複雑・ファジー小説
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- 成り損ない物語
- 日時: 2018/07/30 12:49
- 名前: 兎月つゆ (ID: YUWytwmT)
はじめまして、兎月つゆと申します。ド素人なので至らない点ばかりですが、楽しんでいただければ幸いです…。
かなりのんびりな投稿になると思います。
童話や昔話を元にした作品です。できるだけたくさんの資料を調べた上で書いていますが突っ込みどころはたくさんあると思います。
ざっくり言えばファンタジー、テンポの悪いほのぼの要素が多いかも知れませんが、たまにグロが入るかも知れないのでこちらに投稿させていただきたいと思います。
〈登場人物〉
ロビン・フッド
アーサー
赤ずきん
ラプンツェル
ジャック
アリス
アラジン
その他。
- Re: 成り損ない物語 ( No.1 )
- 日時: 2018/07/14 12:36
- 名前: 兎月つゆ (ID: 3mln2Ui1)
世界には、たくさんの物語が存在する。
古い物語もあれば、新しい物語もある。短い物語もあれば、長い物語もある。愉快な物語もあれば、悲しい物語もある。誰もが知っている有名な物語もあれば、誰も知らない物語もある。
書かれた時代も地域も内容も様々な、本当にたくさんの物語があるのだ。
物語の作者は、ストーリーもそうだが、登場人物をどうするか考える。その時、もちろん一発ですんなり決めることができる場合もあるが、こんな性格ではだめだ、こんな人じゃないと成り立たない、等、取捨選択することが多いだろう。物語を作ったことのある人なら、分かるだろうか。
それでは。
捨てられた設定は、どうなるのだろう。
誰にも知られず消滅する。本来ならそうだ。登場人物というのは、いわば作者の操り人形。作者が作った世界の中で、定められた通りに動くだけの存在。人形は人形、意思なんて持たない。
そのはずなのだ。
しかし、例外がある。
もし、その人形に意思があったら、どうなるだろうか。意思を持ったまま物語に操られるのか、あるいは捨てられるのか。
「死にたくない」
「消えたくない」
得られるはずのない自由意思を持ちなから、そう願った人形はーーある世界に放り込まれる。捨てられ、または自らの役割を捨てた人形たちが集まるところ。
成り損ないの世界に。
- Re: 成り損ない物語 ( No.2 )
- 日時: 2018/07/29 14:53
- 名前: 兎月つゆ (ID: noCtoyMf)
その盗賊は×××××。
成り損ないの世界は、誰も覚えていないほど昔から存在する。昔からいる人々によっていくつか街が作られ、皆自由に好きな場所に住み着いて、好きな仕事をしている。争いはほとんど起きず、全てのひとが支え合って生きている。そんな、平和な世界。
いくつかある街のうち、最も栄えているのがオルサという所だ。オルサには「始まり」という意味があるらしく、実際一番最初にできた街なのだとか。
王も目立った権力者もいないこの街には、大きな図書館がある。不思議なことに、この図書館というのは、成り損ないの世界に来た人々ーーいわゆる『成り損ない』と呼ばれる人たちが生まれた元のストーリーが納められる場所なのだ。例外はひとつもなく、全ての成り損ないの、全ての物語が自然に集う場所……そこを、ある人達が管理していた。
重い書籍をせっせと運んでは棚に押し込む、この作業を繰り返していたある男性は、やれやれと椅子に腰を下ろした。
彼の名は、ロビン・フッド。かつてイギリスのとある森の盗賊であった男だ……いや、これは男と言うよりも青年と言った方が良いのではないだろうか。彩度の低い緑色のフードの下にある顔は、盗賊と言うには若々しい。なぜか、左目だけ前髪で隠しているが。
「ラプンツェルー、終わったかー?」
だらりと椅子に座ったまま、ロビンは、室内全体に届くような大きな声で訊ねる。
「あともうちょっとー!」
少女の声が、どこかから返ってくる。……直後、ドサドサっと何かが落ちる音と共に、「ひぇーっ」と悲鳴が聞こえた。
「おいおいおい、大丈夫かよ!?」
あわてて立ち上がり音がした方に駆けつけると、まあ、想像通り、本の山ができていた。図書館で何かが落ちるといったら本以外である可能性の方が低い。
「……大丈夫か?」
声をかけてみる。
「大丈夫ー……」
もぞもぞと本の山の一部が動き、日に当たったことがないのかと思うほど白い腕がにょきっと出てくる。白くほっそりしているぶん、ちょっと怖い。ロビンがその腕を引っ張ってやると、美しい金髪の少女が抜け出てきた。
「ご、ごめんね。引っ掛かって落としちゃって……」
「怪我は?」
「ないよ、大丈夫」
申し訳なさそうに頷く少女ーーラプンツェル。ロビンは「あー、よかったよかった」と笑って言い、小山を作っている本たちを数冊拾い上げ、本棚に押し込んだ。
「ま、これくらいなら片付けもすぐ終わるだろ。気にすんな」
「う、うん……ありがとう」
ラプンツェルは気恥ずかしそうに笑うと、ロビンに続き、落ちた本を広い始める。
そこへ、ぱたぱたと数名の足音が近づいてきた。
「兄ちゃん、地下書庫の整理終わったよーっ!」
「お兄ちゃんにスペシャルアターーーック!」
元気な声と共に……ロビンの背中に何かがぶつかり、同時にかなりの重量がかかる。そう、かなりの。たぶん、三十か四十キロくらいの。
「おおおおお重っ!?ちょ、危ない危ない危ないから降りろ!」
「やだー!」
背中にしがみついている誰かさん二人の声が、仲良く重なる。ということで、降りるつもりはないようなので、ロビンは勢いよく大きく前屈みになって、後ろに引っ付いている二人を強制的に地面に落とした。
「ジャック、赤ずきん……」
ラプンツェルが、苦笑いをして呟く。
農夫のような格好をした栗毛の少年と、赤い頭巾を被った薄茶色のショートボブの少女。二人は地面に尻餅をついて、楽しそうにきゃっきゃと笑っている。
「ごめんごめん、兄ちゃんが背中向けてたから、つい」
「背後とりたくなるよね!」
「子供のくせにおぞましいこと言ってんじゃねーよ。おやつ抜くぞ」
ロビンが軽く脅すと、二人は笑顔を引っ込めて目をまん丸くし、「それだけは勘弁して!」と言いながらまたもやロビンにしがみついた。今度は背中ではないが。
「はいはい、冗談だよ。仕事おつかれさん」
「こっちも手伝うよー?」
地面に積み上がった本を見て、赤ずきんがそう言ってくれる。この二人は子供らしく絡みが荒いだけで、基本はとても優しく気が利く子だ。
成り損ないには、寿命がない。同時に、成長しないし、年をとって老化することもない。事故にあったり重い病気になったり、故意に殺されれば死ぬが……つまり、その日の時刻以外で“時”という概念が必要ないような世界なのだ。そうやって各人ぐだぐだ過ごしているせいで、それぞれ存在する街がいつ作られたのか、誰が作ったのかももう分からない。だから、図書館がいつから、誰の手によって存在するようになったのか、そしてどういう原理でこちらに本が集まってくるかも全然分からないでいる。
とりあえず言えることは、ロビンがここに来たときにはもう既に図書館があり、赤ずきんもジャックもここに住んでいたということだ。
そして同じくロビンが来る前からずっとここに居座っていたという人物が……
「やっと終わったのか」
上から目線で非常にむかつくこのアーサー王である。
王の威厳を漂わせるような立派な衣装を身に付け、金の冠を被り、顔つきも世間一般では整っていると言える……見た目はちゃんと王様なこの人。実は、成り損なった理由がすぐ分かるような性格をしていた。
「待ってたんならこっち手伝えよー」
ロビンが言うと、アーサーは
「貴様らがどこで何をしているのか知らされていなかったからな」
と、即座に言い訳を返した。んなわけあるか、お前さん一緒の部屋で作業してただろうが。確かにめちゃくちゃ書庫広いけど声くらい余裕で聞こえるだろうが。
「言われなきゃやんないのかあんたは!」
「助けが必要ないと判断した」
「誰がだ」
「私がだ」
「一人でか」
「充分だろうが。むしろ他人に判断を任せるような人間の方がどうかしてるだろう」
「そういうこと言ってるんじゃないんですぅー!夕飯各自に作らせるぞポンコツ王!」
「なんだその脅しは。ご飯くらい各自で作れるだろ」
「毎晩夕飯作ってんの俺だよね!?あとお前さんすげえ料理下手だよね!?キッチン貸したくねぇ!」
「じゃあ貴様が作ればいいじゃないか」
「ループさせんな!……って、え?」
いつも通りといえばいつも通りだが、なかなか意味のない口喧嘩に割りこんだのは、小さな妖精のような生き物だった。金髪くせっ毛の手のひらサイズのマスコットのような妖精。実は、この妖精ーー
「ああ、うるさくしてすまない、エクスカリバー」
そう、エクスカリバーなのだ。
アーサー王伝説を知っている人なら、異常に気づくのではないだろうか。エクスカリバーは本来、アーサー王の特別な剣であり、その鞘は身に付けていると傷を受けないという魔法の鞘、という話だ。しかし、なぜかこの世界に来たエクスカリバーは妖精のような姿になっていた。過去に何があったのか本人も覚えていないようだ。
「ところで、アラジンは?」
「買い出し」
「おう……お疲れさまだな」
さっきまでの口喧嘩はなかったことになったように、そんな普通な言葉を交わす。いつものことだ。というかそもそもさっきのは口喧嘩ではなく好き勝手怒鳴ってただけで、お互い本当に嫌い合っているわけではない。……好きではないが。
「とりあえず仕事は終わったし、もう解散な。みんな、お疲れさん」
今日は特別予定も仕事もない。そういう日は、こうやって時経つごとに本が増えていくこの図書館の整理や掃除をするのだが、今日はそれも終わった。あとはもう各自自由に過ごす時間だ。
「ロビン、みんな、お疲れ様」
ラプンツェルがにこにこ笑って皆に声をかける。ジャックと赤ずきんも「おつかれさまー!」と元気よく返す。アーサーはなにも言わなかったが、頭の上でエクスカリバーがぴょんぴょん跳び跳ねている。かわいい。どうかこれからもこんな無愛想かつ自己中心的な主人の影響を受けずに可愛らしく生きてほしい。
さて、何をしようか。
そう悩んだとき、とりあえず、ロビンは昼寝をする。昼寝に飽きたら外に出る。そんでもって眠くなったら適当に草原で寝るし、眠くなかったら散歩する。
そう、とにかくよく寝る。
だから、今も寝る。
「……」
ただ、いつも、どうしても考えてしまうことがある。何回考えても、考えても無駄だと分かっていても。
……自分は過去に何をしていたのか、と。
成り損ないは、過去の記憶を持ったままこの世界にやって来る。与えられた物語の内容も、なぜ成り損なうはめになったのかその原因も各々分かっている。実際、周りの人はみんな、自分の過去を覚えている。昔どんなことがあったか話してくれたり、ネタとして語り合ったりする。
なのに、分からない。
ロビンは、何も覚えていないのだ。
一度、脳味噌がどうにかなるんじゃないかというほど頑張ってひねり出そうとしたことはある。しかし、明確な映像は出てこなかった……代わりに、ひどく痛い思いを味わった。身体中の原因不明の古傷という古傷、特に深く傷ついた左目が、耐えがたいほどに痛んだ。それ以来、そこまで無理して思い出そうとする勇気が出せない。
「なんでかねぇ」
窓際の椅子に腰かけて、ぼんやりと呟きながら、髪の上から左目に触れる。
窓に映ったその目は、十センチほどの切り傷を塗り潰すように、酷く焼けただれて変色している。なぜこんな酷い有り様になったかって?むしろこっちが聞きたい。
何をしていたんだっけ。
ぼんやり考えながら、しかしいつものように答えを出せないまま、ロビンは眠りに落ちた。
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