複雑・ファジー小説
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- 銀色の宝石
- 日時: 2018/09/03 21:33
- 名前: ヴィンミル (ID: TdsA47Ob)
体が、ふかふかと宙に浮かぶような感じがする。
手足の感覚がほとんど無く、意識も朦朧としている。
それなのに、下へ下へと引っ張られていくような、不思議な感じがする。
すると突然、勢いよく下に引っ張られ、頬を冷たい風が通りすぎっていった。
「きゃあっ!?ここどこ…?暗くて何も見えない…」
あまりにも暗い空間に、自然と恐怖が芽生える。
頭の中では、夢だと分かりきっているのに、それがまた恐怖を大きくする。
それでも、私ができることは、心の中で十字を切って、これ以上何もおきないことを願うばかりだ。
心を落ち着かせようと、何度も試すが、心臓は荒波を打つばかりだった。
まだまだ下へと引っ張られている。
冷たい風が手先や足先を冷たく冷やしていく。
「あっ…ああっ…助け…てっ…———
誰の受け答えも無く、風に消えて言ったその言葉。
それでもこの言葉は、私の精神を保っていた。
誰の抵抗にもならない言葉を思いっきり叫ぶ。
「いっ…嫌だっ!!」
「助けてっ!」
「…あ…。」
どうやら、夢だったようだ。
そうだ。現実であんな様なことが起こるはずが無いのだから。
「夢じゃない。」
「はあ!?」
こころなしか、誰かがそういったかのような気がして、
思わず、さけんでしまった。
先ほどまで、二回も先の見えない恐怖を味わったからか、
足ががくつき、思うように前に進めない。
このままでは行動もできないと思い、少し、座り込んで休もうと思った。
先ほど落ちた衝撃か、少し背骨が痛い。
きっとそんなこと思っても、痛いものは痛いのだ。
せめて、休憩なんだから、痛みくらいは引いてほしいと思う。
座りながらまわりを見渡してみると、先ほども見たが、辺りは驚くほど真っ暗だった。
明かりは、本当に何も無く、辺りに何があるかすら分からないため、
先ほどにも増して恐怖が襲い掛かってくる。
少し休むと、本当に少しだけだが、心の奥から勇気が沸いて来るような気がした。
四つんばいになってあたりを手探りに探り、何か明かりになるものを見つけようとする。
が、どんなに探しても、触れるのは冷たい床だけだった。
「ふう。」
一息ついてから、一度立って、周りをよく見ようとした。。
やはり暗いが、目を凝らしてみていると、少しは明るく見ることができた。
確認できたのは、一冊の本が落ちているということだけ。
少しの距離だが、どうも早く手にとって見たくなり、一気に駆け出した。
すると、カラン、という音と共に、何かがポケットから落ちた。
振り返ってみてみると、銀色に光る、透き通った石が落ちていた。
この石は…なんだろう…。落下の意衝撃で発行したのだろうか…。
その光をたよりに、本を手に取り、立ち上が——
「痛い!」
頭に何かをぶつけたようだ。
「ん…?」
ゆっくりと石で前を照らしてみると、大きな本棚が横一列に長く続いていた。
きっと、本棚の棚に頭をぶつけたんだろう。
本棚の長さを追って部屋全体を見回してみる。
見た感じだと、部屋は、それほど大きくは無いようだが、
部屋の壁は、一面本棚で、分厚い本から薄いような本までが、
隙間無く埋められ、きちんと整頓されている。
どれも難しいような本ばかりだ。
小さな文字に、よくわからない記号。見たことの無い図形や言葉が並び、
とても私には読めそうも無かった。
だが、一冊だけ、私の読める文字で書かれた本があった。
題名の部分には、日記、とたどたどしいような文字で記されていた。
誰の日記だろうか。おそらくは、あの仮面の少女のものに間違いないだろう。
紙は薄汚れているため、最近のものには思えない。
少し緊張しながら、1ページ目を開く。
「今日からこの日記に、落ちてきた奴らのことを記そうと思う。
今日は、新しい人間が落ちてきた。
こいつの名前は、小沢久実〔おざわくみ〕。
特徴は、弱虫で、暗闇が苦手で、すぐ取り乱す。
だから、明るめの部屋に寝かせた。
だが、数日後に、精神が崩壊して、自分を保てなくなり、
調理室のナイフで、自分を刺し殺して死んだ。
前の人間が死んだ数日後、また新しい人間が落ちてきた。
こいつは、石田栗〔いしだりつ〕だ。
特徴は、静かで、暗くて、会話もまともにできない感じだ。
べつに、会話をしたくないわけじゃないようだ。
うまく喋ろうとしているが、恥ずかしいようだ。
こいつにいたっては、生きる意味が無いといっていたので、
お望みどおり、水死しさせてやった。
こいつは、前の人間が死んだ直後に落ちてきた。
名前は、湖倉丹生〔こぐらにう〕。独特な名前。
特徴は、とにかく明るい性格で、思ったことがすぐ顔に出る。
元気すぎて話しについていけなかったが、
いわゆる中二病と言うやつだろうか。
一人になったところを除いてみると、手首を切って血をなめながら、
僕は、吸血鬼なんかになりたくなかったんだ。でも…血がおいしくって…。ははは。あははは!
そして、手首を切りすぎて、死んだ。」
この日記の書き主は、ここの管理人のような役割なのだろうか。
それにしても、見た感じだと、ここに来た人は、皆死んだ。
私も…いつかこんな風に…。
いや、きっとそんな事考えていたら何も進まないだろう。
………ん?これは…なんだろう。
ページの隙間から、紙が滑り出てきた。
こんなとこ、嘘の世界だ。
嘘なんて、真実以外の全てだと考えればいいだけだ。
何も信じなくていい。その全てが嘘なのだから。
真実なんて、何一つ無い。この世界にあるもの全て、嘘なんだ。
つまりは、ここに来たやつらは、皆嘘なんだ。
という紙と、
この世界は全てが真実。
嘘なんて、すぐにやぶれちゃう。そんなにもろい物なの。
だから、真実だけ信じればいい。嘘なんて、見なくていい。
嘘なんて、何一つ無い。この世界にあるもの全て、真実なの。
つまりは、ここに来た人は、皆本当なのよ。
という紙。
どちらも信じられないが、この二つの紙を比べると、ひっかかるところがある。
嘘が記された紙には、何も信じなくていい、というように書いてあるが、
真実が記された紙には、真実だけ信じればいい、というように書いてある。
嘘というのは、何も信じなくていいのに、真実というのは、真実だけ信じろという。
嘘に従えば、真実も信じてはならなくなる…。
しかし嘘のことについて記されていることじたい嘘だったなら…。
考えれば考えるほどに、こんがらがってきて、よく分からなくなった。
そもそもこんな世界で信じられるものなんて何も無いのだが。
とりあえず、何かに役立ちそうなので、カバンに入れておくことにした。
- Re: 銀色の宝石 ( No.1 )
- 日時: 2018/09/06 17:01
- 名前: ヴィンミル (ID: TdsA47Ob)
紙を入れようとカバンを開くと、
純白に飾られた、モンシロチョウくらいの大きさの蝶が、ひらひらと舞い上がった。
すっと手を伸ばし、人差し指を差し出すと、静かに舞い降り、羽を休めた。
蝶のとまる手が、少しくすぐったく感じ、くすくすと笑う。
すると蝶は、先ほど読んでいた本に場所を変えたかと思うと、
羽を一度羽ばたかせ、白く輝きだした。そして、先ほどよりも大きく、
手のひら程の大きさの蝶に姿を変えた。
先ほどから驚くことしか起こっていなくて、あまり驚かなかったが、
右肩に止まった蝶が、連れて行って、といっているように感じて、そのまま連れて行くことにした。
この数分にいろいろなことがありすぎた。
少し頭を落ち着かせたくなり、先ほど見た本棚にもたれかかった。
そのまま床に崩れ落ち、右横に積んであった本を手に取り、ゆっくりと開く。
やはり、難しくって読めない文字ばかり。
時間をかけ、1ページ目をわかるかぎり解読してみると、
嘘が敗れたときに、真実は硬く、破れないであろう。全ての真実は嘘とのつりあい。
と読めた。と思う。どういう意味だろうか。
きっと、今の私には理解できないと思う。
タン、タン、タン、 ガチャ ガチャ……カチャ
「!?」
本棚のほうから、音が聞こえる。
鍵をはずす音のような、ガチャガチャという音。ドアを開けた、カチャ、という音…
次の瞬間、本棚が横にずれ、棚と棚の隙間に、明るい光が差し込んだ。
見に危険を感じ、とっさに隠れる場所を探すと、蝶が舞い、暗い机の下に止まった。
蝶をたどって、机の下に滑り込み、石を体で覆い隠し、光を封じ、息を殺した。
それでも吐息が荒くなり、苦しくなって、窒息してしまった。
咳を必死でこらえていると、じんわりと涙があふれてくる。
部屋から本を数冊取り、先ほどの光のあふれていた部屋へ帰っていった。
タン、タン、と、階段を下りる靴の音が響き渡り、聞こえなくなったところで、
今まで我慢していた咳や呼吸を必死にする。
「ごほっ。ごほっ。うっ…ごほっ…」
安心と快感に、大粒の涙が頬をなでて落ちていった。
怖かった。死んでしまうかと思った。
顔を手で覆い隠し、涙でぐしゃぐしゃになった顔を覆う。
あの階段を下った靴の、タン、タン、という音。
ずいぶんとゆっくりしていたな…。ここに住んでいる人がいるのだろうか。
私は靴も、靴下も履いていないというのに。
そう思った瞬間、冷たかった床がよりいっそう冷たく感じた。
涙で濡れた顔を腕でぐっとぬぐい、頬をピシッと叩いて、勇気を出す。
怖いなんていっている場合じゃない。
隠れていたって、いつかは見つかるのだから。
何か対抗できるものは無いかと辺りを探すと、
パンの後くずがついているが、小柄のナイフを見つけた。
ナイフの先で、小指をかすると、少し触れただけなのに、深く切れてしまった。
危険だと思い、ポケットに入っていたハンカチで、刃の部分をくるんでおいた。
小指をぺろりとなめると、小さな風船のように血が膨れ出てきた。
痛みは感じない。こんな小さな傷、気にしている暇なんて無いから。
ナイフを右手に構え、机の下に身を潜める。次にあの人が来たら、しっかりと事情を話そう。
それを信じないのなら、コレを使うしかない。きっと信じてくれるだろう。
こんな強気な事言いながらも、心の奥では、深く神様に願っていた。
タン、タン、タン
来た…
「ふう。」
心を落ち着かせて、すぐに出られるよう構える。
緊張して、頭が熱くなって、今にも破裂しそうだ。
ガチャ ガチャ……カチャ
目の前に見えるのは、人影のみ。
私は、背中に隠していた石を机の前に転がし、あの人を呼ぶ。
「ん…。何だ?……発光体の石…?いや違う。これはなんだ…?」
「うっ…」
いざ出ようとすると、足がくすんで立てない。
「どうしてこんなところから…?」
目の前の人は、こちらに石を向け、私に光が当たる。
「「え…」」
あ…。
「あ…あの…えっと…
いざ語ろうとすると口が固まり、その場から逃げ出してしまった。
「わ、わああああああああああああああっ!!」
椅子を押し倒し、光の部屋に逃げ込み、
重い本棚を思いっきり閉じ、階段を駆け下りる。
「きゃっ…
小さな階段を踏み外し、石の床に頭から倒れこんでしまった。
頭には鋭い痛みが走り、頭部を、強く痛めつける。
「来ないで…来ないで…
逃げようとしても、足が痛み、逃げることができなかった。
「やだ…い…やだ……
「あ…あの…大丈夫ですかー5…」
ぽけーっ
「あ、あの…」
この人、髪がさらさらしてるなー…
「…!?え、ちょっ、ちょっと…!」
ああ…やっぱりさらさらだな…
「わあー…」
「大丈夫です!?あの…!あ…あの…だいじょ…
「へ……? え……。あっ…。こ、来ないでっ!」
ゴンッ
「「痛いっ!」」
本当に一瞬の事で頭がまわらない。
気づいたら目の前に顔があって、それでびっくりして起き上がったらおでこがぶつかって…
? ?
「あの、大丈夫ですか…」
「あ…大丈夫…」
「わ、わかりました。ですが…あの、あなたはなぜここに?」
「あ、は、話しますね。」
その後、私は、どうしてここにいるのか、きたのかを全て話した。
「それ、本当ですか!?それは…
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