複雑・ファジー小説
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- 霧の記憶と黒い灯
- 日時: 2019/03/21 12:06
- 名前: 猫のニャムシー (ID: maEUf.FW)
『化け物』と呼ばれ、森へ姿を消した竜の男性。
一日に一つ、何かを忘れる『呪い』に掛かった迷子の少女。
「俺が呪いを解いて、お前を家に帰す。だから……」
これは、夜に閉ざされた森で起きる、小さな物語。
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皆さんどうもこんにちは。そうじゃない方もこんにちは。猫のニャムシーと申します。結構前にファンタジー物を執筆していたのですが、ネタ的にあれ以上進めないと判断した為、友人が下さったオリキャラをこちらで活用する形で、こちらの執筆を始めようと思います。亀更新なので、そこはご了承下さい。
【目次】
プロローグ:霞み、消えゆく >>1-2
- Re: 霧の記憶と黒い灯 ( No.1 )
- 日時: 2019/03/13 20:41
- 名前: 猫のニャムシー (ID: maEUf.FW)
【プロローグ:霞み、消えゆく】
誰かが言った。「この世界の果てには、夜に閉ざされた森がある」と。
その森の周りは常に黒い霧に覆われ、上空はまるで空間を切り取って貼り付けたかの様に、夜空が広がっているらしい。さらにその森に生える木々は葉の色が白く、雪が降っていないのにうっすら雪が降り積もっていると言う。そしてそこに住む生物は、この世の物とは思えない生物らしい。
その森はほとんどの者が知る程に大きな話だった。だから少女は確信した。ここまで多くの証言がある事から、その森が存在する、と。
「ねぇ、おにいさん。それ、どこにあるの?」
小さな町の広場で、ボロボロになった白いワンピースに、フードの付いた黒いローブを羽織った小さな少女がその話をしていた青年に話しかける。青年が少女の方を向くと、青年と話していた数人も少女の方を向いた。
「ん?お嬢ちゃん、その森が気になるのかい?」
「うん……そこに行きたいの……」
少女の身なりはとてもみすぼらしかった。服はどこもかしこもボロボロで、靴も履いていない。顔もフードに覆われて見えなく、腕には肌が見えなくなる程に包帯が巻かれていた。青年は少し考えた後に、少女と目線を合わせる様に少女の前にしゃがみ込んだ。
「あのね、その森はとっても遠い所にあるんだ。お嬢ちゃんの足じゃ一生辿り着けない。お嬢ちゃんがどうして行きたいのかは聞かないけど、行かない方が良いと思うよ?」
「……やだ。ぜったい行く」
だって、おかあさんとおとうさんに会いたいから。
今にも泣きだしそうな声で言い放たれたその一言を聞いて、青年は驚いた表情のまま立ち上がって周りにいた数人と目を合わせる。友人と思われる者達も驚いたのか、口に手をあてていたり目を見開いていたりと様々だ。揺るがない心を前に何と言えばいいのか分からないのだろう。青年が困っていると、同じく困っている数人の中から一人の少女が小さめに手を挙げる。18歳程の赤髪の少女に、全員の視線が集まる。
「あの……さっき話したけど私のお父さん、色んな所を旅してる人なんだけどさ……」
「それがどうかしたの?」
「実は明日、その森の近くにある村に向かうんだよね。だからお父さんに頼んで、連れて行ってもらえるようにするよ?お父さん、優しいから断らないと思うし……」
「凄いタイミングだね……『リィ』がそう言うなら大丈夫だと思うけど、君は?」
「……おねがい、つれてって」
少女が顔を上げて、パサリと音を立ててフードが取れる。真っ白でボサボサな髪と、輝きを宿す赤と青の美しい瞳、雪の様に白い肌の、小さな少女の顔がそこにはあった。
「じゃあ、決まり!お父さんは家にいる筈!一緒に聞きに行く?」
リィが首を傾げて聞くと、少女は頷く。リィはぽかんとその様子を眺めている青年達に「じゃ、そういう事だから行くね!」と笑顔で言い、12時を告げる鐘の音が鳴る広場を背に、少女を連れて歩き出した。
その瞬間、少女が片手で頭を押さえて立ち止まった。
少女の頭の中に、強い耳鳴りの音が響き渡る。少女の視界に、途切れ途切れな閃光が走る。リィが少女の異変に気付き、「大丈夫?」と声を掛けるが、閃光も音もは止まない。
パチン、と音を立てて、閃光も音も消える。少女は頭を押さえていた手を降ろすと、静かにリィの方を向いた。
「……ううん、だいじょうぶ」
感情のこもっていない顔で言うと、少女は前を向いて再び歩き出す。リィは首を傾げて少女をみていたが、やがて少女と並んで再び歩いた。
「そういえば自己紹介忘れてたね。私は『リィエイト』。リィって呼んでも大丈夫だよ!君は?」
「……わからない」
心の中で焦る。数分前までは覚えていたのにと。忘れる筈のない自分の名前を、少女は思い出す事が出来なかった。
ついさっきまであった少女の記憶は、まるで今まで存在していなかったかの様に、少女の記憶から消え去っていた。
- Re: 霧の記憶と黒い灯 ( No.2 )
- 日時: 2019/03/20 18:15
- 名前: 猫のニャムシー (ID: maEUf.FW)
「この化け物め!街から出て行け!」
「あぁ、恐ろしい……何故こんな異形に今まで気付けなかったんだ……!」
「死ね!消え去れ!お前はこの世界に居てはいけないんだよ!」
人々が燃え盛る松明を手に、罵声と怒号を響かせる。
黒い翼、一対の白い角が生えた一人の男性に向けられる視線は、八つ裂きにされそうな程に鋭く、誰一人として彼の存在を許そうとはしなかった。自分達にとって都合の悪い物を排除するかの様な、正義という言葉で飾り付けた醜い心。
男性は人々を、その醜い心を、直視する気になれずに目を閉じる。
今此処で我が身を炎で焦がされようと、鋭い刃で八つ裂きにされようと、構わない。黒く淀む、沼の様な光を見なくて済むなら、誰も傷付けずに済むのなら、それで良かった。
良かった、のに。
突然訪れた静寂に疑問を抱き、閉じていた目を開く。
そこに広がっていたのは、あまりにも残酷すぎる光景だった。
辺り一面に広がり、地面という地面を覆い尽くす真っ赤な血溜まり。さっきまで男性を追い出そうとしていた者達は、両手両足、胴体や首がバラバラになって、あるいは原形を留めていない血肉の塊となり、真っ赤な血溜まりの中で浮かんでいた。
呼吸が苦しくなり、視界が揺れる。足元にある貴族の首から離れる様に一歩退くと、血溜まりに揺られ絶望に目を見開いた顔が見えた。
『オ前ハ 化ケ物ダ 消エ去レ 死ンデシマエ』
貴族の首の口が開き、枯れた声で言う。気付けば、千切られた全ての首が男性の方を向き、同じ言葉を繰り返していた。
男性は咄嗟に自分の手を見る。その手には血に濡れた鋭い爪が生えと、黒い鱗で覆われていた。
叫び出しそうになったその時、勢い良く飛び起きた。苦しかった呼吸が、静かに落ち着きを取り戻していくのが分かった。
空を見上げてみる。木々から生える白い葉の隙間から、美しい夜空が見える。全く変わる事の無い、相変わらずの景色に、心なしか安心した。
「夢か……」
疲労と安堵の混じった深い溜め息を付く。寒くも無いのにその息は白く染まり、夜空に吸い込まれる様に消えて行く。耳をすませてみると、風に乗って梟の鳴き声が聞こえて来た。夢の中で起きた騒ぎを、攫っていくかの様に。
男性には黒い翼も、白い角も、鋭い爪を持つ鱗に覆われた手も、無かった。細い手で、右分けの黒髪を掻き上げる。男性の蛇の様に鋭い瞳は、空を覆う夜空をずっと見上げていた。
「俺は……化け物なんだもんな。此処が、居場所だからな」
空に向かって呟いた一言は、白い息となって夜空に吸い込まれていった。
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