複雑・ファジー小説

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有り体、未定、這々の体
日時: 2018/06/16 23:35
名前: さくさくメンチ (ID: vGUBlT6.)




「魔法少女に、なりてぇな……」




 路地裏、十七の夏。

 誰にも届く事なく、溶けて気化した呟き。

 額に染み出る汗を拭い、遠く揺らぐアスファルトを眺めた。

「魔法少女に、なりてぇよ……」





Re: たい焼きは魔法少女の夢を見るか? ( No.1 )
日時: 2018/06/17 00:41
名前: さくさくメンチ (ID: vGUBlT6.)




「たい焼きひとつ下さい」
「あいよー」

 熱々、ぱりぱりのたい焼きに背中からかぶりつく。口の中に溢れるあんこの甘さと皮の香ばしい味わい。ぽとっと地面に落ちた小豆を乗り越え、少年はのんびりと進む。背後からじりじり照りつける日射しをものともせず、背中、頭、腹、尾ひれ……次々と鯛を平らげていく少年。鯛だけに。

 少年と、その食いっぷりを呆れたように眺めている友人。二人も並べば、狭っこい歩道は塞がれてしまう。しかし、向かい側からやって来るのは蝉の声ばかり。周りを見渡しても、歩いているのはおよそこの二人だけだった。
 それもそのはず、周囲には、黄ばんだセロハンテープの跡が生々しく残るショーウィンドー。倉庫のようにぎっちりと物が詰まっているのが外からでも分かるタバコ屋。「昭和か」とツッコみたくなるような派手な飾り文字を掲げた美容室__もちろん閉まっている__等。寂れるのも無理はない店々のオンパレードである。無論、閉まっていない店もあるにはある。それがさっきのたい焼き屋であり、今少年が頬張っているものの製造元なのだ。

 最後のひと欠片、尾ひれの端を口に放り込み、終始無表情のままたい焼きを完食した少年。包み紙をポケットに仕舞う彼に、友人は溜め息混じりに話し掛けた。

「七月に熱々のたい焼きを食う奴なんて、見たことないわ」
「……今見ただろ」
「あっはい……うっす」

 たい焼きを大人しく頬張っていた時とは打って変わって、不愉快そうな声を出す少年。こめかみの汗を拭わずに、反対側のポケットからスマホを取りだした。友人は不服そうに口を尖らせる。つれねーなぁ、と少年の肩に腕を回した。

「やめろ、暑い……」
「あぁ、暑いからなの? 機嫌悪いの」
「……別に」

 重くのしかかる腕を払い、少年は友人の肩を押した。やや大袈裟にのけぞる友人。更に伸びてくる腕をかわして、スマホに巻き付けたイヤホンをくるくるとほどく。むっとした汗だくの顔の友人を一瞥し、少年は蝉の声を遮るように、イヤホンを耳に付けた。

「なぁ、何カッコつけてるんだよ。たい焼きは食べるくせに」
「……カッコつけてねぇよ」

 少年は隣を行く友人を無視して暫く歩いた。黙っている少年を見、友人も黙った。足と顔を伝う汗だけが忙しない。重くはない、気まずくもない、ただただ暑い。そんな空気が二人の周りに立ち込めた。歩幅はぴったり同じ。少年の耳元でドラムが弾け、友人の耳には蝉の唄が届く。

 やがて、おもむろに少年が立ち止まった。数歩先で友人も立ち止まる。友人は怪訝な顔で少年を振り返ったが、少年は何か心を決めたような目をして、熱気の昇る地面を睨んでいた。さっきまでとは違う沈黙。友人の口が開いては閉じ、何か言おうとしては止めていた。下を向いたまま動かない少年。どのくらい時間が過ぎたか、友人には分からなくなっていた。一秒、一分、一時間かもしれない。しかし、確かに時間は通り過ぎた。我に返り、はっとした友人が少年に手を伸ばす。それを跳ね返すように、少年が叫ぶ。

「俺さぁ!」

 少年の喉が上下し、重たく熱を持った空気を吸い込んだ。

 続く言葉は____









「魔法少女になりたいんだよ!!」


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