複雑・ファジー小説

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レオン〜遥かなる野望〜
日時: 2018/12/18 15:38
名前: T (ID: NRm3D0Z6)


夏、俺は神保町から抜け出すと、隣町へと繰り出した。太陽の光は陰り、次第に曇っていく。7月の始まりだと誰もが気付かないと思うくらいに、まだ涼しかった。電柱がある角を左に曲がると、数人の学生が遠方に見えた。制服からして、俺と同じ学校だ。
学校に着くと、いつものように輪の中には入らず、孤立し、席に座りなだらかにスマホでネットニュースを見たりした。早めに学校に着くため、いつもこんな状況だ。周りは若干ざわついているが、気には触らないレベルなので、どうにか落ち着ける。それも30分もすれば、耳を塞ぎたくなるほどのレベルに達するのだが。
ホームルームの始業ベルが鳴ると同時に、担任が教室に入って来た。年齢は分からないが、多分50代前半とかだろう。名簿等を教卓に置くと、では挨拶をしましょう、と俺たちを起立させた。挨拶が終わると、適当な話をだらだらをし続けた。5分もしないうちに担任がクラスを出ていくと、辺りはまたざわつき始めた。1時間目は、体育だった。


Re: レオン〜遥かなる野望〜 ( No.1 )
日時: 2018/12/18 14:49
名前: T (ID: NRm3D0Z6)


体育館の中で、男子はバレーボールをした。女子は外。朝から体育は気は乗らない。だが、自分のチームの試合が終わると休めるので、教科書を使う授業よりはマシに思えた。隅の方で壁に腰を掛けていると、吉田と宝野が試合を終え、左隣に座った。
「もう夏休みか。あと少しで解き放たれるな。」
宝野が言うと、俺たちは黙っていたが、ボールがこちらに転がってくると、吉田が拾い、前に投げ返した。再び座ると、
「夏休みは彼女と遊ぶ」
と、一言発した。
「吉田に彼女っていたっけ?」
と俺が言うと、宝野もうなずいた。すると吉田は、
「いないいない。でも、去年は、行ったけどな。夏休みに、彼女と」
あー、と俺と宝野が同調した。吉田には、去年まで彼女がいた。
「レオンは?」
そう宝野が言うと、すぐに「予定はない」と言い放った。
「レオンはあいつが好きなんだよな・・・。レイカ」
そういう吉田に対して、黙れとだけ言うと、再び転がって来たボールを今度は俺が投げ返した。

Re: レオン〜遥かなる野望〜 ( No.2 )
日時: 2018/12/18 15:01
名前: T (ID: NRm3D0Z6)


1時間目が終わると、2時間目の現代文に向けて教科書やノートを机から出した。現代文の教師の内藤が1か月間骨折をして休んでいたので、久しぶりに現代文の教科書に触った気がした。この1か月は、ずっと自習だったので、スマホでゲームとかして過ごしていた。今日から、内藤が復帰する。
「えーでは、教科書の50ページを開いてください。」
2時間目が始まると、静かな空間の中で、教科書に描かれている挿絵、長い列の文章を眺めた。シャーペンの芯を出したり戻したりしながら、さっきまであの二人と話していたことを思い起こした。
吉田が言っていたように、俺は、同じクラスにいるレイカという女子が好きだった。今も一番後ろの席で授業を受けている。前の方の席なので今の姿は見れないが、おそらくはそうだろう。1年前の高校の入学式から気になる存在だった。2年連続で同じクラスになった時も、始業式の日にどれだけ歓喜したことだろう。だが、レイカとは一言も話したことはない。何が好きで、何が嫌いか、どんな音楽を聴くのかとか、一切のことを何も知らない。ただ、バスケ部ということだけしか分からない。そして今年もまた、虚無感の夏休みが始まろうとしていた。

Re: レオン〜遥かなる野望〜 ( No.3 )
日時: 2018/12/18 15:18
名前: T (ID: NRm3D0Z6)


夕立ち、言い換えればスコールが降り注いだ。8月10日、急いで学校に走った。玄関先で足を止めると、少し濡れた髪を手でとかしながら後方を見ると、雨が既に止んでいた。なんだよ、と心の中で言うと、すぐに晴れた。校舎へ入ると、中の通りからカバンを右手に持ちながら体育館へ移動した。
しばらく練習をし、同じハンドボールの仲間と一緒に練習後のミーティングなどをしたのち、帰り際、教室に夏休みの宿題である冊子を置き忘れていることを思い出し、メンバーとは別れ、一人で校舎を歩いた。窓が羅列する長い廊下を、太陽の光がこれでもかというくらい降り注ぐ中、昼の12時を告げる鐘が鳴り響いた。そして金管楽器の音も、どこからかブラスバンド部の練習しているところから重なり響いた。夏休みは部活生はどこも休んでいないのか、と解釈し、自分のクラスがある3階に着いた。職員室から借りた鍵でドアを開け、中に入り、自分の机から宿題を手に取ると、教室を出ようとした。ふいに、目の前に人が現れた。
「あっ」
そう思わず声が出てしまった。自分の机と、入り口には距離があったが、聴かれたかは分からない。教室にゆっくりと歩いてきたのは、あのレイカだった。

Re: レオン〜遥かなる野望〜 ( No.4 )
日時: 2018/12/18 15:36
名前: T (ID: NRm3D0Z6)


部活の練習着で、手ぶらでやってきた。俺がいることに気がつくと、声を発した。
「あっ、やっぱり誰かいた。ここの鍵、無かったからさ」
長い髪を後ろで結んでいて、その姿を見ていて、少し反応が遅れたが、動揺している気配を消すことには成功した。
「ああ、宿題を忘れてね」
これが初めての会話だと心を躍らせながら、既に手にしている宿題の冊子をよそに、机に手を入れガサゴソやる芝居を打った。一体、彼女は何をしにここに来たのだろう。
「何か取りに来たの?」
自然さを出しつつ、それでいて何気ない風に装いながら、尚且つよそよそしくない空気をまとわせながら、聞いた。すると、レイカは自分の席ではない、右端の真ん中の方の席に座り、深くイスにもたれかかった。
「誰もいない教室とか、新鮮だよね」
そう言うと、両手をあげ、伸びをした。疑問符しか頭に浮かばなかったが、何か言わないとな、と思って、回ってない頭で言葉をひねりだした。
「そー、だね。夏休み。誰も、いない。何か変な感じだね」
窓は閉め切っていて風すら入ってこないが、開け放しにされたドアからはどこからか空気が流れてきていた。冷房も逃げているはずだが、暑さは感じなかった。レイカがいる緊張感で、その辺のことは感覚が鈍っていた。
「そういえば、初めて話すよね?部活終わったの?」
「うん、終わった。今から帰る。」
「そうなんだ、私も今終わったとこ」
そんな会話をして、俺が先に教室を出て行った。レイカは座ったままだ。
校舎を出て、正門から出る時、空を仰ぐと、少し湿っている地面とは対照的にカラッとした青空が深く彩られていた。好きな人と会話できただけでこんなに世界が違って見えるものなのか、と驚いたが、反対側の金管楽器の音が聴こえてくる方を振り返ると、大きな虹が架かっていて、もっと驚いた。


-end-


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