複雑・ファジー小説

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晴と猫と幽霊と
日時: 2018/09/13 19:11
名前: 市村圭介 (ID: P/XU6MHR)

 
 死んで猫と幽霊になった兄姉の話。

 椎名晴しいなはる 椎名家三人兄妹の末っ子。次女。

 椎名翠しいなみどり 椎名家三人兄妹の二番目。長女。死んで猫に転生する。椎名家のペット。

 椎名暁しいなあかつき 椎名家三人兄妹の一番目。長男。死んで幽霊になる。

 樋口透ひぐちとおる 晴の同級生。晴のことが好き。霊感が強い。

Re: 晴と猫と幽霊と ( No.1 )
日時: 2018/09/13 21:32
名前: 土高 (ID: P/XU6MHR)

 
 ──晴、危ない!

 断末魔の耳をつんざくようなブレーキ音、舞う血飛沫、失っていく身体の感覚、薄れていく視界、晴の驚いた顔。
 これが死ぬってことなのか。
 後悔はない。あるとすれば、晴の成長を見届けたかったことぐらいだ。
 ごめんな晴、お兄ちゃんはずっと一緒にいられないみたいだ。せめて天国で見守ってるからな。

 ◇

 「暁、いかないで……」
 「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」

 部屋に響くピー、ピーという機械音。真っ白なベッドの上に横たわる俺の体を抱いて涙を流す二人の人間。一人は、俺の母さんだ。うつ向いて顔は見えないが、俺を呼ぶその声は今まで聞いたことがないくらい悲痛で悲哀な声音だった。そしてもう一人は、俺の妹だ。世界で一番可愛い俺の五歳になる妹の晴。その顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっていて、ただただお兄ちゃんと泣き叫んでいた。

 ……ん?待てよ、どうして死んだ俺がこの光景を見ることが出来るんだ?
 改めて自分の体を見てみる。浮いている。しかもうっすらと透けていて向こうの景色が体越しに見えた。触ろうとしても貫通してしまって空気しかそこにはない。しかし感覚はある。膝まで。何故なら俺は膝から下がなかったからだ。そして着ている服は血が染み付いていて汚い。タイヤの跡もついている。まるで死んだあとの姿みたいだ。
 
 透けている、触れられない、膝から下がない、死んだあと───
 あれ、もしかして、もしかしなくても、これって幽霊?俺幽霊になっちゃったの?

 「あー」

 声は出る。でも誰も俺に反応しないということは聞こえていない、そして見えていないということだろう。
 晴に手を伸ばし、頭を撫でようとする。死ぬ前に俺がよくそうしていたように。でも全く触れられなかった。試しに他の壁やら花瓶やらに触ろうとしてみる。でも何回やっても空振りするだけで少しも触れられなかった。

 ああ、本当に幽霊になったんだ俺。幽霊ってことは未練があったからなったのだろうか。未練と言えば、まあ、晴の成長を見届けられなかったこと、か?じゃあ見届けられた、つまり未練がなくなったら成仏するのだろうか。
 とにかく、これからも晴を見守れるなら幽霊でもなんでもいい。晴、俺は幽霊として側にいるよ。

 ◇─それから一年( ^∀^)─

 「ニャンコロ!」

 椎名家は俺と翠の死から一年経ち、空きを埋めるように新しい家族を入れた。全身明るい茶色の猫である。晴は大層喜んでいて、前々から決めていた名前を呼んでいる。
 おう、猫。椎名家の人間は俺もいるからな。忘れんなよ。これからよろしくな。つってもまあ、聞こえないだろうけれど。確か翠も明るい茶髪に染めてたな。ちょっとこの猫と似てるかもしれない。まあ、ただの猫なんだけど。

 だがしかし、人生は小説より奇なりとはよく言ったもので、何故か俺とこの猫、よく目が合うんです。というより、あっちが一方的に睨んできてるんだけどね。アーモンド型の鋭い目線で睨まれると威嚇されてるみたいで怖いんだよなあ。そもそも俺のことが見えてるってこと自体が驚きなのに、なんでそんなに見つめんの?俺何かした?

 なんだか気になるので、ダメ元で声をかけてみた。

 「おい、ニャンコロ。」
 「ニャア」

 おっ、さっきのは反応したと言えるのでは。やっぱりこいつ俺のことが見えてるどころか聞こえてるんだ。
 するとニャンコロは突然、どこかへ行ったかと思うと、おもちゃを咥えて戻ってきた。晴のおもちゃだ。五十音のぼたんを押すと、押した文字の音が発せられるというものだ。
 ニャンコロは肉球で器用にぼたんを押し始めた。

 「あ、か、つ、き」
 「!あかつきって……そう、俺だよ、暁だよ。お前、翠か?」
 「そ、う、だ、よ」
 「ニャンコロ、お前だったのか……」

 嬉しさで今すぐ抱き締めたい衝動に駆られるが、生憎それは叶わない。

 「ゆ、う、れ、い、に、な、つ、た、の」
 「そうだ、俺幽霊になったみたいなんだ。お前は猫に転生するとはなあ。」
 「し、ん、じ、ら、れ、な、い、よ、ね、ほ、ん、と、わ、た、し、も、ゆ、う、れ、い、の、ほ、う、が、よ、か、つ、た」

 信じられないよねホント、私も幽霊がよかった。
 うーん、長い文だと聞き取りづらいな。それよりも、俺は寧ろ猫の方がよかったんだが。

 「何言ってんだ。猫なら晴に触れられるじゃねえか。俺は猫になりたかったよ。」
 「と、も、か、く、は、る、を、み、ま、も、ろ、う、ね」

 ともかく晴を見守ろうね。
 そうだ。言うことも、触れることもできない俺には見守るしかできることはない。ならできることをできる限り、精一杯やるまでだ。


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