複雑・ファジー小説

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キ グ ル イ
日時: 2018/12/13 23:00
名前: ほたる (ID: jBbC/kU.)

↓↓↓登場人物↓↓↓

@白崎 鈴那(シロサキ レナ) ♀
南高校1年生。
スクールカーストに怯え、クラスで第1軍とされる珠理奈たちに合わせて生きている。

@三島 光(ミシマ ヒカル) ♂
北高校1年生。
クラスの中心で明るく、人気者。

@高宮 珠理奈(タカミヤ ジュリナ) ♀
南高校1年生。
ワガママで自分が1番じゃないと気が済まない。

@佐野 満月(サノ ミツキ) ♀
@小野寺千春(オノデラ チハル) ♀
南高校1年生。珠理奈の取り巻き。

@望月 大樹(モチヅキ ダイキ) ♂
@大原 優人(オオハラ ユウト) ♂
@市村 翔太(イチムラ ショウタ) ♂
北高校1年生。光の友達。

@砂川 冬真(スナカワ トウマ) ♂
南高校1年生。鈴那に気を持っている。

Re: キ グ ル イ ( No.1 )
日時: 2018/12/13 23:02
名前: ほたる (ID: jBbC/kU.)


#01 【 はじまりはじまり 】


昔、誰かが言っていた。

いじめは、いじめられる側にも問題がある。



と。


そんなこと、誰が決めた?

そんなの、いじめられたことがない人間が言うんだ。




なんて、思っていた。

いや、きっとそう。

だけど高校に入って、私は変わろうと思った。

もし本当にそうであるとするならば、私が変わればいい。

そしたらきっと、いじめられないんでしょ?





ーーーーーーーーーーーーーーーー

わたしは高校に入ってから変わった。
いわゆる高校デビューと一緒だ。

中学を卒業して、必死にメイクやヘアアレンジを勉強した。

元々太っていた訳ではなかったけど、抜群と言われるほど細くなった。

勉強もした。
誰よりも頭が良くなるために。

誰にも文句を言われないように、全部必死でもがいた。






ーー9月。





「れーなっ!」

背中を叩かれた。
振り返ると、そこには珠理奈と満月と千春が立っていた。

「びっくりしすぎ〜」と珠理奈。

「あ、ごめん」

鈴那がそう言うと、珠理奈は不思議そうに言った。

「鈴那ってすぐに謝るよね」

「え、あ、ごめん。あっ…」と鈴那。

「ほらまた〜」

千春も、満月も笑った。
珠理奈は鈴那の前の席に腰を下ろし、楽しそうに言った。

「ねえ鈴那、今日ひま?」

「え、ああ、うん。どうして?」

「今日北高のミシマ君たちとカラオケなの、行くでしょ?」

「えっと、ミシマ君って言うのはその…」

「ほら、地区の体育祭の時にあたしがカッコイイって言ってた北高のイケメン。あたしミシマ君の友達と予備校たまたま一緒でさ。取り付けてもらったんだよね」


確かに、夏にあったこの辺一帯で行う体育祭でイケメン〜!と珠理奈が騒いでいた男がいた気はする。

ただどんな顔だったかは覚えていない。

「それで、なんで私?」

鈴那は不思議そうに珠理奈を見た。

「何でって、向こうも4人だし。珠理奈と鈴那と満月と千春で行くの」

ああ、数合わせね。

「今日バイトないでしょ?」

「まあ、うん…」

「だったら行くよね?ね?」

珠理奈は笑顔でそう問いかけてきた。
ただ目は笑っていない。

「そういうことなら、もちろん」

鈴那はそう言って微笑んだ。


ーーーーーーーーーーーーーーー

「へえ、珠理奈ちゃんと千春ちゃん満月ちゃんね!あ、鈴那ちゃんも」

会うなり、失礼な発言。
この男は、望月大樹。

ヘラヘラしていて、恐らく珠理奈を狙っている。
嫌いなタイプ。

鈴那はそう思いながら望月を見た。

「よろしくね〜」ともう2人の男、大原優人と市村翔太。

大原はたぶん珠理奈、市村は誰も狙っている感じはしない。

そしてこの男、爽やかに微笑むのは珠理奈が狙っている三島光。

「よろしくね」

光が言うと、真っ先に珠理奈が前に出た。

「うん!よろしくね光くん!」

珠理奈は分かりやすい。
この反応で珠理奈に脈がないことを察した望月と大原は、彼らもまた分かりやすい。
近くにいた千春と満月に話しかけ始めた。

やっぱこういうの、疲れるなー。

「鈴那ちゃんも、そんな暗い顔してないではやく行こ!」

カラオケへ向かいながら、市村が言った。

「うん、ありがとう」

鈴那はそう言って市村についていった。





カラオケに着くなり、珠理奈は光の隣を確保。

「あ、鈴那。ジュース。あたしコーラね」

珠理奈はそう言って微笑んだ。

はいはい。

「うん、わかった〜!みんなは何がいい…かな?」

鈴那は少し気まずそうに、全員に問いかけた。

「あたしメロンソーダ〜!」と千春。

「オレンジ!」と満月。

「じゃあ俺はコーラで!」と大原。

「俺もコーラ!」と望月。

「俺も〜」と市村。

お前らもかよ。

「うん!わかった、じゃあ、持ってくるね…」

鈴那がそう言って微笑んだ時、光が立ち上がりながら言う。

「俺も手伝うよ。白崎さんだけじゃそんなに持てないでしょ」

光はそう言って微笑む。

「えーいいよぉ光君。鈴那はそういうの好きなの〜。ね、鈴那〜?」

ここでくる珠理奈お嬢様。

「あ、うん…!私カフェでバイトしてるから大丈夫」

「でも…」と光。

「大丈夫だから!三島君もコーラでいいよね!じゃあ行ってくるね!」

鈴那はそう言ってカラオケの部屋を出た。

息が詰まる。
こういう、小さなことを断ってもし珠理奈を怒らせでもしたら…。

中学校の頃のことを思い出した。

Re: キ グ ル イ ( No.2 )
日時: 2018/12/18 18:42
名前: ほたる (ID: 57S6xAsa)



#02 【 やめてほしい 】



んっと、コーラ何個だっけ…?

溜息が出た。
私、カラオケに来て何してるんだろう。

なんか疲れるなあ一軍って。
毎回こんなキラキラしてる日々を送るなんて。

そんなことを思っても、珠理奈たちに言えるわけがない。
もし珠理奈たちに言えば、即ハブられる。

考えただけでもゾッとした。


「白崎さん」


後ろから声が聞こえた。

振り返ると、そこには光がいた。

「…三島くん」

胸が高鳴った。
勿論、いい意味ではない。

珠理奈への言い訳を考えなければいけない。

「手伝うよ」

光はそう言って、置いてあったコップに飲み物を注ぎ始めた。

「…あ、いや、いいよ!私がやるから三島くんは戻った方がいいよ」

鈴那は焦った表情で光からコップを奪い取る。

「どうして?白崎さんだけじゃ大変でしょ」

光は不思議そうに鈴那を見た。

あなたみたいな人には分からないよ、私の気持ちなんか。

「大丈夫だから、お願い、戻って」

鈴那が言うと、光は首を傾げた。

「…何かあったの?白崎さん」

「何も無い。三島くんはこんなことしなくていいから」

つい、声が震えてしまう。
怖い。
光と目を合わせることができない。






「俺も、白崎さんも同じでしょ?」





光はそう言って、俯いた鈴那の顔を覗き込んだ。



同じ?
そんなはずないじゃない。



そんな整った顔で見つめないで。



「…ほんとに、大丈夫だから」


鈴那は俯いたまま答える。

「でもーーーーーーー」

光が何か言いかけたとき、「何してるの?」と声が聞こえた。


珠理奈だった。


胸が熱くなった。




勿論、いい意味ではない。






「2人、何してるの?」


珠理奈が来た。


「あ、いや、その、飲み物!いれてたら三島くんがトイレに来たらしくて!」

必死だった。
鈴那がそういい、光は「いや俺は…」と言ってから鈴那を見た。

鈴那は必死に光の目に訴えかける。

「…そう、トイレに来たんだけど、その、迷っちゃって」

光が言うと、珠理奈は「そっか!三島くん突然いなくなったから心配しちゃった〜!」と光の腕に絡みついた。

光は「ああ、ごめんね…」と言ってから鈴那をみた。

鈴那は「…じゃ、2人は先戻っててね!」と言ってコップを手に取り、また飲み物をいれ始めた。

「行こ!三島くぅん〜!」

珠理奈はそう言って、光と共に部屋へ戻って行った。


なんとか切り抜けた。





部屋に戻ると、千春が歌っており、周りがノリノリに騒いでいた。

鈴那は一人、静かにしゃごみこみ、トレーに置いたコップを全員の前に差し出した。

光の前にコップを置くと、光は鈴那を見た。

「ありがとう」

光はそう言って微笑む。
鈴那は軽く会釈をすると、誰の近くでもないソファに1人腰掛けた。

見れば、相変わらず珠理奈は彼女かのように光の腕に絡みつき、最早抱きついてるように座っている。

この2人はいずれ付き合うのかな。


珠理奈の容姿は物凄く美人だ。
スタイルも良くて、甘え上手で。
学校でも珠理奈はモテるし、しょっちゅう告白された話を聞かされる。

一方で、光も今日初めて会ったが、容姿端麗で珠理奈がカッコイイと騒ぐのも分かる気がする。



そんなことを考えていると、隣に来た市村が話しかけてきた。


「ねえ鈴那ちゃんって彼氏いるの?」

「あ、いや、いないけど」

鈴那は愛想笑いをしながら答える。

「ええーそうなの?可愛いのに」

「…あ、ありがとう」

「ねえ、LIME教えてよ」

市村はそう言って携帯を出した。





なんか、こういうの嫌だなあ。




「…あ、ごめん。今日携帯持ってなくて」

鈴那は明らかな嘘をついた。
市村は「…ふぅ〜ん。じゃ番号は?番号教えてよ」と鈴那に近寄ってきた。

「ごめん、覚えてないの…」

「えー、本当?今度デートしない?」

「えっと、時間が合えば…」

「本当?絶対だよ?」

「あ、うん。その、ごめん、私そろそろ帰らなきゃ」

鈴那はそう言って立ち上がった。

「え、はやくね?なんで?」と市村。

「バイト、あったの忘れてた。ごめんね」

鈴那はそう言ってカバンに荷物を詰め始める。

「ねー、鈴那ちゃん帰るって」

市村は全員に向けて言う。

「ばいばーい」と珠理奈。

「じゃーねー」と千春、満月、望月、大原。

「どうしたの?」と光。

「バイトだってさ」と市村が答えた。

「そっか…」光はそう言って鈴那を見上げた。








「気をつけて帰ってね。あと、バイト頑張って」








光はそう言って微笑んだ。




ああ、どうしてこの人は。
この人"だけ"はーーーーーーーーー。

Re: キ グ ル イ ( No.3 )
日時: 2018/12/21 22:05
名前: ほたる (ID: z5NfRYAW)



#03 【 交換条件 】


帰り道、帰ってきたことを少し後悔した。
珠理奈は怒ってないだろうか。
雰囲気はおかしくなかっただろうか。

帰る時光の隣でニコニコしてたし、大丈夫かな。


鈴那はそんなことを考えながら歩いた。


帰ってきたのはいい。
だけど、なにしよう?

家には帰りたくなかった。


鈴那はカラオケから少し歩いてベンチに腰を下ろした。
背中に川があるせいか、少し肌寒い。

もう少し厚着してくれば良かったな。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


歌い終えた千春は飲み物を口にしてから言った。

「てーか鈴那、今日バイトないって言ってたのにねー」

千春がいい、満月は「だよねー。居づらくなったんじゃねー?」と携帯をいじりながら話す。

「白崎さん、楽しくなさそうだったしねー」

大原も言う。

「お前らが飲み物任せるからだろー」と市村。

「いいのよ、あの子はそーゆー人のお世話が好きな子なの」

珠理奈が言った。

「ねえ三島くん、あたしねーーーー」

珠理奈が光に話しかけた時、光は首を傾げて言った。



「ねえ、バイトないって言ってたって、本当?」



光は千春と満月の方を見て言った。

「え?ああ、うん…今日はないって言ってたけど…ね?」

千春はそう言って満月を見た。
満月も「うんうん」と頷く。

すると光は荷物をまとめ、立ち上がった。

「ごめん、俺も今日バイトあったんだった。帰るね。みんな今日はありがとう」

光はそう言って1000円をテーブルに置き、出口へ向かう。

珠理奈は焦ったように「え、ちょっと、まって!」と光の後を追った。


「三島くん!」

カラオケの廊下で珠理奈が言った。

「ん?」

光は振り返る。

「…その、あの、なんで?」

「え?なにが?」

「だって三島くん、鈴那が帰った瞬間にそんなの…」

言われ、光は「白崎さん、心配じゃないの?」と珠理奈を見た。

「…え、いや、心配だよ!でも突然バイトが入ったのかなって思って!」

「そっか。でも俺もバイトってのは本当だから。ごめんね。高宮さんたちは楽しんで。それじゃ」

光はそう言って歩いて行った。
珠理奈は舌打ちをすると、足音を立てながら部屋に戻った。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

寒さに耐えながら、鈴那は未だベンチで携帯をいじっていた。


「バイトは?もしかしてサボりとか?」


突然、声が聞こえた。
見上げると、そこには微笑んでいる光がいた。


「えっ、なんで……」


鈴那は驚いた表情で光を見上げた。
光は鈴那の隣に腰を下ろす。


「…白崎さん、楽しくなかったよね」


光が口を開いた。
鈴那は光の言葉を無視して続ける。

「…三島くんはどうして?」

「白崎さん元気なかったから来ちゃった。まさかこんな所で震えてるとは思わなかった」

光はそう言うとカバンからニットのカーディガンをだし、鈴那に差し出した。

「ごめんね、こんなんしかないけど。シャツだけじゃ寒いでしょ?」

光の差し出したニットのカーディガンには、胸元に北高のロゴが小さく刺繍されている。

「…大丈夫」

鈴那はそう言って俯く。
光は「いいから、着て」と鈴那を見た。


寒い、寒すぎた。
だから、受け取ってもいいかな。


「…ありがとう」

鈴那はそう言ってカーディガンを受け取り、シャツの上に光のカーディガンを着た。

なんだろう、心地よい匂い、触り心地。
隣にいる光と同じ匂いがする。


暖かい。



「白崎さん、なんで家に帰んなかったの?こんな所にいたらすぐ見つけちゃったよ?」

光は少し微笑んで言った。
鈴那は「…三島くんには関係ないよ」と呟く。



カーディガンを貸してくれたのに、嫌な態度だな私。



「そっか、ごめんね変なこと聞いて。白崎さんはああいう場、苦手?」

光は気を遣っているのか、次々と質問をしてくる。

「…うん。すごく嫌い。居場所がないの」

「だよね、俺もああいうの苦手だな〜」

光はそう言って背もたれに寄りかかった。



嘘。そんなわけないじゃん。



「…なにそれ、同情してるの?」

鈴那はつい、言ってしまった。
光は「え、いや別にそういう意味じゃなくて…気持ち分かるなあって…」と少し焦ったように鈴那を見た。

「あなたみたいな人に、私の気持ちなんて分かるはずないじゃん!」

鈴那はそう言うと立ちあがり、歩き出した。



完全に八つ当たりだった。
この男が完璧だから。イラついた。
私って本当面倒臭い女。



光は立ち上がり、「まって!」と言って鈴那の腕を掴んだ。

「離して!」と鈴那。

「離さない!」と光。

「…は?」

鈴那は不思議そうに光を見た。
光は「白崎さん、家に帰りたくないんでしょ?どこ行くの?」と真面目な表情で問いかけてきた。

「…関係ないでしょ」

「心配なんだ、君のこと。この手離したら、もう二度と会えないんじゃないかって…」

「…何言ってんの。意味わかんない。私になんか会わなくても、三島くんには何も損がないじゃん!」

鈴那はそう言って腕を強く振り、光の手を振り払った。

光は体勢を戻し、話を続ける。

「そんなこと言わないで。せっかく出会ったのに」

「…金輪際会うことはないから。もう…珠理奈たちの所に戻ってよ」

「どうして?」

「お願い…戻ってくれないと困るの」

「だからどうして」

「…だから、迷惑だって言ってんの!こんな所珠理奈に見られたら…!」




私、最低だ。

言ってから、自分が着てるカーディガンに目がいった。


「…高宮さんの何をそんなに恐れてるの?友達なんじゃないの?」


光は不思議そうに言う。


「…だから!あんたみたいな人には分からないよ!」


鈴那は思わず大きな声で叫ぶ。


「俺の!何がそんなに気に入らないんだよ!何がそんなに違うんだよ?!」


光も大きな声で叫ぶように言った。
鈴那は「ああもう!」と言ってから続けた。


「あんたみたいに顔が整ってて!背も高くて!何もしなくても周りに人が寄ってくるような人気者には分からないって言ってんの!」


鈴那が言うと、光は不思議そうに言う。


「…俺の顔が整ってる?いや、そんなこと言ってるけど、白崎さんの顔、可愛いけど…?」

「…は?!何言ってんの?同情しないでってーーーーー」

鈴那の言葉を遮り、光は続ける。



「白崎さんは可愛いよ。スタイルも良いし、背は小さくて可愛いなって思ってた。周りがよく見えてて、気遣えて、性格も良いんだろうなって、俺ずっと思ってたよ?」


なに、言ってるのこの人。


「…そ、そんなの!顔は少しでもマシ見えるように頑張ってメイクしてるの!背は伸びなかったけど太っちゃいけないって…ダイエットしたの!努力したの!だからーーーーー」


鈴那の必死の言葉に、光は冷静に言葉を返した。


「それなら俺だって、少しでも良く思われたいから髪の毛のセットを覚えたし、背伸ばしたくて昔から牛乳めっちゃ飲んだし、見映えよく思われたいから服も買うし。白崎さんのは努力で、俺は努力じゃないの?」


そんなこと言われたら、何も言えないじゃん。


鈴那は黙り込み、呼吸を整えた。


「…何があったのか、俺にはよくわかんないけど…あんまり思いつめないで、白崎さん」

光はそう言って鈴那の隣に来ると、1度、頭を撫でた。

瞬間、胸が熱くなった。
これは、良い意味で。


「…とにかく…戻ってくれないかな…珠理奈たちのところに」


鈴那は静かに呟く。
光は、「そんなに言うなら、わかった」と言って鈴那から1歩離れ、そのまま振り返り、歩いて行った。


彼の背中を見つめた。
自分で行けと言ったくせに、背を向けられると寂しくなった。

その時、光が振り返った。

鈴那は目を見開く。

光はそのまま小走りで鈴那の前まで戻ってくると、携帯を出した。

「…え?」

鈴那は不思議そうに光を見上げる。
光は微笑んで「LIME、教えて」と鈴那を見た。

鈴那は黙り込む。



教えたら、珠理奈たちにばれたらーーーー。



そんな考えがよぎる。


「だめ?」

光はそう言って鈴那の顔をのぞき込む。
鈴那が黙っていると、光は両手をポケットに入れ、柵にもたれかかった。


「交換条件」と光。

「交換条件…?」鈴那は不思議そうに光を見つめる。

「LIME教えてくれるなら、カラオケに戻る。教えてくれないなら、このまま帰る。だめ?」

光に言われ、鈴那は「そんな…!」と困った表情を浮かべる。

光はため息をついて続ける。

「じゃあ言い方を変える…俺に教えるの、嫌?」

言われ、鈴那は「…それは…」と唇を噛み締めた。






ずるいなあ、この人は。



Re: キ グ ル イ ( No.4 )
日時: 2018/12/25 22:44
名前: ほたる (ID: O62Gt2t7)



#04 【 危険 】




『ちゃんと家に帰った?』



その夜、光からLIMEが来た。



『うん』



鈴那はそれだけ返した。



『なら良かった!また遊ぼうね』



このメッセージに、どう返せばいいの?

そうだね!とか、また遊びたい!とか、そんなこと言って、三島くんが望月くんたちに言って、珠理奈に伝わったらどうしよう。

こんな風に考えてしまう自分が嫌だ。

三島くんはただ、社交辞令で言ってくれてるだけなのに。
ただ、気をつかってくれてるだけなのに。





『カーディガン、ありがとう。あと、ごめんなさい』



鈴那はそう打ち込むと、メッセージを送った。



『いいえ。笑』

こう返ってきた。
ああ、ここで返せば続けたいのだろうと思われてしまう。



もう、終わりか。


鈴那はそう思うと携帯を置き、ベッドに横になった。

その時、通知が鳴った。
画面を見ると、三島光からだった。



『俺こそごめんね、勝手につい行って白崎さんのこと困らせて』



…優しいな。

悪いのは私なのに。
三島くんは心配してわざわざ来てくれたのに、私はそんな三島くんを傷つけるようなことを言って突き放した。

自分が珠理奈に嫌われないようにするために。

三島くんは何も悪くない。





『三島くんは悪くないよ、ありがとう。』

鈴那のこのメッセージのあとに、すぐに返信が来た。



『なんか嬉しいな。笑』


『なんで?』


『白崎さんと距離が縮まった気がして』


『なにそれ笑』


こんなの、嬉しくて、どうしたらいいかわかんないよ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「…おはよう」

教室に入り、珠理奈たちを見て、鈴那は言った。
少し罪悪感があったせいか、声が小さくなった。

光とLIMEをしていることが珠理奈にばれていたら、鈴那はもう終わりだ、そう思った。

昨晩、光とのLIMEは終わらせた。
もし学校にいるときに光から返信が来れば、珠理奈たちに見られる可能性があったからだ。

少し寂しい気もしたが、きりの良いところで既読無視をした。
だが、今朝携帯を見たら、光からLIMEが来ていた。

『おはよ!学校だるい〜』

そんな、日常の会話だった。
これにはまだ返信していない。
学校が終わってから返せば、問題ないはず。


珠理奈は振り返り、1度睨むような表情で鈴那を見上げた。

背筋が凍った。




どうして?ばれた?どうして?誰が?



一瞬にして色んな考えが頭を巡った。

だが、珠理奈はすぐに微笑み、「おはよう鈴那〜!」と立ち上がった。

「えっ、ああ、おはよう…」

鈴那は驚いてつい、言葉が詰まってしまった。
珠理奈は「もう〜何よそんな暗い顔して〜」とニコニコする。

不気味だ。
何を企んでいるんだろう。

「鈴那、昨日はごめんねぇ〜楽しくなかったでしょぉ〜?」

珠理奈はそう言ってあからさまに落ち込んだ表情を浮かべた。

「あ、いや、私こそ雰囲気壊してごめん。珠理奈たちは楽しかった?」

鈴那はそう言って席に座った。

「うん!お陰で楽しかったよ〜!」

珠理奈は何やら嬉しそうに笑顔で答えた。

すると、満月がニヤニヤしながら言う。







「珠理奈、三島くんとLIMEしてウキウキなの」




…あ、そっか、そうだよね。

分かっていた。分かっていたけど、何か、なんだろうこの気持ち。




「そうなの!昨日ね、帰りに三島くん、『珠理奈ちゃん、LIME聞いてもいい?』って〜!教えたら昨日の夜早速LIME来てさ〜!」

珠理奈は嬉しそうに言った。



なんだ、みんなに聞いてるんじゃん。
なにが心配よ。
しかも『珠理奈ちゃん』って。
結局男なんてみんな一緒。

私の顔が可愛い?背は小さくて可愛い?
結局美人で背が高くてスタイルの良い珠理奈に声かけるんじゃん。
なんなの、アイツ。

わかってたのに。


「今日デートするんだ〜〜」

珠理奈は楽しそうに言っていた。



その日、鈴那は光のLIMEを無視した。

LIMEを続けていたい気持ちに反して、返すのが悔しい自分がいる。


「…ただいま」


家に帰ると、相変わらずゴミだらけだった。
母の姿はない。

玄関にハイヒールがない所を見ると、今日も仕事へ行ったのだろう。





「おかえり〜、鈴那ちゃん」





部屋から出てきたのは、いつもの男だった。






「…来てたんですね」





鈴那はそう言うと部屋に入り、カバンを置く。
リボンを取り、ブレザーを脱いだ。

その時。

男が後ろから抱きついてきた。



「…っ!ちょっと!」


鈴那が言うと、男はそのまま鈴那をベッドに押し倒す。


「今更でしょ?」



いつものことなのに。
今日はなんだか、いつもに増して嫌だった。



この男、青田浩二に抱かれることが、嫌で仕方がなかった。



青田は鈴那のシャツのボタンを開け始めた。
鈴那は青田の手を掴み、「離して!」と叫ぶ。

「…てめ、今更なんなんだよ…いつもと同じだろうが…!」

青田はイラついた様子で言う。

「…やだ!離して!」

鈴那はそう言うと青田の体を蹴り、青田は一瞬鈴那から手を離した。

鈴那はその隙に起き上がり、近くにあった光のカーディガンが掴み取りそのまま靴を履いて家を出た。

「おい…!鈴那!」

青田もそういって鈴那の後を追った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


しばらく走った。
辺りはもう真っ暗だった。

鈴那は息を整えながらゆっくり歩く。
どこまで来たか分からない。


「…鈴那!捕まえた〜」


後ろから腕を掴まれた。
鈴那が驚いた表情で振り返ると、そこにはニヤついた青田がいた。

鈴那は「…!離してよ!」と叫ぶ。

「おまえ今日はなんなんだよ!いつも抵抗しねえじゃねえかよ!」

青田は怒鳴るように言った。

「もう嫌なの!やめてよ!」

「ふざけんな!てめえの母親が作った借金だろ!あいつが…綾子が鈴那を好きにしろっつったんだろ!」

綾子は、鈴那の義母である。

「…あんな人、お母さんじゃない!」

「それでももう決まってんだよ!いいのか!お前の本当の母親んとこの店なんかすぐ潰せるんだからな!」

言われ、鈴那は顔をしかめた。

「…何度言えば分かるんだよ!大人しく行くぞ」

青田はそう言うと、鈴那の腕を引っ張り足早にホテル街へ向かった。

Re: キ グ ル イ ( No.5 )
日時: 2018/12/30 15:51
名前: ほたる (ID: nsrMA1ZX)


#05 【 嘘 】



「痛いって…!」

青田に連れられながら、鈴那はあからさまに嫌な表情で呟く。

「るせえ!黙ってついてくればいいんだよ!」

青田は更に怒っているようだった。

もう嫌だ。
こんな男に抱かれるなんて。
今日は本当に嫌な日だ。
青田が久しく来なくて喜んでいたのも束の間だった。
どうせキャバ嬢でも見つけて告白しては振られ、私でストレスを発散しようとでも思っているのだろう。

母のことを言われたら何も言えない。


「はやく歩けよ…!」


青田は鈴那の腕を乱暴に引っ張り、ラブホテルの前で怒鳴った。
鈴那がため息をついた、そのときだった。







「…白崎さん?」







聞き覚えのある声だった。



鈴那はドキッとした。
もちろん、嫌な意味だ。






少し離れた場所で、驚いた表情を浮かべて立っていたのは、三島光だった。






「三島くん…」






鈴那は小さく呟き、焦って青田の腕を振り払った。

「おい、誰だよこいつ?」

青田がイラついた様子で鈴那に言った。

「…いや…えっと…」

鈴那は言葉を濁す。



「白崎さん…何してるの?」



光は鈴那に歩み寄り、青田を見てから言った。


光に言われ、鈴那はだんだん呼吸が乱れてくる。


「白崎さん?大丈夫?白崎さん?」


光は鈴那を見て心配そうに問いかける。

鈴那は呼吸を乱しながら、怖くなってしまった。


なんで…?
なんでこんなところ見られるの…?!
最悪。
なんで?なんで?なんでよ!!!


鈴那はそう思うと、走り出していた。


「白崎さんっ!」


光が鈴那のあとを追おうと走り出したとき、青田は光の腕を掴んだ。

「あんた、あいつの彼氏?」

言われ、光は腕を払い、真面目な表情で言葉を返す。

「…未成年の女の子、こんな所に連れてくるなんてどんな神経してるんですか。嫌がってたんじゃないですか?」

光が言うと、青田は嘲笑うように微笑みながら言った。

「なに、ヤキモチ?」

「真面目に答えて下さい」

光が表情1つ変えることなく言うと、青田は更に微笑んだ。

「…別に、今日はたまたま場所がここだっただけだし」

「どういうことですか?」

「いつもは家でヤってんだよ」

青田はイラついたように答える。
光は顔をしかめる。

「…あなたは、白崎さんとどういう関係なんですか?」

「なんだと思う?」

青田は挑発するように微笑んだ。

「…正当な関係ではなさそうですけど」

「まあ、彼氏ではないわな。だからボクちゃん、鈴那とヤってもいいよ?別に俺のモンではないわけだし?」

青田の言葉に、光は青田の胸倉を掴んだ。
青田は「おいおい〜暴力はやめろよ〜」と光を見る。

「まあでも、ボクちゃんが鈴那のことをどう思おうがどうなろうが俺の知ったこっちゃねーっつーことだよ。ただ、あいつもう俺に開発されてるから気持ちよくないかもな?」

「おまえ…!」

光は怒りのあまり、青田の胸ぐらを掴む手が強まる。

「こんなことしてる場合かよ…!鈴那ちゃん追わなくていいのかな?ボクちゃん」

青田に言われ、光は悔しそうに青田を離し、「二度と白崎さんに近づくな」と言うと鈴那が行った方向へ走って行った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

鈴那は1人、近所の公園にいた。


どうしよう…どうしよう…?
もし三島くんが望月くんたちにチクったら?
それが珠理奈たちに伝わったら?

私は学校での立場を失くすことになる。
それに青田が怒っていたとしたら?
ママのお店は…………

それに、三島くんには知られたくなかったのに。

私に、こんなこと思う資格なんかないのに。
三島くんに迷惑だ。

三島くんは元々私の事なんか何とも思ってない。
ただお人好しなだけで、私みたいな面倒臭い女を放っておけない性格なだけだ。

私は、何を勘違いしてるの。


呼吸が整ってきた。
だんだん馬鹿らしくなった。

嫌われたっていいじゃん。
どうせ彼は珠理奈と付き合うんだから。

もう、どうでもいいよ。



「…白崎さん!」



声が聞こえた。

公園の入口に、光がいた。



…うそ。




「…なんで」


鈴那は驚いた表情で呟いた。

光はベンチにいる鈴那に歩み寄り、鈴那の前で立ち止まった。


「良かった、見つけた」


光はそう言って微笑んだ。



この人は、なんでこうも…。



「…なんで来たの?」


鈴那が言うと、光は鈴那の隣に座った。

「心配だったから」

「…嘘だ」

「嘘じゃない」

「嘘だよ!…ただ気になっただけでしょ。あんな男とあんな場所にいたことが」

鈴那が言うと、光は1度俯いてから鈴那の方を向いて話し始めた。

「…俺が何してるんだって言った時、あの人言ってた。『いつもは家でヤってんだよ』って」

言われ、鈴那は黙って俯く。
光は続ける。

「どんな関係だって聞いたら、彼氏じゃないとも言ってた…あいつ、笑ってた。俺を、白崎さんをバカにするみたいに」


心臓が痛い。
こわい。
三島くんは一体、何を思ったの?



「…引いたでしょ」

鈴那はボソボソと呟いた。
光は「引いてなんかない」と答える。

「…引かない訳ないじゃん。偉そうなこと言って、あんな男の言いなりになっててさ。笑えるよね」

鈴那が言うと、光は首を横に振る。

「…良かったら聞かせてくれない?どんな事情があったのか…。君を助けたい」

「話すわけないじゃん」

「…そっか」

「…なんで?なんでこんなことするの?」

鈴那の言葉に、光は「え?」と不思議そうに鈴那を見る。

「私になんか構ってないで珠理奈んとこ行けばいいのに」

「え、え、なんで?なんで高宮さんが出てくるの?」

「いや、なんでって、なんでとぼけるの?意味分かんないから」

「いや!本当に何の話?」

「珠理奈にもLIME教えてって…珠理奈ちゃんとか言ってたくせに、何が心配よ!何が助けたいよ!男のそういう…そういう所って本当に嫌い!」

鈴那は光を見つめて怒鳴る。

ああ、またやってしまった。
また三島くんに向かってこんな態度を…。


すると光は落ち着いた様子で「白崎さん」と呟いた。

「…は?なに、それ、なに…」

「LIME聞いてきたのは高宮さんだし、俺は高宮さんのこと、高宮さんとしか呼んでないよ」

「で、でも珠理奈は…!」

「高宮さんがどうしてそう言ったのかは分からないけど、俺はしてないよ」



どういうこと?
なら珠理奈はどうして私にあんなことを?

て、三島くんは弁解してくれてるけど私は三島くんの彼女でも何でもない。

仮に三島くんが珠理奈のLIMEを聞いたとして、珠理奈ちゃんと呼んでいたとして、私には関係のない話だ。


「...ごめんなさい。私には関係ないよね」


鈴那はそう言って立ち上がった。
光は「まって」と腕を掴む。

デジャブ。
こないだと一緒じゃん。


「俺、君のこと、もっと知りたい」


光に言われ、鈴那は「...意味わかんないって」と呟く。

光は「ごめんね」と言って鈴那の腕を離し、ベンチに座り直して話し出した。

「...俺ね、実は女の子結構苦手でさ。だから学校でも大樹たちとばっかりいるし。高宮さんも同じ。けど、白崎さんのことは気になるんだ。放っておけないんだ。初めてこんなに知りたいと思ったし、君にもっと俺を知って欲しいと思った」

「...なんで、苦手なの?」

鈴那もベンチに座り直し、ボソボソと訊いた。
光は微笑む。

「単純だよ。昔好きだった子にこっ酷く振られちゃってさ。それからあんまり信じられなくて。くだらないでしょ」

光はそう言って苦笑した。
鈴那は首を横に振る。

「...あの人は、青田さんって言う、お義母さんが働いてるスナックのお客さんなの。お義母さんって言っても、亡くなったパパの再婚相手で、仲良くないんだけどね」


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