複雑・ファジー小説
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- 私にキスして、僕を殺して。
- 日時: 2018/05/04 20:00
- 名前: 麗楓 ◆F.XzXC1pug (ID: qwR26uHc)
「満月くん、お願いがあるの。私に......」
「小鳥遊さん、許されるならば僕を......」
「キスして」
「殺してほしい」
彼に恋した少女と彼女に殺されたい少年の、
何処か甘酸っぱく何処か物悲しいお話。
一応コメディ・ライトにも投稿しています。
板をなかなか決められないのが悩み......。
- Re: 私にキスして、僕を殺して。 ( No.1 )
- 日時: 2018/05/04 16:01
- 名前: 麗楓 ◆F.XzXC1pug (ID: qwR26uHc)
1.満月くんの秘密。
「小鳥遊さん!」
眩しい太陽に照らされる校舎に響く声。ふと後ろを振り返ると3人組の女子がこちらに手を振っていた。
膝を見せびらかす短いスカート。校則には載っていないようなピンクのベスト。若々しさが目に伺える。そう言っている私がババァのように思える。
クラスでも「イケイケ女子」のグループに配属されるような、クラスメート達が声をかけた。
「隣のクラスの満月君と付き合ってるって本当!?」
「小鳥遊さん意外だな〜」
何だ、またその話か。耳にタコができる程その質問は色々な人から聞いた。もううんざりだ。
小さく頷くと彼女達は興奮状態になったのか、意気込んで大量に質問を投入してきた。
「満月君のどんなところが好きなの?」
「告白はどっちから?」
「告白の言葉はー?」
「え......は、恥ずかしい......」
ポッと顔を赤らめると、彼女達は「初々しいなー」と笑いながら、私に手を振って去っていった。
彼女達の姿が居なくなるのを見計らって、私は屋上へと続く階段を上る。あまり使われていない階段だからか。ギシギシと身に染みる音が鳴る。
カチャンとドアを勢いよく開ける。何せ立て付けが悪いせいか、勢いよく開けないとドアが開かないのだ。
「あ、小鳥遊さん。こんにちは」
「こんにちは満月くん。珍しく太陽が出ているわね」
「最近曇りばっかりだったからねー」
このまま自分達も雪のように、溶けて消えてしまいそうだ。春先までねばって残っていた雪も、今日で消えて無くなってしまうだろう。
彼の長い茶色の前髪に隠れる目には、光が宿っていた。遠くの何かを一心に見続ける子供のように、好奇心に満ち溢れている。
「小鳥遊さん見て。虹が出てるよ!」
「虹......ああ、虹ね。よく見えるわ」
「写真でも撮ろうかなー」
「......っ......それはダメ!!!」
「小鳥遊さん?」
「......お昼休み、終わるし......」
「そっか、そろそろ行こうか」
少し強い言い訳をしてしまった。私と彼の間に沈黙が生じる。私が彼の辿った跡を黙って歩くだけだ。
あれ、もしかして......この状況マズイ?
サーっと血の気が引いていく気がした。別に写真を撮ることが悪い訳ではないし、スマホも使っていい。なのに、なのに。
ああ、早く彼に打ち明けてしまいたい。
「さっきはありがとう」
「......え?」
「仕事あるの忘れてた。怒られるところだったわ」
そう言って私の頭を優しくポンポンと叩......撫でた。彼の手は大きく、そして優しく暖かみを感じた。
キャンプファイヤーのように、身体中が炎に包まれた感覚に陥る。一気に全身が硬直して熱に覆われたような感じだった。誰かが触れたら火傷しそうなくらい。
こういう単純なことをされると、恋に落ちるんだなぁ。
無論、私もその内の一人なのだが。
「......他の女子には、しないでよ?」
「しないから、睨まないでよ〜」
あはは、と微笑む彼は実に可愛らしい。少し背が小さくて、細くてか弱い女の子のような彼は、少し罪深く思えた。
もう、何でこんな人好きになっちゃったんだろう......。
彼と別れて教室に戻ると、友人である扇おうぎ桜さくらがニコニコと私を見つめていた。手には私に見せびらかすようにスマホの画面を向けている。
よく見ると、先ほど頭をポンポンされている時の写真だった。いつから見ていたんだ。早く消せ。
「律ちゃんがいつもより笑ってるね!」
「消して」
「二人で何を話してたの〜?」
「虹について」
「虹?」
そう言って彼女は外を眺める。眩しい太陽、青みを帯びた空と、ところどころに明るい雲。
「律ちゃん、虹なんて出てないよ?」
「......知ってる」
「え、知ってるの?」
知ってる知ってるよ。最初から知っている。
虹なんて最初から出ていなかった。
満月くん、本当は虹なんて出ていなかったんだよ?
でもあんなに嬉しそうに笑う満月くんを見ていたら、何も言えなくなる。言葉が喉に突っかかる。
だからそのまま、言葉を飲み込むしかないんだ。
後味の悪い言葉を我慢して抑え込むしかないんだ。
ねぇ、満月くん......。
満月くんは自分が、幻覚が見えるって知ってる?
- Re: 私にキスして、僕を殺して。 ( No.2 )
- 日時: 2018/05/09 18:45
- 名前: 麗楓 ◆F.XzXC1pug (ID: 4.ooa1lg)
寒い......寒すぎる!
2.一緒に帰ろう。
付き合って1ヶ月未満ということもあり、まだ手を繋いだこともない。
そもそも両思いだって判明したことが夢物語のようで、そこから先のことなど考えていなかった。
だから今日は、
「ねぇ小鳥遊さん」
「満月くん。どうしたの?」
「今日一緒に帰ろう」
手を繋いでみようと思います。
午後3時20分。玄関で待ち合わせの時間まで残り10分。
正直足取りが重い。多分今僕は負のオーラで包まれているだろう。好きな子と帰ることが出来るというのに。
一緒に帰ろうって、何処に行けばいいんだ?
まだ「一緒に帰る」という行為をしたことがないので、心臓がバクバクと周りの人に聞こえるのでは、と思うぐらい高鳴っていた。
そして「一緒に帰ろう」と言った時、彼女の顔は至って普通だった。嬉しそうにはしゃぐわけでもなく、恥ずかしそうにためらうこともなく。
「ええ、いいわよ」と返事しただけ。逆にそれが僕の不安を煽るのだ。面倒だけど断ると更に面倒だから了承しただけなのかな......。
「お待たせ満月くん」
「小鳥遊さん......それじゃあ行こうか」
彼女をエスコートするように、僕は手を差し出した。彼女はおどおどしながらも、僕の手にそっと触れた。僕の手より一回り小さな手に優しく触れると、暖かく優しい感じがして何処かホッとする。
彼女の頬に少し赤みが増したような気がした。
「ここに少し寄ってもいいかしら?」
「......いいよ」
ぎこちない笑顔だっただろうか、いや仕方ないだろう?
彼女の指差す方向に目をやると、そこは何処か女の子らしさを主張するようなお店。
女性用の下着専門店だった。
彼氏、ここに連れてくる......のか......。
正直戸惑ったが笑って承諾した。目の前にチカチカする下着を見せつけられているような気がしたが、頑張って目をそらしていた。
赤、青、ピンク......頭がグラグラする。
走り出す彼女へ手を振りながら僕は近くにあるベンチへ腰を掛けた。
「......緊張した......」
そんな独り言が漏れる。今にも割れそうな風船のように、嬉しさと不安が沢山混ざってギュウギュウに押し込まれたような感じがした。
いや確かに下着にも驚いたが、まさか糸も容易く手を繋ぐことが出来るなんて!
そっと自分の手に触れると、先ほどの感触がまだ残っていた。
真っ白でサラサラな触り心地の小さな手に包まれた僕の手には、爽やかなミカンの香りがする。
戻ってきた彼女の手にはペットボトルが2本。
「あの、これ......」
「え......わざわざ飲み物買ってきてくれたの?」
「ちょっとお行儀が悪いけど、歩きながら飲んでもいいかなって」
こういうのって、男がリードして支払うとか、そんな気がした。しかも寄っていたのは隣のコンビニだった。
やらかした。僕は気遣いも何も出来ないクソみたいだ。
ポッと赤らめた頬が可愛くて、お礼を言って受け取ると彼女は微笑んだ。不意に胸がジワーっと暖かくなる感じがして、心地よい。
いや......もう。なんか本当、そういうところが。
「......反則......」
「え、ごめん聞いてなかった」
「独り言だよ、気に止めないで」
そうして僕たちはまた歩き出した。今度は少しだけ、ゆっくりと。
このまま時計の針を止めることが出来たらな、と思う。秒針をテープでグルグル巻きにして、そこから一歩も動けないようにすれば、彼女との時間は永遠だと保証される。
......なんて、そんな夢物語があればいいなぁ。
「............満月くん危ない!!!」
「え?」
彼女は僕の手をグイっと後ろへ引く。
あ、そういえば歩き出してから手繋いでなかったね。
ふと顔を上げると、絵は「止まれ」の表示をしている。赤信号だったのか、気が付かなかった。
あれ、今"青信号"の表示だったよね?
「危ないでしょう。気を付けて」
「今......」
青信号だと思ったんだけど、そう言おうとしてやめた。
どうせ自分の不注意だ、言い訳をしても無駄だ。
「......ありがとう」
微笑むと彼女は顔を背けた。よく見ると彼女の耳は真っ赤に染まっている。どうやら彼女は「ツンデレ」という部類なのだろうか。
今度は僕の不注意で飛び出さないように、彼女が僕の手をしっかりと握りしめている。今度は力強く離れない。
僕の手の方が一回り大きいはずなのに、彼女の手の方が大きく感じた。
「......それじゃあ私はここで」
「バイバイ小鳥遊さん、また明日」
そうして僕はまた歩き出す。夕日に照らされた影を一歩一歩、大きく踏んで歩いた。赤く染まった街全体を見渡す。聞こえたのは、そよぐ風とお腹を空かせるカラスの声だけだった。
「......いつもごめんね、小鳥遊さん」
夕焼けにスーっと小さな声は消されていった。
小鳥遊さん、僕は貴方に迷惑をかけてばかりだと思う。
そうして本当に、本当に必要な時に。
僕を殺してほしい。
- Re: 私にキスして、僕を殺して。 ( No.3 )
- 日時: 2018/05/13 12:04
- 名前: 麗楓 ◆F.XzXC1pug (ID: 65byAhaC)
昨日北海道の釧路(私の居るところ)で、やっと桜が咲いたらしいです。関東と一ヶ月ぐらい違いますね。
そして無性にそうめんが食べたい(´・ω・`)
3.相合い傘
「律ちゃんって、満月くんの何処が好きなの?」
友人である扇桜から、時速148㎞の直球が私の耳に届く。私の顔を覗き込むように、彼女は私を見上げた。
桜の動作は少女漫画チックな感じで、フワフワしている。王道美少女ヒロインで間違いない。
それに比べて、そもそも少女漫画に存在しているのかも怪しい私は、存在していたらそんな漫画を破り捨てるか、漫画の枠をぶち壊すだろう。
「ところで桜は彼氏、作らないの」
「ん〜律ちゃんが一番分かってると思ったけど」
「何が」
「人は見た目じゃなくて、中身。私はサバサバしている律ちゃんが大好きだよ」
......突然のプロポーズである。
「あれ、小鳥遊さんだ。帰らないの?」
「......傘無いから......」
「僕の傘に入っていきなよ」
朝は眩しいほど太陽が顔を出していたので、折り畳み傘を持ってこなかったのだ。昼休みからポツポツ雨粒が落ち初めて、今は空から大量に落ちる雨粒を見ているしかない。
「じゃあ、お邪魔します......」
「畏まらなくていいよ。近付かないと肩濡れる」
そう言って私の肩を抱き寄せる。体が傾いて彼に寄りかかる姿勢になった。待ってこれ少女漫画じゃん。私もちゃんと少女漫画の一員になっていたんだ。
でも、彼のこういうところが好き。周りに目を向けて、気を配って接するところ。分け隔てなく、誰にも対等に接するところ。
本当、そういうところが......。
「————大好き————」
このまま、雨がずっと降り続けばいいのに。
そうすれば私はずっと彼の傘に入り続けれるし、こうやって面と向かって言えないことも、今なら言える。
ザアザアと大きく地面を打つ雨音は私達の声をかき消してくれる。そのまま言いたい本心を雨が流れ落ちる坂のように、スラスラと出てくるのだ。
「あれま......雨上がったみたいだね」
「えっ」
「残念、相合い傘はまた今度だね」
「そ、そんな......」
せっかくの相合い傘が......次はいつ出来るのか分からないのに。今から雨乞いの儀式でも開催しようかな。
私が肩をガックリ落とすと、それを見ていた彼はクスクスと控えめに笑った。恥ずかしい、控えめに笑うな。
「笑うなら盛大に笑って。恥ずかしいでしょ」
「ごめんね。そんなに相合い傘したかった?」
「したかった......です」
「そっかそっか。でも晴れたし」
彼は私に手を差し出した。私は彼の瞳を見つめる。彼はニッコリ笑って私の手を引いた。
「これなら堂々と、手繋げれるでしょう?」
私を優先していたのか、制服や髪は半分濡れていた。私は鞄からタオルを取りだし、彼の髪を拭きながら心臓がバクバクと高鳴っていた。
顔は真っ赤になっていないかな、タオルの柄は変じゃないかな、タオルの洗剤の匂いは大丈夫かな......。
ちょっとのことが気になって仕方ない。不安だけど、どこか楽しい自分が居る。
だってそれは、
「満月くん......」
私は満月くんのことが、
「どうしたの小鳥遊さん」
「あのね............大好きです......」
大好きだから。
- Re: 私にキスして、僕を殺して。 ( No.4 )
- 日時: 2018/05/24 23:18
- 名前: 麗楓 ◆F.XzXC1pug (ID: WqZH6bso)
甘々すぎて死にそう(´・ω・`)
早く「殺して」の部分書きたいなぁ...。
4.ズルいよ
「いらっしゃいま......せ?」
土曜日の昼頃、カランコロンとドアの鈴が小さく鳴った。テーブル拭きをしていた僕はいつも通り挨拶を済ませようとした時、思わず言葉が突っかかる。目の前には僕の愛しい人が立っていたからだ。
木製のドアの先には花柄のピンク色のワンピースを着た、日本人形のように黒くツヤのある髪と澄んだ深い青色の瞳、少し恥ずかしそうに顔を赤らめる美しい女性。
小鳥遊律さん、僕の恋人である。
「こんにちは、ウェイターさん」
「小鳥遊さん! ......じゃなくて、お客様」
慌てて言い直した僕の姿を見て、彼女はプッと吹き出した。余程面白い姿だったのだろう。口に手を当ててクスクスと笑っていた。
「いつものホットケーキセットでお願いします」
「かしこまりました」
厨房に注文を伝えて、僕は店の裏側である控え室に向かう。大きな鏡の前に立ち、急いで制服や髪型に支障はないか隅々までチェックした。弛んでいたネクタイをキュっと締めてシワを伸ばす。
ビックリした。まさか小鳥遊さんが来るなんて。
だって昨日帰った時に小鳥遊さん、僕のバイト先に行くなんて言ってなかったし。頬をフニフニつねったが、痛いので夢ではない。
こんなフワフワした姿を見せるわけにはいかない。しかも今は完全に「お客様・店員」として接しているので店の規約上、親族が来ても丁寧な対応をしなければならないのだ。
フワフワに焼き上がったホットケーキを見て、彼女は目を輝かせる。熱々のホットケーキの上にバターを静かに落とす。
ジュワーっと溶けて消えていく。湖の水面が波紋を広げるような様子が目に伺える。更にハチミツを高い所から落としていく。周りにハチミツの甘い香りが鼻孔をくすぐるのだ。
あの日も小鳥遊さんはホットケーキを頼んでいたような気がする。そうして満面の笑みを浮かべながら帰っていったことが、今でも頭から離れない。
「私達が最初に出会ったのって、ここだよね?」
小さく頷くと、「やっぱりそうだよね」と微笑んだ。いつの間にかホットケーキとセットのリンゴジュースは消えて、空になった皿と、透き通る小さなカケラの入ったガラスだけが残っていた。
「あのときもホットケーキを頼んでいたよね」
「サンドウィッチだけど」
そんな、と小さく叫んだが「嘘だよ」と彼女は笑って言い返した。
焦った、間違えたら幻滅されるかもしれないし......。
「......今私好きな人が居るの」
「え!?」
「その人は同じ高校で、このカフェでバイトしてるの」
「......うん」
「かっこよすぎて困るんだけど、どうすれば良いと思う?」
その透き通る瞳に、顔を真っ赤にした僕の姿が映っていることに気づく。僕は慌てて目をそらした。
激しく心臓が鼓動し始める。誰かに心をギュっと強く握られているようだ。彼女も軽く興奮しているのか、目の縁を赤く染めていた
あー、小鳥遊さんに聞こえてませんように。
こんなに胸が高鳴ってるなんて気づかれたら、余計恥ずかしいだろう。
今この瞬間が、ただでさえ恥ずかしいのに。
「本当、ズルいよ......」
でもものすごく嬉しいなんて言えない。
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