複雑・ファジー小説

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クロスデッドロード ※ゾンビもの
日時: 2020/05/18 20:16
名前: ラフォリアのとっつぁん (ID: ii.tEmOq)

皆さんこんばんは、ラフォリアのとっつぁんと申します。

どうぞ温かい目で見守ってくださいm(_ _)m

作風が合わないと感じた方は、そっとブラウザバックお願いします。

読んでくださった皆様が少しでも楽しんでいただければ幸いです。

同じ名前でtwitterをやっていますので、なるべく感想はそちらでお願いします。


複雑な人間関係、過激な表現を含んでおります。

Re: デッドロード ※ゾンビものです ( No.1 )
日時: 2018/08/26 19:35
名前: ラフォリアのとっつぁん (ID: El7XdgWC)

山合に広がる田園の真ん中にポツント一軒、家が建っていた。
だがその家は少しばかり田んぼに囲まれるという光景には似合わないような家だった。
角度のついた瓦屋根ではなく、一部にガーデニングができるような備え付きの花壇がある広い屋上、田んぼの真ん中にありながら、まだシミ一つない灰色のタイル張りの外壁、その外観から最近建て替えられたのがうかがえる。
時刻は夕方、日は落ちかけ、山の間から少し顔をのぞかせるのみとなっている。
暗い藍色と残る日のオレンジ色が混ざり合い、空をきれいに染め上げる。
あたりとの風景と相まって穏やかでそして物寂しい雰囲気が漂っていた。
あと数分もすれば完全に山に隠れるだろう日からはまだ少し太い一条の光が広がる田んぼに伸びていた。ちょうどその光に照らされていた家の屋上には少々屋上には場違いな家具が置いてあった。
テーブルは足に細かい彫り物が施され、表面には太陽の光を反射するほど磨き上げられている。
ソファは吹く風で柔らかく波打つ表面から中に綿がたっぷりと使われていることがわかり、カバーは色とりどりの糸で刺繍がされている。
どちらもとても屋外用の家具には見えなかった。
そしてそのソファにの上には寝そべる人影が一つ。
それは幼いながらきれいな少女だった。
ほっそりとしたしなやかな肢体、まるで今まで日に当たってこなかったような白い肌、力なくソファに投げ出されたその体を見ればたとえ異性でもなくても思わず息をのむだろう。
毛先の揃わない長い黒髪は、しかし輝くように艶がある。
眠たげに細められた瞳は、ぼんやりと、ソファからはみ出した手が弄ぶ真鍮色のアクセサリーのようなものを見つめる。
夕暮れ時の屋上で、黒い大きめのTシャツとデニムのショートパンツ姿の少女が屋外のソファに身を投げ出している光景は、どこか心奪われるような不思議さがあった。
少し経ち沈む太陽がほんの少し位となったころ、不意に少女がソファから身を起こす。
パサリと顔にかかった前髪の隙間から、周囲に視線を走らせる。
未だに細めれれている瞳には、眠そうな雰囲気はすでになく、にらみつけるような冷ややかさがあった。
少女はおもむろに立ち上がると、ペタペタと裸足のまま屋上を移動する。
屋上をぐるりと囲うように設置された柵の前まで来ると立ち止まり、手すりに軽く手をかけ沈みゆく太陽の方角を眺める。
山の隙間が燃えているようにも見えるその視界の真ん中に、太陽に照らされて小さな影がふらふら揺れているのがわかる、陰になって目立たなければわからないほどの距離だ。
少しの間それを観察すると、柵から離れソファのそばにあったテーブルへと向かう。
テーブルの上には細長い何かにタオルがかぶせてあった。
少女はそのタオルの端をつかむと、シュルリと足元へと払う。
中から武骨で黒い金属でできた器具のようなものが現れた。
日本のただの家の屋上のテーブルにはあってはならない、狙撃銃に分類される銃器だった。
正式にはDSR-1と呼ばれるその銃は、308ウィンチェスター弾を使用する、ドイツ製のブルパップ式ボルトアクションライフルだ。
少女は、その銃を銃口から、まるでペットでもなでるように手を這わすと、そっと両手で持ち上げる。
長さが1メートルほどもあるDSR-1を身長が140センチほどの少女が持つととてつもない違和感があるが、右手にグリップを持ちトリガーガードに指を添わせ、腰の前に、軽く下向きに持つその姿は、明らかな慣れた様子もうかがえた。
少女はDSR-1を持ったまま先ほどの場所に戻ると、柵の上部に畳まれた二脚ごと銃身を乗せる。
右手でそっと、スコープの両面のカバーを上へ上げるとスコープを覗く。
そこにはいまだに左右に振れる、影が見えた。
しかし6倍の倍率のスコープのおかげで先ほど拡大された影は、人だろうということがうかがえる。
そっとスコープから目を離した少女は、ポケットに手を入れると先ほどソファで弄んでいた、アクセサリーを取り出した。
だが太陽の光をキラキラと反射するそれはアクセサリーなどではなく一発の銃弾だった。
308ウィンチェスター・FMJ、少女の指よりも大きいそれを掌を傾けるようにして転がす。
ボルトレバーを操作してボルトを手前に引くと、それを入れボルトを戻し、チャンバーへと送り込む。
セーフティを解除すると、少女はあたりに広がる田んぼの稲の穂へと視線を移す。
ゆらゆらと揺れる穂を観察すると、小さくうなずき、スコープの上部と横についているつまみを調節する。
そして今度はしっかりと両手でDSR-1を構えると、ゆっくりと引き金に指をかける。
照準は何の躊躇もなく、影の頭の部分へと合わせられる。
風が吹き、その音や揺れる稲の音があったはずなのに、あたりには痛いほどの静寂が訪れた。
少女の指に力がかかっていくと同時に太陽が完全に隠れ、一気にあたりが黄昏に染まる。
太陽が隠れたことによって逆光で見えなかった影が正体を現した。
濁ったひとみ、薄く笑いを浮かべた口元、褐色に染まった顔、そして大半の内臓を体外にぶちまけ、引きずりながらゆっくりとこちらに歩いてくる人の形をした化け物を。
少女の指に一気に引かれ、銃声。
撃針が308ウィンチェスター弾の底を叩き、56グレーンの装薬が発火、燃焼。
すさまじい運動エネルギーとなりフルメタルジャケットの弾頭を押し出す。
弾頭は四条右回りで銃口内に掘られた溝を通り抜け、回転が加えられながら銃口から音速の三倍の速度で飛び出す。
たった10グラムの小さな弾頭は、田園の上を一気に飛翔し・・・、若い穂の一面の緑に、紅い花が咲いた。
人の形をしていたものがゆっくりと穂の絨毯に消えていくのを見た少女はふっ、と息を吐くとボルトを操作して薬莢を排出する。
くるくると宙を舞った薬莢は、硬質なタイルの床に落ち、キンと高い音が響く。
少女は銃を両手に抱きかかえると日が完全に落ちた山、先ほどの影がいた方向を見据える。
山の天気は変わりやすい。
落ちた太陽の代わりと言わんばかりに、黒い雲湧き出るようにして表れ始めていた。
少し強まっていた風向き的にも、こちらに流れてくる可能性は大いにある。
吹き抜けた一陣の風が少女の髪を乱す。
少女は左手で髪を抑えながらポツリと呟く。

「今夜は荒れそう・・・」

それはすぐに風へと攫われていったが、その意味は天気のことだろうか、それとも・・・。
少女はくるりと踵を返すと屋上の出入り口へと向かっていく。
風にあおられた薬莢がカランと小さく音を立てた。

Re: デッドロード ※ゾンビものです ( No.2 )
日時: 2023/06/06 00:05
名前: ラフォリアのとっつぁん (ID: K79nUGBS)

もしゾンビなんてものが世界に現れたら?

その系統の映画やゲームを嗜んだことのある人なら1回ぐらい考えたことがあるのではないだろうか?

なんてことの無いいつもの日常が惨劇で彩らる、そんな中で危機に陥った自分を助けてくれる誰か・・・。
若しくは自ら、確固たる意志と武器を持ってそんな世界に抗って行くような、そんなちょっとした妄想。

そしてその熱が収まった時に思っただろう。「まぁ、そんな都合よく自分が生き残れるわけはない」と。

しかし、実際あなたは生き残れるかもしれない。ゾンビ映画から仕入れたよくある設定、ちょっとした心構え、冗談半分で用意した非常用バックや武器。
それが生死を分けるかも知れない。

そんな世界になってしまったのなら、生き残るのは、余程の強運か、知恵、力、覚悟を持った者だけなのだから。

映画だってそうだろう。いつも生き残っているのは強運な友人と、ゾンビの研究をしている学者、特殊部隊の生き残り、そして強い意志と覚悟を持ったヒロインと主人公。
映画に出てくる人物はたまたま生き残ったのではない、生き残るべくして生き残っているのだ。

これはそんな人間たちの、壊れた世界との闘争の物語。




とある街にホテルがあった。
これといった観光地が周りにあるわけではないが、リゾートホテルとして建てられているこのホテルは、レストランやバー大きな披露宴会場などが備えられてある。
地下にはこのホテルの売りでもある、大きな温泉施設が建物の面積と同じぐらい地下に広がっている。
街の中心から若干離れ、騒がしい日常の喧騒からの逃れるにはうってつけの場所といえるだろう。

そのホテルの上層階の一室、夜の街灯に鮮やかに彩られた街を一望できるような大きな窓の側に一人の男が椅子に座っていた。
男は窓の外の方向へと置かれた豪華な背もたれ付きの椅子に深く腰かけ、椅子に備え付けられたテーブルに置かれたパソコンのキーボードを叩いている。

横幅の広い椅子に座っているせいで細い体つきをしているように見えるが、それは男が余計な筋肉や脂肪を付けるのを嫌ったせいだ。
近くでよく見れば薄いスウェットの上から割れた腹筋や厚い胸板、無駄なくつけられた筋肉や筋がその腕や脚から見て取れただろう。
少し長い前髪に隠れた目はパソコンの画面へと注がれ続け、表形式に並んだ数字やアルファベットの羅列を追っている。

しばらくリズムよくキーボードをたたいた後、男は画面からいったん目を離し、人差指と親指で目頭を押さえながら軽く頭を振り、思考にかかり始めた眠気や、体に感じ始めた倦怠感を振り払おうとする。
そのまま続けて、若干の凝りを感じ始めていた方に手を当てて、腕を軽く回していると、部屋の玄関からガチャと扉を開ける音が聞こえてきた。
しかし男は気にすることもなく腕を回し続ける。

こんな堂々と音を立てながら入ってくるのだ、見ず知らずの不当な輩が入ってきたわけではないだろう。
なかなかに高級なこのホテルの部屋はオートロック式、鍵穴がないのだからピッキング等では明けることはできない。
よもや個々の従業員が無断で入ってきたのではないのならば、フロントで渡された二枚のカードのうち、ベッド横のドレッサーに置かれているのではないもう一枚を持っている同室者だろう。

それを裏付けるようにはいいてきた人物は玄関から姿を見せながら声をかけてきた。

「ただいま真人」

男のことを真人と呼んだのはまだ幼さ残る少女だった。
ほっそりとして白い四肢。
整い、「小顔」、と言っても差し支えない顔には薄く微笑みを浮かべている。
左肩にまとめて流された長い黒髪は少し湿り気を帯び、艶がある。
手首にかけられたタオル、ほのかに湯気を見て取れる身体から、風呂に行っていたことが窺える。

真人、と呼ばれた男は椅子を少し回転させ、少女のほうへ向き直ると、片手でパソコンの画面をパタリと閉じる。

「ああ、お帰り、響。ここの温泉はどうだった?」

響、そう呼ばれた少女は着替えとタオルが入っているのが見える透明な手提げバックを二つあるベットの傍らに置き、今度はそばに置いてあった大きなバックから新しいタオルを頭にかけその両端をつかみながら目を輝かせる。

「ここの温泉すごい!」

「まぁ、ここの売りだからな。どの辺がすごかったんだ?」

そう真人が聞くと、響は自分の入った温泉を思い出そうとするかのように、目をつぶり少し考える。

「うーん。・・・やっぱり泡の出るやつかな?結構深い温泉で私だと足がつかなかったの。けど、そっこら中から泡がいっぱい出ててね。力を抜いてても体が浮くのが面白かった!」

「ジャグジーか。普通のジャグジーは確かにあったが。そんなにでるやつは見当たらなかったな。女湯と男湯で構造が違うのか。そんなに気にいるほどなら俺も入ってみようと思ったんだが・・・。まぁ、男湯の温泉施設を豪勢にしても、需要はたかが知れているか」

「そうなの?あれは入らないと絶対損だよ!あ、いまなら閉まって誰もいないからこっそり行けば・・・」

「却下だ。俺に女湯に入り込む変態になれとでも?」

「もったいないなぁ」

響はドレッサーに置いてあった木製の櫛を手に取ると、部屋と玄関の境目あたりの壁に据え付けてある姿見で髪を整え始めた。

「そうだ、明日もここに泊まるの?まだまだ全部回りきれてないんだよね、せっかくだから全部回りたい」

真人はパソコンの横に置いてあった、手帳を手に取ると三月の予定が書かれているページでめくっていた指を止める。

「そうだな、今年度の仕事は終わりだから、今月の残りは全部休みだな。明後日には家に戻れるだろう」

「やった。じゃあ明日はあの白く濁ってたの最初は行ってみようかな。あんな色の温泉、初めて見たんだよね」

白く濁っていたということは、牛乳風呂かなんかだろうか。もしかしたらもっと珍しいなにか、ということもあり得るだろう。
そんなことを考えていると、姿見の前に立つ響が櫛ですいていた手を止め、未だ湿り気を帯びた毛先をつまみ、じっと見ていた。

「どうした?」

「・・・髪が結構長くなってきたんだけど、切ったほうがいいかな?」

そんなこと聞かれてもな、と小さく呟きながら響の髪をちらりと見やる。
癖のないきれいな直毛で、夜空のような艶がありながら、どこか吸い込まれそうな深みのある黒。
多くの人間が思わず、ほぅ、と息をついてしまうほど見事なものだ。
気づけば思わず否定の言葉を口にしていた。

「そのまま伸ばしてもいいんじゃないか?お前には長いのも似合うと思うし、・・・それに俺は長いほうが好みだな」

その言葉を聞いた響は真人の顔をみながら、目を数回瞬かせると顔をそらし、今度は両手で毛先を弄び始める。

「・・・そっか。・・・うん。じゃあ切らない!」

決断の後押しになったのなら、いい助言だったのだろう。

「ああ、それがいい。だがその位の長さになってくると、邪魔な時も出てくるんじゃないか?」

ある程度整え終わったのか、姿見の前から離れ真人の側のベットに腰かける。

「うーん。そんなこともないと思うけど、かがんだときとかたまに邪魔になってきたかな」

「せめて縛ったほうがいいな。普段から使って物はないのか?」

響はちらりとバックを見た後、首を振る。

「今は持ってないし。家にあるのもしっかりしたやつじゃないよ」

「そうか。仕方ない今度何か買ってくるか」

そういうと、響が目を輝かせる。

「もしかしてプレゼントしてくれるの?」

「それでもいいぞ。・・・だがあまりセンスは期待するなよ」

「ふふん。真人が買ってくれるならなんだっていいよ」

真人は再び手帳を取り出すと、次の日曜日の欄に、髪留め、と書き込んだ。

「ん。もうこんな時間か」

ふと真人が壁にかかった時計を見上げると、短針と長針が頂上での抱擁を終え、離れていくところだった。

「特に明日やることがあるわけじゃないが、休みになったからってわざわざ生活リズムを崩すこともないだろう。もう寝る時間だ」

「わかってるって」

響は隣の自分のベットから布団をはぎ取ると、真人のベットへと上がりそのまま布団にくるまった。
別に今更始まったことではないのだが、真人は思わずため息をつく。

「そこは俺のベットなんだが?」

「・・・・・」

「はぁ」

真人はもう一度ため息をつくと、部屋の電気を消し、暗い中パソコンの作業途中の内容を保存し、シャットダウンする。
そして瞬く間に寝息を立て始めた響のいる布団に自分の身を入れた。
血は一切つながっていないが、大切な家族と思っている少女の頬を最後にそっと撫で、真人は夢の中へと意識を手放した。

Re: デッドロード ※ゾンビものです ( No.3 )
日時: 2020/05/24 00:21
名前: ラフォリアのとっつぁん (ID: ii.tEmOq)

特に起きようとは思っていなくても、六時間も眠れば自然と目が覚める。それは真人の体質だ。

だが今日に限っては、ただいつも通りに目が覚めたわけではない。
なにか、嫌な予感を感じたからだ。

あくびが出そうになるのを噛み殺しながら、時計を見れば時間はまだ明け方の5時。カーテン越しにも外はまだ薄暗く、部屋は暗闇に包まれている。
いつもより1時間程早い起床に、体は抗議の声を上げる。それを無理やり無視して、響が起きないようにそっと、ベットから降りる。
時期はまだ三月、自身と響の体温で温まった布団から出ると寒さが身に染みる。昨晩は当然のごとく暖房がかかっていたが、夜の間に当然部屋の気温は下がり切っていた。

真人自身、なんでこんな時間に目が覚めたのかわからなかった。昨日は別に日中に睡眠をとったわけではない。むしろ昨日海路を使って日本にも戻ってきたばかりなのだ。
中東のほうから今時には珍しい、飛行機ではなく船を使った長旅。
大金を積んだわけではなかったので、快適といえるたびではなく、むしろひどい揺れでなかなか寝付けなかった時もあったぐらいだ。
身体はそれなりに休息を求めていたはず。

そばのテーブルに置いてあった、水のペットボトルを手に取りキャップをひねると、中身を少し口に含む。冷蔵庫に入れてあったわけではないが、気温により冷えた水が口の中を刺激する。

何歩か歩いて部屋の扉を見るが、鍵はすべて閉まっていた。
慣れない長い船旅に、身体のリズムでも崩れたいたのだろうか?

そんなことを考えていた真人の耳に、かすかに音が届いた。短い・・・何かの破裂音のような何か。
廊下のあるほうではない。ベットの側にある外へと向けた大きな窓の外からだ。

真人は考えた。今聞こえた音には聞き覚えがあったのだ。
仕事の関係上よく行く海外で。だがその音はまず日本で聞くことのできる音ではない。
音を立てないように、そのまま窓際に移動すると、真人は少し開いたカーテンの隙間から外の様子をうかがう。
真人たちがとった部屋は25階。別にカーテンを全開にしたからと言って、誰かからみられるというわけでもない。
だが、なぜか真人はそうしなければならない、と感覚的に感じていた。

そのままそっと覗いた外の景色を見た真人は、次の瞬間一気にカーテンを引き切った。
先の通り、まだ日が昇り切ってはいないために、急に朝日が差し込んでくるということはなかったが、真人はあっけにとられた。

「んっ・・・?」

カーテンを引いた音が創造以上に大きかったせいだろう。真人が振り返ると、響が身じろぎをすると長いまつげが震えた後、ゆっくりと目を覚ます。

「ふぁっ・・・・はぁ・・・・。どうしたの、こんな朝早くに?まだ5時だよね」

大きなあくびをしながら、時計を見た響は目元をこすりながら至極まっとうな疑問を口にする。

「・・・ああ」

真人の心ここにあらずといった返事に、響は首をかしげる。

「響、どうやら俺たちは厄介なことに巻き込まれたのかもしれない」

「それって、いったいどういう・・・?」

そう言いかけた響を手招きして、自分の側へと呼ぶ。
そっとベットから降りた響は、真人の隣で窓の外を見て口元を押さえた。

「なに・・・・これ・・・?」

「俺たちは紛争中の国にでもきちまったのか?」

窓から見えるはずの街並みは、まさに紛争中の街のようだった。
いたるところから黒い煙が上がり、場所によっては火の手が上がっているところも見える。下の方を見やれば何台かの車が重なり合っているのも見える。
耳を澄ませば聞こえてくる消防か警察のサイレンの音に交じって、小さな破裂音に似た何か。

そう、銃声だ。

手の感触に気づき、ふと見ると、響が真人の左手を握っていた。真人はその手を握り返したまま、外の光景を睨みつけるように見ていた。

情報が足りない。今何が起こっているのかも、何をするべきなのかも。
真人が大きく息をして、何か行動を起こそうと窓から離れようとしたとき、部屋に電子音が鳴り響いた。発信源はベットの枕元に置かれた携帯だ。
真人はそれを手に取ると、表示されている名前を確認する。出ていたのは黒田という名前。
今は亡き真人の父親の親友で、今も付き合いのある自衛隊に所属している人物からだった。


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