複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

青い針
日時: 2019/02/06 14:24
名前: 烏龍茶 (ID: jmXt2.HO)

#夏目 莉子 Riko Natsume 15-16
15の時に東京から海沿いの田舎に引越す。
ずば抜けた美貌を持った少女。東京にいた頃にイジメに遭い、影のある性格に。

#司馬 恭也 Kyoya Shiba 15-16
口数が少ない不良で、容姿端麗なことから密かに人気が高いが、周りに興味を持たない。

#三島 光 Hikaru Mishima 15-16
明るく優しい性格で、誰とでも仲が良い。

#花岡 由美 Yumi Hanaoka 15-16
内気な性格で、密かに恭也に想いを寄せるも、長年言えずにいる。

#相良 亮一 Ryoichi Sagara 15-16
東京に住む莉子の元クラスメイト。
莉子と付き合ってはいたが…

Re: 青い針 ( No.1 )
日時: 2019/02/06 13:41
名前: 烏龍茶 (ID: jmXt2.HO)

15の夏、私は東京を離れた。

思い出はたくさんあった。

思い出したくないことも、たくさん。

だけど私は、東京を離れたいだなんて思っていなかった。

苦しくても良かった。

このままで良かった。

変わる方がもっと怖い。

私は空っぽだった。

中身なんて何もなかった。















「莉子、もうすぐ着くわよ」

母の綾子に言われ、目を覚ました。

窓の外を見れば、ビルなんて1つもなく、見えるのは田んぼや海、山だけ。

「…本当にここに住むの」

莉子はボソボソと呟いた。

「仕方ないでしょ」

綾子は不機嫌そうに答えた。

何も無いじゃない、こんなところ。
こんなとこで暮らしていけるのか、不安しかなかった。






家に着き、中へ入る。

「莉子、おじいちゃんに挨拶しなさい」

綾子に言われ、振り返る。
綾子の隣にいる祖父に、会釈した。

祖父は「可愛くなったなー、莉子」と微笑んだ。

莉子も少し微笑み、「…ありがとう」と小さく呟く。

「部屋、階段登ってすぐ左の部屋だから荷物置いてきなさい」

綾子に言われ、莉子はコクンと頷き階段を上った。

左側のドアを開けると、8畳ほどの部屋。
フローリングではあったが、だいぶ年季を感じさせる独特の雰囲気がある。

木でできたベッドは、まるでドールハウスの中に置いてあるような物で、手で押すと少しきしむ音が聞こえた。

莉子はリュックを下ろし、ベッドに腰を下ろした。

窓の外を見ると、先程と変わらない平凡な景色。

東京ではわざわざ電車に乗って海へ行っていたのに、家から見えてしまう、それも電車も通っていないような町に来るだなんて、思ってもいなかった。



『りこ、もう着いたか?』


メールが来ていた。


相手は《相良亮一》。



『ついたよ。すっごい田舎。りょうちゃんは何してるの?』

『今、塾が終わったところ。りこ、そんなところに住めるのか?』

『無理だと思う。ママには言ってないけど、高校、東京にしようと思ってる。』

『反対されないの?』

『されると思う。でも私、りょうちゃんと同じ高校行きたい。』

『俺もりこと同じ高校がいい。それがだめなら大学とか。』

『中学卒業までの辛抱だね。』

『そうだな。りこ、会いたい。』

『私も会いたい。つまらないよ、こんなところ。』



早く東京へ帰りたい。

きっと、反対される。

でもそんなの関係ない。

あと半年、この町で適当に過ごして、すぐに東京に戻る。





退屈になって、町を歩いてみた。

ビルはないし、ゲームセンターもないし、コンビニ1つありゃしない。

どこへ行っても、見えるのは窓から見たあの景色だけ。


海外沿いを歩き、青い海を眺めた。

白い砂浜には、ゴミひとつない。
東京じゃこんなの、ありえなかった。

莉子は海に足を入れ、1人ピチャピチャと音を立てて歩いてみる。

その時、強い風が吹き、被っていた麦わら帽子が海の方へ。

「あっ…」

莉子は海に落ちた麦わら帽子を見つめ、歩き出した。

水の重さで、案外進まない。

進んでいると、視線の先の水面が揺れていた。

莉子は足を止め、不思議そうに見ると、誰かいるようだった。

水面から顔を出したのは、金色の髪の毛をなびかせた少年だった。

莉子は彼を見つめ、立ち尽くす。

しばらくして、少年は莉子に気づき、2人は目が合った。

莉子は少しビクッとしたが、視線を逸らさない。



またしばらくすると彼は視線を逸らし、少し泳ぐと麦わら帽子を手に取り、こちらへ歩いてきた。

「…これ、お前のか」

少年は立ち上がるとそう言って、莉子に麦わら帽子を差し出した。

「…うん。私の」

莉子が言うと、少年は麦わら帽子を莉子の頭に被せると、何も言わずに莉子の脇を通り過ぎて行った。

莉子は深く被りすぎている麦わら帽子を少し浅くし、振り返ると少年を見た。

少年は振り返ることなく、歩いて行った。

Re: 青い針 ( No.2 )
日時: 2019/02/07 11:02
名前: 烏龍茶 (ID: jmXt2.HO)


#02 【 転校生として 】



「夏目莉子です…よろしくお願いします」

そう言う莉子の後ろにある黒板には、大きな字で『夏目莉子』と書いてある。

「うっわ、超美人…!」

1人の男子生徒が言った。
彼の発言から、クラスメイトがざわついた。

「すんげー可愛い子じゃん!」

「うちのクラスでダントツじゃね?」

「ちょっとそれどういう意味よー?」

「だって見ろよ!夏目さん有り得ねえくれー美少女だべ」

「本当可愛い子〜!」

うるさい。
私についての話をしないで。

莉子は苦笑すると会釈する。

「夏目の席は、この列の3番目だ。みんな、仲良くしてやれよ〜」

担任の男性教師が言った。

莉子は会釈すると、指示された席へ。

「よ、よろしくね!莉子ちゃん!」

後ろの席にいた、おさげの少し地味めな少女は引きつった笑顔で言った。

莉子は「うん、よろしくね」と少し微笑んだ。






「なあ!莉子ちゃんは東京から来たんだべ?」

「莉子ちゃんって本当可愛いよね〜!モテたでしょ?」

「莉子ちゃん、よろしくね!」

「莉子ちゃん」

「莉子ちゃん」

「莉子ちゃん」

「莉子ちゃん」



ああもううるさい!

休み時間、自分の名前を呼ぶそんなクラスメイトたちが鬱陶しかった。

どうせみんな裏切るくせに、上っ面は良いんだから。



笑顔で質問に答えていた。必死に。



その時、教室に見覚えのある少年が入ってきた。

金髪の、背の大きなあの少年。



「あ、また遅刻かよキョウヤ〜」

男子生徒が言った。

彼は「おう」と言いながら莉子の斜め後ろの席に腰を下ろし、机に足をあげた。

莉子は彼を驚いた表情で見ていた。

視線に気づいたのか、キョウヤと目が合った。

莉子は少し瞳を大きく見開き、目を逸らさずにいた。

しばらくして、キョウヤは目を逸らし、携帯を出した。


昨日と同じだ。







帰り道、夕日が沈み始めていた頃だった。
波の音を聴きながら、莉子は浜辺を1人歩いていた。

そして、ふと階段の方に視線を落とすと、自転車と、この隣に腰を下ろしている金髪の少年を見つけた。

彼だ、キョウヤだ。

莉子はカバンから今日もらったクラスメイトの名簿を開き、《キョウヤ》を探す。

見つけた。《司馬恭也》だ。

莉子は名簿をカバンにしまい、階段の方へ。


階段を上ると、恭也がこちらに気づく。

莉子は恭也の前まで行き、「…司馬、恭也…くん」と呟き、足を止めた。

2段上に座っている恭也は「そうだけど」と莉子を見た。

しまった。
何をしに来たのだろう。

「…あ、あの…えと…」

莉子が言葉を濁していると、恭也は棒付きのキャンディを口から出すと、面倒臭そうな表情を浮かべて言った。

「何か用?」

言われ、莉子は少しギョッとした。

異性からこんな風に冷たく言われたのは初めてだった。

「…えっと…その…昨日は帽子!拾ってくれてありがとう」

莉子はそう言うと恭也の表情を伺うように彼の顔を見た。

恭也は表情1つ変えることなく、「…ああ、別にいいよ」と言うと海を見つめている。

まずい、このあとどうすれば。

恭也は莉子を見上げると真ん中らへんに座っていた体を左側に動かした。

「そんなとこいないで座れば」

さっきと変わらない表情。
変わらない冷たい口調。

それなのに、なんだか嬉しくなった。

莉子は「…うん」と呟くと恭也の隣に腰を下ろした。

しばらく、沈黙が流れた。

「お前、東京から来たんだってな」

驚くことに、恭也から話を振ってきた。

「あ、うん。知ってたんだね」と莉子。

「あんだけ俺の席の周りで騒ぎたてられたら嫌でも知るだろ」

「…そっか。ごめんね」

莉子が言うと、恭也は鼻で笑うように「何でお前が謝んの」と莉子を見た。

莉子は「いや、なんか…」と視線を逸らす。

「…東京と違って、つまんねえだろ、ここ」

恭也はまた、海を見ながら話す。
莉子は「…そんなこと、ないよ」と答える。

「ふうん。お前、つまんなそうな顔してるけどな」

「そんなこと…!」

「そうか?教室で話しかけられてる時のお前の顔、死んでたけど?」

「そんなこと…ないよ」

「…あっそ」

なんだろう、この空気。

その時、携帯が鳴った。
《相良亮一》からだった。

『初日はどうだった?』という内容。

返信を打っていると、恭也はまたもや鼻で笑うように言った。

「男か」

言われ、莉子は即座に携帯を閉じる。

「え?」

「そいつと離れて残念だろーな。こんな町のせいでさ」

「別にそんなんじゃない…よ」

「まあ別にいいんじゃね。お前って友達いなさそうだし」

「は?どうしてそう思うの?」

「別に、深い理由はねーけど」

悪いことをしていないのに、悪いことをしているような気分になった。

「…恭也くんは、いるの?」

「なにが」

「彼女…とか」

「なに、恋バナってやつ?」

「あっいや別にそんなんじゃないけど」

「女って、田舎だろーが東京だろーが変わんねえな。特にお前みたいな女ってさ」

「どういう意味?」

「別に」

恭也はそう言うと立ち上がり、自転車に足をかけはじめた。

「帰るの?」と莉子。

「お前も暗くならねーうちに帰れよ。じゃあな」

恭也はそう言うとキャンディを再び口に入れ、棒をくわえたまま自転車を漕いで消えて行った。

Re: 青い針 ( No.3 )
日時: 2019/02/14 23:10
名前: 烏龍茶 (ID: lQjP23yG)


#03 【 由美という女 】



あの日、海で司馬恭也に会った日から3日が過ぎた。

彼は教室で、他のクラスメイトのように話しかけてくることはなかった。

まるであの日、何もなかったかのように日は流れた。

1つ、変わったことと言えば後ろの席の花岡由美という女子がやけに話しかけてくるということくらいだ。

「莉子ちゃん、トイレ行こうよ」

「いいけど…」

莉子は立ち上がり、由美と共にトイレへ。

由美は動かないおさげ髪をいじり、センター分けの前髪を何度も直しながら言う。

「あたしね、司馬くんが好きなんだ」

「え?」

突然だった。

「あっいやっ!り、莉子ちゃんは好きな人とかいるのかなって思って!」

由美は少し焦りながら言った。
莉子は「まあ、いるけど」と答えた。

由美は鏡を見ていた動作をとめ、物凄い勢いで振り返る。

「えっそうなの?!と、東京に?!」

言われ、莉子は圧倒されながら「う、うん…」と苦笑した。

「そ、そうなんだ!その人とは、どういう関係なの?!付き合ってるの?!」

「ま、まあ彼氏だけど…」

「そうなの?!そうだよね!莉子ちゃんくらいの美人さんは彼氏くらいいるよね!」

やけに必死そうに見えた。

「…どうして急に?」

莉子が言うと、由美は安心しきった表情でまた鏡を見て髪の毛をいじりながら話だした。

「…さっきあたし、司馬くんが好きだって言ったでしょ?実は司馬くんって、学校で人気あってさ…ほら!すっごくイケメンでしょ?!」

顔は…確かに整っていたかも知らないな。

莉子はそう思った。

由美は続ける。

「でも司馬くんって、学校1イケメンって有名だし、もんのすごいモテるのに誰とも付き合わないんだよね。女の子に興味がないみたいでさ。で、でも前にクラスの男子が『恭也はとびっきりの美人じゃなきゃ相手しねえだけだよ』って言ってたの。だからその…莉子ちゃんが転校してきて…不安で…つい…」

そういうことだったんだ。

「そうなんだ。でも安心して。私別に美人じゃないし、恭也くんとも話さないし。彼氏、いるし」

「またまた!全校生徒、もんのすごい美人が東京から転校してきたって噂になってるよ。でも、安心した。ごめんね!こんな話して!」

「ううん。応援するよ」

「本当?!嬉しい!」

由美は嬉しそうな表情を浮かべた。



1クラス25人。
女子13人、男子12人しかないこのクラス。
というか、1クラスしかないし。

その中で1番人気って、すごいのかな。





りょうちゃんは今も、学校で人気なんだろうな。

りょうちゃんはずっと、私の憧れの人。
アイドルみたいな、そんな存在。

かっこよくて、何でもできて、夢に向かって真っ直ぐで。

私に無いものすべてを持っている。

私には、何も無い。








「ねえ?莉子ちゃん?」

由美の声で、ハッとした。
莉子は「ごめん、なに?」と由美を見る。

「司馬くんってねーーーーーーーー」

由美は楽しそうに司馬恭也のことを話していた。
何分もずっと。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「恭也、こんな遅い時間まで何してたんだ」

時刻は21時。
恭也の父・恭介はそう言いながらずっとパソコンのディスプレイを見ている。

恭也は恭介の言葉を無視して階段を登り始めた。

「花岡さんところの娘さん…由美ちゃんと言ったか」

恭介に言われ、恭也は階段を上る足を止めた。

「仲良くしているのか?」

「別に。普通だけど」

「もっと仲良くしなさい。花岡さんとは、これからも付き合っていかなきゃいけないのだから」

「…何か言われたのかよ」

「大したことじゃあないが、恭也とあまり話せないと由美ちゃんが言っていたようでな」

「そんなの俺の勝手だろ」

恭也はそう言うと階段を上り、部屋に入った。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「あ、司馬くん!おはーーーー」

朝、由美はこちらに向かってくる恭也を見て嬉しそうに言った。

が、恭也は由美の言葉を遮り、由美の机にカバンを叩きつけた。

由美を含め、クラス中が驚いた表情で恭也を見た。
莉子もその1人だった。

「…ど、どうしたの司馬くん…」

由美は驚いた表情のまま、小さく呟いた。

恭也は無表情のまま由美を見下ろし、口を開く。







「お前さ、親父に余計なこと言うなよ」





言われ、由美は怯えた表情で答えた。

「…よ、余計なことなんて何も…」

「嘘つくなよ。面倒臭ぇんだよ、そういうの。別に俺とお前はただのクラスメイトだろ?」

恭也の言葉を聞き、由美は悲しげな表情を浮かべると、すぐに涙を零した。

「…わかってるよ、そんなこと…!」

由美はそう言うと席を立ち、教室を後にした。

Re: 青い針 ( No.4 )
日時: 2019/06/23 16:46
名前: 烏龍茶 (ID: /g38w/zu)

青④



#04【 部活 】


「ねえ、由美ちゃんと恭也くんの関係って?」

放課後、莉子はクラスメイトに訊いた。
窓際にいた男子が答える。

「ああ今朝の?あんなん気になるよな」

彼はそう言って微笑んだ。

「恭也の家はこの町で1番金持ちでさ、ってのもこの町の町長でもあるし地主でもあって。花岡の家も地主の1人で、恭也の家とは昔からの付き合いなんだよ」

彼に言われ、「そうなんだ」と莉子。

だから由美ちゃんは昔から恭也くんのこと…。

「まあでも、由美は昔から恭也のこと好きなのバレバレだよね」

女子が言う。

「そうなの?」と莉子。

「うん。まあ恭也は全っ然相手にしてないけどさ」

「ふうん…」

なんだか、由美が不憫に思えてきた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「…あの莉子ちゃん」

莉子が帰ろうと荷物を詰めていると、由美が話しかけてきた。

今朝の恭也のことがあったからか、どこか落ち込んでいる様子だった。

「ああ由美ちゃん。どうしたの?」

莉子が言うと、由美はトボトボ歩き、莉子の前の席に腰を下ろした。

「…私、やっぱり司馬くんに嫌われてるのかな」

「…そんなことないと思う!」

なんて、私には分からないけど。

「今朝の、莉子ちゃんも見てたでしょ?どうしたらいいのかな…」

由美はそう言って俯く。

「私も、恭也くんのことはよく分からないし…」

莉子は困った表情で答える。

「…莉子ちゃん、応援してくれるんだよね?」

「え、あ、うん」

何か嫌な予感。

「もし司馬くんと話す機会があったら私のこと、きいてみてくれないかな?」

「…い、いいけど私、転校してきたばっかで、恭也くんとは特に…」

「もし!だから。ね?いいよね?」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



その日の帰り、莉子が体育館の前を通ると何やら応援の声が聞こえてきた。

莉子が気になって体育館を覗くと、中ではバスケの試合が行われていた。

知らないジャージを着た生徒たちがいるのを見ると、どうやら他校との練習試合のようだ。

見ると、ドリブルをして走っていたのは恭也だった。




「やっぱ恭也はすげえな〜適わねえよ。恭也のお陰で毎回勝ててるようなもんだよな」

そんな声が聞こえてくる。
肩を組まれ、言われながら恭也は表情を変えることなくタオルで汗を拭いていた。

すると、恭也は莉子に気づき、2人は目が合った。
莉子はハッとし、今度は自分から目を逸らし、歩き出す。




「莉子」



言われ、莉子は立ち止まり、振り返る。
そこには、恭也がいた。

「…バスケ、上手なんだね」

莉子が不思議そうに言うと、恭也は少しニヤリと笑う。

「ああ、まあな」



何の用で、呼び止めたのかは分からない。
そこから恭也は特に何も言わない。

あ、由美ちゃんのこと、訊いてみるべきなのかな。
…私が?

「あ、あの恭也くん」

莉子が言うと、恭也は「ん?」と莉子を見た。

「…今朝の、由美ちゃんの…」

そこまで言うと、恭也は明らかに嫌な表情を浮かべた。

「なに、気になるの?なにが?」

恭也に言われ、莉子は「いや、別にそういう訳じゃないけど」と目を逸らした。

「どうせ花岡に何か言われたんだろ」

「えっ」

「図星かよ」

恭也はそこまで言うと階段に腰を下ろした。

「あいつお前に執拗に絡みついてるからそんなことだろうと思ったわ」

恭也に言われ、莉子は何も言えずに俯く。

「昔からなんだよ、あいつ。俺の親父に余計なこと吹き込んだりしてさ」

「…そうなんだ。その、恭也くんは由美ちゃんのこと、そういう風に…」と莉子。

なんで私がこんなこと…?
思いつつ、協力すると言ってしまった手前、聞いてしまう。

莉子の言葉に、恭也は「別に。お前には関係ないしな」と淡々と答えた。

なんだか、急に突き放された気がした。



風が吹いた。
暑い温度には、気持ちのいい冷たい風。

2人が沈黙になり、しばらくしたとき「司馬、夏目、そんなことでなにしてんだ?」と声が聞こえた。

声の方を見ると、体育教師の田中が立っていた。

恭也は立ち上がり「別に」と言って体育館へ戻って行った。

莉子は無言で恭也の背中を見つめた。

「夏目もそんな所いないで、さっさと帰れよ〜」

田中はそう言ってその場を後にした。

残された莉子は立ち上がり、1人歩き出す。





学校を出て、少し歩いたところに坂道があった。
分かれ道があり、莉子は枝分かれした道の前で立ち止まる。

実はイマイチ、まだ家への道を覚えていない。

莉子は辺りを見渡した。

見えるのは田んぼ、山、道路、標識、木。

んー、未だに分かんない。



「夏目さん?」


声をかけられた。

振り返ると、見覚えのある爽やかな男子生徒が不思議そうにこちらを見ていた。


Page:1



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。