複雑・ファジー小説

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短編まとめ
日時: 2019/03/26 01:55
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: e.VqsKX6)

初めまして。あるいは、おはこんにちばんは。四季と申します。

こちらは短編まとめです。
時折更新されるかもしれませんので、まったりとお付き合いいただければ幸いです。

※こちらに掲載する短編は「小説家になろう」にも掲載しております。


《目次》

『僕は花火が嫌いだ。』 2017/08/16 執筆 >>01
『しろいともだち』 2017 執筆 >>02
『マジカル萌えたん!/ 僕にだけじゃなくて』 >>03
『永遠に誇れる人生を』 2015/02 執筆 >>04
『もふもふ鳥さんズ』 2018/04/01執筆 >>05
『無意味! 魔王を倒す三つの秘宝 〜打ち切り風味〜』 2018/04/11執筆 >>06

Re: 短編まとめ ( No.2 )
日時: 2018/09/09 00:43
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: sE.KM5jw)

『しろいともだち』 2017 執筆

 その昔。田舎の、ある小さな村に、一人の少女が暮らしていました。水の都の長をしていた父親は、少女がまだ幼かった頃に亡くなり、今少女は母親と二人暮らしです。そんな彼女はある日、母親から、水の都へ行ってそこにいる伯母さんに花を届けるように頼まれました。父親の姉である伯母さんは現在水の都の長をしているのですが、最近ぱったり連絡がないのです。少女はたくさんの花が入った籠を持って、水の都へ出かけることにしました。

 村から水の都までは、山を一つ越えなくてはなりません。少女が山道を歩いていると、突然白い蛇に襲われました。しかし、少女が籠の中から一輪の花を取り出して渡すと、白い蛇は喜んでそれを受け取りました。そして仲良くなることができました。少し遊び、別れました。

 少女は無事山を越え、水の都へ着きました。しかし街には誰もいません。それだけではなく、街には色が全くありませんでした。街の中央にある噴水もすっかり色を失い、灰色になってしまっています。街で長をしている伯母はというと、水の都を手に入れたい『魔女』に捕らえられてしまっていました。
 それを知った少女は、伯母を、そして元の都を取り戻すべく、『魔女』と戦うことを決意します。彼女は『魔女』の強力な闇魔法を受けながらも必死に挑んでいきますが、全く歯が立たず、ついに負けそうになってしまいました。
 「もう無理だ」と少女が諦めかけたその時、先程山道で出会ったあの白い蛇が現れました。実はその蛇は神の使いで、少女を助けにやって来たのでした。白い蛇は巨大化し、神々しい金色の光を発しています。少女と白い蛇はお互いに協力し、ついに『魔女』を倒しました。

 そして少女は、『魔女』から解放された伯母に、無事花を届けることができました。伯母は予想外の贈り物に驚き、とても喜びました。人々は解放され、都は元通りになりました。灰色になってしまっていた噴水もすっかり元通りになり、綺麗な水色に戻っていました。

 この『勇敢な少女と白蛇』のお話は、いつしか伝説となり、水の都では今も語り継がれています。

Re: 短編まとめ ( No.3 )
日時: 2018/09/12 20:53
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: u5wP1acT)

『マジカル萌えたん!』

奇跡起こす魔法少女 マジカル萌えたん

月曜日の朝は 少しローテンション
金曜日の放課後は 何だかウキウキ

与えられた運命に従い
悲しい未来へ進むなんて
絶対に考えられない

どんな辛い世界も いつかは変えてみせる
見ているだけじゃだめ 行動しなくちゃ
王子様に任せて 逃げてくなんて嫌だ
奇跡起こす魔法少女 マジカル萌えたん

『僕にだけじゃなくて』

君が落としたハンカチを拾った
勇気出して君へ届けたら
君は笑顔でハンカチ受け取って
ありがとうと僕に微笑んだ

こんな小さな恋心
無謀な想い届くはずがないけど
今だけでいい 夢見たい

僕にだけじゃなくていいよ
みんなの君でいてよ
こんなにも想っているから
今だけ傍にいてよ

僕にだけじゃなくていいよ
誰にでも親切な
そんな君がずっと好きだから

 ◇ ◇ ◇

※昔テーマソング用に書いた歌詞です。

Re: 短編まとめ ( No.4 )
日時: 2018/09/12 21:00
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: u5wP1acT)

『永遠に誇れる人生を』 2015/02 執筆

 私は、マルスベルクという、キャロット王国の端の深い森の中にある村で生まれた。マルスベルクは太陽の光があまり当たらず一年中寒い気候であった。それでもほどほどには栄えていた。

 私の家は、経済的に困ることはなかった。父は村の長の使用人として働いている、と母から聞いたことがある。父は家にはいなかった。亡くなったのではなかったようだが詳しくは聞かされていなかった。私の家族は母と三つ下の妹だった。妹が生きていれば、今頃リーツェルぐらいなのだろうかとふと思う時がある。血の繋がった妹がリーツェルのような事をするのを想像すれば微笑ましい。

 話は戻る。母も妹も、美人だった。父の顔は知らないが、案外普通なのではないかと思う。私は幼い頃から母に村を出てはならないと言われていた。その約束を破った事は一度もない。外に興味がなかった訳ではないが、態々破ってまで行きたいとは思わなかった。


 私は、友達が少なかった。大人数でわいわい騒ぐのが嫌いだったというのも、あるのかもしれない。その頃のあまり仲良くなかった友達に「君は違う」とよく言われたのを覚えている。六、七歳の頃だっただろうか。単なる仲間外れなら構わないのだが、私は一度だけ私が皆と違う理由を知りたいと思ったことがあった。そんな時、隣に住む少女に尋ねてみた事がある。

 その子は私の数少ない友達だった。たまにお節介だが、頼れる存在だと思っていた。その彼女は「オッドアイは世界を不幸にするという伝説があるのよ」と教えてくれた。

 その伝説が、マルスベルクの伝説という物だった。

 確かにマルスベルクの伝説内では、黒ずんだ髪を持ち、両目の色が違うと話されている。今思えば、母や妹、友達は、オッドアイじゃなかった。私だけが違ったのだ。


 八歳になった日、私は初めてマルスベルク人ではない人間を見た。金髪の男が隣の家から出ていくところだった。その後ろには、何故かその家の家族が連なっていた。その光景に私は違和感を覚えた。

 その次の日が、長い長い悲劇の幕開けだった。

 朝目を覚ますと、大きな音が鳴り響いていて、窓からそっと外を見た。 広がる光景を見た私は愕然とした。ガラス越しとはいえ目の前で、殺しあいが起きている。余りの唐突さに私は言葉を失って立ち尽くした。

 それからは、毎日がそんな日々だった。
 一歩外に出れば銃弾の飛び交う地獄の様な戦場、外に出ることも難しかった。迂闊に外へ出ていけば死んでいただろう。


 半年が経過すると、マルスベルク人はほとんど消えた。
 抵抗し勇ましく戦った者は命を落とし、家にいた者は連行された。彼らは捕虜状態である。

 私の家に彼らが入ってきたのは、雪が溶けて新芽が生え始める春頃だった。母や妹と共に私も拘束され、未だに一度も戻る事のない我が家を後にした。母と妹は一般の収容施設に入れられたが、私は個室だった。

 その数日後、母と妹が殺されたと知らせを受けた。

 もうその時の私に希望はなかったのだが、不思議と死にたいとは思わなかった。
 その代わり、母や妹を殺した人間を、この手で葬ってやれろうと決めた。

 私はその次の日、フライ王子に初めて会う事となる。隙あらば、即座に攻撃してやろうと思っていた。

 訪問してきた彼に出会って一番に思った事は、「若い!」だった気がする。想像していた姿とは全く違った。民族を皆殺しに出来るような奴だ、きっと外見から極悪に違いない。そしてそんな権力を持っているのだから恐らくおじさんだろうと思っていた。しかし目の前にいるのは、二十歳にも満たないような男ではないか。

 彼はまずフライと名乗った。それから「君の目は綺麗だ。だから私の側近になれ」というような内容のハチャメチャな事を言われた。私は呆れた。

 フライ王子と私が話していたのは、そんなに長くない時間だった。短い時間ではあったが、悪いだけじゃない、彼からは優しさも漂っていた。始めはそんな気は全くなかったのだが、私は結局、彼の手をとった。こうして私は、フライ王子の側近になる。


 時の流れはあっという間なもので、気がつくと夏になっていた。

 フライ王子は、私を色々なところに連れていってくれた。
 村しか知らなかった私には、キャロットの城下町は広すぎた。広すぎたが、輝いて見えた。暑い気候にはてこずらされたが、次第に慣れていった。

 フライ王子と出掛ける時は、いつもリーツェルが横にいた。二人きりという事は滅多になかったように思う。リーツェルはその頃から、いつも私をいじくって楽しんでいた。彼女がくすくすと愉快そうに笑うのを見ると、時折妹を思い出した。


 その年の秋頃、私は王子に想い人がいることを知る。
 城には沢山の女性がいる。どんな女性にも、彼は平等に高圧的に接していただけに意外だった。

 その想いの人はナタリアという、王子より少し年下ぐらいの女性であった。整っているが強気な顔の為、私はどちらかというと苦手だった。毎日毎日…シェルヴィッツが彼女の喫茶店に行き、ナタリアを城へ連れてきた。フライ王子には厳しく断る態度をみせていたが、私達には特に害のない人だった。

 ある日を境に、ナタリアは来なくなった。処刑でもされたのかと思ったがどうやら王子をふったらしいと風の噂で聞いた。遂にナタリアを諦めたのだろうと思っていた。

 今思えば、この頃が一番幸せだったのかもしれない。

 生きる希望もない。愛する家族もいない。脳内を行き来するのは、いつ誰を消してやろうかという事と、私はいつまで生きていていいのかという事だけ。そんな私だったが、少しずつではあるが変わり始めていた。

 家族もマルスベルク人も、もう皆いなくなってしまった。だけど、今私は生きているのだ。偶然救われたこの命を、無駄にするべきではないと思うようになっていた。フライ王子は憎い相手の筈だったのに、いつからか私は彼を尊敬していた。私の命を助けてくれた彼に、何かお返しをしたい。その為に私は生きようと決意した。


 私は九歳の誕生日を迎えた。初めてマルスベルク人以外の人間……恐らくキャロット人を見た日から一年が経過していた。フライ王子とリーツェルと三人だけで、誕生日会が行われた。私は幸せだった。その特別な幸せが、徐々に当たり前になりつつあった。気まぐれな王子も、差別階級という言葉を連発する困ったリーツェルも……私の家族に近かった。

 その時の私は考えもしなかったのだろう。破滅へと向かっているという事など。


 フライ王子はある日、隣国の王女・ブラウンを拐ってきて、牢獄へと入れた。そこが終わりの始まり地点だったのだろうか……と今こそ思う。その理由は宣戦布告をする為などではなかった。単純にナタリアに似ているから。それだけだ、と彼は教えてくれた。毎日のように彼女のいる牢へ行き、嫁になれと口説いていた。その様子を見てリーツェルが嫉妬していたのが懐かしい。私はついこの前まで、ブラウンという名前しか知らなかった。会った事もたったの一度もなかった。忘れているのではないと思う。美女だというのは王子から聞いていたが。


 数日後のお昼頃、私が城の裏で植木鉢の手入れをしている時に、リーツェルが青い顔をして駆けてきた。いつも挑発しに来る時とは、明らかに違った。

 その彼女から、フライ王子の訃報を聞いた。

 その後はバタバタして忙しくて、はっきりと覚えている事はない。また私は失った。それから彼が大切な存在であった事に気付くが、もう遅かった。絶望はしなかった。その頃に大人だった使用人によると、私は意外と落ち着いていたらしい。あまり記憶がないが……。

 唯一覚えている事というと、夜な夜な泣き続けるリーツェルを慰めようと、完徹していた事だけだ。

 彼女が私に嫌味を言わなかった期間だった。

 彼女は私が守りたい。守らなければいけない。いつもいつも、大切な人を守れない私は、もう卒業したい。暫くしてフライ王子の姉・セルヴィア王女に引き取られた私達は、今までと少しだけ違う部屋で、また新しい生活を始めたのだった。今では夜間はセルヴィア王女の自室に入れないが、生活は変わらない。穏やかな日々が続いている。

 セルヴィア王女も、フライ王子とどこか似ている。
 違う点は威圧的でない事だろう。穏やかな笑顔が素敵な女性だと思う。


 王女とは思ったより長い付き合いになった。もっと早く捨てられるかと思ったが、そんな事はなかった。リーツェルもまだ生きており、ついには今年、十七になる。可愛らしい所もあるが嫌味がレベルアップしてきた気がする。しかし嫌味さえも微笑ましく思える。

 時折傷つく発言もあるが、それでも構わないと思っている。生きていてくれるなら構わない。彼女は先輩だが…妹のようなものだ。年下だし。これからも嫌味を言って欲しいと思う。大切な人なのだ。


 この前、隣国のマッシュルーム王国と同盟が結ばれた。セロリ連邦が攻めてきたからという事らしい。そっち方面は、私にはあまり分からないのだけれど……。

 時代はまた変わろうとしている。穏やかな日々が終わるかもしれないと思うと、不安がないわけではない。

 今度こそ守ってみせないといけないと思う。もう子供じゃないのだから……。

 そうすればきっといつか、家族にも王子にも、胸を張って会える。そう信じている。
 大切な人には笑っていて欲しい。泣かせたくないから、悲しませたりしたくないから。だから私は、大好きな人を守る。


 最後のマルスベルク人として立派に生きられる様に。そして最高の最期を迎えられる様に。

Re: 短編まとめ ( No.5 )
日時: 2019/03/26 01:56
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: e.VqsKX6)

『もふもふ鳥さんズ』 2018/04/01執筆

ぼくは鳥
暑い時には ほっそりと
寒い時には もっふりと
大きさ変わる
ぼくは鳥

わたし鳥
暇な時には ぴーぴーと
遊ぶ時には ちゅんちゅんと
いつも鳴いてる
わたし鳥

おいら鳥
木の実食べるよ もぐもぐと
菜っ葉食べるよ ちょっとだけ
好き嫌いする
おいら鳥

あたし鳥
おしゃれしたいの 新聞で
すっきりしたいの 水浴びて
見た目を意識
あたし鳥

我ら鳥
みんなそろって 雄叫びを
いちわでだって 呼び鳴きを
喉を鍛える
我ら鳥

みんな鳥
嬉しい時には 目が潤み
悲しい時には 目が点に
瞳は心
みんな鳥

Re: 短編まとめ ( No.6 )
日時: 2019/03/26 01:56
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: e.VqsKX6)

『無意味! 魔王を倒す三つの秘宝 〜打ち切り風味〜』 2018/04/11執筆

 それはある日のこと。
 王国の姫でもある僕の幼馴染みが、魔王に誘拐されてしまった。

 あまりに急すぎて、最初は驚くばかりだった。いきなりそんな物語みたいなことを言われても、すぐに理解できるわけがない。
 最初に聞いてから半日くらいが経ち、ようやく状況を理解した僕は、彼女を助けにいくことにした。だって彼女は僕の幼馴染み。それに、今まで凄くお世話になってきたから。

 しかし、僕のような平凡な人間が自力で魔王を倒すのは、ほぼ不可能だ。対策を考えるためにも、まずは魔王について調べなくてはならない。
 そこで僕は叔父さんに相談した。すると、叔父さんは「何でも知っている知人がいるから紹介する」と言ってくれた。
 叔父さんの紹介のおかげで、僕は巫女に会えることになったのである。

「相談に来ました」
「おぉ、よく来たな。まずはそこへ座るがよい」
「ありがとうございます」

 僕が着席するや否や、巫女は言う。

「魔王を倒す方法を聞きにきたのであろう?」
「はい。よろしくお願いします」
「では言おう。お主には無理じゃ」

 いきなりきっぱり言われてしまった。
 だがこんなことで諦める僕ではない。

 しりとりで使える「る」から始まる言葉を十三種類くらい教えてくれた彼女を! しりとりで相手をやや困らせられる「る」で終わる言葉を五十六種類くらい紹介してくれた彼女を! カップラーメンを作った後にはポット内の湯の残量をチェックすることを説明してくれた彼女を!

 僕は絶対に助けるんだ!!

「どうすれば魔王を倒せますか? 教えて下さい! 倒せる可能性がなくとも、聞かせてほしいです!」
「うむ。面倒臭いが……そこまで言われては仕方ない」

 巫女は露骨に嫌な顔をしつつ話し始める。

「魔王を倒すには、三つの秘宝が必要なのじゃ」

 三本の指を立てながら、巫女は言う。

「まず一つ目は、『春期講習の紙』というもの」
「何ですか、それ」
「十二年前、うちの近所の三好さんが要らないからと道にポイ捨てした、大手進学塾の春期講習のチラシじゃな」

 三好さんて誰だ……。
 しかし僕は突っ込まず、巫女の話を真面目に聞き続ける。得た情報の中に魔王を倒すヒントが潜んでいるかもしれないと思うから。

「なるほど。それで、二つ目は?」
「まぁ、そう焦るな」

 巫女は軽く肩を回してから述べる。

「二つ目は『必須アミノ傘』という伝説の傘。これは、百億万年も前に作られた伝説の傘じゃ。この傘を覚醒させた者は、必須アミノ酸を体内合成できるようになるらしい。……もっとも、手に入れられた者自体いないが」

 確かに凄そうだ。

「どこにあるんですか?」
「北の雪山じゃ。苦労山という名の山があってな、その天辺付近に洞穴がある。そこにしまってあるらしい」
「へー。それなら僕でも行けそ……」
「いいや、無理じゃ!」

 またしてもはっきりと言いきられてしまった。
 そんなにはっきり言わなくても、と膨れていると、巫女はさらりと言う。

「洞穴付近には、クロスカントリーのクラシカル走法用コースにあるような溝が、たくさん掘られている。土足では危険じゃ」
「そんなに溝が……」
「あぁ。あれはもう、どこが溝か分からないくらい溝だらけじゃ。しかもよく滑る」

 山登りくらいなら僕でも何とかできそうだが、足下が滑るとなっては、恐らく為す術がないだろう。この秘宝を手に入れるのは無理そうだ。

 残る一つに期待するしかないか。

「そして三つ目は『納涼風鈴太鼓玉』じゃ」

 僕は暫し固まった。
 聞いたことのない単語が出てきたからである。
 納涼、風鈴、太鼓、玉。それぞれの単語自体は聞いたことがあるし意味も理解できる。しかし、これらが繋がった単語を聞くのは今日が初めてだ。

「どんなものですか?」

 そこまで興味はないが一応尋ねてみた。本当に一応。
 これは『納涼風鈴太鼓玉』などという名称からして、いかにもたいしたことはなさそうである。しかしそれでも秘宝の一つだ。何かしらの力は秘めているのだろう。そうでなくては秘宝とは言えない。

「『納涼風鈴太鼓玉』はな、手のひらで触れるとひんやりするそうじゃよ」
「意味あるんですか、それ……」
「夏場には人気者らしいな。逆に冬場は、誰にも愛されず、ひたすら放置だとか」

 やはりたいしたことはないようだ。正直少しショックである。秘宝と呼ばれるものがここまで能無しとは。

「なるほど。で、それはどこで手に入れられるんですか?」

 僕が質問すると、巫女は一度大きく背伸びをした。続けて大あくびをし、それから答える。

「三丁目の一番北側にあるアパートの二○八号室に住む能登島之川という者がいるのじゃが」

 聞いたことがない。

 僕の実家は三丁目だ。それも丁の中で北寄りの位置なので、巫女が言うアパートは大体予想がつく。壁が吹き出物のように膨らんでいて、そろそろ塗り替えした方がよさそうな、オンボロアパート。恐らくあれだろう。

 しかし能登島之川なんて名字は聞いたことがないと思う。
 ここまで珍しい名字なら覚えていそうなものだが、まったく記憶に残っていない。謎だ。

「その奥さんが十七歳八ヶ月になった日に告白した青年の妹が、小さな頃公園でよく見かけたカブトムシの被り物を被ったサラリーマン。彼の母親が初めて遊園地デートへ行った日に、園内でハンカチを拾ってあげた男性と同じ部署だった、志乃ちゃんという女性社員の実家の」

 な、長い。
 少し混乱してきた。

「ベランダに置かれた植木鉢に、百二年に一度、三分だけ現れる。それが『納涼風鈴太鼓玉』じゃ」

 長文を言いきり、すっきりした表情の巫女。だが僕からすれば何のこっちゃらである。

「やはり僕には姫を助けられない……分かりました」

 嫌になってきた僕はそう言った。ここへ来てからだいぶ時間が経っている。そろそろ帰りたい。
 すると巫女はゆったり頷き、「下手に関わらないのが賢明じゃな」と言って、柔らかく微笑んだ。

「では話はここまでとしよう。もういいな?」
「はい。つまらないことで時間を取らせて、すみませんでした」

 軽く頭を下げる。
 何の収穫もなかったとはいえ、彼女の時間を使ったことは事実だ。無言で去るというのも無礼だろう。

「いやいや、気にするな。謝られることはない。迷える者へのアドバイスも巫女の職務じゃからな」

 そうなのだろうか……。

「では最後に、一つ、魔法の言葉を教えて差し上げよう」
「魔法の言葉、ですか?」
「そう。どんな出来事も、どんな話も、綺麗に片付けられる言葉じゃ」

 なるほど、それは便利そうだ。
 面倒事を綺麗に片付けられる言葉なんてあるとは思えない。だが、もしあったとしたら、何よりも便利に違いないだろう。

「『僕たちの戦いはこれからだ』じゃ。お主も言ってみよ」
「え、それ……?」
「そうじゃ。ほれ! 騙されたと思って、使ってみよ!」

 巫女に凝視された僕は、彼女の圧力に負けて口に出す。

「僕たちの戦いはこれからだ」
「小さい!」
「ぼ、僕たちの戦いはこれからだ!」
「良い! だが、もっとじゃ!」

 そんなわけで、魔王を倒し姫を助けるのは諦めた。
 しかし、この時間が無駄だったとは思わない。というのも、人生において極めて便利な言葉を手に入れたから。
 これからはあらゆる時に魔法の言葉を使おうと思う。

 僕たちの戦いはこれからだ!


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