複雑・ファジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- さよなら世界
- 日時: 2018/08/20 12:32
- 名前: ライ ◆S2QRgg5fs2 (ID: gpqWiMbZ)
- 参照: http://8年ぶりのカキコ!!
【序章】
「全て悪い夢だったらよかったのに」と言った人がいた。
舞台は19世紀西洋にある国シチーリア。
銃の普及や警察組織、治安が安定してきたと思われたその時つ1つの犯罪組織集団が表舞台に立った。
彼らは長い間一般人に紛れ身を隠していた人狼という種族だった。
人ならざる能力に加え恐喝や暴力により勢力を拡大したその組織を当然のように誰もが皆恐れた。
そして最も恐れていた事が起こった。
その犯罪組織集団は『共存』を求めず国全体を巻き込み争いを始めた。
裏社会で争いが起きることが多かったが徐々に表社会にもその影響が出るようになってしまった。
国民は争いを恐れるように生きる毎日。
それを見た警察組織も犯罪組織を滅するために特別組織を立ち上げ、歴史に残る争いとなった。
——美しさ、優しさ、優雅さ、完璧さ、そして名誉ある男、勇気ある人、大胆な人——
人々は媚びるようにその意味を込めた言葉で彼らを【マフィア】と呼んだ。
・
・
・
- Re: 【マフィア】さよなら世界【ファンタジー】 ( No.1 )
- 日時: 2018/08/19 22:57
- 名前: ライ ◆S2QRgg5fs2 (ID: K.4zPHaY)
【第一話】
「チッ、」
扉を開けるとブロンドの髪をオールバックにしている男性が盛大に舌打ちをしていた。どうやら機嫌がすこぶる悪いらしく部屋中に煙草の匂いと煙を巻き散らかしている。
部屋に入ってきた小柄で赤毛の少女と言ってもおかしくない年頃のスーツを着た女性はその様子を一瞥すると小さく溜息をついた。
「ボス、警察組織に次の取引の場が漏れていたようです」
赤毛の女性は落ち着いた口調でそう言い放つと、目を伏せた。
何を隠そう目の前にいるブロンドの男性は今世間を騒がせているマフィア組織のトップ、フラヴィオ=ライヴァヒンである。
フラヴィオはその言葉を聞くとさらに不機嫌そうに眉間にしわを寄せる。煙の量が多くなる。
嗚呼、誰が壁を張り替えるのか分かっているのだろうか、と赤毛の女性は内心思うが、きっとボスはそれを全部把握して吸っているのを分かっているため何かを言うことなく次の言葉を待った。
「エミリー」
「はい」
エミリー、赤毛の女性はそう呼ばれると顔をあげボスであるフラヴィオを見つめる。
フラヴィオはじっとエミリーの緑色の瞳を見つめると、軽く口角をあげ不敵な笑みを浮かべた。実に楽しそうに。
「構わん。バナビを手配しろ。そしてその場に来た警察組織を全滅させるんだ」
バナビというのはフラヴィオの右手、一つ下の地位のアンダーボスであり、眼鏡をかけた黒髪の青年の事だ。
フラヴィオは大の戦闘好きだ。警察組織を都合のよい玩具、餌としか思っていない。もちろんエミリーも警察組織に肩入れするつもりはない。
フラヴィオに拾われ、フラヴィオに忠誠を誓った身。今や秘書という立場まで貰っており、バナビに負けないくらいの信頼を得ている。これからも、ずっと。
この身が亡びるまで。
化け物、それは警察組織や一般市民が我々人狼族に向かって必ずと言っていいほど突き刺す言葉。
人狼族は肉を食らい生きている。
肉以外ももちろん口にすることはできるが、おなかは満たされない。今までは身をひそめひたすら空腹に耐えていた人狼、動物を狩り生きていた人狼、差別を受けていた人狼、人間の肉を覚えた人狼。沢山の人狼が一般人になりすまし種族を紡いできた。
そこにフラヴィオが立ち上がった。
「堂々と生きていればいいだろ」
その言葉だけで十分だった。ひときわ大きな体つきの人狼、それがボスの真の姿。
そしきはあっという間に集結し、ひとつの大きな組織となった。
それがこの組織結成の一つの理由だ。
「わ、わかりました。至急バナビに伝えます」
エミリーはハッと思い出したかのように返事をすると深々と頭を下げた。
その様子を見ていたフラヴィオは目を細め、エミリーの赤い髪をひと撫でする。
「あまり力むなよ。お前の悪い癖がでる」
そして、手を離しエミリーを部屋から出す。
煙草に火をつけ机に置いてある銃をひと撫でする。人間ごっこは実に楽しい。
我々マフィアが人狼だと気づいていない者も多い。
政府が隠蔽しているからである。もっとも、それを知らしめてやるのも面白そうだと、フラヴィオは嗤う。
「しばらくは、美味い肉が食えそうだな」
- Re: さよなら世界 ( No.2 )
- 日時: 2018/08/20 13:47
- 名前: ライ ◆S2QRgg5fs2 (ID: gpqWiMbZ)
【第二話】
あおーん、と少し高めの遠吠えが街中に響き渡る。
それを聞いた国民達は慌てて室内に入る、ざわめいた音。音。
しばらくすると地面を蹴る鈍い音が近づいてくると共に街はしん、と静まり返った。今夜は満月だった。
黒色の毛並みをした狼が先頭を走り数匹の狼が街を駆ける。
邪魔なものはいない。まっすぐと拠点である建物に向かって駆ける黒い狼。時折目だけを後ろに引き連れている部下である狼たちを一瞥し、彼らの口元にある肉片を確認した。
「落とさないでくださいね」
黒い狼は口調こそは優しいそれであったが声音は凛としており、肉片を持っている狼達はくぅんと喉を鳴らした。
貴重な食料であるそれは、ボスへ献上したあと食料庫に送られる。
今日のような満月の日には、【狩り】が行われる。
関係ない人間を襲うこともあれば、人間の犯罪組織を襲撃し壊滅させる事もある。彼らの持つ銃なんてものはただのガラクタ同然だ。
「アンダーボス、人間です」
部下が黒い狼に話しかける。前方には銃を持ち憎しみの目でこちらをにらみつける人間がいた。
地面をこする音とともに全頭が立ち止まる。
グルル、という威嚇の音とともに体制を低くし人間を取り囲む数匹の狼。
静まり返った街に一人の人間の叫び声と銃声が響いた。
キャンッ、という声。どうやら狼が一匹撃たれたようで片足を浮かせていた。黒い狼はそれを気にせず人間を見つめると、一度だけ吠える。
一瞬の出来事だった。
遠吠えの瞬間人間を取り囲んでいた一匹が人間の頭にかぶりつき、その場は一瞬にして終わった。
どくどくと流れる血。狼たちは一斉に人間に群がり取り合いを始める。
儚い命だ。時々復習だと言って我々人狼に歯向かう人間がいる。大した力も無いくせに命だけを無駄にしていく。理解ができない。
「怪我は大丈夫ですか」
「はい、問題ありません。ただの銃弾でした」
「帰ったら看護長に見てもらうように」
前足を引きずっている狼に黒い狼が話しかける。狼は忠誠を誓うように耳を伏せ答える。
それを聞き安心したように踵を返すと、群がっている狼たちに唸った。ビクリと狼は毛を逆立て体を縮こまらせると人間から退き、体制を整えるように黒い狼の背後に並んだ。
人間はもう無残な姿で、骨と散らばった肉片しか残っていなかった。
「行きますよ」
その声と共に狼たちは一斉に駆け出しホームを目指す。
今夜は満月だった。
「おかえりなさいませ」
ギギギ、という音と共に門が開かれる。スーツを着た人間の姿で出迎えるファミリー達に狼たちは肉を預けるとぶるぶると体を震わせ人間の姿に戻る。
今日引き連れていたのは野郎ばかりで、得意げな笑みを浮かべるもの、奇声をあげるもの、肉についていくもの、様々だった。
ボスへ報告しなければ、と黒い狼は駆け出すが突然目の前に現れた赤い髪にそれは阻止された。
「あっ」
黒い狼の姿のまま走り出していたためかなりの衝撃を覚悟したエミリーだったが、体に受けた衝撃は暖かく恐る恐る目を開けた。
かなり困ったような表情、黒い髪、眼鏡。バナビはエミリーを抱きとめるような形で見下ろしていた。
どうやら瞬時に人間の姿に戻ったらしく、さすがアンダーボスという所だろうかなどと呑気に納得していると頭上から大きなため息が聞こえた。
「気をつけてください、本当に。エミリー」
「あ、バナビ……、ご、ごめんなさい」
ずり落ちた眼鏡を直しながら離れると二人は向き合う。
エミリーは慌てて謝ると頭を下げた。普通の部下なら撃ち殺されるであろう失態にエミリーは真っ青になるが、殺されない事もわかっていた。
なぜなら、エミリーはボスの秘書。バナビはアンダーボス。
ボスの身の回りを世話をしているエミリーはバナビと同格の地位にいるからである。
そしてエミリーははっとしたように、顔をあげるとにっこりと微笑んだ。
つくづくこの女はおどおどした弱い女なのか強かな女なのかわからなくなる。
「おかえりなさい、バナビ」
「ええ、ただいま」
Page:1