複雑・ファジー小説

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学校貴族
日時: 2019/02/17 18:12
名前: 鈴原螢 (ID: FaQK7.QH)

 
 後々この話のイラストを描いていくつもりです。そのときはURLを貼っておくので、よかったら見て下さい。(素人の私ではなく本格的に絵を描いてる知り合いに描いてもらうものです)

 

Re: 学校貴族 ( No.1 )
日時: 2019/02/17 22:06
名前: 鈴原螢もしくは花の砂糖 (ID: FaQK7.QH)

 「お前なあ……」
 「私だって、こうなりたくてこうなったんじゃないもん」

 そう言って真知は頬を膨らませ、そっぽを向く。

 「向き不向きがあるにせよ、どうして魔術だけ……」

 京谷はそう吐き捨てながら、床に散らばった硝子の破片を拾う。無視を徹底しようとした真知だが、結局すぐに折れて拾うのを手伝った。

 「あまりにも酷いから放課後残ってわざわざ練習に付き合ってやってるのに……これは酷すぎだろ」

 京谷は手を動かしながらぐちぐちと毒づく。しかしそれは紛れもない事実でもあり、真知自信が一番痛感していることだった。

 羽生真知には魔術の才能がない。
 それどころか平均的な素質すらもっていない。ちょっと魔術は苦手なの、なんて生易しい言葉で済むレベルではない。壊滅的に、異常に、魔術だけができなかった。
 実技の授業では必ず物を壊すし、ちょっとした火事になったことさえある。この学校の立派な問題児だ。

 京谷がニヤリと意地の悪い笑みを浮かべて言う。

 「あの名魔術師の娘のくせに」

 その台詞を聞いたとたん、真知の手がぴたりと止まる。そしてわなわなと震えだし、勢いよく立ち上がった。

 「なにが名魔術師よ! 何も知らないくせに、勝手なこと言わないで!」

 そう言いのけると、真知は早足で教室を出ていった。

 「ちょ、おま、どこ行くんだよ!」
 
 ぴしゃりと教室のドアが閉まる音が響き、ちょっとからかいすぎたか、と京谷は眉を下げた。

 ◇

 第136期卒業生、羽生東治郎────

 真知はその文字だけを、じっと見つめていた。自分の父親であり、そして8年前に亡くなった故人でもあるその名を。

 学校の資料保管室に、これまでの卒業生の名と写真を載せた本があることは随分前から予想していた。しかしこうして実際に行動に移すのは今回が初めてだった。
 それもそうである。本来は、無断で、しかも生徒だけで、訪れるのは禁止されているのだから。たまたま教師が鍵を閉めるのを忘れるという、二度とない絶好のチャンスが今日だっただけだ。

 「お父さんは名誉の死なんかじゃない、本当はきっと──」
 「何をしているんだい、こんな所で」
 「 ! 」

 一瞬、心臓が止まった、気がした。それくらいびっくりしたのだ。まさか大人がいるなんて思わなかったから。
 ぎぎぎ、とまるで壊れた機械のように首を後ろに回す。

 「元弥、先生……」
 
 そこには薄暗い中で懐中電灯を光らせ鍵を持った、真知の担任である元弥正則が立っていた。

 「……お父様のことがそんなに気になるかい?」

 言われて真知はバッと本を閉じる。しかしもう時すでに遅し。今さらどんな理由を述べて取り繕っても後の祭りだ。

 「ごめん、なさい」
 
 真知はばつが悪そうに元弥先生から目をそらす。謝って許されることではないとわかっている。しかしそれでもせめてもの思いに、あわよくば見逃してくれやしないかと、ダメ元で一匙の希望を込めながら謝る。
 
 「……見なかったことにする」
 「! どうして」
 「いいから。誰も何も見なかったし、しなかった。いいね?」
 「……はい」 

 元弥先生がなぜそうするかはわからなかった。でも元弥先生の言い方からはこれ以上詮索するな、という気配が感じられた。
 資料保管室に入れたのは運が良かったとしか言い様がない。なかったことにしてもらえたことは不幸中の幸いというやつだろうか。なんにせよ良かったに越したことはないのだ。元弥先生に感謝しよう。

 「早くかえって寝なさい」
 「はい、わかってます」

 真知は資料保管室を出ると寮へと向かった。

Re: 学校貴族 ( No.2 )
日時: 2019/02/17 22:48
名前: 鈴原螢 (ID: FaQK7.QH)

 
 「きょーおーや!」
 「なんだよ、ハル」

 三時間目と四時間目の間、10分間の休み時間に、ハルこと桜田春は京谷の席へ一直線に駆け寄る。
 真知とクラスが違う京谷がだいたい一緒に行動するのは、ハルだった。否、ハルが京谷に付きまとっていると言った方が正しいか。京谷は自分一人でいても何とも思わないのだが、ハルが一方的に、他に友達が大勢いるくせに京谷に近づくのだ。しかし京谷も京谷で、それを拒んだことや嫌だと思ったことは一回もなかった。

 「そろそろ、あれだね」
 「は?」

 二人が他愛もない話をする背後には、ぴりぴりとした女子の視線や敵意、嫉妬があった。全て京谷のファンクラブ、または京谷に好意を寄せる者から発せられるものである。
 玉城京谷という男は、端整な顔立ちに加え、成績優秀、品行方正、清廉潔白、これ以上なく完璧な人間であった。その神々しく現実離れした容姿とスペックは自然と人を近寄りがたくさせ、尊敬と畏敬の念を集める。よって友達は一人もいないくせにファンばかりつくるのだった。
 
 「あれだよ、あーれ。君が一番よく知るやつ」
 「……ああ、あれか」

 桜田春は正真正銘、男である。では、女が男に近づくならともかく、男が男に近づいてファンが嫉妬するというのはどういうことなのか。原因は桜田春の容姿にある。
 桜田春は正真正銘、男……なのだが、容姿はどこからどう見ても女なのだ。淡いピンクの髪も、可憐な素振りも、愛らしい顔立ちも、一目見ただけで誰もが虜にされてしまうような可愛さだった。
 本人は趣味でその様にしているらしいが、大半の女子からすれば迷惑極まりない。

 「そう! クラス対抗鐘つき大会のことさ!」
 「ああ、今年も頑張ろうな」
  
 京谷はそう言ってふっと柔らかく微笑んだ。女子の視線が一層きつくなった。


 ◇

 「えー、これから、クラス対抗鐘つき大会のクラス代表選手を決めたいと思います。」

 司会の、几帳面そうな学級委員長が銀縁の眼鏡をクイッとあげて教室の皆を見渡す。誰かが挙手する気配はなかった。
 誰かがやってくれる、自分が何かしなくてもそのうち決まる。そういう、全員が人任せにする雰囲気が、真知のクラスでは出来上がっていた。

 真知のクラスに特出して何かが得意、という人物はいなかった。
 クラス対抗鐘つき大会で活躍するのは魔術が得意な者だけだ。しかしこのクラスでは成績は優秀でも他クラスに張り合えるほどの魔術師がいない。
 もしもクラスで魔術が得意な人物が代表に選ばれて出場したならば、他クラスと比べて微妙な、中途半端な記録で最下位になるのは火を見るよりも明らかな未来であった。

 よって、選択肢は2つに絞られる。

 俗に云う、いじられキャラという奴にギャグを狙わせるか。
 壊滅的に魔術が出来ない真知に、『真知だから』最下位は仕方がないと責任を擦り付けるか。

 「あのぉ」
 「なんですか、小笠さん」

 髪を金髪に染めた、ねっとりとした喋り方の女子生徒が言う。

 「羽生ちゃんがいいとおもいまーす……」
 「理由は」
 「ほらぁ、羽生ちゃんさぁ、今回を機に? 頑張ってみたらぁ、その……いいん、じゃない?」

 小笠は真知に意味深な視線を向ける。

 「羽生さんはどうですか」
 「え……」

 嫌だ、とは言えるはずがなかった。

 「別に、いいですけど……」
 「では賛成の方は拍手を」

 パチパチと、やる気のない乾いた音が響いた。
 
 

Re: 学校貴族 ( No.3 )
日時: 2019/02/18 17:31
名前: 鈴原螢 (ID: FaQK7.QH)

 「今年も、京谷が代表?」
 「ああ、そうみたいだ」
 「そうみたいだ、って……わかってたくせに」
 
 そろそろ日が落ちてくる時間に、二人は並んで校舎内を歩く。二人以外に人の気配はない。

 「真知のクラスは?」

 喋りながら角を曲がる。そうしたら、いつもの教室はすぐそこだ。

 「それがねぇ……」

 だいぶ使われていなかったからだろうか、ガッガッ、と滑りの悪いドアを京谷が開ける。最初は埃や汚れが酷くて虫がよく出た教室だが、こうして放課後残って魔術の練習をするのも早1ヶ月。なんとなく、秘密基地をつくったときのような愛着を二人はもっていた。

 「私、になっちゃったのよね」
 「……はあ!?」

 京谷は足を止め、真知を見つめる。

 「ほんとか」
 「うん……」

 真知は苦笑し制服の裾をモジモジと指で弄る。

 「なんで」
 「うちのクラスのことだし、仕方ないでしょ」

 京谷はあり得ないものを目の当たりにしたような眼差しを真知に向ける。そして段々眉間に皺を寄せ、口を真一文字に、複雑な何とも言えない表情になった。すると急に改まって真知に向き直る。

 「絶対に、勝つぞ」
 「へ?」
 「クラスの皆に、目に物みせてやれ」

 そう言い切ると京谷はテキパキと練習の準備を始める。木板の的、バケツに汲んだ水、タオル、着替え、大小様々な箱……。それを真知は呆然と視界に入れていた。
 脳みそが追い付かない。何が起きようとしているのかわからない。

 「ちょ、ちょっと待って! どういうこと?」
 「だーかーらー」
 
 京谷は準備の手を止め、真知を指差して言った。

 「今度のクラス対抗鐘つき大会、お前が優勝するんだよ」

 ◇

 それからというもの、今まで以上にハードな練習が始まった。放課後だけでなく、朝早くに学校に来て練習することもあった。

 「そうじゃなくて、体の奥から腕を伝って杖の先まで魔力を巡らせる感じで…」
 
 身振り手振りで京谷が熱弁する。それを真知も熱心に聞き入るのだが、どうやら朝は弱いようで、思わずあくびをしてしまうのだった。

 「おい、聞いてるのか」
 「聞いてるよ、聞いてるけど……ふぁ〜」
 
 そんな真知を京谷は呆れた目付きで見るが、すぐに気を取り直して再開する。

 「いいか、お前は魔力を身体中から発散しすぎなんだ。そこのコントロールさえできれば……」

 どうしてここまで京谷が自分を優勝させることに気合いを入れているのか、真知にはわからなかった。
 そもそもクラス対抗なのだから、本来ならクラスが違う自分と京谷は敵対関係にあるはずなのでは? という疑問が浮かばないでもないが、かといってそれを聞いた所でどうにもならないので、真知は一向に聞けずにいた。

 「早速やってみるか。まずは足に魔力を貯めて──」

 そこでリンゴーン、という凛々しい鐘の音が校舎中に響き渡った。

 「もう、時間か。また放課後にな」
 「うん、またね」

 二人は教室を出て各クラスへと向かった。
 


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