複雑・ファジー小説

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鵺のタビ
日時: 2018/12/25 06:40
名前: ミルメック (ID: qvpAEkAG)


 ぜつめつきぐしゅ

 

Re: 鵺のタビ ( No.1 )
日時: 2018/12/25 12:34
名前: ミルメック (ID: qvpAEkAG)


 少年は走る。
 とうに限界を越えた足を前へ前へと進めながら、されどその動きは力強く。一瞬も止まることを許さない強い意志は、彼の体に鞭を打って無理矢理動かしていた。筋肉の筋はぶちり、という鈍い音と共に切れ、喉からはひゅう、と不気味な音がする。袋を強く握り締めた掌は随分と汗ばんでいた。

 「待てぇ!!こんの、大泥棒ー!!!」

 後ろから、野太く怒りに狂ったような雄叫びに近い声を聞いて、さらに少年はスピードを上げる。月明かりさえ照らさない、じっとりと暗く湿った夜の街を、オレンジ色の行灯に照らされながら、少年は空き瓶を蹴り、売女にぶつかり、地面で寝ている酔っぱらいを飛び越える。
 するといきなり、前方の屋台の影から人が飛び出してきた。
 
 「鬼が1人だと思ったら、大間違いだぜ?」

 大柄な男はニヤリと口角を吊り上げて告げる。思いがけない急な刺客に少年は踵を返し逃げようとするが、後ろからも迫ってきていることを思いだして足を止めた。

 「……っ!」

 後ろからも前からも挟まれて、少年は身動きが取れない。このままでは捕まえられてしまうという思いと、どう回避するかという思いが重なって足踏みする。そうしてもたもたしているうちに、もう刺客は目と鼻の先だ。

 なんで俺がこんな目に……!

 前方の男はガシッと少年の肩を掴み捕らえようとする。途端に少年はその腕を勢いよく噛んだ。

 「い”っ……!?」

 男は身体中を駆け巡る激痛に顔を歪ませる。ぶんぶんと腕を振り回して少年から離れようとするも、少年は狂犬のように充血した瞳で離すまいかとより強く噛んだ。

 「てめェ!!!」

 少年は後方から追ってきた男に襟を引っ張られ、喉を締め付けられる。ゲホゲホと少年は咳き込み、その際男の腕から離れてしまった。男の腕にはしっかりと歯形が残っていた。

 「このクソガキが!」

 少年は勢いよく背中を蹴られ、地面に倒れこむ。大人に、それも屈強な漢に頭や背、腹を蹴られて、少年は次第に意識が朦朧としていく。もう痛みすら、感覚すらも体は覚えなくなってきている。

 どうして、なんで、俺が……

 「やめるんだ!!」

 少年は聞いたことのない男の声を最後に、意識を手離した。
 

Re: 鵺のタビ ( No.2 )
日時: 2018/12/25 14:08
名前: ミルメック (ID: caCkurzS)


 はっ、と目を覚ましたその場所は、見知らぬ部屋だった。

 「起きたかい?」

 バッ、と声のした方を振り向くと、そこにはパンとスープが乗ったお盆を抱えた青年が立っていた。青年は少年が座っているベッドの側にお盆を置き、スプーンでスープを掬って少年の口元に近づける。

 「お腹が空いただろう?ほら、お食べ」

 青年は少年に食べるよう進めるが、少年は差し出されたスプーンを払い退ける。カラン、とスプーンが床に落ちた音が部屋に響いた。少年は力一杯青年を睨み付ける。青年は特に怯む様子もなく、

 「そんなに警戒しなくても……」

 言いながらスプーンを拾い上げ、もう一度スープを掬うとそのまま飲み込んだ。

 「ほら、大丈夫だよ」

 青年がスープを自らが飲むことで毒が入っていないことを証明すると、少年はおずおずとお椀に手を伸ばし始めた。少年はかなりお腹が減っていたようで、次々に口から胃へと食べ物を運んでいく。
 満腹になった訳ではないが、それなりに食事を終えたところで、少年は改めて部屋を見渡した。
 所々ひびの入った木製の壁に、ボロボロのベッド。黄ばんだシーツや虫に喰われた床。とても綺麗とは言えないが、年中野宿で明日の食料さえままならない少年にとっては贅沢なものであった。

 「君、名前は?」

 しかし、この青年ちとおかしい。
 大抵、ボロボロの家に住む奴は金がないのでろくに風呂も入れず服も買えない。よって、ふけと脂まみれの髪で薄汚れた格好の者が多いのだが、この青年はどうだろうか。
 さらさらの金髪に染みひとつない服。かすり傷すらない身体。おまけに顔も整ってると来た。そんな奴が稼いでいない訳がない。なら、ここは誰の家だ?
 少年は青年を怪しみ警戒しながら言う。

 「人に名前を聞くときは先に自分が名乗るもんだ」

 青年は少し驚いてすぐに考え込むような難しい表情になる。

 「私はリ──……リエト」
 「リエト……変な名前だな。俺はタビ。ここどこだ?てかなんでここにいる?」
 「ここは私の家だよ。暴力を振るわれて倒れていた君を私が助けたんだ。」
 
 やはり言葉遣いも丁寧だし、そこら辺の輩とは違うようだ。あまり詮索しても面倒だし、お互いたいして得にはならない気がする。一応、助けてくれた恩人なのだし、礼のひとつでも言っておくべきか。

 「ありがとな、じゃあ俺はこれで」
 「待って!」
 
 リエトはタビの腕を掴む。

 「君、いいや、タビ。タビは、帰るところがないんだろう?一緒に、住まないか」
 「はあ??」

 怪しい。怪しすぎる。そんなの、なんの利益にもならないじゃないか。

 「私はここら辺のことについてよく知らなくて……だから、ほら、お互いいい交換条件だろ?」
 「……まあ、ちょっとぐらいなら……」

 助けてもらった身で断ることも出来ず、タビは渋々リエトとの同居生活を承諾した。


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