複雑・ファジー小説

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【短編集】緑青と群青、鮮やかに白濁
日時: 2018/05/03 13:02
名前: Seymour (ID: 7/g4bQJJ)

長い間道化として生きてきました。物心ついた時から、ずっと、ずっとおどけた仮面を付けて生きてきました。
ひとたび道ゆく人と目を合わせてみれば、誰もが振り返る美貌の持ち主だったとしたらどれほど良かったでしょう。どんな問いだって瞬時に答えを導き出せる頭脳の持ち主だったらどれほど良かったでしょう。誰よりも早く走れる健脚だったら?どんな人でも恍惚とさせる美声の持ち主だったら?何者も寄せ付けない腕っ節だったら?
考え出すとキリがありません。とにかく、僕はそのいずれも持ち合わせていませんでした。
鈍才。雑輩。無芸。凡愚。一般。下級。無価値。陳腐。駄作。有象無象。そのどれもが僕に当てはまりました。
兄は僕と違いとても出来の良い人間でした。誰からも愛され、誰からも期待される、まるで天から選ばれたような、とても有能な人間でした。どうしてこんな僕とこいつが血を分けた兄弟なんだろうと幾度となく呪いました。憎悪しました。兄の友人からは「お前は兄ちゃんに全部吸い取られて生まれてきたんだろう」とまで言われました。その時僕は一思いに彼を殴ればよかったのかも知れません。でも出来ませんでした。僕だって彼の言葉通り、そう思っていたからです。兄の引き立て役になるために生まれてきたのだ、と無意識のうちに思っていたからです。
両親からは「お前は優しい子だ」と言われてきました。いくら疎い僕でもその言葉はイミテーションだと理解できました。「やさしい」という褒め言葉は他に褒める所がないひとに言う言葉だと押さない僕は何となく知っていたからです。
僕は道化として生きる事を選びました。道化というのはおどけた仕草で観客を笑わせるピエロのことです。もしかしたら僕の頬には涙のメイクが知らず知らずのうちに書かれていたのかも知れません。本心ならばこんなことしたくは無いのに、人を笑わせて。内なる芯では涙を滝の様に流して。愚かな僕は愚かな真似をしました。猿真似です。大根芝居にすら及ばない一人劇です。観客もいない。スポットライトさえない。光も届かない真っ暗な壇上で一人おどけてみせる愚者のピエロです。
そんな僕が中学生になり、初めて人に褒められました。何年生の時の教師だったか、今では綺麗さっぱり忘れてしまいましたが、兎に角国語教師でした。シワの目立つ妙齢のその国語教師は僕にこう言いました
「あなたは文を作るのが上手ですね」と。
小さい頃から本を読むのが好きでした。その影響で授業中は脳髄のフィルムの中で空想を紡ぐ毎日でした。
彼女の言葉が僕をどれだけ救った事でしょう彼女のおかげて今僕はこうやって文を結んでいるのです。
故郷から離れて数年、時々どうしようもないほどのノスタルジーに駆られる時があります。山奥の小さな町は僕のゆりかごでした。
都会の鮮やかな白濁に汚れた今の僕でも、あの故郷は僕の身体を抱き止めてくれるでしょうか。あの緑青と群青は今も僕を包み込んでくれるでしょうか。
どうか、どうか。





こんにちは。Seymourです。気まぐれに短編集を書きたくなりました。
小説の練習がてら適当に書きます。よろしゅう。



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