複雑・ファジー小説

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君を、撃ちます。
日時: 2018/08/22 07:45
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: I.inwBVK)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=14588


 ■伊吹と椿木を愛してやりたいと思いました。


 □
 第零話『街』
 >>001

 第一話『僕』
 


 □URL:旧版


 □since.20130318〜(旧)
  since.20180818〜


———————


( 虚空に投げたコトノハ )
( オオカミは笑わない )
( さみしそうなけものさん )

ふわりとかすった花の香 /餡子

Re: Re:君を、撃ちます。 ( No.1 )
日時: 2018/08/19 22:29
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: L5UrJWz7)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode


第零話 『街』


 雑居ビルが立ち並ぶ空気の汚れた世界に、僕は産み落とされた。僕はそれを望んでいなかった。けれど、「母親」役の女と「父親」役を望んだ男が愛情の伴わない性行為を行ったから、僕はこうして生きている。僕が生まれてすぐに女と男は別れたらしく、女手一つで育ててくれた「母親」には感謝している。
 「父親」が居ないせいで陰湿なイジメを受けていたが、別に平気だった。くだらないことに時間を費やす「クラスメイト」が可愛くて。それでいて、可哀想に感じるだけ。そう口に出したら決まって「きもちわりぃんだよ!」なんて幼稚な言葉が返ってくるだけだった。「クラスメイト」は一人で生きていくことなんてできない可哀想な子達の集団だった。パッと見は仲が良くても、繋がりなんて案外脆い。

 それが、今までの記憶。これくらいしか思い出すことが出来ない自分がどうしようもなく嫌になるが、外の世界と積極的にかかわろうとしたことは一度もないから仕方がなかった。お祭りもキャンプも、公園も、見てるだけのものだった。僕は誰かと出歩きたかったし、みんなと一緒にキャンプも花火もしたかったのに。
 そんな今さらどうしようもないことを考え、思い出していると、急に苦しさの中に引き戻される。僕の身体に馬乗りする「誰か」は、圧迫されて息が苦しい僕のことなんて気にしていなくて、気持ち悪い笑みを浮かべていた。僕の首から伸びる「誰か」の腕は、ごつごつとして、僕がどんなに頑張って爪を立ててもびくともしない。もう、力も入らない。涙で視界がぼやける。苦しい、痛い、気持ち悪い。苦しくて、痛くて、でも死にたくなんかない。
 僕は喘ぐように息を吸う事しかできなかった。でも、空気なんて吸えない。泡間の先がじんわりと白く塗りつぶされていく。

 そんなことを思い出していると、急に苦しさの中に引き戻された。僕の身体に馬乗りをする「誰か」は、圧迫される僕の肋骨なんて気にしていなくて、気持ち悪く笑顔を向けてくる。伸びている腕は、ごつごつとした大きな手は、僕の首から動こうとしない。手を離させようと「誰か」の腕に爪を立てていたが、もう、力が入らない。視界がぼやける。首が痛い。痛くて、痛くて仕方がない。
 喘ぐようにして息を吸う事しかできなかった。けれど満足に空気が入ってこず、頭の先がじんわりと白く塗りつぶされていく。苦しく、気持ち悪く、全身にまたぐっと力が入った。漠然としていた死が、すぐそこで手招いている。怖い。怖い怖い怖いこわいこわい。歯を食いしばると、唇が巻き込まれた。けれど、そんな小さな痛みは感じない。苦しい、怖い、痛い、助けてお母さん。最後に強く、横隔膜が動いた気がする。最後まで視界に映っていた「誰か」は、大きな声で笑っていたように見えた。


  僕の住む街は、ただののどかな住宅街。けたたましいサイレンが聞こえる。僕が「誰か」と一緒にいた場所から、抱きかかえられて連れて行かれる。揺れた。頭が、耳の奥が。瞼を閉じた、意識が遠のきそうな僕を支配する「誰か」の笑み。

「うああああ!」

 フラッシュバックする、笑顔が。怖い、痛い辛い助けて。助けてママ、助けて。

「ああぁぁああぁああああ!」
「そっち押さえて! 鎮静剤投与して」
「はい!」

 逃げたい、やだ、なんで僕をいじめるの。動かしたいのに、僕の手も足も上からの力で押さえつけられる。背中を脂汗が流れる。怖い思いをしたくないだけだった。でもだめだ。逃げ出したくでも「誰か」の力は強い。

「20時41分、鎮静剤投与します」

 僕が聞いた最後の声だ。すっと重たくなった思考。逃げ出したいのに、だんだん眠たいときみたいに何も考えられなくなってしまう。真っ暗な世界で、誰も助けてくれなかった街の中で、僕は独りぼっちになった。


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