複雑・ファジー小説
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- チュリーロゼッタ、可愛い君は【完結】
- 日時: 2018/08/31 18:09
- 名前: 流聖 (ID: Hh73DxLo)
短編集です。
>>1 林檎酒
>>2-4 雨の檻
>>7-8 言わなくても触れなくても相手が自分を好きだと自信を持って思えることのなんと幸せなことか
>>9 君って、ほんと…
>>10 真似琴ヲ好イ人ダト思フ
>>11 登場人物紹介
>>12 ぬるい過去に銃口を
>>13-15 一時の両思いよりも永遠の片思いのほうが
>>16 本の告白は秘密
>>17 博士は宇宙人Xを見た!
>>18 最後には噛みつくような関係になりたい。
>>19 登場人物紹介
>>20 チュリーロゼッタ、可愛い君は
- Re: チュリーロゼッタ、可愛い君は ( No.16 )
- 日時: 2018/08/30 19:15
- 名前: 流聖 (ID: Hh73DxLo)
本の告白は秘密
今日も、図書室に行く。それは、彼女との暗黙の約束だ。名も知らない、会ったこともない素敵な彼女との。フィクションの本棚の三段目、一番右端にある本。表紙が茶色い皮でできていて、精緻な刺繍が施されている。擦りきれた本の端々からはかなりの年数を経ていることが伺える。紙の質、本の匂い、くすんだ色。少なくとも本の魅力としては誰もが気にしないところだ。でも僕はそういうところがいいと思う。ひっそりと、ただ静かに佇んでいる。目立つことはなく、手にされることも殆ど無いけれど、皺のついたページや色あせた表紙は、過去に多くの人が手にしたという証。この本は今からして過去の英雄なのだ。
その本に挟まれた白い、白い、純白のしおり。ミルクのようにまろやかで雪のように溶けてしまいそうな彼女のしおり。これは僕と彼女の告白だ。そのしおりが挟まれたページの一番最初の台詞。それが告白になる。今日、挟まれていたページの台詞はこうだ。
「私を、花だと思ってください。きっとそれが、合言葉になりますから。」
花、か。果たしてなんの花だろう。この本に出てくる花の種類はひとつしかない。山吹だ。日本の古来からそう呼ばれ、かのヤマトタケルが死ぬ原因となった鬼の名も山吹鬼という。それくらい有名な花だ。黄色くて小さいけれどたくさん集まると鮮やかな花だ。花言葉は、気品、崇拝…待ちかねる。待ちかねる。頭の中で何度も反芻する。彼女は僕を待っている。会いに来るのを、彼女はずっと期待している。
なんて告白しよう。この本に載っている台詞でなければいけない。パラパラとページをめくりながら彼女へ送る言葉を探す。綺麗な景色でも、心地よい音色でもない。僕が送れるものは本当に小さいけれど。この行為こそ大したものではないから。
ひとつの台詞が目に止まった。物語に出てくる情けない馬の一言だ。
「私は、よくきく嗅覚も、よく聞こえる聴力も、よく見える視力も、よく好かれる容姿も、よく戦える腕力も、よく走る脚力も、よく噛める顎の力も、持っていません。哀れな水が恵まれるのを待っている老馬です。しかし、花が育つのを見守ることは出来ます。」
これにしよう。このページに純白のしおりを挟む。綺麗な一点の穢れもないしおり。朝の冬空のような、幽霊の肌のような、朧気な白さだ。彼女もこのしおりをいとおしく思うのなら、このしおりが例え泥沼に落ちていようと、湖畔に沈もうと、僕は拾いたい。僕はしおりにそっと、口づけた。
***
今日は台風だった。天気予報でも知らされていなかった、突如現れた魔王のような台風。ごろごろと唸り声をあげ、時々稲妻の天罰を下す。きっと、僕が罪を犯したからだ。僕が清純なあのしおりに口づけたから、汚してしまったのかな。傘、持ってきてないんだよなあ。ちらりと横を見ると古典の女性教師がいた。まるでプールから上がったみたいなすっきりとした表情で、灰色の雲を見上げていた。
「あの、傘貸してくれませんか。」
僕がそういうと先生は、僕の方へ振り向いて小さく笑った。先生の瞳は水面のように僕を映して波紋をたてながら震えていた。ああ、泣きそうだ。僕も、先生も。周囲の人間が、言葉が、針に見えて痛いんだ。でも傷つく様は酷く美しい。そういう人だ。僕も、先生も。
「七重八重 花は咲けども 山吹の 実のひとつだに 無きぞ悲しき」
本来の意味なら、どれだけ華やかに咲かせても実を結ぶことが出来ない山吹の花を悲しんだ唄だ。しかしこの場合、意味は傘が無いことを指している。昔は傘のことを「みの」といった。唄の「実の」と傘の「みの」をかけているのだ。普通は唄を詠まずに、山吹の花を手折って相手に差し出すことで伝える。しかし今は山吹の花がないから唄を詠んだのだろう。さすがは古典の先生だ、そういうことを知っている。
でも、じゃあ、つまり、彼女っていうのは先生なのか。
「先生、貴方が花なのですか?」
「では貴方が私を見守る馬だったのですね。」
- Re: チュリーロゼッタ、可愛い君は ( No.17 )
- 日時: 2018/08/30 19:16
- 名前: 流聖 (ID: Hh73DxLo)
博士は宇宙人Xを見た!
ーとある博士の手記ー
一体これをいくらかの人間が見るだろう。瞳に映ることはあり得るのだろうか。無名のしがない博士の手記など、誰の目にも留まらず朽ちていくだけかもしれない。それでもいい。私は残そう。ああ、黒く艶のある銃口が私に向けられている。ほんの少し力を加えるだけで私の命は簡単に壊されてしまう。今、私の命は恐ろしく安いのだ。
今まで勉学に励み、青春すら捨ててここに立っている。青春、送りたかったなあ。親孝行が出来ていないまま、母には先に旅立たれてしまった。すまない。こんな息子で。天国とは宇宙の果てにあるのだと聞いたことがある。私はそれを見に、そして少年時代に憧れた星々を見に、地球から旅立った。ニホンの宇宙船ヤマト号は素晴らしい。乗れて光栄だと思うよ。
宇宙船に乗って地球を旅立ってから三日目のことだった。突如として現れた目の前の存在の呼称を私は知らない。よって仮として宇宙人Xとさせてもらう。血のように赤く、リンゴのように甘酸っぱい、深紅に染まった服を着ていた。三角帽子に白い髭、大きく膨らんだ袋を担いだ男だった。話を聞くところによれば、男は地球に行く途中らしい。私は地球人だと言うと、大層喜んでくれた。少しの食べ物を分け与え、私は地球はここから六万㎞離れた青い星だよと教えた。
すると宇宙人Xはにっこりと笑ってありがとうと言ったんだ。そしたらこの様さ。いきなり銃口を向けられて拘束されている。宇宙人Xの指が動く。引き金が少し動いた。ああ、私はおそらく死んでしまう。この手記は遺書だ。誰か見つけてくれるといいのだが。私を殺した犯人は宇宙人Xだ。赤い服を着て三角帽子をかぶり、もじゃもじゃ髭を生やした男。子供に好かれそうな笑みとピエロのような道化の声。
まるで、まるで、そう。サンタさんだ。
今ここで私は命をかけて証明しよう。サンタさんはいると。ではさようなら。グッとモーニング、アース。
- Re: チュリーロゼッタ、可愛い君は ( No.18 )
- 日時: 2018/08/30 19:58
- 名前: 流聖 (ID: Hh73DxLo)
最後には噛みつくような関係になりたい。
「新しい血に、乾杯。」
カラン、と心地よい音色を奏でてグラス同士がぶつかり合う。ワイングラスに入ったその新鮮な赤い液体は私達の大好物だ。高級なお肉よりも、希少な珍味よりも、好きな人の想いが込められた料理よりも、好きなもの。それは血だ。紅く、美しい、さらさらの血液。それは神の葡萄酒である。すなわち私達が好物として飲んでいるのは言い方を代えれば葡萄酒。つまりヴァンパイアこそ神。十字架とかにんにくとか銀とか日光とか、弱点は多いし、年々数も減少してきているけれど、私達こそ牙を得た唯一無二の神なのだ。
「ふふふ、やっぱり血は美味しいなあ。だろう?ニンゲン。」
ヴァンパイアのくせにこの人は血を飲むと酔ってしまう。滑舌がうまく回らなくて紫の神秘的な瞳は微睡んでいる。白く精鋼な牙を無防備に見せ、青白い肌は珍しく赤らんでいた。美味しいだろうなんて言われてもよくわからない。ニンゲンの私には。そもそもこの人が飲んだ血は私の、まあ、あれだ。毎月女の子だけにくるせいりってやつだ。
飲まれてもこちらに損はなく、相手も得を得る。ヴァンパイアと月経を迎えた女子は、例えるなら猛暑とコーラ、食事とレンアイ。それと同じくらい結び付きが強い。
「吸わせろ、ニンゲン」
強引だなあ。でもそれくらいが丁度いい。がぶっと噛みついて、血を吸って、私の一部があなたのものになる。たぶんこれってすごく素敵ですごくおかしい事だ。でもね、私ニンゲンじゃないのよ。
「ニンゲン、じゃないわ。私には名前があるのよ。」
「ニンゲンはニンゲンだ。ならば問うぞニンゲン。お前は虫けらの顔の区別がつくか?」
「つかないわ。でもそれとこれとじゃ違」
「違わない。虫けらの顔の区別をつける必要がないように、ニンゲンに区別をつける名前など必要ない。名前が必要なのは個々として価値ある生き物だけだ。」
名前は必要ない。私には必要ない。名前というレッテルにすがることも、守ることも、必要ないのだ。彼が言いたいのは、私が言ってほしいのは、きっとそういうこと。
窓から見えた月は一片も欠けていない、満月だった。月なんて所詮黄色いボールよ。誰にも何もすがらず守らず真の存在はあなただけ。そう、onlyヴァンパイア。
- Re: チュリーロゼッタ、可愛い君は ( No.19 )
- 日時: 2018/08/30 20:25
- 名前: 流聖 (ID: Hh73DxLo)
ぬるい過去に銃口を
是永大都
是永大都の母、マリーゴールド
是永大都の父、サンタさん
サンタさんの部下、トナカイ
是永大都の妻、栃尾乙女(とちお おとめ)
一時の両思いよりも永遠の片想いの方が
足利光男
手織由宇子
背西京谷(偽名)
本の告白は秘密
古典の先生、花散里見(はなちる さとみ)
男子生徒、霜降雪峠(しもふり ゆきとう)
博士は宇宙人Xを見た!
博士、ドクター・レ・ファニュ
サンタさん
最後には噛みつくような関係になりたい。
ヴァンパイア、ヴラド・ラペツェ
女子、赤星凸(あかほし とつ)
「博士は宇宙人Xを見た!」は小学生の頃を思い出して書きました。それがね、私が通っていた小学校で学年全体である討論が行われたんです。議題はサンタさんはいるのかいないのか。今考えると本当に馬鹿らしいんですけどね、あの頃は本気でお互い主張してたんですよ。ちなみに私はいる派でした。討論は白熱して次第に大喧嘩になり、泣く者まで出ちゃって、結局答えは出ませんでした。あの時私が命をかけてサンタさんはいると証明していれば皆も納得してくれたのかな、なんて考えて書いた物語です。
わあい、参照200突破!ありがとうございます!これからどうするかは考えていませんがとにかく頑張ります!
- Re: チュリーロゼッタ、可愛い君は ( No.20 )
- 日時: 2018/08/31 18:20
- 名前: 流聖 (ID: Hh73DxLo)
チュリーロゼッタ、可愛い君は
「病気がうつったら、私を憎んでね。そしたらおあいこ。」
あやめが悪女らしい、美しさがありつつ明確な憎しみのこもった眼差しを綾戸に向ける。綾戸は実の弟だがそれでも容赦のない刺のような視線は、今までの憎しみをたっぷりさらけ出したようだった。それと同時に弟の気持ちを弄び、悪戯を仕掛けてやったような少女らしさも含まれている。
一方、綾戸は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに慈愛に満ちた顔になり、林檎酒をこくりと飲み込んだ。姉に病気をうつされたといっても過言ではないのに、その表情は温かく優しいものだ。これが原因で死に至ることになっても後悔はない。それくらい綾戸は姉のことを愛し、許していた。
「はい、カーット!!」
突然大きな声がスタジオに響き渡る。するとあやめと綾戸は今までのことが全て嘘のようにころころと笑った。
「ふふふ、綾戸くん演技うまいのね。」
「いやあ、あやめさんの表情、もう僕魅せられちゃいましたよホント。」
あやめと綾戸は和式の部屋に似せられたセットから降り、自分の出番は終わりだと言わんばかりに足早に帰る準備をする。
「あれ、もう帰っちゃうの?」
先程のカットという大声を出した本人が帰ろうとしている二人に声をかけた。
「だってもう僕らの出番ないじゃないっすか。さよなら、カントク。」
「さようならー」
二人はそれだけ言うとスタジオを出た。それと同時に今度はスタジオに入ってくる者がいた。ただ歩いているだけたが身に纏う雰囲気が格別に違う。整った顔立ちと颯爽とした歩き姿。人に自分がどうか見られているか、どう魅せるか、知っている証拠だ。
「おっ、やっと来た!もう、来なかったらどうしようかと思ってたんだよ。君は今回の看板俳優なんだからしっかりしてよね。」
「はいはい、わかってますよ。」
彼こと、朝顔夕輝は衣装に着替えてセットに上がった。既にセットには共演女優の藤枝が待っていた。
人気俳優達が勢揃いの今回の月9ドラマは、放送1話目から視聴率は高く、DVDの売り上げも上々と、人気ドラマになった。何より「チュリーロゼッタ、可愛い君は」が初出演ドラマだった新人俳優の朝顔夕輝はこのドラマがきっかけでテレビ界で超引っ張りだこの売れっ子俳優になる。
腕の欠損を演じた手織由宇子は実際に腕がなく、むしろそれを武器に女優業界を歩んできた強者である。演技力も高く、コメンテーターとしても活躍しており、世間からの評価は高い。腕がないことを悲しいと思わない健気な性格がファンな心を掴んでいると言えるだろう。
マネキンをいい人だと思うに出演した塙多聞はああ見えても中学二年生の娘を持つ父親である。夫婦仲は良好で、最近の悩みは思春期の娘の扱い方がわからないことである。
他にも各々の意外な一面があるがそこは割愛する。それではエンドロールをどうぞ。
松坂あやめ
松坂綾戸
藤枝梨香
朝顔夕輝
是永大都
是永小町
栃尾乙女
塙多聞
マリーゴールド
サンタさん
トナカイ
足利光男
手織由宇子
背西京谷
花散里見
霜降雪峠
ドクター・レ・ファニュ
ヴラド・ラペツェ
赤星凸
監督 流聖
原作 流聖