複雑・ファジー小説

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炎夜祭
日時: 2019/01/26 20:05
名前: 赤いろ (ID: KwETyrai)

 あらすじ
 『自由な高校』として有名な色川第一高等学校。通称、色川高校。服装も髪型も自由で、定期テストを受けるか受けないか、どの科目の授業を受けるかも全て自由。しかし偏差値は日本で最も高い76。そんな色川高校に通う主人公、赤沢紅太は色川高校のある噂を知る。それは『11月に行われる文化祭の後には、後夜祭や打ち上げとは別に炎夜祭という生徒だけの秘密の祭が行われている』というものだった。

 

Re: 炎夜祭 ( No.1 )
日時: 2019/01/26 20:45
名前: 赤いろ (ID: KwETyrai)

 僕は炎に囲まれていた。身体は十字架にぴったりときつく縛り付けられていて身動きが取れない。身体中には汗が流れ、止まる気配がない。熱くて熱くて、本当に、物凄く、熱い。実際、足元は既に溶解してなくなっていた。そして僕はついさっきこのような状態になったのではなく、この状態になってからもう何時間と経っていることが、判断したのではなく知識以前の前提として、僕の脳に埋め込まれていた。熱された空気は吸えば喉が火傷し、声帯は傷つけられ、僕は叫び声すらあげられなかった。代わりに痛いほどにとび出た眼球をぎょろぎょろと動かし、腹を疼かせた。僕の身体は膝までで終わっていて、膝から痛くなり、そして感覚がなくなっていった。くすんだ濃いピンクのような色をした肉が覗き、やがて白い骨が灰になる。凄惨でグロテスクな光景を僕は怯えながら、でも目をそらすことはダメな気がして、見ていた。
 そしてそこで場面は変わった。今度は眩しい白い光が僕の瞳を刺し、思わず目を閉じても、粘土の塊をグリグリと眼球に押し付けられているような鈍い痛みがあった。しかし先程のような熱さはない。どうやら身体も動かせるようだ。僕は上半身を立ち上げると、眩しさはなくなったが、自分の体が大量の汗をかいていることに気づいた。肌と衣服がべったり張り付くぐらいびっしょり濡れていて、一度それに気づいてしまうと不愉快な嫌悪感を瞬間に感じた。

 「あ、紅太。めっちゃ汗かいてんじゃん」

 振り向くと、テレビの前の床に座って、おそらくテレビを見ていたのであろう、友人の青覇がいた。友人には熱さや汗の気配を全く感じ取れない。テレビ画面に映るニュース番組からも「最低気温は8度」とか「豪雪地帯」とかの文字や声が放送されていた。改めて自分の体に意識を向けると汗は冷えていたしこの場の気温や体温は熱くない。汗をかいていた、それ以外は何の異変もなかった。

 「青覇」
 「大丈夫?体調悪くない?どっか痛いとこある?」
 「いや、ないけど…」

 先程の体験はなんだったのだろう。あの苦しい熱さや凄惨でグロテスクな光景は今でもはっきりと鮮明に思い出せる。まさか、夢?だとすれば、なんと生々しい夢だろう。確かに現実味はなかったがやけにリアルだ。そもそも、なぜそんな夢を僕が見たのか、全く見当もつかない。僕は今日、青覇と映画を観に行っただけなのに────あれ?僕は映画を観て、その後……

 「紅太?」
 「ねえ、なんで僕ここにいるの?」 

 ここは僕の家だ。築30年のアパートの1LDKの206号室。もっと細かく言えば、引っ越した当初はどんなインテリアにしようか迷っていたけれどそもそも何かひとつの雰囲気を一貫するのが落ち着かなくて、結局何の装飾もしなかった簡素なリビングだ。でも僕の最後の記憶は、映画館から青覇と喋りながら歩いた帰り道でぷつんと途絶えている。今この状況とつながらない。

 「合格祝いに映画観に行った帰りに、お前いきなり倒れたんだよ」
 「な、なんで…」
 「知んね。一応病院行ってみたら?」
 「…そうするよ。ありがとう」

 合格。そうだ、僕は合格したんだ、色川高校に。死に物狂いで勉強して、それでやっと合格できたんだ。思えば、夢のあの自分が燃えて死に近くなる感じは受験のときの自分の状態に似ていたかもしれない。プレッシャーとか圧迫感とか、あの頃の僕はまさに燃え尽きそうだった。合格して急に冷えたから、夢という形でフラッシュバックしたのかもしれない。何はともあれ、倒れた僕をここまで運んで付き添ってくれた青覇に感謝しなければ。本当にいい友人をもったと僕は思った。
 せっかく第一志望の高校に合格したんだからこんな調子ではいけない。受験が終わって一人暮らしを始めて環境ががらりと変わったから体が驚いたのだろうか。それともここ最近コンビニ弁当ばかり食べていたからだろうか。おそらく原因はそんなところだろう。

 「シャワー浴びてくる」
 「おう」
 
 窓の向こうはもうとっぷりと日が暮れて星が見えていた。僕は明日必要になる保険証をどこに置いておいたか思い出しながら脱衣場へ向かった。


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