複雑・ファジー小説
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- りりるら、りらら
- 日時: 2018/09/18 11:13
- 名前: たかし (ID: 49hs5bxt)
それは魔法の言葉。それを理解した時にやってくる、脳内をきゅっと締め付けるような感覚が、わたしを、ピンク色の髪をした、かわいい女の子にしてくれる。そんな気がしていた。そしたら、私を迎えに来てくれる王子様だって、きっと迎えに来てくれるって思えた。
「だからね、わたし、この星、壊しちゃおうと思うの」
☆☆
現代SFものです。グロテスクな表現があります。とりあえずは、最後まで書き切ろうと思います。そう長くはならないと思いますので、お付き合いいただければ嬉しいです。
執筆開始 2018/9/8
執筆終了
登場人物
みゆき アイドルとタバコが好きな一浪大学生。四回生。
佐野 みゆきより一つ年が下の幼馴染。四回生。
真城 人気男性アイドルグループの一人。担当カラーはホワイト。
りーちゃん みゆきの目の前に現れた正体不明の生き物。
もくじ
>>1-2
- Re: りりるら、りらら ( No.1 )
- 日時: 2018/09/18 11:16
- 名前: たかし (ID: 49hs5bxt)
真城くんはいつも笑っている。
でも、他のメンバーがすらりすらりとインタビューを受けている間、退屈そうだし、興味もなさそうだった。だけど、やっぱり、彼だけがものすごくかっこよくて、きらきらしてるように見えて、その時、私はふわふわとした幸福感に包まれる。彼に出会えてよかったって心の底から思えた。
でも真城くんは特に目立つわけじゃない。かっこいういけど歌もダンスもトークも得意じゃないから、彼から入っていく人はおおよそ、別のメンバーを好きになってゆく。今日の新曲だって、音が外れていたし、ダンスだって、他のメンバーより劣って見える。だけどそこが彼のいいところなのだ、無意味で退廃的で、だからこそ魅力的だった。すうっと深くニコチンを吸い込んでいくと、脳にじわりとクラクラが広がっていく。そして煙を吐く。薄暗いこの部屋に、ぼやりと煙が広がっていく。真城くんみたいだ。真城くんはこの、タバコの煙みたいに、少しずつ、他人に影響を与えていくのだ。
番組がエンディングを迎えて、真城くんは私の方じゃなく、微笑みながらどこか遠くを眺めている。それを、私はずっと追っている。
CMに入ると私を脱力感が襲う。真城くんを追いかけている間、私はどうも緊張してしまい、無駄に力が入る。缶ビールのCMを眺めながら、もうテレビの中にうつりもしない真城くんが、ここにはいないんだってことをぼんやりと感じる。ポスター雑誌の切り取りもあるけど、真城くんはどうしたって私の方を見ない。私にとって真城くんは、どうしようもない現実であり、苦しいほどに不確定な幻想であり、そして一番愛おしく、同情している物だ。大好きだった月野うさぎちゃん。大好きだった春野どれみちゃん。同じように見つめていたけれど、それらは絶対的な幻で、そしてなによりはっきりと、自己を保ち輝いていたのだ。私をその中には入らせてくれない。理不尽に、健全な努力で立ち向かって世界が羨ましかった。だけど真城くんは、あのキラキラした世界でふらりふらりと、決められたことだけをし続けるためだけの努力をしている。それって、生きてる意味あるのなんてバカなことを思ったことがある。しかし、アイドルとは、言うなればそれだけで、人間を救う。アイドルグループの解散で自殺死亡者が増えるなんて話を聞いたことがあるが、本当にその通りだ。アイドルはファンを言動一つで人間の生死さえ変えうる、重々しく神々しい人間なのだ。
スマートフォンを取り出して、真城くんのソロ曲リストを再生しようとすると一番に目に入ったのは、佐野からのラインだった。
『そっち行ってる』
通知を横へスライドさせて、表示された消去のボタンを押す。未読無視でいじめられるほどガキではないし、友達もいないし、なにより佐野なので、返信なんかしなくてもいい。私は、佐野の手料理に生かされているようなものなので感謝はしている。私を好きだというやつの言葉に甘えきっているのだ。佐野が私のような人間をわざわざ好きになる必要なんてないように思えるが、もし、佐野が本当に好きな人間が出来た時、私には何も言う資格がない。その時には合鍵も、返してもらわないといけないんだろう。
チャイムの音がした。私はそれを無視する。扉が開く音を聞きながら、私はまたニコチンを吸い込んだ。
「よー。あ、おい、お前タバコ、部屋ん中で吸うなって」
「うるせーな。別に誰にも迷惑かけてないし、ていうかパツキンピアスジャラ男に言われたくないんだけど」
「いいだろ、別に。生活力ゼロ女よりマシだろ。いくらおじさんから借りてるつってもな、ルールってもんがあるだろ。とりあえず、タバコは外で吸ってこい!ま、ちょっと待ってろ、飯作るから」
適当に返事をして、ベランダへ逃げる私。外に出るとやっぱり蒸し暑いし、アイスでも持って来ればよかった。短くなったタバコを、佐野が置いたてんとうむしの灰皿に押し付ける。なんだか虫をいじめているみたいで気がひけるのだが、佐野曰く可愛いらしい。そして聞きそびれた真城くんの曲を聴くために、音楽アプリを開く。
- Re: りりるら、りらら ( No.2 )
- 日時: 2018/09/28 20:44
- 名前: たかし (ID: 49hs5bxt)
『いつか君を迎えに行くからね』
イヤフォンから溢れ出す、真城くんのその言葉だけを、私はずっと信じている。真城くんのソロ曲なのだが、歌詞はいかにもアイドルソングって感じで、正直なところ、笑ってしまいそうだけど、何度も繰り返し聞いてしまう。アイドルは偶像だ。ファンはただ作られた人間を愛でているだけだ。けれど真城くんは、このスマートフォンの向こう側に、存在していると思えた。曖昧な現実なのだ。私はそれだけを頼りに、心臓を動かしている。
親が決めてくれた中学を受験して、高校もそのまま上がって、大学も親が決めてくれた適当なところに入った。そんな人生を歩んできた私には、当然、私には誇れるものというものが何一つないし、それに昔から仲のいい友達も佐野を除けばいない。恋愛も流されるがままに適当にやってきたから刺されてもおかしくない。大学も徐々に行けなくなって、結局、大学五年目の7月を迎えでしまっている。今年の授業もろくに出ていないし、来年もきっとこうして、真城くんの声を聞きながら目の前の墓場に向かって、タバコを吹き出していることだろう。細々と連絡を取り続けていた昔の同級生は、みんな、ちゃんと就職して頑張っているらしい。佐野だって、いつの間にか私と同学年になってしまっていた。私だけが時代の流れに取り残されている。魔法少女だって、いつの日か大人になる。真城くんが早く迎えに来てくれればいいのに。少しだけなら、貯金だってあるし、海外は無理でも、田舎とかに二人で一緒に住めたらいいのにね。
星も見えない真っ黒な空に消えていく煙を見て、私は思う。死にたい。
「みゆきィ、できたぞー」
「うん。ご飯何?」
「オムそば」
「あー久しぶりに食べるかも」
短くなったタバコを灰皿に押し付ける。また部屋の中に入るとクーラーが効いていて涼しい。ただただ鬱陶しい夏の間からはこの部屋から出ようとも思えない。
腰を下ろして、適当にチャンネルを切り替える。金曜日のこの時間は特別面白いものもやっていないから、NHKでもつける。さっきまで吸っていたはずだけど、すぐに口さみしくなってしまう。死にたいから吸ってる、なんて言ってみたいけど、私はただのニコチン中毒だ。散らかったものをどかして箱を探していると、佐野がオムそばの乗った皿を持ってやってくる。
「ほら、お待たせ」
「ん。いただきまーす」
今日も一日どこにも行ってないけど、お腹は空く。一口サイズ分を箸でもって口の中に放り込む。
「あ、なあ月9のさあ、最終回見ていい?」
「え、私とってないよ」
「俺が勝手に予約しといた」
「お前の家じゃねーぞ」
「俺の家みたいなもんだろ」
確かにその通りではある。正直、台所周りは何がどこにあるのか全くわからないし、佐野の服だっておいてある。自分で言うのもなんだけれど、付き合ってもいないのに、おかしな距離感だ。佐野はオムそばを食べていないから、どこかで夕食を取ってきたんだろうと思う。私に夕食を作るためだけに、佐野はここへやってくるのだ。見た目は田舎出のヤンキーだけど、よく見れば顔だって悪くないし、こういう風に、世話を焼いてくれるし優しいし、結局はいいやつなのだ。そういう人間の人生を、私がただ食いつぶしている。きっとこいつが好きな女の子だっていると思うし、そうしたらいつの日か、私から離れていくんだろう。だけど、私は、その好意がなければすぐに死んでしまう。真城くんのために生きるために、私は佐野の気持ちに応えていない。だから性行為だって、別に嫌じゃない。でも、佐野が私に触れようとしたことは一度だってない。
「…そういや、お前、大学は」
「行ってない」
「まあ、別に無理しなくてもいいけど、たまには行っとけよ」
「うん。明日バイトあるし、行くよ」
「そうか」
こうして私を心配してくれるのはもはや佐野だけだった。両親はもう、私に何の期待もしていないし、私は本当に、だめになってしまった。キラキラと輝く、女の子には絶対になれない。平成最後の夏なのだから、死んだっていい気がした。けど私は、生きなきゃいけないのだ。真城くんが私の目の前で笑ってくれるのを、ただ、待ち望んでいる。
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