複雑・ファジー小説

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夜の淵で、さようなら
日時: 2018/06/02 10:00
名前: のと みやま (ID: bUOIFFcu)



 手が、僕に触れるとき。
 息をのむ。呼吸を止める。最初の一秒だけ。
 しっとりとした体温と、息遣い。けっして初めてではないけれど、僕はいつも、彼女に触れられるとき緊張してしまう。彼女といっても、正確には「十代半ばの少女の姿をした怪物」なので、人間ではないのだが。

「時間がきてしまったようだね」

 悲しい顔で彼女はそう告げる。
 覚悟はしていた。わかりきっていたことだ。
 僕は、今日まで、彼女に殺されるために生きてきたのだから。

「僕が死んだら、きみは悲しいかい」
「悲しいよ。ここに閉じ込められているのは、ボクも同じだからね」
「──きみはこのあと、どうなるの」

 何年も生き続けているという彼女の、未来。死によって縁どられた時間の経過に、彼女はずっと漂っているという。平坦な、刺激のない日常。人を殺すという彼女にとっての日常は、僕が死んでしまってからもずっと続いていくのだろう。
 彼女はなにも言わなかった。
 なにも言わず、ただ微笑んでいた。
 部屋の扉が開いて、暗い表情の男たちが数人、入ってくる。彼女の顔からは笑みが消えていた。

「囚人番号32番。これより移動を始める。目隠しをしろ」




 人を殺めることを最大の禁忌と定めたこの国で、死刑制度の問題は長く続いていた。
 殺人を犯した者が、あるいはそれに類する大罪を犯した者が、刑務所のなかで死ぬまで生き続けていることに疑問を投げかける声も多かった。
 しかし、人間は人間を殺してはいけない。
 それを正義だと記した国で、死刑執行人に任命された者も、周囲から「人殺しを生業としている」ものとして異端の目で見られていた。厳しい差別と自責の念にかられ自ら命を絶つ人間も少なくなかった。
 やがて、転機は訪れる。
 港町のはずれに妙な力を持った子どもが産まれたというのだ。その子どもは、自らの血を結晶化させ、鋭利な刃物のように変えてしまうという。国は多額の金を両親に支払い、その子どもを徹底的に学者たちに調べ上げさせた。
 人間の形をしているが、これは人間ではない。
 本人の意のままに操れる血の刀。
 彼らはこの恐ろしい能力を持つ子どもを、公の目から隔離し、隠蔽し、そして彼女を「死刑執行人」に任命することにしたのだった。



□ セルマ

 国で唯一の死刑執行人。突然変異体として産まれる。外に流れた自らの血を結晶化させ、刀の形に変異させる。15歳ほどの少女の姿をしている。短い白髪(血がつくと目立つためほぼ刈り上げている)。

■ ザイ

 囚人番号19番。


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