複雑・ファジー小説
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- アルカナ・グリムハーツ
- 日時: 2019/03/30 23:44
- 名前: 燐音 (ID: .CNDwTgw)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=1211
あらすじ
アルカナハーツ。
ここではないその世界はその名で呼ばれていた。
アルカナと呼ばれる力を扱い、迫り来る脅威である「グリム」に対抗するこの世界の人々は、
日々力強く生きていた。
最弱のアルカナと呼ばれる「愚者」のアルカナを持つ少女「アリス・ザ・ジェスター」は
生きた伝説と呼ばれていた行方不明となっている姉、「テレサ・ザ・ジェスター」を探すために、
彼女が通っていた「グリムリーパー」養成学校ヴァルハラアカデミーへと入学する。
アリスとその仲間たちの、笑いあり涙ありの愉快痛快な英雄譚が今ここから始まるのである!
はじめましての方、はじめまして。燐音と申します。
当小説は「不思議な力を持った少女たちの少年漫画のような熱い王道ファンタジー」をコンセプトに、「RWBY」や「アルカナハート」や「青の祓魔師」、「黒影のジャンク」などの作品の影響を強く受けた、
「異能力で異世界でスチームパンクなファンタジー」の世界を舞台にしております。
専門用語は少なめにしようと努力しましたが、プロットを書いてる時点で「あ、無理だ」と判断しました。
執筆速度は、同じく執筆中の「イストリアサーガ」が終わるまではのんびり書いていきたいと思ってます。
登場人物は童話の主人公ヒロインをモチーフにしています。してない子もいます。
頑張って執筆していこうと思っていますので、温かく見守ってやってください。
何かありましたら、URLのスレでどうぞ。
参考資料
登場人物>>1
専門用語>>2
アルカナの種類>>3
目次
プロローグ 初めの一歩 >>4-6
- Re: アルカナ・グリムハーツ ( No.2 )
- 日時: 2019/03/28 01:16
- 名前: 燐音 (ID: .CNDwTgw)
専門用語
アルカナハーツ
ここではないどこかの世界である、作中の世界の名称。
人は皆、「アルカナ」と呼ばれる闇の王の眷属を打ち滅ぼすための力を持つ。
それらを基準とした魔導技術と蒸気機関が発達し、「アルカナ」の力でその技術を扱う事ができる。
4つの国に分かれ、人々は国王が定めた秩序の下、平穏に暮らしている。
普通の人間はもちろん、獣人や竜人、魔人なども存在する。
それぞれ、人間族、獣族、竜族、魔族という名称があるが、皆等しく「ヒト」という命である。
アルカナ
人類や生物などが有する力、魂の顕現。
22種のアルカナに基づく能力があり、その力は個人によって違う。
その威力や効果によって適性コード0から21まで振り分けられている。
コードの数字が上がるごとに強い力を持つ。
だが、番号が低いものであっても、魂や意志の強さで逆転する事もある。
何者にもなれないものなどいないのである。
グリムリーパー
高度な戦闘技術を習得し、グリムの討伐をはじめとした人類社会の守護と治安の維持を役割とする職業。
各国の養成学校で4年間の修業を終えることでグリムリーパーとして認められる。
基本的に養成学校を卒業した彼らは各国を守る騎士団へ所属するが、
中には国家の思想に囚われず平和を守るために、
グリムリーパーたちは特定の王国への忠誠心を持たず、任務や仕事相手を自由に選ぶことができる。
グリム
闇の王の眷属である魔物で、闇の王の敵であるヒトや動物などを狙う。
人類の負の感情に反応し、負の感情を抱く者を優先的に狙う特性がある。
彼らを討伐するための専門家を「グリムリーパー」と呼ぶ。
ヒト
アルカナハーツで暮らす人類。
人間族、獣人族、竜族、魔族に分かれている。
全ての人類はアルカナを持ち、それを武器に脅威から身を守る。
寿命は総じて70〜80。近年では治療の技術も発達しているため、100まで生きる者もいる。
・人間族
全ての人類の原型となっている種族。
至って尖った能力もなく、劣っている物もない
・獣人族
動物の器官を身体に持つ種族。
力強さがあり、五感に冴えていて、さらに第六感を感じ取る事も可能。
獣人とは言ってもその種類は尋常ではなく、特徴も個々によって異なる。
・竜族
長い耳を持ち、肌がひやりとして、瞳も爬虫類のように鋭い種族。
強靭な肉体を持ち、持久力もあり、怪我や病気も四種族の中で最も治りが早い。
人によっては角を持っている事がある。
・魔族
青白い肌を持つ、アルカナの扱いに長けた種族。
数は四種族の中で最も少なく、魔導学に関する偉人は魔族が多い。
唯一の欠点は生まれながらにして病弱が多く、成人までに死ぬ者が多い
闇の王
遥か昔、人類を脅かしていた悪しき存在。
闇の王を倒すために4つの国が一つになり、
「愚者のエルルーン」、「死神のジャック」、「星のアルセーヌ」、「世界のロキ」を中心に
全てを賭して闇の王を討ったという伝説がある。
だが闇の王は不死の存在であり、ロキは自身を犠牲に闇の王を地下深くの地底神殿に封印した。
今も尚闇の王の穢れは地底から「瘴気」として溢れ出て、
「瘴気」はグリムと呼ばれる闇の王の眷属となり、
人類を今日まで脅かしているという。
四英雄
闇の王を倒すために中心人物となり、伝承に記されている
「愚者のエルルーン」、「死神のジャック」、「星のアルセーヌ」、「世界のロキ」の
四人の英雄の総称。
四英雄は「グリムリーパー」達の憧れでもある。
瘴気
闇の王の吐息と呼ばれるグリムが生まれる赤い霧。
ヒトが触れると身体が穢れ、早急に浄化しなければ死に至る。
長時間触れなければ無事に済む。
滅多に地表に出る事はないが、地震などの災害で地面が割れたり、
火山の噴火などで赤い霧が噴出する事がある。
聖騎士団
各国のグリムリーパーが所属する、グリムを討伐し人々を脅威から守る騎士団。
通称、「騎士団」と呼ばれるこの集団には階級が存在し、
ナイト、オラクル、ゴーディアン、パラディンの順にある。
騎士団の中でも部隊は数多く存在し、
各部隊隊長は、ゴーディアン以上の階級の人物が就任する。
パラディン
功績を認められたグリムリーパーの総称。
王に認められ、グリムリーパーを統べる階級最高位であり、
全てのグリムリーパーの目標でもある。
現在、八人がパラディンに鎮座している。
グリムハーツ
生きた伝説と呼ばれるグリムリーパーの名称。
並大抵の努力や力ではここまでたどり着くことはできない。
現在のアルカナハーツで一人しか存在せず、
名を「テレサ・ザ・ジェスター」という女性である。
- Re: アルカナ・グリムハーツ ( No.3 )
- 日時: 2019/03/27 23:43
- 名前: 燐音 (ID: .CNDwTgw)
アルカナの種類
愚者
適性コード:0
無能力に近く、何の力も持たない。
しかし、何物にもなれる強さがあり、何色にでも染まる事ができる。
グリムハーツであるテレサは、愚者のアルカナを持つ。
魔術師
適性コード:1
魔法に関する性質を持つ。
生まれた時から属性は決まっており、
6大元素……即ち「火」「氷」「風」「雷」「光」「闇」のいずれかを持って生まれる。
稀に二つ以上の属性を持って生まれる者もいるが、確認されているだけで世界で4人程度。
女教皇
適性コード:2
魔法とは違う力、超能力を扱う事ができる。
一節では精霊の力を借りて未来を視たり、予言や瞬間移動、霊界との交信ができる……らしい。
超常現象などを引き起こす性質を持つ。
女帝
適性コード:3
距離や行動など、動きに関する性質を持つ。
意識や身体能力、あらゆる物の距離や行動、動きを操る事ができる。
皇帝
適性コード:4
守りや防御、塞ぐ事に基づいた性質を持つ。
中にはダメージを一切受け付けない能力を持つ者も存在するが、
攻撃には適さない。
教皇
適性コード:5
何かを生み出す性質を持ち、中には雲を生み出し雨を降らせたり、
風を生み出して嵐を起こしたり、死者へ入れる魂を生み出し屍人を生み出す能力を持つ者もいる。
恋人
適性コード:6
他人の心を操る性質を持ち、他者の精神を安定させたり逆に不安定にさせる能力を持つ者が多く、
アルカナハーツで活躍する占い師は恋人のアルカナを持つ者も半々。
戦車
適性コード:7
反射や何かを跳ね返したり、何かを解き放つ性質を持つ。
受けたダメージをそのまま返したり、閉ざされた簡単な扉を解き放つ事ができる。
力
適性コード:8
力強さに関する性質を持ち、
自身を奮い立たせたり、自身の筋肉や身体能力はもちろん、
精神面を一時的に強化する能力を持つ者が多い。
隠者
適性コード:9
知識や予知能力に優れる性質を持つ。
触れるだけで物の記憶を読み取ったり、これから起きる物事をある程度知る事ができる。
遥か未来の事を知る事は出来ない。
運命の輪
適性コード:10
ある程度の運命を操作する性質を持つ。
他者を幸運にしたり不運にしたりと様々だが、
既に決まっている運命を変えることはできない。
正義
適性コード:11
真実を知る事ができる性質を持つ。
他者の嘘を見抜く他、心を読む事ができる者もいる。
それ故に精神面が弱いと発狂してしまう事例も少なくはない。
吊るされた男
適性コード:12
耐久力を強化する性質を持つ。
あらゆる物を壊れにくく強化したり、他者の心を強化して安心させるなど、
「壊れにくくする」に関する能力を持つ者が多い。
死神
適性コード:13
あらゆるものを停止させる性質を持つ。
何かの流れを停止させる事ができ、稀に命の流れすらも停止させる能力を持つ者もいる。
節制
適性コード:14
倹約や制限といった性質を持つ。
例えるなら、他者であればかなり力を使う作業でも、僅かな力で作業ができる。などといったものである。
他にも動きや流れを制御するといった能力を持つ者もいる。
悪魔
適性コード:15
闇に関する性質を持つ。
光を遮断、吸収などの能力もあるが、
光を受けることで影を操るという能力を持つ者もいる。
塔
適性コード:16
雷を操る性質を持つ。
雲のないまっさらな空から雷を落としたり、
静電気のような小さな物まで様々である。
星
適性コード:17
逆転の性質を持つ。
窮地に追いやられた時に何かを閃く、絶望から希望へと塗り替えるなど、
何かをひっくり返すといったもの。
月
適性コード:18
夢や幻覚といった幻想に関する性質を持つ。
幻覚を見せ攪乱したり、他者の夢を覗き込んで書き換えたりなどといった、
精神面で惑わすという能力が多い。
太陽
適性コード:19
光に関する性質を持つ。
闇を照らし、どのような深い闇も取り払い、暗い場所を照らす事ができる。
深い闇の中にいることで、一層光の力を強くさせるという能力を持つ者もいる。
審判
適性コード:20
復元の性質を持つ。
何かを復活、元の状態に戻すといった能力があり、
回復、再生に適したアルカナであり、医者など医療に携わる者はほぼこのアルカナを持っている。
世界
適性コード:21
完全の性質を持つ。
このアルカナを持って生まれる者は極めて少なく、詳細も不明。
- Re: アルカナ・グリムハーツ ( No.4 )
- 日時: 2019/03/28 23:16
- 名前: 燐音 (ID: .CNDwTgw)
プロローグ 初めの一歩
むかしむかしあるところに……という一節から始めよう。
むかしむかしあるところに、「アリス・ザ・ジェスター」という少女がいました。
アリスは「愚者」のアルカナを持つ、何の力も持たない少女でしたが、彼女には状況を打破できる力がありました。その力はいずれこの世界すらも変えてしまう程の力……ふふっ、私もこのアリスちゃんにとてもとても期待しているのですよ。
まずはこの「おとぎ話」の主役である七人の一人、アリスの物語を見ていきましょうか。
むかしむかしあるところに……
金髪の長い髪が風に撫でられて揺れる。姉から誕生日のプレゼントにと買ってもらった青いリボンと、青いテールコート、ふわりと白いバルーンスカートを着込む、少し小柄な少女は、列車の中で、目的地まで頬杖をついてうとうととまどろんでいた。
列車は木製の壁や床、天井と、線路の上をガタンゴトンと音を立てながら走る。先頭は黒いボディの蒸気機関車だ。もくもくと灰色の煙を噴出しながら目的地まで着実に進んでいる。
彼女が座っている座席は緑色のシートで、座っていると揺れが相まって眠くなってしまいそうな座り心地だ。そしてその上には荷台がある。そこに彼女と「もう一人の同行者」の荷物があった。
窓の外は海が見える。この列車は海沿いの線路を走っているのだ。
海は昼下がりの陽光にあてられて、キラキラと輝いている。水平線と真っ青な空が映り、先ほどから隣の座席ではしゃいでる子供たちの笑い声が聞こえる。
彼女はうとうととしながらその景色を堪能していた。
「アリスちゃん」
彼女——アリスの名を呼ぶ暗い茶髪の少女がアリスの目の前に立っていた。
アリスはその少女を見据える。
暗い茶髪の肩にかかるほどのふわりとした髪、ちょっと垂れ目気味の紅い瞳、白いフリルと大きなリボンが特徴的な青いドレス。何より頭にある赤いリボンが彼女のトレードマークだった。身長はアリスより若干小さめ、かわいらしい少女だった。
アリスはよだれを拭いて彼女を見る。
「ん、「スノウ」、なーに?」
「アリスちゃん、お菓子食べよう? クッキーを焼いて持ってきたんだ♪」
スノウは自身の荷物から白い小包を取り出して両手で広げる。そしてアリスの向かい側の席に座り、アリスに食べるように促す。
「スノウのクッキー、美味しいんだよね。いっただきます」
「どうぞ〜」
アリスはスノウの手にあるクッキーの山から一つクッキーをさらって口に入れる。甘すぎずしっとりとしたクッキー。アリスは昔からスノウのつくったクッキーが大好物だった。
クッキーを食べて顔を綻ばせているアリスを見てスノウがにこりと笑う。
「それよりももうすぐだねえ」
スノウは窓の外を見ながらふと呟くように口にする。
「まだ「ヴァルハラ・アカデミー」はもうちょっと先だよ? あと一時間くらいじゃない?」
「もうすぐだよ〜。一時間なんてあっという間だよ」
「気が早いんだから」
アリスはクッキーをリスのように頬張って口の中にいっぱい詰め込んでいる。スノウはその様子を見ておかしくてたまらないというように、笑ってみていた。
そしてスノウは少し寂し気な表情でアリスを見る。
「「テレサ」さん、見つかるといいね」
その一言で、アリスは動きをぴたりと止める。彼女自身の時が止まったかのように、硬直した。
「……うん」
アリスは一言だけ返事をすると、口の中にため込んでいたクッキーを飲み込んだ。
ごくん。という音が鳴って、アリスの頬は元の華奢な線に戻った。
- Re: アルカナ・グリムハーツ ( No.5 )
- 日時: 2019/03/30 00:53
- 名前: 燐音 (ID: .CNDwTgw)
そしてアリスは外を見る。相変わらず海は光を浴びてキラキラと輝いていた。
だがその平和は、女性の悲鳴にかき消されてしまう。アリスとスノウは驚いて悲鳴のした方を見た。他の乗客もなんだなんだと言わんばかりにそれを見る。
なんと、窓の外に黒い巨大な影が列車の周りを飛んでいた。それは禍々しい赤いオーラを放つ、黒い巨鳥だった。巨鳥は大きな翼を力強く羽ばたかせ、咆哮を上げる。
「ねえ、あれ、「グリム」じゃない!?」
「巨鳥型グリム、「ロックバード」ね。この辺にあいつの巣でもあったのかしら?」
スノウが窓を開けて巨鳥に指をさし、アリスは周りを見る。列車は12両。乗客の中には小さな子供だっている。アリスは窓から顔をひっこめて、荷台から自分の荷物を取り出す。
乗客は巨鳥の姿を見て怯えていた。これだけの乗客がいればグリム討伐専門家である「グリムリーパー」がいてもおかしくないのだが、未だに姿を現さないと言う事は、最悪の事態ということだろう。アリスは銀色の筒を取り出しながらため息をつく。
そして、アリスはスノウに「ちょっと片付けてくるわ」なんて言い残して列車の連結部分まで走り去る。
「ちょ、アリスちゃん! 待って〜!」
アリスもバッグを肩から下げてアリスを追いかけた。
乗客が混乱する中、銀色の長い髪を持つ女性が彼女たちの後姿をじっと見つめていた。
アリスとスノウが列車の屋根部分に昇ると、巨鳥はこちらを睨み据えていた。アリスは筒を手で叩くと、ポンッと心地いい音を立てながら、蒼銀色のアリスの身長の3分の2くらいはある大鎌に変形した。そしてそれの柄をとると、巨鳥に向かって助走をつけて思いっきり飛んだ。
「アリスちゃん!」
「スノウ、サポートお願い!」
アリスは鎌を振り上げ、くるりと一回転、巨鳥の胸を切り裂いた。巨鳥は耳を劈くような悲鳴を上げる。スノウはバッグから短く白い槍を取り出したかと思うと、ぶんと振る。槍は伸び、スノウはアリスの足元に向かって「氷結よ!」と叫ぶ。すると、不思議な事にアリスの足元に氷の床が現れ、アリスはそれを踏みしめ、再び飛び上がる。氷はアリスの足に踏まれると「パキッ」という音を立てて砕け散ってしまった。
巨鳥は体勢を立て直すと、翼を広げ、一つ羽ばたく。巨鳥の翼から黒い弾丸のように大量の羽根が猛スピードでアリスに襲い掛かる。アリスはそれを見て目を見開くが、スノウは槍をかざして「えいっ!」と叫ぶと、アリスの身体を光の壁が包み、黒い羽根の弾丸から守ってくれた。
スノウは氷の足場を素早く作る。アリスは足場に乗って、再び鎌を振り上げた。
また命中し、巨鳥は再び悲鳴を上げる。そして、アリスに向かって大きく口を開けて突進してきたのだ。
「あぶないっ!」
スノウはそう叫んで槍をかざす。アリスはシャボン玉に包まれ、スノウはアリスを列車の屋根まで引き寄せた。アリスの着地と共にシャボン玉は弾けて消えてしまう。
アリスはスノウに頷くと、鎌を構えた。巨鳥をそれを見据え、アリスに向かって猛突進してきた。だが、それこそアリスの狙いだった。
スノウの魔法により巨鳥は光に囚われ、身動きが取れなくなった。
もがき、キィと耳障りな鳴き声をあげる巨鳥にアリスは鎌を振り上げて飛び上がる。
鎌は巨鳥の首を捉え、アリスは一回転して巨鳥の上に乗る。
「チェックメイト、ね」
アリスはその一言を残し、鎌を思い切り引いた。
斬撃音と共に巨鳥は斬首され、悲鳴を上げる間もなくそれは黒い煙を上げて消えてしまった。
落ちそうになるアリスに、再びスノウはアリスをシャボン玉に入れて引き寄せた。
アリスが屋根に着地すると、下から乗客の歓声が上がった。
「えっ、なに!?」
「アリスちゃん、私達……ちょっと目立ちすぎちゃったかも」
アリスとスノウが顔を見合わせる。
そして、その近くから拍手音が聞こえる。アリスとスノウがそこを見やると、銀髪の女性が手を叩きながらゆっくりと歩いてくる。白いブラウス、黒のタイトスカート、そして黒いローブを纏った、スタイルのいい女性……。
「見させてもらったわ、あなた達」
「は、誰?」
アリスは鎌をポンと叩いて元に戻すと、女性に指をさす。
「私はグリンダ。「グリンダ・ヘクセール」。ヴァルハラ・アカデミーの教師をやっていますよ」
「ヘクセール……? ヘクセール……」
スノウはグリンダの名を聞いてうーんっと唸り、腕を組む。そして、何かを思い出したかのように手をポンッと叩く。
「あ、4種類の属性を持ってる「魔術師」のアルカナのグリムリーパーさんだよアリスちゃん!」
「え、だれ?」
アリスは首をかしげる。スノウは慌てて両腕を上下に振った。
「すごい人なんだよこの人、魔法をどんどこ使っても疲れないって——」
「ちょっと待って二人とも。話なら下の方でしましょう。もうすぐトンネルだし、ここにいると身体を持ってかれるわよ」
そう言われて二人は後ろを振り返る。確かにトンネルが迫っていた。
「い、急いでおりましょう!」
アリス達は慌てた様子で屋根から降りた。
- Re: アルカナ・グリムハーツ ( No.6 )
- 日時: 2019/03/30 23:44
- 名前: 燐音 (ID: .CNDwTgw)
列車はトンネルに入り、周りは列車の灯りでほんのり明るくなる。
二人は自分の荷物のある座席に座り、向かい側にグリンダを座らせる。スノウは小包をバッグから取り出して、「作ったクッキーです」と渡す。グリンダはにこりと笑い、礼を言ってその小包を受け取り、小包を手で包み込む。そして手を広げると、その小包は消えてしまった。
「小包ごと食べたの!?」
「ただの手品よ」
驚くアリスにグリンダは吹き出しながらタネを説明する。
「へ〜、そういう……じゃない! グリンダって言ったかしら。なんでグリムリーパーのくせにすぐに飛び出さないのよ!」
アリスは頬を膨らませる。
「グリムリーパー」は人類の敵であるグリムを討伐する事が仕事であり使命だ。それは教師であっても同じである。だがグリンダはすぐには動かずにアリスとスノウの戦いをじっと見ていただけだった。
グリンダはふうっとため息をついて肩をすくめる。
「この列車、どこに向かっているかしら?」
「えっと、「ヴァルハラ・アカデミー」ですよね」
グリンダの質問にスノウが答える。グリンダは頷いた。
「テストをしていたのよ。グリムが現れた時にどう対処するか、ってね」
「一般人を巻き込んで!?」
アリスは身を乗り出して憤怒の表情を露わにしている。
「落ち着きなさい。当然グリムに負けたら私が前に出るつもりだったし、これからアカデミーに入学する生徒を死に追いやるなんて事もしないつもりだったわ」
グリンダは再び肩をすくめた後、ポンッと手を合わせて手のひらから小包を取り出して、包みを広げて中身のクッキーを一つ口に入れる。
「美味しいわね」とにっこり笑った。
「それに、あなた」
グリンダはアリスを突きさすように指をさす。
「あなた、「テレサ・ザ・ジェスター」の妹さんね?」
「……なんでお姉ちゃんを?」
「担任だったし、よく似てるからすぐにわかったわ」
「何歳なの?」
「秘密」
グリンダは笑みを絶やさずに答える。
アリスは驚いた。姉の、テレサを知る人物にこんなに早く会えるなんて……!
「お姉ちゃんは、今どこにいるの?」
「それは、こちらもわからない。だけど、どこかで生きているはず」
やはり姉はどこか遠い場所に行ってしまったのだろうか……とアリスは落胆し肩を落とす。
スノウは「だいじょぶ、どこかに情報があるはずだよ」とアリスに励ましていた。
「まあテレサの妹なら、あの華麗かつ無茶苦茶な戦い方も頷けるわね」
グリンダは足を組み直して腕を組む。
「まあそれはおいておいて、「アリス・ザ・ジェスター」さんと「スノウ・グリモワール」さん。二人はグリムリーパーよりも先に行動し、乗客を助け勇敢に戦った。それを評して、私から教授に報告しておくわね」
「行動、させた……でしょ」
グリンダの笑顔に、アリスははあっとため息をつく。
だが、事実乗客はこうして無事だったし、これから入学するアカデミーの教師にも評価された。いいスタートダッシュだとアリスは小さくガッツポーズをとる。
スノウも「ありがとうございます」と素直に頭を下げた。
「さーて、そろそろつくかしら。このトンネルを抜ければ……」
グリンダは列車の窓を見やる。アリスとスノウもつられて見る……列車はトンネルを抜け、眩しい光が差し込み二人は目をつむる。
そして再び目を開けた瞬間、広大な景色が広がっていた。
目についたのは大きな城と、その下広がる街並み。街の屋根は皆赤色で統一され、壁は白かった。下には海があり、船も数多く停泊している。列車は駅に向かって海の上に架かる橋の上の線路を渡り、ガタンゴトンという音を立てながら走り続ける。
着実に駅に近づく中、グリンダは二人を見て笑顔で言う。
「二人とも、我がアカデミーへの入学、歓迎するわ」
まだ、この物語は始まったばかり。この先どんな出会いが待っているのか、そしてどんな別れが来てしまうのか。それは「僕」にはわからない。
でも、アリスとスノウ……そして他5人は近い未来、物語の主役として描かれていくだろう。
さてと、これからどのような旅路を見せてくれるのか。ゆっくり見させてもらうとしようかな♪
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