複雑・ファジー小説
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- 明日の夕焼け
- 日時: 2018/10/20 20:55
- 名前: LUCA (ID: iNxht3Nk)
LUCAはるかと読みます。小説カキコに来てだいぶ日が浅いのでわからないことやおかしな所が多いと思いますが、よろしくお願いします。頑張ります。
♯周♂
ロボット。「どんな願いでもひとつだけ叶える」という能力を持っている。
♯メル♀
笑いかたが変。
♯るか♂
頭がいい。
- Re: 明日の夕焼け ( No.1 )
- 日時: 2018/10/18 21:15
- 名前: LUCA (ID: VhCiudjX)
2110年 4月12日
『─見てください──が──ずっ』
キャスターの音声は最後まで紡がれず、ジジジジジジと耳障りな音をたてながらテレビ画面が白黒の複雑な模様を描いた。しばらくすると元の画面に戻る。テレビ画面にはスーツを着てマイクを持った男性が報道している姿が映っている。
『昨日から変わって──』
またジジジジジジとテレビ画面が揺れた。画質が急激に落ちる。男性や周りの建物全てがざらざらとテレビ画面に映し出される。男性の表情が上手く認識出来ない。音声だけを頼りにテレビからの情報を得るしかない。男性の声音は不安感を誘うものだった。
『何故こうなったのかは未だ解明されておらず──っ!?』
突如低い爆音が鳴り響いた。まるで巨大な何かと何かがぶつかり合ったかのような、あるいは爆発したときのような音。カメラが揺れたのか、画面はぶれぶれで焦点が合わない。男性は驚き、後ろを振り向いて硬直した。何が起こったのか状況を理解できずにいたためか、報道することを忘れる。否、忘れたのではなく、出来なかったのかも知れない。だって、それは──
『………なんだこれ………』
その瞬間、奇跡的に画質がもとの鮮明さに戻る。男性から絞り出すようにして呟かれた言葉は、キャスターとしてではなく、純粋な驚きと疑問が入り交じった傍観者としてのものだった。
大地はえぐれ、巨大なクレーターが出来、地表はカーペットのようにうねってあらゆる建物がなぎ倒されていた。残ったのは完全な更地。全て、謎の船艦の不時着によるものだった。深淵の闇のように黒く、艶のある船艦の表面は、地表とは対照的に傷ひとつついていなかった。
別のカメラからの映像が映し出される。今度は先程よりもずっと謎の船艦に近い場所で撮っている。
黒く黒く黒い、巨大な船艦は街を踏み潰して堂々とそこに居座っていた。すると船艦の一部がするりと自動ドアのように開く。中から一人の人間が出てきた。布とも紙とも言えない、黒い何かで身体中が覆われている。指の先や顔すらもそれできつく締めるように覆われていてシルエットしかわからない。
人間は歩く。重々しくゆっくりで、変わり果てた大地を踏み締めて感じるように、一歩一歩前進する。カメラはその姿をとらえて離さない。人間は建物の残骸である大きな瓦礫の上に立ち、止まった。そして人間は、瞳も表情も見えないけれど、確かにカメラをしっかりと見たのだ。真っ赤な底無しの口内を覗かせて不吉な笑みを浮かべながら。
- Re: 明日の夕焼け ( No.2 )
- 日時: 2018/10/17 23:57
- 名前: LUCA (ID: iNxht3Nk)
「いってきます」
(先輩……)
2136年、人類は温暖化が進んだ地球を生きづらい星と見なし、地球で生息することを止めた。火星に移住したのだ。しかし火星に全人類が移住してしまえばまた温暖化が進んでしまう。そう考えた社会的地位の高い人間は社会的地位の高い人間だけの移住を許した。
「この身を帝国に捧げ、全力で戦います」
火星では領土を得るための戦争が起きていた。少しでも有利になるために、火星人は軍勢を増やそうとして地球人を兵として火星に連れて行くことにした。よって、地球人は男女問わず七歳以上から軍事養成機関に入り、訓練を積む。15才になると火星という戦場に送られ実際に戦うことになる。
「必ず、帰ってきます」
(先輩……!)
メルの視界が歪む。瞳には涙が溜まり、思わず泣きそうになる。それもそうだ、3年間ずっと想い続けていた相手と別れるのだから。
今行われているのは、訓練を積んでついに火星に送られる者達の最期の挨拶、いわば決意表明のようなものだ。火星に送られるのは明日の昼頃、宇宙戦艦に乗って行く。
一度火星に送られてしまえば、戦争が終わらない限り、地球には帰って来れない。帰って来たとしても、それは満身創痍で戦力外通告をされた場合だけだ。それを理解した上で、皆帰ってくることを誓っているのだ。きっとそれは、ダメ元でする約束のような、叶わないと諦めかけた祈りのような、地球人との合言葉なのかもしれない。
(私、先輩に自分の気持ち、まだ言ってない)
全員の決意表明が終わり、解散すると後は自由時間だ。通常日課ならぎっしりと訓練が詰まったスケジュールだが、今日は火星に送られる前日なのだ。そんな日ぐらいは、とせめてもの配慮だった。各々思うところがあるのだろう、自然と雰囲気がそわそわとする。
(火星に行くことは、死に逝くことと同義)
それはこの軍事養成機関に入ってメルが初めて教わったことだった。教わらなくても、きっとそう思っていたに違いない。死が怖くない、そう言える者はこの中に何人いるだろう。自信を持って一寸の迷いも疑心もなく言える者は極僅かなのではないだろうか。中には泣き出す者や、発狂する者までいる。否、それが正常な反応か。どちらにせよ、火星に行く側も見送る側も、皆やり残したことがあるだろう。今日はそれを成し遂げる最期の日なのだ。
(私の、やり残したこと)
「先輩!」
「わっ………なに、メル」
誰もいない、二人きりの屋上。先輩は全てを悟ったかのような、穏やかな表情をしていた。受け入れたのか、諦めたのか、どちらなのかはわからない。メルは途端に、走馬灯のように先輩との今までの想い出を思い出した。照れている先輩、お菓子を目一杯頬張る先輩、銃撃戦が得意な先輩、カッコいい先輩。全てが愛しい宝物だ。
「先輩、私」
おそらく先輩はメルの気持ちなどとっくのとうに気づいている。この莫大な愛を隠しきる術をメルは持っていないし、周囲からも分かりやすいと言われていたから、きっとメルが次に紡ぐ言葉もわかっているのだ。何故だろう、勇気は差ほど必要なかった。メルは付き合えるかどうか、先輩の返事なんて気にしていなかったからかもしれない。先輩がどう思おうと、メルがどう思おうと、明日は変わらないのだから。ただ、伝えたい。それだけだ。
「先輩のことが好きです」
「待っててくれないか」
予想外の返答にメルは驚き理解しきれない。
「帰ってこれる保証もないし、帰って来たとしてもボロボロかもしれない」
先輩は今にも泣きそうな顔で言う。下手をしたら空気に溶けてしまいそうな、それくらい儚げだった。
(……ああ、怖いんだ)
「それでも、待ってて、くれ、ないか」
(死ぬのが、明日が、怖いんだ)
メルよりも背の高い先輩だけれど、いつもはカッコよくて強い先輩だけれど、今だけは先輩が世界で一番か弱い人間に見えた。メルは先輩を抱擁しながら言った。
「ずっと待ってますよ」
- Re: 明日の夕焼け ( No.3 )
- 日時: 2018/10/18 20:05
- 名前: LUCA (ID: iNxht3Nk)
「大丈夫ですか、メル」
昼食の時間だというのに、ご飯も食べず食堂のテーブルに突っ伏しているメルを心配して周は声をかけた。しかしロボットである周のその声は無機質でイントネーションが変だ。発音も人間のものとは程遠く、音声と口の動きが合っていない。ただ、機械に感情があると言ったらおかしいかもしれないが、メルを心配する気持ちは誰よりも純粋だった。
周の声にメルはピクリとも反応せず、もはや生きる屍のような状態になっていた。
「周、これは失恋って言うんだよ」
メルの向かいの席に座って昼食を食べているメルの妹、るかは他人事のように言った。
いずれ火星に送られるということは前々から皆が承知の上であったし、それはもちろんメルも知っていた。だから、こうなることはわかっていたのだ。それでもいざ恋慕う相手が居なくなると、やはり悲しいものである。しかしるかの対応は無情なもので、あっけらかんとしていた。まるでいい例だとでも言いたげにメルを見て周に失恋というものを教える。するとメルはいきなりガバッと顔を上げ、るかを睨み付けながら言った。
「違う!これは失恋じゃなくて遠距離恋愛!」
先程まで泣いていたのか、メルの目は赤く腫れていて鼻水や涙、体のあらゆる水分が流れ出していた。
「はいはい、どっちも似たようなもんでしょ」
るかは済まし顔で言うと昼食を食べ始める。ハンバーグの香ばしい匂いがメルの鼻孔をくすぐる。突如、ギュルルルルという低い音が鳴った。メルは予想外のことに恥ずかしくなり頬を赤く染めて必死にお腹を抑える。それをるかは呆れた顔で見つめると言った。
「お腹空いてるんだったら食べなよ」
「今すぐ用意します、メル」
周は素早く厨房へ行き、るかと同じハンバーグ定食を取ってくる。最初は無駄に意地を張っていたメルだが、徐々に気を許していき素直に箸を手に取った。
「い、いただきます」
ハンバーグを口に運ぶ。その瞬間広がる肉汁と優しい味。
(……美味しい)
腹が減っては戦は出来ぬ、そんな言葉が生まれる程、食事というものは大事である。怪我をしてもすぐに回復する、困難な訓練にも耐えうる体作りはもちろん、なにより少年少女達の精神的な面において食事は大きな影響を及ぼす。ただでさえ行動範囲が制限された軍事養成機関で、しかも多感な年頃の時期に生活するのはストレスが溜まりやすい。となると、いかに快適で心地好い生活を送れるか、という問題において食事は重要となってくるのだ。生活の基盤だからこそ、手を抜いてはいけない。努力の改良の末、21世紀の学校の給食とは比にならないくらい今の食事はより美味しく満足度の高いものになっている。
メルが食べたハンバーグも美味しいと評判の人気メニューだ。栄養を重視しつつも、味を落とさない。衛生面や安全性の信頼度も高い。つまり日本の軍事養成機関の食事は他国に比べて圧倒的に質がいい。食事のために日本に移住してくる者もいるくらいだ。
「メルは失恋、悲しいですか?」
周は唐突にメルにそう訪ねる。美味しいご飯を食べて段々と上がってきたメルのモチベーションはその一言でガクンと急降下する。ああ、なんだってこいつは。メルは静かに周に呪うような眼差しを向けた。
「そんな当たり前のこと聞かないでよ」
「メルは失恋、悲しいのですね…………何故?」
周はふむふむと頷き、かと思えば今度は疑問をぶつけてくる。それは全て純粋なもので微塵も悪意はない。でもだからこそ、よりたちが悪い。そんな当たり前のことを考えてみたことなどなかったし、疑問にすら思わなかったメルは、改めて聞かれると答えに詰まってしまった。しかし一度気になったことは自分が納得するまで諦めない周の性格を、メルは誰よりも理解している。ここは適当に答えておくのが最善だろう。
「なんでってそりゃあ、幸せじゃないからよ」
「じゃあ、先輩への想いが成就すれば、メルは幸せですか?」
「当たり前じゃない」
- Re: 明日の夕焼け ( No.4 )
- 日時: 2018/10/18 23:27
- 名前: 凛太 (ID: aruie.9C)
はじめまして、凛太といいます。
始まり方から、なんだか惹きつけられるなあ、と思いながら更新分全て読みました。
序盤に感想書くのもあれかなと思ったのですが、本当に素敵だと思ったんです。
世界観、タイプど真ん中です。
子どもたちは戦争のために15歳まで訓練して、でもその先には死しかなくて。
メルと先輩のやりとりが、残酷だけれども綺麗だなあと思いました。
あと、ひそかに周が気になってます……。
最後に、まだ3レス分なのにって思うかも知れませんが、私はこの小説すごく好きです。
なのでこれからも、更新楽しみにしています。
突然、失礼しました。
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