

 『ワン、ツー』

 先輩が合図をかける。ああ、ダメだ。人を書いて飲み込む時間はない。ついに始まっちゃうよ。どうしよう。本当にどうしよう。体が緊張して硬直したようになる。うう、吐きそう。プレッシャーとか責任とか空気とか視線とかに圧されて壊れちゃいそうだ。気持ち悪い。今すぐステージから降りたい。誰にも見られたくない。でもそれは許されない。
 
 『ワン、ツー、スリー、フォー!』

 甲高い歓声が室内に響き渡る。想像以上の熱狂に私は呑み込まれそうになって、ただがむしゃらに演奏する。余裕なんてなかった。ミスしないように、足を引っ張らないように。大丈夫、できる。やっぱりダメ、出来ない。

 ふと先輩を見た。頬に垂れる汗、歌詞を紡ぐ大きく開けた口、綺麗な歌声、生き生きとした瞳。どうしてそんなに平気でいられるの。なんでそんなに楽しそうなの。先輩のそんな顔、壊したくないよ。やらなくちゃ。頑張らなくちゃ。出来るよね、私。

 『傷つかなきゃ本物じゃないから
  僕らの手はどこまでも伸びるはずだ
  早く忘れることだけを覚えないで』

 だんだん体がリズムにのって慣れてくる。手が滑らかに勢いよく音楽に合わせて動く。調子よくなってきたかも。できそう、できる、いけるぞ。もうすぐサビの部分に入る。……ジャン、ジャン、ジャジャン、ジャンジャンッ!

 『失敗しないなんて誓ってない
  幸せになると約束したはずだ
  始まりの合図は自分で決める』

 一瞬、時が止まったような感覚に襲われた。まるで映像を一時停止したみたいに。より一層大きな歓声、熱狂、共鳴、拍手。皆が狂喜乱舞する。ひとつになる。全てがスローモーションになって、その一瞬が永遠になったみたいに。
 すごい、こんな景色なんだ。
 ジャーン……と余韻を残して最後の音が終わりを告げた。

 『ありがとうございました!』

 先輩がそう言って頭を下げる。気づいたら、いつの間にか演奏は終わっていた。できた、出来たんだ私。よかった、無事何事もなく終わったみたいだ。盛大な拍手が送られる。アンコール、アンコール、と皆が叫んでいる。向けられた眼差しは羨望、崇拝、尊敬、憧れ。はあはあと自分の息は上がっていた。手汗をびっしりとかいている。体が熱い。自分の奥底に眠る何かに火がついたかのように。

 いやだ、まだやめたくない。

 手は勝手に動いていた。皆が驚いた顔をして私を見ていた。当然だ、演奏は一回の予定なんだから。先生も生徒も先輩も、全ての視線が私だけに集中する。皆の視線を奪って、私はギターを弾くことを止めない。だんだん皆もノリにのって、先輩もマイクを握り直して、二回目の演奏が始まった。

 サビに入る手前で、先輩はマイクを持ちながら私に近づいてきた。一緒に歌おうってことだ。急なアドリブだったけれど、この二回目の演奏自体アクシデントなんだから、もう何をやってもよかった。ただ勢いに任せて、ノリにのって、雰囲気に流されて。いつものように先輩は私にぎゅううっとくっついてくる。ギターを弾くことに支障がでないくらいに腕を組んで、一緒にマイクに向かって叫ぶ。

 『傷つかなきゃ本物じゃないから!
  僕らの手はどこまでも伸びるはずだ!
  早く忘れることだけを覚えないで!
  失敗しないなんて誓ってない!
  幸せになると約束したはずだ!
  始まりの合図は自分で決める!』

 ふわあっと体が熱を帯びて変な心地になる。頭がぼおーっとして何も考えられない。それでも手はギターを弾くことを止めず、皆の熱気とひとつになって興奮した心臓に身を任せる。
 忘れてしまっていたのか、今目覚めたのかわからないけれど、私は好きだ。やらなくてもいいことだし、やり終えた後の疲労感は半端ないだろうけれど、それでも私は好きなんだ。こうやって楽しむことが。どうして今まで気づけなかったんだろう。私の高校生活は、青い春でも薔薇色にでも染まってあげない。私だけのものなのだから。


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